2022年8月18日に、PS5/PS4/Xbox Series X|S/Xbox One向けタイトル「ヴァンパイア:ザ・マスカレード スワンソング」がEXNOAより発売された。ここでは、本作のPS4版を発売前にエンディングまで遊んでのレビューをお届けする。

目次
  1. 圧倒的な情報量によって表現されるヴァンパイアと人の世界
  2. オープンシナリオによって描かれる三者三様の物語
  3. 限られた経験値を割り振り、飢えを抑えつつ力を使う緊張感
  4. 2周目以降で、まだ見ぬ物語を体験できる

本作はプレイヤーの行動によってストーリーが分岐する、オープンシナリオのアドベンチャーゲームだ。物語では、ヴァンパイアが存在する人間社会を舞台に、闇夜に生きる吸血鬼たちの生き様が描かれる。

圧倒的な情報量によって表現されるヴァンパイアと人の世界

本作の舞台となるのは、アメリカ北東部にあるボストン。ヴァンパイアたちの一部はこの都市に隠れ住み、“マスカレード”という掟を決めることで、人類の手から同胞を守り続けていた。ある時、ヴァンパイアたちで運営されている組織“ボストン・カマリリャ”のリーダーであるヘーゼル・アイヴァーセンは、“ハードフォート・チャントリー”という組織との同盟締結を祝うためのパーティーを開催していたが、突如“コード・レッド”が発令される。

コード・レッドとは、ヴァンパイアたちに危機が迫っていることを指す暗号。ヘーゼルの招集を受けたエメム・ルイス、ガレブ・ベイザリー、レイシャの3人が、カマリリャの拠点へ向かうところから物語は始まる。

ヴァンパイアたちの日常や普段の生活から描くわけではなく、ゲームが始まった時点ですでに事態は切迫している。いきなりの出来事で面食らったが、山場から物語が進んでいくおかげで興味を引かれ、筆者としてはむしろ先が気になるいい構成になっていたと感じた。

カマリリャやコード・レッドといった専門用語は、作中で出てくるたびに注釈が入り、タッチパッドを押すとその言葉について書かれたページに飛んでくれる。注釈は同じ単語でも毎回出てくるので、内容を忘れた際の振り返りにも役立つ。

用語集にはメニュー画面からいけるのだが、“ボストン”という項目に書かれた情報量は非常に多い。本作の主人公であるエメム、ガレブ、レイシャのプロフィールだけでなく、ヘーゼルを始めとするカマリリャの構成員たちを網羅している。どの氏族に属しているのか、いつヴァンパイアになったのか。現在に至るまでに歩んできた人生のほとんどがこのページに記されている。

人物たちの項目は序の口で、世界観や専門用語についてまとめた“写本”も劣らず細かい。ヴァンパイアと血を分け合った人間が吸血鬼になる“抱擁”や、抱擁された者が自分を抱擁した者を指す“血の父”、血の不足などから理性がなくなってしまう現象“獣”など、物語に少しでも関わるものであれば、写本でいつでも確認可能。各要素の成り立ち、変遷も細かく書かれていて、ゲームを遊びながら設定資料集を眺めているような気分になる。

用語集を読みながら進めることを想定しているのか、物語では上記のような言葉はとくに説明されることはない。また、登場人物が多いために、序盤では誰が誰なのか混乱しやすかった。わからないまま進むとますますわからなくなるので、疑問に思った要素はなるべく早いうちに調べておきたい。ひとまず、主人公とリーダーの名前、カマリリャやコード・レッドについて押さえておくといいだろう。

オープンシナリオによって描かれる三者三様の物語

物語は、エメム、ガレブ、レイシャの3人を操作しながら進めていく。順番は決まっているが、特定のタイミングでは3人のなかから攻略順を好きに選ぶことも可能だ。ストーリー中は、探索と情報収集、人物との会話で物語が進んでいく。

ストーリー重視の作品なので過度なネタバレは控えるが、あるタイミングで3人はカマリリャの敵を倒すための作戦に参加する。エメムたちはいずれもヘーゼルから信頼されている大物だが、それぞれ事情を抱えている。エメムはカマリリャの一員でありながら自由人であり、立ち回り方に苦悩している。ガレブは250年以上生きている古株であり、ヘーゼルを支えカマリリャという組織を守るために尽くす一方、抱擁して血を分けた“子”との確執がある。レイシャは予知能力を持つ者として重宝されているが、精神に重大な欠陥を抱えており、娘のハルジーに依存するような傾向がある。

作戦を進めていくなかで、主人公たちは自分の事情と向き合う。とくに印象深かったのはレイシャで、強大な力を持つが精神に問題があるという危うさが個人的に良かった。事件現場に広がる血の海を見て暴走しかけたり、失った記憶が原因で取り乱したりと、いつ精神が崩壊してしまうか気がかりだった。途中、 “施設”と呼ばれる場所にいたときの担当医だったリチャード・ダンハムと彼女が再会するあたりから物語の雲行きが(良い意味で)怪しくなっていき、意外な伏線回収あり、ホラー描写ありの怒涛の展開を見せていく。ダークな雰囲気を醸し出す本作で、レイシャがいちばんそのテーマに沿っているのかもしれない。

