「戦場のフーガ」初パブリッシングで起こった様々な失敗点を大公開――まさか、開発機がない!?【CEDEC2022】

発表会・イベント取材
0コメント アサミリナ

オンラインにて8月23日~25日にわたって開催の「CEDEC2022」。ここでは、8月23日に行われたセッション「自社パブリッシング……ゲームを作るだけじゃダメだった……」の内容をお届けする。

登壇者はサイバーコネクトツー(以下、CC2)より、宮崎太一郎氏と尾崎友哉氏、入部春彦氏。このセッションは、CC2初自社パブリッシングタイトル「戦場のフーガ」を発売するにあたり、ゲームを開発する以外に様々な問題や課題が発生し、各ストアでのルールの違い、プラットフォーマーへの申請などでの失敗と学びを経て、ワールドワイド・マルチプラットフォームでの発売を実現したことを経て、事例を交えてどのように課題に対応したか、まだどのような点を気を付けるべきかを紹介する内容となっている。

QAパートで起こった様々なトラブル……中には冗談のような本当の話も!

まず、CC2は25年に渡ってデベロッパー業務を行ってきた会社であり、「戦場のフーガ」が初の自社パブリッシングタイトルとなる。そのため、パブリッシング業務も全てが初めてだった。

デベロッパーQAの場合、納品物としてのクオリティの担保。ゲームの各要素が契約通りに実装されテストできる状態を担保することとなるが、パブリッシャーQAの場合は商品としてのクオリティを担保し、ゲームの中身の隅々までテストすることが必要となる。そんな前提がある中、「戦場のフーガ」のアルファ版完成まであと僅か……最初の事件が起こったのだという。

なんと、テスト用の開発機が1台もなかったのである。開発機というのは、開発中のコンシューマタイトルを動かす専用機材だ。市販されているゲーム機では開発中のタイトルは動かせないため、開発現場では絶対に必要となる。

もちろん、「戦場のフーガ」立ち上げ時にプログラマーやアーティストのために必要な開発機はすぐに購入されたものの、当時はデバッグ期間がまだまだ先だったため、購入が見送られ、QAが合流するまで完全に忘れさられてしまっていたのだ。

いつか必要になるとはわかっていつつ、普段ならばパブリッシャーが声をかけてくれる部分だったこともあり、しかも必要台数をそろえてくれる。しかし今回は声をかけてくれるパブリッシャーはおらず、開発の終盤になってから「誰か手配した?」という状態が起こってしまった。しかも実際に手配をしても、機材がすぐに届くわけではないというトラブルもあった。

これらを踏まえて、「ゲームを作り始める段階で、発売までに必要な機材を全ての担当者にヒアリングする」という対策が必要だと学んだという。開発機をパブリッシャーから借りることが当たり前になっていたため、このような初歩的なステップで躓いてしまったのだ。

更に、社内のQAだけでは充分なチェックが出来ない項目もあった。特にPCプラットフォームにおけるスペックテストでは、推奨スペック/必須スペックを切り分ける際、様々なスペックのPCを用意する必要があった。ゲーム専用機の場合は開発機で動けば良いのだが、PCの場合はCPUやGPU、メモリ、その他多種多様すぎて、社内で準備するには限界があったため、外部デバッグ会社に様々なスペックのPCを準備してもらった。

また各プラットフォームのガイドラインチェックも、彼らの前に立ちはだかる。プラットフォームの作成基準チェックを一回でパスできなかった場合、発売日に影響がでるため、精度向上のために依頼したという。そもそもは一回でパスできなかったら、という時点で間違っているのだが、幸いいずれも一回でパスできたという。

そんなデバッグ作業と並行して行わなければならない、新たな作業も発覚。それがレーティングの取得問題だった。ゲームを発売するためには、必ずレーティングを取得しなければならない。しかし、そもそもどのレーティングを取ればいいのかわからないという問題に直面。

取得するレーティングを決める三大要素は「どのプラットフォームで発売するか」「どの国で発売するか」「販売形式(ディスク版、ダウンロード専売など)」の3点。そのうえで、レーティング機関によって準備するもの、対応するものが異なっているのだ、

しかも、「戦場のフーガ」は子供たちを砲弾にかえたり、CC2代表の松山洋氏が突如ねじこんだ秘密の花園(トイレ)イベントなど、色んな意味でぶっ飛んだ内容だったということもあり、かなりい高いレーティングになる懸念されたものの、結果的には大体が12歳以上対象程度に落ち着き、18歳以上にしか販売できないようなゲームにはならなかった。

まとめとして、尾崎氏は「レーティングはすぐに取得できるものから数週間かかるものまであるので、スケジュールにきちんと落とし込んでおくこと」を挙げた。

なお、レーティングはディスク版とダウンロード専売で違うこともあり、デジタル専売の方が少し通りやすいとのことだ。また、本作は様々な地域で発売しようとしていたので、様々な国のレーティング機関に連絡を取らなければならなかったが、メールを送れど1~2週間返事がこないことも普通にあったという。例えば、韓国のレーティング機関には、社内の韓国人スタッフに、電話してもらったりしたこともあったそうだ。こういった事態を避けるためにも早めに動いたり、社内の外国人スタッフにホームページを解読してもらうような力技も必要だと語った。

だが、起こった問題はこれだけではなかった。それが、あまりに多すぎる対応プラットフォームだった。

対応プラットフォームによって、ガイドラインやターミノロジー、ハード固有の仕様、スペックの違いなどによりテスト項目が増えたり、各プラットフォーマーへのマスター提出やストア設定などのパブリッシング作業が増えたり、テスト用機材も増えてしまった。

