京都・みやこめっせにて7月14日(金)~16日(日)の期間で開催されたBitSummit Let’s Go!!(一般公開日は15、16日)。ジー・モードブースにて出展されていた「OU」の開発スタッフインタビューをお届けしよう。
「OU」は2023年8月31日(木)にNintendo Switch、Steamにて発売予定のピクチャレスク・アドベンチャー。プレイヤーは記憶を失った状態で目覚めた少年を操作して、不思議な世界・ウクロニアを旅することになる。
企画・脚本・アートを手掛けるのは「セパスチャンネル」などの幸田御魚氏。パブリッシャーをジー・モードが、デベロッパーをroom6が担当しており、音楽は任天堂のサウンドチームを経て、現在フリーランスで活動中の椎葉大翼氏が手掛けている。
本稿では、BitSummitに来場していた椎葉大翼氏へのインタビューに加え、幸田御魚氏へのメールインタビューも掲載できる運びとなった。発売まで約1ヶ月となった「OU」への期待感がさらに高まる内容となっているので、ぜひ最後まで読んでいただきたい。
音楽:椎葉大翼氏インタビュー
椎葉大翼氏プロフィール
フリーランスの作曲家。任天堂在籍時には「英語が苦手な大人のDSトレーニング えいご漬け」や「トモダチコレクション」をはじめ、多数のヒット作の音楽を手掛ける。独立後は「ファイナルファンタジー ピクセルリマスター」の編曲などに関わりつつ、多数のインディーゲームの楽曲制作を行っている。
――椎葉さんが「OU」の音楽を手掛けることになった経緯を教えてください。
椎葉:「OU」はジー・モードさんと幸田御魚さんから始まったプロジェクトです。開発をroom6さんが担当することが決まり、そのroom6さん経由で僕がお話をいただいたんです。以前、room6さんの「World for Two」というゲームで音楽を担当していまして、そのご縁で声を掛けていただきました。
――「OU」の音楽は、どのようにイメージしていったのでしょう? 幸田さんによるコンセプトアートから着想を得て作曲したような形でしょうか。
椎葉:仰るとおり、最初にコンセプトアートがありまして、僕から幸田さんへ「(アートに)3行程度の文章を添えてください」とお願いしました。加えて、幸田さんからは「ギター1本で曲を作ってほしい」という要望をいただきました。そこからイメージを膨らませて作曲していったんです。
まず作ることになったのが、トレーラーのための音楽でした。30秒程度の尺で、「OU」のことが分かる音楽を、というお願いで。それを受けて、切ない曲とほのぼのした曲を作りました。トレーラーに採用されたのは切ないほうの曲でしたが、ほのぼのした曲は、ゲーム序盤のBGMになりました。
――幸田さんからリテイクをお願いされることはあまりなかったのでしょうか?
椎葉:予想していたほどはなかったです。ちょっとイメージと違う曲になったときは、多くの場合「ここでは使えないけど、こっちでなら使えるんじゃないか」といった提案をしてくださいました。
――楽曲制作する上で、こだわった部分があればお聞かせください。
椎葉:やはり、ギター1本でゲーム音楽をここまで構成すること自体が、ほかにはないものです。場面ごとの“濃淡”を付けるということには、かなり気を配りました。イメージしたのは水墨画です。黒い墨だけで、絶妙な濃淡を描き分けるのと同じことを、ギター1本で表現する……“音楽の水墨画”を目指しました。
収録も、ギターの演奏者さんにスタジオで弾いてもらっていて、これもかなり稀なことだったと思います。
収録方法にもこだわりました。いま主流の手法ではなく、オープンリールのテープを使って収録しているんです。オープンリールで収録できるスタジオ自体が少ないので、いろいろと大変ではありましたが、僕に言わせれば、オープンリールはハイレゾよりもよっぽど良い音が出ますから(笑)。とくに低音でふくよかな音が出るので、「OU」を遊ぶときはなるべく良い音響で聴いてみてほしいですね。
――収録曲の中には、ギター以外の楽器を用いた曲もあるのでしょうか?