システム面に目を向けると、本作はアドベンチャー要素を重視している。イベント中に特定のコマンド操作を求められるような、いわゆる“QTE”はひとつも出てこない。すべてが探索と会話で成り立っていて、基本的な操作といえば、人や物に近づいて○ボタンを押すくらいのものだ。

アクションの腕を求められないぶんプレイヤー側の負担は減るが、一方で根気が必要なので、そこは人を選ぶかもしれない。本棚の隙間、開いている箱の中など、さまざまな場所に重要なアイテムが隠されていて、アリ1匹逃さないくらいの気持ちで挑まないと、まず間違いなく証拠を見逃す。

とはいえ、いつコマンドが表示されるか怯えずに遊べるだけでも安心感はあって、探索好きの性格もあり本作のスタイルは個人的に合っていた。各パートが終了した際、取れたかもしれない行動や失敗した内容をおさらいしてくれるほか、直前のパートを最初からやり直すこともできる。リトライに関してとくに制限はないので、満足いくまで挑み直すのもいいだろう。

物品の収集や人との会話は基本的なもので、主人公はそれぞれ特殊な能力を持っているのもポイントだ。例えば、エメムであれば離れた場所へ瞬間移動を行う“瞬速”、レイシャは自身の身体を隠したり、他人の服装をコピーする“隠密の仮面”などを持っている。エメムのパートではRPGに出てくるようなダンジョンで瞬速を使った高低差の激しい移動を行ったり、レイシャなら姿を隠して相手の部屋に潜入したりと、物語のコンセプトがそれぞれ違っているのもおもしろかった。

特殊な力を交えたさまざまな探索ができる一方で、その探索が占めるウェイトは大きい。オープンシナリオといううたい文句の通り、本作の物語がどのように展開するかは、プレイヤーが自由行動中に集められた物品と情報によって変化するからだ。

会話に出てくる選択肢が増えたり、周囲の人物から受ける印象が変わったり、主人公のひとりの結末を左右するものであったり、分岐によって生じる影響の大きさは状況による。場合によっては、ちょっとした物品をひとつ手に入れられなかっただけで、物語全体の行方が大きく左右されることもある。さまざまな要因が伏線となって未来を作り、その後の展開が再び伏線となって、つぎのイベントの流れを形作っていく。冗談ではなく、本当にプレイヤーの数だけストーリーがある。遊ぶ側に展開を委ねるのは、まさにゲームだからこそできる演出だろう。

小説や映画であれば、登場人物の動きはすべて彼ら自身によるもので、観客側に責任はない。どれだけ感情移入できても、それはけっきょく没入“感”であり、こちらは傍観者だ。だがゲーム、とくに本作のようなプレイヤーの行動が直接物語に影響するタイプでは、作中で起こった事態の原因はプレイヤーにある。没入感というより、もはや没入しているのと変わらないのだから、まったくもって他人事ではない。

限られた経験値を割り振り、飢えを抑えつつ力を使う緊張感

本作の物語をより特徴づけるのが、キャラクターが持つ“スキル”と“訓(おし)え”だ。

スキルには“会話”、“探索”、“知識”があり、会話は人との応対で、探索は物品の収集で、知識は証拠品などの調査で必要となる。スキルの習得には経験値が必要で、経験値はプレイヤーが取った言動に合わせて蓄積。つぎのパートに移る際に使うことができる。

会話には、相手の反応に対して柔軟に対応する“巧言”、強い物言いで人を威圧する“強迫”、論理的な主張で他人を納得させる“説得”、弱点に付け込んで相手を思い通りに動かす“心理操作”の4種類がある。選択肢によっては、特定の会話スキルが必須になることも。

会話スキルを用いた選択肢では、まず主人公と話し相手のスキルレベルを比較。スキルレベルが高い方が勝つため、キャラクターのそれまでの育成状況が結果を決める。ただし、プレイヤー側は“集中”を用いることで“意思”を使い、スキルレベルを一時的にかさ増しできる。

意思は会話スキルを選択するだけでも使うほか、それ自体が消耗品でもある。探索で見つけられるアイテムがなければ回復もできない。会話をこなすとボーナスとして少し増えるが、それも1と微々たるもの。後のことを踏まえて節約するのか、最大限に使っていま確実に勝利を取るのか。意思の使いかた次第では以降の行動の幅も変わる。

集中は相手も使う。スキルレベルが並んだ場合、ほかのスキルを加味して決められた勝率を基準に勝敗を抽選する。

探索スキルには“セキュリティ”と“テクノロジー”がある。セキュリティは、施錠された引き出しや金庫を開けるために必要で、テクノロジーはスマートフォンやパソコンのロックを突破する際に求められる。会話スキルと同様、こちらも意思を使うので乱用はできない。なお、これらのスキルを使うような場面では、特定のカギやパスコードで代用できる場合がある。探索して手がかりを探すのか、手間を惜しんでスキルで突破するのか、その選択もまたプレイヤー次第となるのが悩ましい。