なかでもプラットフォーマーへの各種申請、ストア入力作業がここまで大変だと知らなかった彼らは、その都度「やれそうな人がやる」という作戦しかなかったのだという。

対策としては、パブリッシング対応のみを行う専任者を立てて、情報を集約、スケジュール、提出物の見える化を行うこと。各PFの開発者向けポータルサイトを確認し、発売までの流れをしっかり把握し、各フェーズでの提出物の準備期間や各種申請の入力作業を考慮したスケジュールを作成することが大事で、この出来事によって専用のパプリッシングチームを作った。とはいえ、一年中そればかりをやっているチームではなく、それぞれQAをやりながら注意喚起する人など、積極的に情報取りにいく人物を決めることで円滑に進めるようにしているそうだ。

そして、パブリッシャーならではの問題も起こった。倫理的な問題への配慮を自分たちで行うことも初めてだったのだ。

某政党を連想させるエンブレムの変更や、他にも言われてみないと気づけない表現もあった。画面上に何気なく使われている赤十字マークだが、ジュネーヴ条約により無許可では使えないのだ。しかもそれに気が付いたのは、プロジェクトには関わっていない社員で、社員向け体験会で指摘されたのだという。このようにプロジェクトから距離がある人の意見は大事なのだ。

発売事件パート……まさかの発売日にとんでもない事件が発生!

こんな様々な大きな山を乗り越えて、ついに「戦場のフーガ」は発売した……が、発売したその日に事件は起きた。なんと一部プラットフォームで、販売価格が違ったまま発売してしまったのだ。

それに気づいた社内。CC2は「お客様ファースト」を掲げているからこそ、まずは間違っていたことへの謝罪と、それに対する対応をすることをSNSで発言してしまったのだが、これも完全に勇み足であり、本来はこういった時にパブリッシャーがSNSで勝手に発言をしてはいけなく、プラットフォーマーの対応を仰がなければならなかった。

そもそも、この事件は何故起こってしまったのだろうか。通常は小売価格を入れるプラットフォームが多いが、一部例外があったこと。そして当時は事前にドキュメントを読まず進行してしまい、結果ミスに気付かなかったのだ。

ここから価格決定当時にまでさかのぼるが、そもそも価格が社内で決定していないことが発覚したのが発売日から3週間ほど前のことだったのだ。そこから3日程度で価格を決定しないと、7月29日の発売日までに間に合わない状況だった。

もちろん、まったく準備をしていないわけではなかった。ビジネスプランを組んだときに、3800円程度の商品価値のものを想定しており、米ドルとユーロでの価格を決めたつもりで、その3つの金額が決まっていれば世界中で売れると思っていたのだ。しかし、発売寸前で本当にこの価格でいいのか、という疑問が出て、様々なタイトルの調査を行い、基本価格を決めた。

こうして指標となる価格は決まった。しかし残り時間はなく、自動計算を使用して基本$から価格を算出した。この方法のメリットは、とにかく考えなくて良く、スピード重視なこと。だが、デメリットとして各プラットフォームでばらつきが出てしまうのだ。

そして、ようやくまちがえたプラットフォームの価格を修正し、10日後に発売……し、これで終われば良かったのだが、残念ながら事件はこれで終わらなかった。

アルゼンチンとトルコで、「戦場のフーガ」は500円くらいで売られていたのだ。これは自動計算のため、為替の差まで把握できていなかったためで、さらに一部国はこの影響により安い金額となり、結果として売り上げ本数が上がっていたのだった。

売上本数の表では、アルゼンチンとトルコで何故か売れており、「ケモノはジャンル的にハマるんじゃないか」と社内の盛り上がっていたのだが、なんてことはない価格が安すぎただけのことだったのだ。

このままでは、正しく売り上げを分析できないため、全プラットフォームの、中でも価格が安くなっている27か国を並べて修正方針を作成した。価格修正における方針は、物価レートと為替レートから算出した独自計算の価格と、一部プラ夫フォーマーの価格を比較して、最も高いものを決定価格とすることとなった。

なお、12月には修正方針が決まったものの、定価等を変更すると大型セールに参加できないというプラットフォーマーの規約があるため、翌年の2月に修正作業を実施することとなった。

これでようやく価格を修正できたと思ったら、再び事件が襲う。修正方針として一部の値段の高いプラットフォームに合わせたので、かなり値上がりをしてしまい、特にロシア、ブラジルから値段が急に上がっているというクレームが届くようになってしまったのだ。特にロシアでは月給の1/3くらいの状態になってしまっていたため、再度価格修正を実施することになった。

2回目の修正方針は、日本・海外の大手パブリッシャー合計20タイトルを調べ、調べたタイトルの金額を日本円に換算。日本円から各国何パーセントの値段になっておるのか調べる。さらに多数の企業のレート差から平均値を求めて差の%を出し、その差を適用した。

このような修正作業を繰り返した結果、「戦場のフーガ」は現在ワールドワイド最大91か国の販売を実現した。

最後に入部氏らは、発売後に方針決めをしたので世界中のユーザーを振り回す結果になってしまった、と深く謝罪するとともに、作ることばかり考えていて、売ることやストアの準備にちゃんと着手しなかったこと、開発チームの制作プロデューサーが片手間に進めていけばいいんじゃないかと軽く考えてしまい、わからないものを後回しにしてしまったことから、こういった様々な問題が起こったと語った。

デジタルの販売が普及してインディーゲームも流行ってきて、自分たちで開発して自分たちで売るということが自然になっていくというなかで、こういうことが再び出てくるだろうということで、共有することによって日本のゲーム業界がもりあがっていくといい、とセッションを締めくくった。

価格の資料などはネットを調べても出てこない。CC2は情報を共有する会社のため、情報がほしいというひとはぜひ連絡をしてほしいとのことだ。

「戦場のフーガ」は現在無料体験版が配信中だ。

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