「下町ドリーム~心に染みる人情物語」をレビュー。古き良き昭和が舞台の経営シミュレーションゲーム。懐かしさはもちろん、昭和が持っていた活気まで味わえる…そんな本作の魅力について紹介したい。
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「下町ドリーム~心に染みる人情物語」は、37GAMESからリリースされたスマートフォン向け経営シミュレーションゲーム。本作の舞台は昭和時代。最近では「昭和レトロ」と呼ばれ、クリームソーダや商店街といった昭和時代を思い起こさせる文化がひとつのトレンドになっている。なので、昭和を知らない世代にとってはひとつのファンタジーのように感じられるかもしれない。一方で、筆者のような昭和生まれ世代にとっては懐かしさに満ちた時代だ。そんなファンタジー感と懐かしさの2つをエンターテインメントとして与えてくれるゲームが本作といえる。
昭和へとタイムリープ!夢をやり直す物語
昭和を舞台にした本作だが、物語は現代からスタートする。自分に責任がないにもかかわらず仕事の失敗の罪を押し付けられ、職を失った人物が主人公。職を失っただけではない。務めていた会社の社長はかつての友人。つまり、友人までも失った格好だ。
その上、かつて恋心を寄せていた幼馴染まで友人の妻となっている。しかもさらに、おばあちゃんの死という不幸まで訪れ、まさしくどん底状態。そんな状態の主人公の頭にふとよぎったのは、かつて主人公のおばあちゃんが経営していた駄菓子屋の思い出。そして気づくと、主人公は過去の世界…おばあちゃんの駄菓子屋がまだ活況だった昭和時代へとタイムリープしていた。
過去に戻った主人公は、駄菓子屋を継ぐことを決意。都会に出て親友の会社で働くのではなく、自分の手で金を稼ぎ、幼馴染を幸せにすることを誓うのだ。
タイムリープ先や転生先で人生をやり直す…というのは王道の展開のように思える。ただ、タイムリープ先が昭和中期の日本ということで、また別の意味を持つように感じた。というのも、昭和中期の日本というのは、夢と活気に満ちていた時代だからだ。
テレビに自動車、クーラー…と生活はどんどん便利になっていき、経済も著しいスピードでが発展していった時代。子ども向きの雑誌でも、未来では車が空を飛び、人類が宇宙へ進出しているといった明るい未来像に溢れていた。
人生を…いや、夢をやり直すためにこれほど相応しい時代はあるだろうか?ファンタジーとしてもうってつけだし、リアルに昭和を過ごした筆者のような世代にとっても「夢をやり直す可能性」が感じられる説得力を持った展開だと感じた。
駄菓子屋に居酒屋におもちゃ屋!懐かしのお店を経営するシミュレーション
ゲーム開始直後の主人公は、おばあちゃんの駄菓子屋を経営することになる。ただ本作は、駄菓子屋だけを経営するカジュアル寄りな経営シミュレーションではない。駄菓子屋に居酒屋におもちゃ屋に質屋…と、昭和の街を彩っていた様々な店舗を次々経営していくことになる。駄菓子屋はスタート地点に過ぎないのだ。
経営する店舗は多い一方で、難易度はカジュアル寄り。基本的には資金を投じて従業員数や店のレベルをアップしていけば収益も増えていく。資金の使い方をミスすると赤字化して倒産してしまう…といったペナルティ要素はない。
経営シミュレーションゲームに赤字や倒産といったペナルティ要素がないという点は、賛否両論かもしれない。ただ筆者は、好印象を持った。というのも本作は、昭和時代の懐かしさを味わう作品。赤字やら倒産やらといったシビアな要素が入ってくると、この雰囲気が壊れてしまうように思う。
実際に本作をプレイすると、懐かしさへと繋がる部分が細かく作りこまれていることに気づくだろう。駄菓子屋以外に複数店舗を経営するゲームではあるが、駄菓子屋のお菓子や居酒屋のメニューなどはそれぞれ細かく設定されている。子どものころリアルに駄菓子屋を体験していた世代の筆者としては、「あー、子どものころこんなお菓子食べたなーー!」と懐かしくなってしまう。「学校が終わると駄菓子屋行って、100円でできるだけ沢山のお菓子買おうとがんばったっけ…」などと、ゲームとは直接関係のない思い出まで蘇ってくる…。