知識には“推理”と“智見”があり、おもに証拠から得られる情報量に関係している。これらのスキルレベルが高いほど多くの情報が得られるし、逆に低いと謎は解けない。

探索や知識を含め、どのスキルも満遍なく求められるので、どれを集中的に覚えればいいかと言われると難しい。話し合いは物語の展開に直結することが多いので、強いて言うなら会話スキルだろうか。とはいえ、会話スキルのなかでも4種類あるので、なかでもふたつほどに絞って強化することになるだろう。

一方の訓えは、主人公たちが持つ特殊能力を指す。さきほど説明した瞬足や隠惑、などがそれにあたる。使用すると“飢え”というポイントが溜まっていき、これが多いと、会話中の駆け引きで成功率が下がるなどの問題が生じていく。

主人公たちが持つ訓えは、物語中で頻繁に使う。飢えが多いと能力自体が使えなくなるが、アイテムが必須の意思とは違い、ある方法を用いることで、プレイヤーは飢えを任意のタイミングで回復することができる。人間の血を吸うのだ。

飢えがある程度溜まっていると、話しかけられる人に水滴のようなアイコンが表示されるようになる。このときに近づいて△ボタンを長押し、その後にR2ボタン長押しで吸血を行う。血を吸うほど飢えを回復できるが、上限は6ポイントまで。どれくらい吸血するかは、R2ボタンを長押しする時間で調節する。

R2ボタンを押さない、あるいは吸血時に表示されるゲージが満タンになるまで血を吸うと、獲物が死んでしまう。獲物を殺すと“疑惑”のポイントが増え、会話中の駆け引きなどの成功率が低くなったりする。吸血をやめるタイミングはプレイヤーの任意なだけに、誤って獲物を殺してしまわないかヒヤヒヤする。筆者の場合、まさにこの吸血の調節を間違えたために、ふたりの人間を犠牲にしてしまった。

また、世を忍ぶ吸血鬼として、吸血を他人に見られるわけにはいかない。そこで、血を吸うためにはまず人目を気にせずに済む“セーフティールーム”を見つける必要がある。セーフティールームは各マップに必ず存在し、見つけた状態で得物を捕まえると、自動的に部屋に移動する。獲物はセーフティールームに残されるので、周囲の人間に見つかる心配はない。ただし、セーフティールームで隠せるのはひとりまでなので、なるべく吸血する回数を減らせるよう、ペース配分には気を使う必要がある。基本的には、飢えのポイントが吸血1回あたりの回復上限である6になるまで、吸血は封印しておくのがいいだろう。

2周目以降で、まだ見ぬ物語を体験できる

本作の本番は2周目以降ともいえる。選ばなかった選択肢の選択や、取り逃したアイテムの収集など、1周目とは違ったやり方で物語を進められるからだ。すでに書いたように、本作の物語は分岐パターンが膨大で、なにがどのような結果につながるのかわからない。私は“三者三様のオープンシナリオ”という項目でレイシャの物語について書いたが、これを読んだ人が実際に筆者と同じホラー描写を見られるかは不明だ。

経験値を用いたスキルの割り振りやスキルによる駆け引きといった、RPG的な要素が本作のアドベンチャーとうまく合わさっているだけに、2周目を始める意欲もそそられる。だが、習得したスキルを持ち越すことができない点は残念に感じる。いわゆる“ニューゲーム+”や“強くてニューゲーム”ができないために、すべてのスキルを覚えられない。方法によっては全スキルを覚えることができるのかもしれないが、筆者が1周目を最後まで遊んだ感覚からすると、まず厳しいだろう。可能ならアップデートなどで対応してほしいところだ。

また、文章の主語が選択肢と実際のセリフで変わっていることがあるのも少し気になった。表示された選択肢では「彼になにが起こったのか?」と書かれていても、実際に選んでみると、ここにいない第三者ではなくいま目の前で話している相手を指しているというケースがあった。三人称か二人称かで主語の表記が揺れており、選択肢が重要な本作ではこうしたミスは危なっかしい。とはいえ、そうしたミスはわずかであり、ゲームの進行そのものに影響を与えるわけではないということは言っておきたい。

ヴァンパイアと人間が生きる社会という設定をもとに、本作ではプレイヤーの選択が物語の展開や結末を自由に決めることができる。アクション要素はほとんどないが、代わりに探索さえこなせば先に進められるために、むしろアクション系が苦手な人にもオススメできるという面もある。

本作のタイトルにもある“スワンソング”とは、白鳥が死に際に歌うという歌を指す。本作においてこれがどのような意味を指しているのかは、ぜひ自分で確かめてみてほしい。

ヴァンパイア:ザ・マスカレード スワンソング

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  • 発売日:2022年8月18日
  • 18歳以上のみ対象

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  • 発売日:2022年8月18日
  • 18歳以上のみ対象

※メーカー発表情報を基に掲載しています。掲載画像には、開発中のものが含まれている場合があります。

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