ディースリー・パブリッシャーより発売中のPS5/PS4/Nintendo Switch/Steam用ソフト「SAMURAI MAIDEN -サムライメイデン-」。同作のプロデューサーを務める、内田陽介氏へのインタビューをお届けする。

目次
  1. 新規のコンシューマ向け美少女ゲームを作る難しさ
  2. 美和野らぐさんの透明感あるイラストを3Dモデルで表現
  3. 4人一緒に戦うアクションゲームとしての設計

戦国時代に召喚された侍JKこと玉織紬(たまおり つむぎ)が、女忍者の「護影」たちと力を合わせて戦うガールズ剣戟アクションゲーム「SAMURAI MAIDEN -サムライメイデン-(以下、サムライメイデン)」。ディースリー・パブリッシャーとシェードが新たに仕掛けた意欲作となっている。

今回のインタビューでは、企画立ち上げの紆余曲折から、キャラクターデザインや世界観設定、ゲームシステムをどのように作り上げていったのかなど、本作の制作にまつわるエピソードを聞くことができた。ゲームをプレイしている人はもちろん、本作に興味を持っているという人もぜひチェックいただければ幸いだ。

新規のコンシューマ向け美少女ゲームを作る難しさ

――「サムライメイデン」の企画はどういう流れで立ち上がっていったのでしょうか?

私が担当した美少女ローグライクRPG「オメガラビリンス ライフ」や、シェードさんと一緒に取り組んだ美少女TPS「バレットガールズ ファンタジア」のSteam版移植が、ワールドワイドでのセールス状況がとてもよく、日本以外でもこの手のニッチな美少女ゲームが受け入れられやすくなったという実感が強まったのが、企画立ち上げの最初のきっかけです。それがあって、「バレガP」のSteam移植がひと段落ついたときに、シェードさんと新しい企画をやろうとお声がけさせていただいて、企画実現に向けて動き始めました。

シェードさんは美少女ゲームの3Dモデリングが得意な開発会社さんなので、美少女ゲームの企画を新しく立ち上げるなら、シェードさんにご依頼するのがベストだと考えていました。「バレットガールズ」のモデリングも非常に好評でしたので。しかし、「バレットガールズ」が発売されたころとは違って、今のご時世だと開発費がひとまわり以上高くなっていたり、いろいろな表現の問題があったりしまして…。昔よりもワールドワイドで受け入れやすくなったとはいえ、新規の美少女ゲームをコンシューマで展開するのは非常に難しい状況でした。

そういう背景もあって、シェードさんと企画の話を進めていく間は紆余曲折を繰り返し、美少女ゲームではないものも含めて、半年以上かけて練っていきました。ただ、コンテンツを成功させるうえで、開発会社さんが一番得意なジャンル・テイストで勝負するのはやはり欠かせないというのと、他社さんも含めてコンシューマでの美少女ゲームを出しづらい状況であれば、逆にユーザーさんのニーズに応えられるだろうという考えはありました。

最終的にはその考えにのっとり、様々な制限はあれど、今やれることを精一杯やった美少女ゲームを作ろうという判断に至りました。企画提案とボツを繰り返しながらも、立ち上げから2年少々をかけて「サムライメイデン」をリリースすることができました。

――戦国時代を舞台にしたのもその流れで生まれてきたのでしょうか?

完全新規のIPなので、世界観を決めるにしても完全なゼロからのフィクションやファンタジーといったものよりは、誰もが馴染みのあるものの方が受け入れやすいだろうという考えがありました。その中で、企画立ち上げ当時は「Ghost of Tsushima」や「鬼滅の刃」といった和風感のあるコンテンツが注目を集めていたので、戦国時代を舞台にした和風アクションの美少女ゲームはニーズがあるのではないかなと。

また、和風の題材にすることで、日本だけでなく海外ユーザーへの取っ掛かりを少しでも作れるかなというのもありました。「日本文化が海外ユーザーにウケる」というよりは、和服や桜などの「和風テイストのビジュアルは海外ユーザーにも美しいと思ってもらえるのでは」というようなアプローチです。

――戦国時代にタイムスリップした玉織紬はJK(女子高生)らしさを強調したキャラクターになっていますが、そこも戦国時代との組み合わせとして意識していったのでしょうか?

