フリューから誕生した“抑圧と解放”をテーマとしたアクションRPG「REYNATIS/レナティス(以下、レナティス)」、“偶像(アイドル)殺し×現代病理”をテーマとした学園ジュブナイルRPG「Caligula -カリギュラ-(以下、カリギュラ)」。両タイトルのキーマン2人による対談をお届けする。

目次
  1. 万人向けではないが、プレイヤーの共感を呼ぶタイトル
  2. プレイヤーへ「コンセプト」と「共感性」を届ける
  3. 企業とフリー、クリエイターとしてのメリットとは
  4. リスペクトを大切にしながら「あなたのためのゲーム」を届ける
  5. 「フリューという会社のゲーム」が目指すべきところ
(写真左から)礒部たくみ氏、山中拓也氏
(写真左から)礒部たくみ氏、山中拓也氏

2024年7月25日に発売となるPS5/PS4/Nintendo Switch用ソフト「REYNATIS/レナティス」が発表されたとき、読者の方々は自然とこう口にしていなかっただろうか。「なんか、フリューっぽいタイトルだよね」と。

“フリューっぽさ”って何だろう?――「カリギュラ」「レナティス」のキーマンが語る、共感を呼ぶゲームとはの画像

フリューといえば一般的にはプリントシール事業やプライズ事業などの勢いで知られているが、ゲーム事業でもIPタイトルと自社のオリジナルタイトルをコンスタントに提供し続けている。2015年発売の王道ファンタジーRPG「レジェンド オブ レガシー」や、2016年に発売し、テレビアニメ化も果たした「Caligula -カリギュラ-」などでゲーム業界に確かな存在感を放つようになった。

その後も「アライアンス・アライブ」「Caligula2(以下、カリギュラ2)」をはじめ「CRYSTAR -クライスタ-」「クライマキナ/CRYMACHINA」「モナーク/Monark」など、空気感は異なるが、いわゆる「フリューっぽい」タイトルを世に送り出している。

だが、そもそも「フリューっぽいゲーム」とは、一体どんなことを指すのだろうか。我々プレイヤーも、大きな共通点のないこれらのタイトルの、何に「フリューっぽさ」を感じているのだろうか。

Gamerでは、フリュー在籍時に師弟関係にあったという「レナティス」の企画原案/プロデュース/ディレクションを担う礒部たくみ氏と、フリーのゲームクリエイター/脚本家である山中拓也氏に、この「フリューっぽさ」について大いに語っていただいた。

万人向けではないが、プレイヤーの共感を呼ぶタイトル

――そもそもお二人は、社内でどのような接点があったのでしょうか?

山中氏:僕がフリューさん(以下、敬称略)に在籍していた時期に、新人研修として企画書を見るような、ゲーム開発の企画を指導するというポジションにいたことがあったんです。その時に新入社員として入ってきたうちの1人が、礒部くんでした。

礒部氏:まさに企画の師匠なんですよ。新卒の1社目でフリューに入社して、山中さんに企画まわりを教えていただいていました。

――同じチームにいらっしゃったとか、そういう接点ではなかったんですね。

山中氏:そうですね。チームとしてはずっと離れていたかな。一緒になってないよね?

礒部氏:一緒はないですね。

山中氏:だからこそ企画に対して、仕事と関係なく意見を交わせたっていうのがあるかもしれないですね。

――同じプロジェクトの中での上司と部下だと、なかなか言いにくくなるところもありそうですもんね。お互いの第一印象ってご記憶にありますか?

山中氏:礒部くんの第一印象か……まあ“これ”ですからね。ゲームの部署に入ってくる子の中では、ビジュアル的にも無視することはできないぐらい尖ってたので、気になる存在ではありました。

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――ご入社された当時からこのスタイルだったんですか?

礒部氏:いえ、入ってすぐはまだ真面目でしたよ(笑)。

山中氏:色々な子に企画書について教えてきましたけど、課したタスクよりも多くこなしてくるのは彼だけでした。ゲーム作りというところの、熱意みたいな部分は突出したものがありましたね。企画100本とか、やり切ったのは彼だけでしたし。「別にやらなくてもいいよ」ってずっと言い続けてたのに。

礒部氏:照れますね(笑)。

――礒部さんは、山中さんへの印象はどのようなものでしたか?

