8月23日~25日にかけてオンラインで開催中の「CEDEC2022」。ここでは、23日に行われたセッション「AIキャラクター事情 最前線!仮想空間(メタバース)での開拓ビジョン・取り組み・課題」をレポートする。

目次
  1. 現状のメタバースに不足するものとは
  2. 不気味の谷はすでに乗り越えた!?

講演には、日本マイクロソフトの下田純也氏、rinnaの佐々木莉英氏、デジタルヒューマンの荒尾和宏氏、ジェンビッド・テクノロジーズ・ジャパンのドリアンクール・レミ氏が登壇。下田氏がモデレーターを務める形で、メタバースやAIキャラクターなど様々なテーマについてのパネルディスカッションが行われていた。

現状のメタバースに不足するものとは

最初のテーマとなったのは、「コロナによって変わった生活様式」について。

ラフな雑談が減り、人と深く付き合う機会が減った一方で、そうした活動がオンラインに切り替わりつつあることを感じているという佐々木氏。レミ氏も、実際に顔をあわせにくくなったことに寂しさを感じつつも、ゲーム業界は恩恵を受けた側面もあり、動画視聴のサービスなどを含め、コロナ禍をきっかけに様々な分野のオンラインへの移行が一気に進んだと分析する。

荒尾氏は、家にいながらできることが大きく広がったことで、「ある意味現実がメタバースに近づきつつある」と述べる。その一方でコロナ禍が始まったばかりの頃は、知り合いとよくオンライン飲み会を楽しんでいたが、最近はしんどさを感じるようになってきたとも明かす。普通の飲み会と何が違うのかを考えた時、店の雰囲気や店員、女将さんといった存在がおらず、「空間」や「体験」といった要素を共有できなかった点に注目。荒尾氏はメタバースにおいても、この2つの要素がポイントになってくるのではないかと考えているという。

この「空間・体験」といった要素の重要性は下田氏も感じており、ゲームを含むエンターテイメントに求められる要素も、従来の没入型からコミュニティ形成型に変化しつつあると分析。

レミ氏によると、ゲームをプレイするユーザー層も広がり続けており、ゲームにユーザーが求める体験も年々バラバラになってきているという。オフラインでは、個々のプレイヤーが自分の好みにあったゲームをプレイすることになるが、統一されたメタバースを形成するには、多様なニーズにあわせた柔軟な遊び方を想定したプラットフォームの設計が必要になると語る。

今後より重要になると考えられるUGC(User Generated Content)の話題では、現在rinnaが提供するAIキャラクター「りんな」についても言及。佐々木氏によると、りんなはPGC(Professionally Generated Contents)で生み出されたが、最終的にはユーザー一人一人が自分だけのAIキャラクターを生み出せるUGC的な構造を作ることを目標としているそうだ。

さらに佐々木氏は、メタバースにおけるAIキャラクターのあり方が、「相棒」、「働く人」、「住人」の3タイプに分類できると解説。ショッピングを楽しんでいたら、AIの店員キャラクターが話しかけてくれたり、住人として楽しそうな街の雰囲気を演出したり、ユーザーと空間をつなぐ役割を果たせるAIキャラクターを生み出すことが、rinnaが目指す地点なのだという。

そういったメタバースにユーザーを集めるには、ユーザーが影響を及ぼすインタラクティブ性がより重要になると話すレミ氏。膨大なユーザーに対して、ビュッフェのように多数のニーズにあったコンテンツを提供するには、UGCは欠かせない存在であり、必要なコンテンツのバリエーションを生み出す上でも非常に効果的だと話す。

またジェンビッド・テクノロジーズは、メタバースにおけるユーザーのエンゲージメントを高めるための研究にも力を入れている。動画コンテンツ「Rival Peak」で行った施策では、ユーザー数が増えるほど一人一人の影響力が落ちてしまう「投票」はあまり効果がなく、ミニゲームやアクティビティ、まとめ番組の方に人気が集まっていたと報告する。

現状のメタバースが抱える課題についての話題では、何もイベントが行われていない時は空間に自分一人だけがいて何をしていいか分からなくなっていた、自身の経験談を明かす佐々木氏。一方でバーチャルのフェスに参加した時は、ステージを見ること以外にも、観客の中に面白い人物を見つける新しい楽しみにも気づけたそう。現状のメタバースは「場所」「商品」のみが存在しているショッピング街のような状態で、「売る人」「見る人」が不足している。特別な行事がないタイミングでは、現実の街にあるような「熱気」を感じることができないと問題点を指摘する。

とはいえ、いきなり大勢の人間を集めるのは現実的ではない。佐々木氏の口からは、人間を呼び込むのが難しいなら、空間内にAIキャラクターを配置することで、それをある程度解消することができるのではないかという、現状を打破するための具体的なアイディアも飛び出していた。

不気味の谷はすでに乗り越えた!?

CGで作られたAIキャラクターを語る上で避けられないのが、人間を模した存在がリアルになればなるほど、ある線を境に不気味さを感じるようになる「不気味の谷」問題。対話と感情表現を盛り込んだAIインターフェース「デジタルヒューマン」に関わる荒尾氏は、現在はCG技術の発展と、CGキャラクターに人々が見慣れてきたこともあり、外見的な意味での不気味の谷はすでに乗り越えたのではないかと分析。

ただ、人間が不気味さを感じるのは見た目だけではなく、キャラクターが行う「会話」にも存在すると考えているという。例として、現行のスマートスピーカーがおかしな返事を返してきたり、レスポンスまで時間がかかってもさほどの違和感を感じないが、外見がリアルなCGキャラクターに変わると不気味な存在になってしまう可能性がある。それを防ぐためには、見た目だけではなく会話に対するアプローチが重要になってくるのではないかと述べる。

一方rinna社では、AIに人間らしい振る舞いをさせるため、人間同士の会話を4つの要素に分解しているのだとか。先に紹介されたのが他人に何かをお願いする「タスク」、相手の言葉に対する相槌や頷きといった「自由会話」、自分の考えをアウトプットする「提案」の3点で、りんなはこの中の「自由会話」を重視して生み出されたが、現在は技術の進歩により「タスク」や「提案」といった要素の会話も行えるようになっている。

そして今後目指すのが、4つ目の要素となる「行動原則」の反映。アウトドア好きなキャラクターなら休日にキャンプに行きたがったり、多忙なサラリーマンならたまった洗濯を済ませようとするなど、AIキャラクターにそれぞれ異なるバックグラウンドを与えることで、より多岐にわたる価値観をもったキャラクターを生み出せるのではないかと述べる。

またデジタルヒューマンも、今後AIアバターのコミュニケーション能力が重要になると考えているそうで、現在は「一問一答程度の定型的な会話」を行えるレベル2から、「連続した自由な受け答え」と可能とするレベル3に上げようとしている段階であることも明かされていた。

キャラクター、CGアバター、コンテンツ、プラットフォームとそれぞれに違なる立場からメタバースに関わる4社のスタッフが集まって行われた今回のディスカッション。最後には、それぞれの得意分野を活かせるような形でメタバースを共に盛り上げていけたらという発言もあり、今後の動向に要注目だ。

※メーカー発表情報を基に掲載しています。掲載画像には、開発中のものが含まれている場合があります。

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