企画の最初期では、主人公は女子高生ではなく、お城に囚われたお転婆なお姫様で、そのお姫様が仲間の忍者たちと一緒に城から脱出するようなアクションゲームでした。ただ、和風を題材にしているのであれば、織田信長などの戦国時代の実在の武将が出てきたほうが分かりやすいだろうというのがありました。また、主人公が女子高生であれば、細かな説明をしなくてもキャラクターをひと目で理解しやすいというのもあり、「戦国時代にタイムスリップした女子高生が主人公」ということに決まりました。

――そういう背景から侍JKというインパクトのあるワードも生まれたんですね。

仮タイトルの段階で実はずっと“JK侍”という本当にど真ん中な名称で開発は進んでいて、実はボイスの収録が始まった段階でもなかなかタイトルが決まっていませんでした。ゲームタイトルにJKと入れるといろいろな問題があったので、今のタイトルに落ち着きました。

――紬と3人の忍者との関係性を描く部分もフィーチャーされていましたが、そこも意識されていたのでしょうか?

当社の「オメガラビリンス」や「バレットガールズ」といった美少女ゲームも、基本的には女の子同士の絆を重要視していたので、「サムライメイデン」についても、そこは当初から重要視しながら開発を進めていましたね。

企画立ち上げの段階から、女の子同士がキスして強くなるとかイチャイチャして必殺技を出すといったシステムは組み込まれていまして、その当時は主人公がまだお姫様だったので、姫としもべの忍者の主従関係がある中で「チューして忠義を尽くす」から“忠義技”とずっと言っていました(笑)。

美和野らぐさんの透明感あるイラストを3Dモデルで表現

――キャラクターデザインに美和野らぐさんを起用された理由をお聞かせください。

本作の最重要ポイントとして「3Dモデルをいかに美しくクオリティの高いものを作るか」というのは絶対に欠かせないところだったので、キャラクターデザインをどなたにご依頼するかというのは、シェードのアートディレクターさんと相談しながら慎重に決めていきました。

いわゆるアニメの塗りに近い、色がパキッと分かれているような感じのタッチのイラストレーターさんを起用したとすると、制作する3Dモデルの目標が「どれぐらいアニメに近いか」というクオリティの勝負になってしまいます。それだと、他社さんがリリースしている人気美少女ゲームとの差別化が難しくなるのが懸念だったので、別の路線を模索していました。その中で、いろんなイラストレーターさんの作品を見比べていて目にとまったのが、美和野らぐさんの作品でした。

美和野さんのキャラクターは透明感のあるタッチがとても印象的でして、瞳や髪のタッチなどの細部にも美しさや可憐さが感じられます。そういったところを上手く吸い上げながら3Dモデルを作成すれば、昨今の人気ゲームとは異なる「このゲームならでは」のハイクオリティな3Dモデルを作成できそうだ、というのが美和野さんにご依頼する決め手になりました。

また、「セーラー服の黒髪の女子高生」といったシンプルで王道すぎるキャラクターでも、美和野さんのタッチであれば、今の美少女ゲームファンにしっかりと受けいれてもらえるキャラクターを生み出していただけそうだというのも、ご依頼した理由のひとつでした。

結果的に、それらが上手くはまって、キャラクターデザインも3Dモデルもとてもハイクオリティなものが出来上がりました。ただ、3Dモデルを作るのに非常に時間がかかってしまいましたが…(笑)。

――それは出来を見れば納得感のある話ではありますね(笑)。

企画の立ち上げ時から、SwitchやSteamだけでなくPS5版も作成することが決まっていたこともあり、PS5でリリースされる美少女ゲームのスタンダードになるような3Dモデルを目指していました。美和野さんにご担当いただけたことと、シェードさんが全力で取り組んでくれたことによって、トップクラスにカワイイ美少女3Dモデルをユーザーさんにお届けできたかなと思っています。

――イラストレーターさんの描かれるイラストはそれだけで世界観が作り上げられている感覚がありますが、本作ではアップにしたときにも3Dなのにイラストのテイストとの違和感がないように落とし込まれているのがすごいなと思います。

そこはシェードさんの変態技術が発揮されているところですね(笑)。あとは、今のモデルになるまでに、何度か整形…じゃなくてお色直しをしました。開発最初期のデザイン画と、それから半年くらい経って描いてもらったキャラクターイラストを比べたときに、「新しいイラストのほうが可愛い!」ということがありました。その際、シェードさんに無理を言って3Dモデルのお色直しをしてもらい、最新のイラストに3Dモデルを近づけていただきました。

美和野さんへのオーダーは、主人公は女子高生でセーラー服、忍者の子たちは普通の忍者っぽい女の子もいれば、からくりの女の子やケモミミの女の子もいるというくらいの、軽いオーダーしかしなかったのですが、どのキャラクターも初手から素敵なデザインラフをあげていただけました。キャラクターデザイン自体は、美和野さんにいろいろと楽しんでやっていただけたんじゃないかと勝手に思っています(笑)。

