「ヴァイキングライズ」をレビュー。ヴァイキングや北欧神話の世界観をベースにしたスマートフォン向けのリアルタイム戦略ゲーム。自分の領土を広げていく楽しさを中心に、本作の魅力を紹介したい。
IGGからリリースされた「ヴァイキングライズ」は、スマートフォン向けのマルチプレイ・リアルタイム戦略ゲーム。オーディンやヘルといった神々の登場する北欧神話やヴァイキングの世界観をベースにしており、プレイヤーはヴァイキングのリーダーとして自分の部族を率い、ミッドガルド征服を目指すことになる。
まさに「ライズ」!自分の領土を広げていく感覚が楽しいMMO戦略ゲーム
本作のゲームシステムは、スマートフォン向けMMO戦略ゲームのシステムを踏まえた上で、ストレートに進化させたものになっている。基本的な要素は一般的なMMO戦略ゲームと大きく変わらない。自分の領土内に施設を建てて資源を獲得し、手に入れた資源を使って部隊を編成。バトルに勝つことで支配領域を拡大していく…というものだ。
最初に「マルチプレイ」と書いた通り、本作には他プレイヤーとの協力要素や対戦要素が盛り込まれている。ただそれはゲームが進んでからの話。ゲームスタート直後は完全にソロプレイ。NPCとして登場する敵「ニヴルング」を倒すことで、ストーリーが進行していく。
このソロプレイはチュートリアルも兼ねているとは思うが、かといってチュートリアル用に用意されたオマケ的なシナリオといった内容ではない。チャプター10までソロプレイとなっていてボリューム的にも十分な量がある上、内容的にも「ヴァイキングライズ」というタイトルの意味を感じさせてくれる仕上がり。ソロプレイのゲームとして満足できるクオリティだ。
本作でプレイヤーはヴァイキングたちを束ねるリーダーという立場。だが、ゲームスタート直後の状態はこの言葉の持つイメージと180°逆といっていい。なにせ故郷の街が吹雪で壊滅、新天地を目指し大陸に着いたものの怪物に襲われ仲間と散り散り…という状況なのだ。
率いるべき仲間も、統治すべき領土もない。ゼロからのスタート。この状況でできることは、食料や木材といった資源となる物資の獲得だ。そして、物資を獲得したら生活に必要な施設を建設していく。施設はすぐ建設完了するわけではなく、リアルタイムで一定の時間経過が発生…。こうしたシステムはMMO戦略ゲームでは一般的だが、本作の場合、建設のみならず「資源の獲得」にも時間経過が発生する。
単純に時間経過が発生するのではなく、資源の採取ポイントまで農民ユニットが向かい、採取時間経過を待つ…というシステム。一般的なMMO戦略ゲームの場合、資源の獲得に関しては完全にオート化されていたり、資源生産施設をタップするだけで済んでしまったりする。なので筆者はプレイスタート直後、珍しいシステムだなと感じた。しかし、プレイしている内にその印象は変化。現時点では、この形になるべくしてなった、とても理に適ったシステムだと感じている。
というのも実は、一般的なMMO戦略ゲームでも「資源の採取ポイントまで農民ユニットが向かい、採取時間経過を待つ」というシステムを用意しているからだ。さっきの段落で書いたこととは矛盾するようだが、一般的なMMO戦略ゲームで資源採取がフルオートやタップだけといったスタイルになっているのは、「自国領地内」の話。他プレイヤーと対戦する「ワールドマップ」というくくりで見ると、一般的なMMO戦略ゲームでも「資源の採取ポイントまでユニットを向かわせ、採取時間経過を待つ」というシステムになっている。
つまり本作は、一般的なMMO戦略ゲームが「ワールドマップ側の仕様」としている要素を、「自国領地内側の仕様」に持ち込んでいるということ。おそらくこれは意図的に行っていることだろう。なぜなら、バトルの仕様にも同じような傾向が見られるからだ。
本作のバトルはフルオートとなっている。プレイヤーは部隊を編成し、目的地を指定したら後は結果報告を待つだけ。移動先やスキルの使用タイミングといったことを細かく指示することはできない。これもまた、一般的なMMO戦略ゲームが「ワールドマップ側の仕様」として用意するシステムだ。
だがたいていの場合、自国領地内でのNPC相手の戦闘については、RPG風のコマンドバトルやタワーディフェンス的なバトルなど、別のバトルシステムが用意される。これ自体は自然なことだろう。ワールドマップでは他プレイヤーと対戦ため、公平なシステムが求められる。しかしMMO戦略ゲームではプレイヤーがゲームをいつプレイするかわからない。このため、細かい指示が勝敗に影響するようなシステムを導入すると、今現在オンタイムなプレイヤー…恐らく攻撃をしかけた側のプレイヤーが有利になってしまう。となると、オートで勝敗を判定せざるを得ない。とはいえ、何らかの形でプレイヤーが干渉できるシステムの方がゲーム的にはおもしろい。
であれば、NPC相手の戦闘はプレイヤー操作可能な別システムにしよう…という発想だと推測できる。しかし、本作のバトルはNPC相手の戦闘もフルオート。部隊を派遣して結果報告を待つとしうシステムになっている。
なぜ本作は、ユニットを派遣しての資源採取やフルオートバトルなど、一般的なMMO戦略ゲームが「ワールドマップ側の仕様」としている要素を「自国領地内側の仕様」としているのか? 筆者が考えるに、それはきっとマルチプレイにおけるプレイヤーの体験と、ソロプレイにおけるプレイヤーの体験をなるべく近づけるためだろう。