ちなみに、おもちゃ屋については細かな商品メニューが設定されていない。個人的には残念な部分だ。今だとおもちゃ屋というと量販店のイメージが強いが、昭和の時代はそこここに個人営業のおもちゃ屋があった。ぬいぐるみやプラモデル、ラジコンにパズル…店頭に飾られたおもちゃたちに胸がときめいたっけ。…と、本作はこんな具合に、ついつい思い出を語りたくなってしまう。間違いなくこの点こそ、本作最大の魅力だろう。
昭和時代に家族を築く!昭和人生シミュレーション
ところで、物語的には、主人公がやり直したいのは仕事だけではない。幼馴染との仲もそのひとつだった。そして本作は経営だけでなく恋愛要素もしっかりシステムとしてフォローしている。恋愛のみならず、子どもを持って育てることも可能。なので全体的なプレイ感は経営シミュレーションというよりRPGに近い。
用意されている恋愛要素は、贈り物やデートといったコマンドを通して好感度をアップしていくというもの。ちなみに恋愛の相手となるのは幼馴染だけではない。他の女性も登場するし、他の女性と関係を持つこともできる。幼馴染と同時並行的に関係を持つことも可能だ。
「昭和時代を懐かしむ」というコンセプトからすると、「幼馴染以外の女性は不要では?」と思わないこともない。幼馴染との恋愛を一途に貫く…という方が、思い出として美しいように思うからだ。ただ、そもそも幼馴染との恋愛を一途に貫くのか、それとも色んな相手との恋愛を楽しむのかはプレイヤーに任されている。なのでこの点は、それぞれのプレイヤーの頭の中にある「昭和」のイメージに沿ったプレイをするのがいいのだろう。そういう意味で本作は、経営シミュレーションというより昭和人生シミュレーションといえるのかもしれない。
昭和人生シミュレーションと考えた場合に称賛を送りたくなるのが、本作の「密会」要素。これは、恋愛相手と一夜を過ごすことができる機能で、ちょっとセクシーな画像を拝めると同時に子どもを授かれるという要素だ。「昭和時代を懐かしむ」という観点からするとちょっと生々しいようにも思うが、昭和人生シミュレーションと考えるなら悪くない機能だと思う。
ちなみに、一般にスマートフォンアプリをリリースするためにはマーケットの審査を通過する必要があり、表現を厳しくチェックされる。このため本作の「密会」要素も、表現的には結構ソフトだ。ただソフトな中で「いかに想像力を刺激させるか」という表現が追求されている。これがエロと笑いの狭間のような表現となっていて、とてもおもしろい。本作の見どころの一つだと思う。
懐かしさだけではない!昭和の楽しさを丸ごと楽しむ作品
本作は昭和時代が舞台で、しかもタイトル画面のビジュアルが駄菓子屋になっているため「懐かしさ」を楽しむのがメインのように思える。しかしプレイすると「懐かしさ」だけではなく、時代の活気や夢、さらには恋愛や子育て…といった昭和の時代が持っていた要素すべてを丸ごと楽しむ作品だと気づくだろう。
逆に、駄菓子屋というイメージに引きずられてしまうと、期待していた「懐かしさ」を味わえない可能性が高い。プレイする際には「駄菓子屋経営シミュレーション」というより「昭和人生シミュレーション」という前提で臨むのがオススメだ。
それにしても、まさか自分の生まれた時代そのものがゲームの舞台になる時が来るとは思わなかった。本作はそういう意味でも感慨深い。筆者のように実際に昭和を生きた世代は、確実にプレイする価値のある一作だと思う。思い出の中の昭和とは食い違う部分もあるかもしれないが、「こうじゃなかったよ!」だとか、「俺の時代はこんな感じだった!」などと友達と語ったり、SNSに投稿したりするのもまた楽しい。是非本作で、今一度昭和を味わってほしい。