8月23日~25日にかけてオンラインで開催中の「CEDEC2022」。ここでは、24日に行われたセッション「この1時間でゲーム実況業界の全てがわかる!?ゲーム実況の過去・現在・未来~【2022年版】ネットを通じた「居場所化」がゲーム業界を救う」をレポートする。
今回の講演は、一視聴者としてゲーム実況と慣れ親しみ、過去にはゲームコミュニティ「NGC2」で広報セクションマネージャーを担当していた経験をもつ、中田朋成氏によって行われた。
視聴者から配信者、アマからプロへと変移したゲーム実況の歴史
最初のテーマとなったのが現在のゲーム実況というジャンルの歴史。ゲーム実況は、元々は視聴者側が行うのが主流だったが、やがて配信者側が行うものに変遷していく。
その中でも、「有野課長」として有野晋哉さんが出演する番組「ゲームセンターCX」の果たした役割が大きいという。「ゲームセンターCX」が秀逸だったのは、裏側ではプロの手法や技術が使われているにも関わらず、それを表に出さないゆるい雰囲気で番組を作ったこと。必ずしもゲームがうまい必要はないという部分も含めて、「自分にもできそう」という印象を視聴者に与えたことで、ゲーム実況のハードルを劇的に下げたのではないかと分析する。
またゲーム実況の盛り上がりが周知され、メーカー側からの歩み寄り行われたのも大きかったという。中でもPS4で実装されたシェア機能により、ゲーム実況を行う上でもっとも高いハードルである機材面の問題が解消されたのに加え、メーカー側が配信可能範囲を設定できるため、プレイヤーは「どこまで実況していいのか」を配慮してプレイする必要がなくなったのも、爆発的に配信者が増えた要因になったと推察する。
各メーカーもゲーム実況のガイドラインを制定することが一般的になり、「ほぼ違法」というかつての状態は解消された。ただ、それもまだ完全ではなく「適時適法」という言葉で現在の位置づけを説明していた。
その後ゲーム実況は、eスポーツやVTuberの参入も加わりさらに盛り上がっていくが、そうした企業に所属する配信者に対しては、個人を対象としたガイドラインでは対処しきれない問題も生まれ始める。
講演では、かつて人気VTuberの動画が権利者削除され、権利者側に対して一部ファンの不満が噴出した過去の事例も紹介。現在は配信者が所属する企業と各ゲームメーカーの間で、包括的使用許諾契約を結んだ上で配信を行うのが一般的となりつつある変化も語られていた。
ゲーム実況のメリットとデメリット
ユーザーの間で議論に上がることも多い「ゲーム実況は販売に有益か」という問題に対しては、あらゆるケースにおいて有益ということは絶対にありえず、「やり方次第」だと話す中田氏。
ゲーム実況のメリットとしては、ゲーム実況者とゲームタイトルが相互に新しい出会いを生むきっかけとなることが挙げられる。
実際に中田氏も、自身が好きな「龍が如く」シリーズの実況動画から、ホロライブプロダクション所属のVTuber・大空スバルさんのファンになったり、全く洋ゲーをプレイしたことがなかったにも関わらず、えどさん”&ふみいちの実況をきっかけに「レッドファクション:ゲリラ」に熱中するという、ゲーム実況を通じて自身の守備範囲外のものと出会うことができた経験を明かす。
それに加えて、プレイヤーが年齢を重ねた結果生まれる「ゲーム離れ」を抑制する効果も。中田氏は「大人になる」→「忙しくなりゲーム仲間が減る」→「自分自身もゲームをやらなくなる」という流れを「ゲーム離れの定番コンボ」と定義。自分でゲームを実況したり、他人のゲーム実況を見るという行為は、「友達の家で一緒にゲームをやる」楽しさを擬似的に体験することができるため、このゲーム離れの定番コンボを防ぐ要因になってくれると考えているという。
反面、プレイヤーの購入意欲を削ぐ可能性があるというデメリットにも言及。中田氏自身がファンだという3Dシューティングゲームをアイドル達が初見プレイする実況動画では、チュートリアル部分を飛ばした状態だったため、ゲーム本来の面白さを誰も理解することができないまま番組が進行してしまう。さらに視聴者からも、「よくわからなかった」というコメントが寄せられてしまう結果になった。
一方でメリット・デメリットの両方になりうるのが、「実況者の素がでやすい」という要素。ゲームが実況者の素を引き出すことで、思いもよらない相乗効果が生み出される可能性がある一方、実況者の発言によって動画の炎上といった事態が発生する可能性もある。
こうしたデメリットを完全になくすことはできないものの、ある程度は事前のロケハンで操作やゲームについての説明を行っておくことで軽減できる。題材や操作性が特殊なゲームであればあるほど、ロケハンの役割が重要になってくるという。
また中田氏は、近年のゲーム実況を取り巻く環境として、実況者のファミリー化と視聴者のコミュニティ化が進みつつあると分析。事務所などの単位で実況者同士が深い関係性を築くことで、それぞれのファン同士が流入しあう相乗効果を生むためメリットが大きい。
ディスコードなどのツールを使うことで、ファン同士が低コストでコミュニティを形成できるようにもなった。こうしたコミュニティ内では、配信が終わった過去の動画も話題に挙げられるため、ゲーム自体の寿命が伸びるのに加えて、視聴者にとっての「居場所」も作られることになる。
中田氏は講演の最後に、この視聴者にとっての「居場所」こそが重要だと強調。中田氏は元々、ゲーム好きの兄の存在がきっかけでゲームを始めたが、その兄は現在はゲームから完全に離れた生活を送っているそうだ。
その違いを生む要因となったのが、互いの居場所がどこにあるかという点。年齢を重ねたことで、中田氏の兄には周囲にゲーム好きのコミュニティがなくなってしまい、次第に仲間がいる別の趣味に移っていったが、中田氏はゲーム実況とそのコミュニティと出会ったことで、自分の居場所がゲームから動かなかった。その上でメーカー側が適切な情報を発信し、コミュニティ作りを促進できれば、ゲーム業界全体の活性化に繋げることができるのではないかと語り、講演を締めくくっていた。