礒部氏:入社してから、最初に色々な先輩方から話を聞いたんです。そこで皆さんが揃って「企画は山中さんに教えてもらえば間違いない」と言っていて。絶対的な信頼が置かれている人っていう印象でした。

「じゃあ、山中さんに教えてもらえることをちゃんと吸収してやっていけば大丈夫だな」って思いながらやってきたっていう感じなので、本当にもう僕からしたら大師匠ですよ。山中さんにしか企画を見せてなかったし、相談もできませんでした。林さん(※「CRYSTAR -クライスタ-」「クライマキナ/CRYMACHINA」などを手掛けた林風肖氏)は松浦さん(※「レジェンド オブ レガシー」「アライアンス・アライブ」などを手掛けた松浦正尭氏)から教わってましたよね。

“フリューっぽさ”って何だろう?――「カリギュラ」「レナティス」のキーマンが語る、共感を呼ぶゲームとはの画像
“フリューっぽさ”って何だろう?――「カリギュラ」「レナティス」のキーマンが語る、共感を呼ぶゲームとはの画像

――なるほど。山中さんは現在のフリューさんをどのように捉えていますか?所属していたときと、現在の印象の違いなどがあれば教えてください。

山中氏:フリューを離れた人間が語るのもなんですけど、部署を組み立てて立ち上げてというシーズン1があるとしたら、僕や松浦くんたちが頑張っていた時期がシーズン2だと思うんです。

外部から来た人間とフリュー、それぞれが持つ知識を混ぜ合わせてオリジナルを作る。そこで生まれたのが「カリギュラ」とか「レジェンド オブ レガシー」かなと。

そこで、ある程度は世間に「フリューという会社のゲーム」が認知され、そこからフリューの生え抜きの社員である林くん、礒部くんが活躍していくのがシーズン3なんだろうなと、なんとなく自分の中で勝手にドラマがありますね。

――礒部さんは今のお話を伺ってみて、いかがでしょうか。ご自身で感じるのは難しいかもしれませんが。

礒部氏:入社した頃はそんなこと考えられるわけがなく、とにかくがむしゃらにやってましたからね。ただ今のタイミングで俯瞰的に考えたら、確かにシーズンというか、これまでとは違った路線が生まれたり、作風が生まれてきたりという意味では、もう一つ上の階層に行ったのかなってイメージはあります。

――ゲームファンの間でも、いわゆる「フリューっぽいタイトル」みたいなものが認知されてきた段階が、まさにそのシーズンの経緯にちょうど合うような気がします。

山中氏:逆に、そこを聞きたいですけどね。僕が我々……と言ったら変ですけど「フリューっぽさとは何なのか」をちゃんと言語化しないといけないと思うんです。礒部くんは「フリューっぽさ」って何だと思う?

礒部氏:やはり万人向けではなく尖った部分ではありつつも、ユーザーさんに対して1つピンポイントの部分で共感してもらえるような、心に残るようなテーマ性やコンセプトを掲げて、それを中心に世界観を広げているところは共通項としてあるのかなって思います。

山中氏:そうありたいよね。まだまだ歴史も浅い、中小規模のゲーム会社がやれることとして、世間の皆さんと共通した認識として意識しないといけないだろうし。いわゆる粗製濫造とか、世間でヒットした作品の二番煎じみたいなイメージを払拭していかないといけないのは、宣伝も含めて課題かなと感じています。

僕がフリューのタイトルに関わっていた時は、お客さん1人ひとりが「これは自分のためだけに作られたゲームだと感じてもらえる」というのを1つのゴールのように考えていました。礒部くんが作っているタイトルを見ても、やはり「自分がこれを好きだから」という気持ちを強く感じますから、礒部くんと同じものが好きな人にしっかり刺さるものになるのかなと。まだ漠然とした「フリューらしさ」というものを、きちんと形にしていけるのかなと思います。

プレイヤーへ「コンセプト」と「共感性」を届ける

――中小規模のタイトルですと、デザイナーやプランナー職がディレクターを兼ねるみたいなケースは見かけますが、フリューさんは企画提案からディレクション、プロデュース、なんならシナリオまで書くといった方が多いですよね。色々なことを手掛けるからこそ、とくにどのような部分へこだわりを持ってらっしゃるのでしょうか。

