8月23日から25日まで開催されている「CEDEC2023」。ここでは、8月24日に行われたセッション「FINAL FANTASY XVI ~オールレンジのプレイヤーに向けたコンバットデザイン~」の内容をお届けする。
登壇者はスクウェア・エニックスより、鈴木良太氏。本セッションでは、2023年6月に発売した「ファイナルファンタジーXVI」(以下「FFXVI」)のバトルパートのコンバットデザインを紹介していった。
「FFXVI」はこれまでの「FF」シリーズと異なり、フルアクションでコンバットを構築した作品となる。これまでの「FF」シリーズを遊んできたシリーズプレイヤー層はもちろんのこと、アクションゲームを好んで遊ぶライトプレイヤー層、アクションに奥深いやり応えを求めるヘビープレイヤー層、これら幅広いプレイヤー層に楽しんでもらえる為の、「FFXVI」のコンバットデザインの制作方針と、その具体的な制作手法を紹介している。
内容は易しめのため、「FFXVI」のバトルが楽しかったというファンであれば、理解しやすい内容となっているので、ぜひご覧いただきたい。
シリーズ初の本格アクションバトルを導入するにあたり、幅広い層に楽しんでもらうための工夫
これまでのFFのバトルシステムは、コマンドバトルにはじまり、ATB(アクティブタイムバトル)の導入、そしてセミアクションでコンバットを構築している。
しかし、「FFXVI」のバトルは、シリーズ初の本格派アクションゲーム。幅広い世代に手に取ってもらうアクションゲームを目指すこととなる。そのために、「FFXVI」のバトルではクリアすべき課題があった。
まず、今回目指した「FFXVI」のバトルデザインは、ターゲットとするプレイヤー層が広いため、それぞれにリーチするバトルデザインが必要となる。それが「FF」でアクションを作る上での課題で、アクションで楽しんでもらうためには従来のゲーム性から大きな改革が必要になる、と鈴木氏は語った。
目指したのは遊び方の多様性で、「FFXVI」ではアクションが苦手な人用のアビリティとフィート、アクションが得意な人向けのフィートとアビリティなどを多数用意し、プレイヤーには自分の遊び方にあったフィートとアビリティを楽しんでもらい、多様性を生むように工夫している。
「FFXVI」のバトルデザインの目標は、「アクションが苦手な層と得意な層の両立」であり、アクションをプレイできている実感を得てもらうことだという。アクションが苦手な人と得意な人とで、効率性に変化はつけつつ、不正解をなるべく作らないことを意識。アクションが苦手な層と得意な層、両方へのアプローチをすることとなった。
そのための工夫が、「敷居が低く天井が高いコンバットデザイン」。これまでの「FF」プレイヤーにむけて敷居の低さを必須とし、アクションで楽しんでもらえるようにしつつ、アクションの実感を損なわないようにしたかったそうだ。そこで、付け替え可能なサポート機能の充実を目指すこととした。
実例として、「オートスロー」という攻撃を受けそうになるとゲームそのものがスローになるようにした機能、一定以上に体力が減ったら自動的に回復アイテムを使用する「オートポーション」、自動でアビリティなどを使用してくれる「オートアタック」の3つの機能を挙げた。
オートスローは、敵の攻撃を受けそうになったらスローモーションになるので、そこでR1を押すだけで主人公クライヴがかっこよく回避をしてくれる。回避はプレイヤーの反射神経が問われるため、オートスローサポートで反射神経要素を軽減しつつ、回避ボタンを押してもらうことだという。何はともあれ「回避ボタンを押す」という行為が、アクションゲームをプレイしているということに効果的に働くのだ。
オートポーションでは、回復アイテムを大量にかかえたまま死亡するという遷移が生まれないようにした。鈴木氏曰く、回復アイテムを大量にかかえたまま死亡するのはアクションゲームをそこそこ遊ぶような層にもよくあることだそう。
オートアタックは、攻撃ボタン連打するだけで、様々な能力を持った攻撃を自動で使ってくれるため、華のある戦術を自動的に行うようになる。特にオートアタックでは、見栄えのよい戦術を作り出すことを意識したアルゴリズムになっているとのことだ。
このように、アクションが不得意な層にとっての苦手な要素は、難易度だけでは語れない、と鈴木氏。プレイヤーが自分の苦手にあわせて任意でつけかえられるように、アクセサリ機能のオンオフを実装した。アクションはあまり得意ではないけれど、最初からEASYで遊ぶということには抵抗を感じる層に、非常に有効に働くという。
そのような「敷居が低く、天井が高いコンバットデザイン」について、「敷居の低さ」は、戦闘中にプレイヤーが考える要素を0にしないことが重要だという。「FFXVI」では攻めるべきターン、引きべきターンの思考は絶対に残すようにしており、プレイヤーには最低限、攻めるべきターンなのか引くべきターンなのか、ということを理解してもらうようにした。そこの調整方針をマストにしたので、オートバトルは意図的に採用しないようにしたそうだ。
そして「天井の高さの実現」については、操作テクニックで変化する技術介入要素を多く採用。上手いプレイヤーだけができるテクニックで、効率性が変化するようにした。
例えば、ジャスト回避は敵の攻撃をひきつけて回避することで発動し、発動すると敵の動きがスローになり、攻撃のチャンスが生まれる。このタイミングでのみ発動する専用のカウンターを用意し、戦闘の効率性に変化をつけつつ、より魅力的に見えるように構成している。ちなみにアクションが苦手なプレイヤーでも偶発的に発生するように、ジャスト回避はあえて緩めに設定しているとのこと。