椎葉:クライマックスのほうでは、ほかの弦楽器や打楽器が加わって、ゲームを盛り上げます。とはいえ、最大でも5人編成程度ですね。
――ご自身の音楽が流れる状態の「OU」を、すでにプレイされましたか?
椎葉:ものすごくプレイしています(笑)。
――おぉ、ものすごく(笑)。
椎葉:というのも、制作途中でも自分でゲームをプレイして、音楽が流れるタイミングなど、細かく調整させてもらっているんです。「ここで鳴らすのではなく、こちらのタイミングで鳴らしてください」「止めるときはここに合わせてください」といったお願いをいろいろな箇所でしました。
――楽曲提供だけではなく、音楽演出的な部分のディレクションも行っていたんですね。
椎葉:それで、音楽のことを気にしていると、効果音も気になってきまして……。効果音は別の方が作っているのですが、どこで鳴らす・止める、音量をどれくらいのバランスにするといった部分も、可能な限り、チェックさせていただきました。
――完成したゲームで流れる音楽については、ご自身でどのように感じていますか?
椎葉:幸田御魚さんによる唯一無二の世界を、音楽の力で盛り上げるという役目は果たせたかなと思えました。それから、普段ゲームをプレイしない人が聴いたとしても、音楽だけで「こういう雰囲気のゲームなんだな」と想像してもらえると言いますか……“ゲームの予告編”になるような音楽が作れたんじゃないかと思っています。
「OU」をプレイした人にとっては、このゲームを10年後、20年後に思い出したとき、映像とともに音楽も思い出してもらえるものになったのではないかと感じています。
企画・脚本・アート:幸田御魚氏メールインタビュー
幸田御魚氏プロフィール
グラフィッカーを経て、ゲームの企画・ディレクションを手掛けるように。代表作は「セパスチャンネル」、「ちゅら島暮らし」など(いずれもG-MODEアーカイブスにてNintendo Switch、Steamで配信中)。趣味でTwitterに漫画を投稿することも。
――「OU」というゲームの世界は、どんなところから着想を得て構築されたのでしょう?
幸田:いちばん最初にあったのは「水の中に飛び込んでシーンを移動する」という設定でした。ここにメキシコ文化やメタ手法など、いまの自分にとって関心の強い要素を入れ込みながら、ゲームの仕組みやテーマ、ストーリーを組み立てていきました。
僕はメタ要素のある文学や映像作品というものが好きで、その中でもミヒャエル・エンデの「果てしない物語」やユーリー・ノルシュテイン(ロシアのアニメーション作家)の「話の話」などに強く影響を受けてきたんです。
「メタ手法」はゲームやアニメなどエンタメ分野でもそれほど珍しくはないのですが、僕は「僕らの現実」と繋がった地に足のついたメタ作品、テーマや作品構造として必然的にメタ作品であるものを作り上げたかったんです。
――当初の予定よりかなり時間をかけて制作されたとのことですが、構想をはじめた時期と、そこから現在に至るまでの話をお聞きしてみたいです。
幸田:きっかけは2020年の年末、ジー・モードの竹下プロデューサーからお声がけをいただきまして、すぐにコンセプトの絵や作品イメージの案を持ってお会いしたんです。GOサインをいただいたので、そこから1週間程度で企画書やシナリオプロットを作成しました。ストーリーや設定の一部はすこし変更していますが、ビジュアルやキャラクター、作品構成など、ほぼ最初の構想のまま完成まで至っています。
ただ、当初は1年程度で作り切る小規模プロジェクトとしてスタートしていまして、アートに関して僕が担当するのも、キャラデザインや背景の構成ラフまでの予定だったんです。しかしroom6さんと開発を進めているうちに、妥協したくないクリエイター魂に火がつきまして(笑)。
「これは原作者(幸田)の絵でコンセプトアートそのままの作品にしましょう」とか「アニメーションに徹底的にこだわりましょう」といった具合に、僕自身が見るべき領域が増えていきました。それらによる制作期間の倍増を竹下プロデューサーに認めていただいたのが、リリースまで2年半以上かかった理由です。