実際に本作をプレイして筆者は、ソロプレイからマルチプレイへの移行が極めてスムーズだと感じた。ただこれは本作のよくできた点のひとつではあるが、本作の持つ「楽しさ」そのものではない。では本作の持つ魅力は何かといったら、「自国領地の拡張」がそのひとつだ。
本作ではストーリー進行にともない、自国領地用のマップが拡大していく。これは一般的なMMO戦略ゲームのように、単純に施設の建設可能エリアが広がっていくという意味ではない。イベントや敵などが配置されたマップが広がっていくのだ。プレイヤーは広がったマップに出現した新たな地点へ部隊を派遣し、新イベントを攻略することで、施設建設可能な領域を増やしていく。この感覚が、ソロプレイの戦略ゲームをプレイしているようでとてもおもしろい。
また、自国領地用マップの拡大はストーリー的にも楽しさを生んでいる。最初は領地すら持たず、大陸に何があるかすら知らなかったヴァイキングが、どんどん行動領域を拡大。さらに支配領域も増やすことで目に見えてヴァイキングたちの領地が増えていく。
「ヴァイキングライズ」のタイトルにある「ライズ(RISE)」とは「上昇」という意味で、「地位が上がる」「立ち上がる」「勃興する」といった場合にも使われる単語だ。ヴァイキングたちがマップ上で勢力をガンガン拡大させていく様子に、まさしくうってつけではないだろうか。とはいえマルチプレイだと、どうしてもどこかのタイミングで強大な他プレイヤーと遭遇してしまう。このため純粋に自勢力の拡大を楽しむというのはなかなか難しい。だが、ソロプレイなら思う存分楽しめる。歴史小説や大河ドラマなどで、一つの国の隆盛を見るのにも似た楽しさだ。
ちなみに、筆者は「ユニットを派遣しての資源採取」について「マルチプレイにおけるプレイヤーの体験と、ソロプレイにおけるプレイヤーの体験をなるべく近づけるため」と書いた。ただ、「自国領地用マップの拡大」という要素を踏まえて考えると、「ユニットを派遣しての資源採取」は支配地域の大きさを感じさせる演出としても有効に機能していると思う。ユニットの移動という要素が省略されていないからこそ、支配地域の広さ=マップ的な広さという要素をダイレクトに感じることができるのだ。
ソロプレイとマルチプレイが緩やかに融合!ソロ重視派もスムーズにマルチプレイを楽しめる
ここまで本作のソロプレイにおける楽しさを紹介してきた。では、マルチプレイはどうなのかというと、実は本作はソロプレイとマルチプレイが緩やかに融合している。この点も本作の特徴だろう。
これまでに、「ユニットを派遣しての資源採取」や「フルオートバトル」といった、一般的なMMO戦略ゲームでは「ワールドマップ側の仕様」なる要素が本作では「自国領地内側の仕様」になっていると書いた。でもそれだけではない。本作では、この逆に「自国領地内側の仕様」として一般的な仕様を、「ワールドマップ側の仕様」でも取り入れている。それが「クエスト」システムだ。
「クエスト」は、MMO戦略ゲームに限らずさまざまなゲームで採用されている。「特定の敵を倒せ」だとか「特定のアイテムを一定数集めろ」といったお題をクリアすることでゲームを進めていくという要素だ。MMO戦略ゲームではたいてい、ゲーム序盤のプレイヤーに対してゲーム内のルールやシステムをレクチャーするため使われる。本作でもゲーム序盤は、「自国領地内への施設建設」や「敵NPCを倒せ」といったクエストが登場。プレイヤーはクエストを通して本作の内容を学ぶことができる。ただ本作の場合、ゲーム中盤以降、クエストの対象がワールドマップへと広がっていく。
クエストの対象がワールドマップへ広がることで、プレイヤーはマルチプレイ要素をソロプレイの延長として楽しめる。本作の場合、資源の採取やバトルといった点も変化がない。このため、ソロプレイからマルチプレイへの移行が類を見ないほどスムーズだ。
筆者はソロプレイのゲームもマルチプレイのゲームもどちらも楽しむ人間なので、マルチプレイの楽しさも知っているつもりだ。対戦プレイにしても協力プレイにしても、相手が人間というだけで楽しさはアップする。ただその一方で、負けた時の悔しさや疲労感というネガティブな点も増幅されるように思う。なので、ソロプレイのチュートリアルからマルチプレイへ切り替わる際には「ここから相手は人間だ…。よし、やるぞ」という意識の切り替えが必要だ。
基本的にNPCより人間プレイヤーの方が圧倒的に強く、プレイ感も変わってくるので「人間相手」ということを意識してしまう人は少なくないのではないかと考えている。でも、もしかするとこんな風に感じているのは「気にしい」な筆者だけかもしれない。ただそんな筆者であっても、本作はほとんど意識せずにマルチプレイへ入っていくことができた。本作はそういう意味でもよくできている。
また、チャプター10までソロプレイに割いていることもあり、マルチプレイが解放されるタイミングでゲーム的な仕組みをほとんど理解できているということも大きい。プレイ方法もよくわかっていない状態で他プレイヤーからボコボコにされるということはほとんどないだろう。なおマルチプレイ用のワールドマップ解放後も、ソロプレイ用のストーリーは続いており、自国領地用マップは拡大していく。なのでマルチプレイの戦略ゲームが好きという人に限らず、領地を拡大していくような歴史大河系作品が好きな人は是非触れてみてほしい。