それとこちら側で気をつけていたのは、奇抜なキャラクターデザインになりすぎないように、「王道感」が感じられるようにしよう、というところです。やはり新規IPなので、ひと目でどんなキャラかわかりやすいデザインになるように、美和野さんにはお願いしていました。

――ビジュアル面について特にこだわりの強い部分があればお聞かせください。

3Dモデルを美和野さんのデザインに近づける、というのは特にこだわっていました。例えば、アクションゲームではキャラクターの髪が長いとモデルの干渉がいろいろと大変なのですが、紬ちゃんの黒髪ロングはこのキャラクターデザインの大きな特徴なので、極力なめらかに動くようにしようと、開発側が頑張って挑戦してくれました。

ほかのキャラクターで言うと、いわゆる揺れものみたいなものを3Dモデルの中にいろいろと仕込んでいます。それによって、キャラクターの動きがさらに映えるようになっています。依夜ちゃんだったら襟巻き、狐美魅ちゃんは狐耳としっぽ、そして刃鋼ちゃんはおっぱいが揺れます。そういったところは、アートディレクターの方が特に力を入れられていた部分ですね。

――ライティングもすごくこだわりを感じる部分ですね。

シェーダーは、美和野さんのイラストを研究しながら、かなり複雑に調整されているようです。キャラクターの瞳の映り込みも見る角度や場所によって変わり、そのせいかキャラクターの臨場感というのが強く感じられるように思います。それと、衣服の汚れや濡れ、キャラクターの汗といった表現も、シェードさんの得意分野なので今作でもしっかりと作り込まれています。

――紬役の夜道雪さんなど印象的なキャストが揃っていますが、どのように決めていったのでしょうか?

「サムライメイデン」を長く続くIPにしたいと思っていたので、主人公はベテランではなく、これから活躍されていく若手のキャストさんに依頼したいというのは決まっていました。そこでキャスティング会社さんの方から何人か候補を出していただき、その中に夜道さんがいらっしゃいました。

夜道さんは、オーディションとして事前にテスト収録を行ったのですが、ナチュラルに綺麗な声質で、さらにその中でちょっと少年っぽさも感じられました。そのあたりの印象が、美人だけどお転婆なところもある紬ちゃんのキャラクターに合うかなと思い、ご依頼いたしました。

ちなみに、一番悩んだキャスティングは織田信長でした。本作唯一の男性キャラクターである織田信長ですが、本作のターゲットユーザーが美少女ゲームファンということを考えたときに、美少女ゲームファンの方々にもイイネと思ってもらえる男性声優さんをキャスティングする必要がありました。そんな中で信長役をご依頼させていただいたのが、黒田崇矢さんでした。渋くてカッコよい、貫禄たっぷりの信長を演じていただけました。黒田さんにお力添えいただいたことで、国内だけでなく海外の美少女ゲームファンの方々にもご好評いただけて嬉しかったです。

――ストーリーは本能寺の変という有名なモチーフを取り込みつつ、SF的な要素を組み合わせたものになっていますが、どのように構築していったのでしょうか?

シナリオの担当者には、とにかく明快で王道の分かりやすいストーリーをお願いしていました。ただ、それだけだとどうしてもシナリオに深みが出なかったり、辻褄が合わなかったりといったことがありました。

そのようなところを調整していく過程で、刃鋼ちゃんや狐美魅ちゃんのような別軸の世界からやってきた忍者の設定などが加わっていきました。結果として、メインストーリーを追う分には深く考えずに楽しめる明快なストーリーにしつつ、サブシナリオでそういった設定の部分を掘り下げて、物語の深い部分も楽しめるようなかたちになったと思っています。

4人一緒に戦うアクションゲームとしての設計

――剣戟アクションとしてD3Pさんのタイトルである「お姉チャンバラ」を連想する人も多いと思いますが、どのように差別化を図っていったのでしょうか?

「サムライメイデン」でどのようなアクションゲームを目指すのか、というのはシェードさんと議論を重ねて決めていきました。当社の「お姉チャンバラ」は敵をバッサバッサと切って倒す爽快感を重視したゲームなので、それと同じものを目指してもダメだろうというのはありました。

そういった背景や、女の子同士の絆というゲームコンセプトの実現、その他開発上の様々な制限をクリアできるような方向性を考えたときに、「主人公と3人の忍者が一緒になって戦うアクションゲーム」にしようということに決まりました。操作しているキャラ1人の力だけでなく、仲間と一緒に戦うことで爽快感を味わえたり、攻略しやすくなるゲーム性を目指しました。

――終盤は特に厳しかったので、4人を切り替えながらのプレイになっていきました。

基本的には紬ちゃん1人で突っ込んでいってもまず倒されてしまうので、仲間の護影3人を、ショートカットを駆使して頻繁に切り替えながら戦うぐらいのバランスになっています。護影の攻撃を活かして戦うところさえ意識しておくと、終盤の難しいステージも攻略しやすくなると思います。