――執念を感じるほどに描き込まれた背景とキャラクターのアニメーションに圧倒されます。このアートを描く際のこだわりや、そこに込めた想いを教えてください。
幸田:前提として、僕はプロの絵描きではないんです。25年ほどゲーム業界にいますが、グラフィッカー(ドットや3D)を経て企画・ディレクター職になりました。これまでキャラデザやストーリーボードなどで開発資料的に絵を描いてきましたが、こうして自分の絵を全面に出して商業作品を作るのは不思議な気分です。
そういう意味で自分がアマチュアに毛が生えたレベルだというのは自覚していますので、それならプロ以上に命を削って描かないと伝わらないと、肝を据えて作画に向かい合いました。
こだわりではないのですが、この作品の背景画は僕の心象風景であり、誰もがどこか共感できるような原風景、または夢の中で見た何処かというイメージにすると決めて、写真などの資料は一切参考にせずに描いてきました。植物などが多く描かれていますが、それもまた学術的な正確さはあえて取り入れていません。僕の頭の中にある印象だけを頼りに描いています。
アニメーションは、素晴らしいアニメーターさんをroom6さんにアサインしていただきまして、僕も「ここまで頑張っちゃうのか……」と驚きました。その出来栄えに応えるべく、僕のほうでも原画部分やモーション指定など、力をいれました。NPCの一部や大きなクリーチャーなどは、僕の原画をそのまま素材化して動かしてもらっています。
――開発を担当したroom6に、幸田さんからとくに念を押してお願いしたオーダーのようなものはありますか?
幸田:最初のプロモーションで言っていたように「OU」とは「ゲームの形をした何か。」です。大枠としての構造はゲームでしかないのですが、細部に関してはできるだけ「ゲーム的にならないように」とお願いしました。たとえばUIデザインであるとか、SEやエフェクトなどの演出表現についてです。これらをできるだけ控え目にすることで「ゲームというより読書をしている」ようなプレイ体験を実現できたと思います。
ただ、そこを突き詰めてしまうとプレイヤーさんにとって不親切なものになりかねないので、そのさじ加減はroom6さんやジー・モードさんと話し合いながら最後まで調整していた部分です。
――音楽を担当している椎葉大翼さんの印象はどういったものでしたか? また、音楽に関してやりとりをする中で、印象に残ったことがあれば教えてください。
幸田:椎葉さんも僕と同じく、手を動かすよりも深く考え悩む時間の多い人だなと思いました。時間をかけて苦しんだとしても、それに見合った結果を出してくれるクリエイターさんは信頼できますね。
作曲に取り掛かっていただく前から、椎葉さんの音楽はサントラやコンサートなどで聴かせていただいていました。もちろんどれもが素晴らしい曲や演奏構成でしたが、僕が本作に求めているものが「ギターメインでラテン音楽の要素を取り入れたもの」だったので、方向性的に合うだろうか? という気持ちが当初あったことは確かです。
しかし、椎葉さんとコンセプト部分を話し合い、サンプル曲など作っていただく中で、椎葉さんなりの本作の解釈というものが見えてきて、結果、まさに「OU」のための音楽を作っていただくことができました。これは僕のオーダーだけでは辿り着けなかったものです。
――最後になりますが、「OU」をどんなユーザーに届けたいですか?
幸田:僕はこの作品のテーマはとても普遍的なものだと考えています。なので“全人類に届けたい”というのが真の想いですね。しかし、これは最後までプレイしていただかないとわからない部分ですが、扱っているモチーフや作品構造はかなり特殊で、それを踏まえるならば、とくに創作に関わる人々、そして創作物を愛する人々に、この作品を手にとっていただければ幸いです。