マジックバーストは、クライヴの効率性を強化するアクションで、マジックバーストを剣戟をいれつつ魔法をうちこむことが出来、連撃の攻撃力があがり、敵の体勢を崩しやすくするというメリットがある。
さらにパリィは敵が攻撃を放ってきたときにはパリィを成功させることで、プレイヤーが一方的に攻撃可能になりつつ、かつダメージボーナスも乗るようになっている。パリィの成立条件は、敵の放つ攻撃にこちらの剣戟をあわせること。敵の攻撃を被弾するリスクがある分、成功した時の怯み中には大きくダメージが上がるようにしているとのことだ。
ただ、これらの技術介入要素を取り入れるにあたって、気を付けたいポイントもある。それは、「できないプレイヤーに強要しないこと」、「敵の討伐条件にこういった技術介入要素をいれないこと」、「できることで得をする範囲に留めること」だと、鈴木氏は語った。あくまでも、「やらなければいけない」という感情が生まれない範疇でボーナス要素をギリギリに留めているという。
「戦闘における成功体験を感じやすくする」ため、タイミングや反射神経の要求を意図的に緩めに調整。
例として、鈴木が過去に関わったタイトルのパリィ判定は4フレームのみで、攻撃に対してかなり短かかったのだが、「FFXVI」では受付時間をかなり長めに設定していることを挙げた。戦闘における成功体験を感じやすくする、簡単すぎなく難しすぎないギリギリを攻めたそうだ。
遊び方に多様性を持たせるために
「FFXVI」では主人公クライヴが様々な力を修得していくことで、戦術が大きく変わっていくという特徴がある。クライヴは7つの召喚獣を修得し、召喚獣アクションを付け替えながら戦う。そこで、どのアビリティを使って戦うのか、多様性を持たせたのだそう。
召喚獣は3つまで、アビリティは6つまで装備可能で、これを切り替えながら戦うのだが、召喚獣の能力を用いたフィートが重要になる。そしてアビリティは、バトルに深みを持たせる要素だ。
ここで鈴木氏が注意したのは、それぞれのアクションに尖った部分と凹んだ部分を作ること。死にスキルができないようにすること。凹んだ部分を他の召喚獣アクションでカバーすることだったという。
プレイヤーのカスタマイズで、火力特化スタイル、カウンター重視スタイルなど、様々なカスタマイズが出来るようになり、目指した形は「エンディングを迎えたときにキャラクターのカスタマイズが大きく異なること」だったそうだ。
そして更に目指したのは、「操作感の良いゲーム」であること。例えば画面に出ている情報に自分は反応できているのに、ゲームのキャラクターが反応しないといったケースが増えると、プレイヤーは操作感の悪いゲームだと感じるようになる。
操作感が悪いゲームが面白くないゲームではないが、ネガティブな印象を持たれてしまい、アクションが得意ではないプレイヤー層には操作感が悪いのは大きなマイナス要素になってしまう。
そのため、「FFXVI」では操作可否がわかりやすいポージングにすること、ポージングに納得度を持たせることを重視したのだという。
ここでは、「ランジ」というアビリティを例に、クライヴのポージングを紹介。ランジは素早く移動したあと払い斬りする攻撃アクションで、アクション後に重心を大きく下げて動けない納得度をポージングで表現している。
また、操作ごとにキャンセルタイミングを調整している。キャンセルタイミングは、回避、攻撃、剣戟、移動、魔法、カテゴリごとに設定し、各タイミングは専用のエディタにてモーションごとにキャンセルタイミングを個別に設定している。
さらに、鈴木氏は「ゲームオーバーになったときの納得感をあげる」ことも重要だと語った。
「FFXVI」では理不尽感を感じにくいように、予兆記号の徹底、カメラ外からの攻撃の抑制、攻撃権のチケット制に力を入れたという。特に、「予兆記号がいれたはいいものの、プレイヤーに伝わらない」というケースを避けるべく、予兆時点でどのタイミングで攻撃がきそうかなどを、わかりやすく伝えるように、記号を調節している。
例えば、ギガースの横振り攻撃だが、武器を側面に、体を横方向に、脚を踏み下げて捻りを解りやすくするといった、かなり大きな動きをつけている。これについて鈴木氏は、「自然な動きよりも、誇張するくらいがちょうどいいと思っている」と説明。このように予兆記号をいれることで攻撃をうけたときの理不尽感を減らす、パリィをねらってもらうなど、予兆攻撃は敵を攻撃するうえでのひとつの軸にもなる。
さらに、カメラ外からの攻撃の抑制にも注意したという。複数の敵がいる時、画面外からの攻撃は理不尽に感じやすいため、近接敵が画面外から攻撃をしないように調整している。敵がプレイヤーに対して攻撃するときまずカメラ内に移動し、そこから攻撃動作にはいるようになっている。
「FFXVI」では攻撃権のチケット制を導入。チケットをもらった敵のみ攻撃行動に移ることができる。アクション初心者だと同時に複数の物事に対処するのが困難なため、チケット制を導入しないと短いスパンで敵が攻撃してくるので、複数の敵が登場するシーンは難しい戦闘になってしまう。
モードごとにチケット最大数を設定しており、ベースとなるアクションフォーカスモードではチケット発行数を2枚まで、ファイナルファンタジーチャレンジで4枚、アルティマニアックでは8枚、というように、複数の敵が登場する場面での難易度を設定している。なおチケット制は雑魚敵のみで、ボス敵には発行されない。
このタイミングでは盛り上げたいから20体の敵を出したいなどという時に、このチケット制は非常に有効だという。
最後に鈴木氏は、ぜひ「FFXVI」をプレイしてセッションで語られていた内容を体験してみてほしい、とセッションを締めくくった。