――紬で攻撃することばかりに意識が向くと、つい切り替えを忘れてしまうというのはありますよね。

仲間の攻撃はどれも範囲攻撃になっていて、敵の動きを封じたりすることもできます。紬ちゃんの攻撃だけだと、敵の手数に対処していくのがとても厳しいです。ゲームが難しいと感じられる方は、「技ゲージが溜まった護影がいたら、護影を切り替えてすぐに技を発動する」という戦い方を試してくれると嬉しいです。慣れると一方的に戦えるようになるかと思います。

――護影の3人はこちらがコマンドを入れない限りは追随するだけですが、自動で攻撃するなどの要素を入れる考えはなかったのでしょうか?

護影がオートで敵と戦うという仕様はもちろん検討していました。開発上の制限で採用を見送りましたが、護影の行動が自動化して勝手に敵を倒したりすると、ゲームとしての気持ちよさが実感しづらいという面もありました。

ちなみに、企画段階では護影が紬ちゃんの影に隠れて攻撃のときだけ出てくるという設計でした。ただ、仲間がずっと画面上にいないのは美少女ゲームとしては映えないところもあり、今のかたちに落ち着きました。

――ゲームの難易度という点で全体的に難しめに作ってある印象ですが、これは意図したバランスだったのでしょうか?

難易度に関しては、シェードさんや私だけでなく、外部テスターなども加えてマスターギリギリまで調整していました。

ジャンルが美少女ゲームなので、アクションゲームに慣れていなくてもクリアできるぐらいの低難度にすることも含めて調整していました。ただ、難易度を下げすぎるとアクションゲームとしての面白さを感じづらいという点や、発売後にアップデートで調整させていただくにしても「低難度を高難度に上げるアップデート」というのは実行しづらいという点などを考えて総合的に判断し、現在の難易度に落ち着きました。

ただ、発売直後のユーザーさんの反応を見ると、難しすぎるというご意見を予想より多くいただきました。そちらを踏まえて、敵の攻撃を回避しやすくしたり、リトライ回数を増やしたりするなどのアップデートをさせていただきました。

――確かにリトライに関しては先に進んだところでやられると絶望感ありますからね(笑)。

余談ですが、シェードさんと話していた中で、「サムライメイデン」は複数の敵に囲まれながら戦うシチュエーションが多いので、「地球防衛軍」のような複数の敵を捌くゲームに慣れている方はクリアしやすのでは、という意見がありました。難易度については「これぐらいが調度よい」「難易度を下げすぎないで欲しい」というご意見もいただくので、普段遊び慣れているゲームによっては大きく印象が変わるかもしれません。

――カメラやロックオンに関する意見もありましたが、そちらはいかがでしょうか?

発売後、ロックオンが使いづらいというご意見を多くいただいたので、2月2日配信のパッチVer1.43で、使いやすくなるように改善させていただきました。

――発売されてから不具合や機能改修などのアップデートを重ねられていますが、これらの部分には引き続き取り組んでいくのでしょうか?

発売後の対応については、シェードさんがかなり頑張ってくれています。今後の対応をお約束することはなかなかできないのですが、ユーザーさんのご意見はしっかりと拝見しているので、良かった点や悪かった点、改善点などをSNSとかで発信いただければ参考にさせていだきます。

――最後に、新規のタイトルとしてチャレンジされている部分での現状での手応えと、今後の展望があればお聞かせください。

国内外ともにセールス状況が非常に好調でして、発売後2ヶ月時点で約8万本程度までセールスを伸ばすことができております。コンシューマの美少女ゲームが一時期よりも減っているなかで、新規IPでここまでの実績をあげられたのは、ご声援いただいたユーザーの皆様のおかげです。ありがとうございます!

ただその一方で、ゲーム内容についてのいろんなご意見をいただいている状況でもございます。この点は開発会社のシェードさんと協力しながら、可能であればアップデートを行ってユーザーの皆様の満足度を少しでも上げていきたいです。もちろん、できれば続編を立ち上げたいとも考えています。

ちなみに、「サムライメイデン」とは別の、新しい美少女ゲームへのチャレンジも並行して行いたいと考えています。美少女ゲームが好きなユーザーさんは「こんな美少女ゲームが欲しい」とリクエストをいただけたら参考にさせていただきます。あるいは「こんな美少女ゲームを作りたい」という開発会社さんがもしいらっしゃったら、気軽にご連絡ください。ユーザーの皆様と開発会社さんと一緒に、コンシューマの美少女ゲームを盛り上げていけたら嬉しいです。

――ありがとうございました。

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