礒部氏:それこそ山中さんに最初に教えてもらったのは「コンセプトが大切だよ」ということなんですけど、僕の考え方としても「コンセプトありき」だと思っています。

コンセプトやテーマ性が大事で、そのこだわりは捨てちゃいけないとか。そこから山中さんに教えられた分だけではなく、自分として何を大事にしていこうか、みたいな軸を考えました。

先ほどの話と重なる部分もありますが、皆が体験したことのある「あるある、分かるよ」という共感は大事にしていきたくて。特に今回の「レナティス」は自分の経験談も踏まえて、誰しも体験したことのある部分に寄り添うようなタイトルになっているかなと。「コンセプトと共感性」を軸として企画を立てたり、考えたりしていますね。

山中氏:企画者である自分がディレクションやらシナリオまで書いてっていうのは、紐解くと予算が潤沢でないところから生まれているものだと思うんですよね。もうサッカーボールさえあればサッカーできるよね、みたいな環境だからこそブラジルの方々はサッカーが上手くなるみたいな感じで、だからこそ鍛えられる部分もありますし。

自分が関わる部分が必然的に多くなるからこそ、礒部くんが言っているコンセプトを細部にまで浸透させることができる。どうしても人が多くなれば、伝言ゲーム的にどんどん思想は薄れていくものなので。

頭から終わりまで1人の人間が把握できて「ここは譲ったらダメ」というところを、全部のセクションで言えるのは、1人が何でもやる規模が小さいところなりのメリットなのかなと思います。もちろん大きなチームでのゲーム作りも素晴らしいものですが、フリューという会社がこの規模のゲームを作れるメリットはここなので、生かしていくべきだなと思います。

――今、礒部さんが手がけている「レナティス」も、テーマである「抑圧と解放」がストーリー、キャラクター、バトル、探索すべての柱になっていますね。

礒部氏:コンセプトの、力が抑圧されている時のストレスや緊張と、それを解放した時に初めて感じる気持ちよさという部分は、コロナ禍の経験とイメージが近くて。旅行に行けないとか、友達と遊びに行けないとか、日常生活が抑圧されてきたからこそ、そこからの解放的な日常がすごく気持ちよく感じられたかなと思うんです。まさしく皆さんがこれまで体験した「抑圧と解放」の気持ちをコンセプトとして、それを体験できるバトルシステム、シナリオ、世界観はどうしたらいいんだろうと落とし込んでいきました。

先ほど言った共感性というかメッセージ性、テーマ性になるんですけど、ユーザーの皆さんが最後まで遊んだ時に、どういった感情が残るのか、どんな気持ちにさせるのかという部分に関しては、まさしく僕の見た目が体現してるんです。

日本って少し奇抜なことをするとか、派手なことをすると周りからすごく叩かれるというか、出る杭は打たれる文化があると思うんですね。もっと自分の個性を出したいのに、そうした風潮のせいで出せない人たちもいる。そうした人たちに、個性は出していいんだよ、解放していいんだよという想いをコンセプトと同様に立てて、それぞれのセクションに落とし込んで、ユーザーさんに味わっていただくようなタイトルにしています。

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山中氏:そういえば昔、僕が見た企画に「レナティス」の原案っぽいものがあったよね。

礒部氏:改めて「レナティス」を山中さんに紹介したことで、昔の企画とかを思い出しました。入社した時から「こういうのが作りたい!」という明確なビジョンがあったんです。それを作るためには、会社から信頼を勝ち取らないといけないじゃないですか。当然「この人にプロデュースからディレクションまで1本全部任せてもいいよ」っていうところまでいかないと、作らせてもらえないので。そこに向けて企画力を伸ばしたり、経験を積んできました。そのタイミングで、プロデューサーとしてすべて任せてもらえる立場で企画が通ったんです。

山中氏:今、この話を聞くまで礒部くんから企画の師匠扱いされる実感があまりなかったんですよ。でも、今の説明の仕方を見て「僕と同じことを言ってるな、教えたんだな」って思いました。

今のフリューには林くんもいるんですけど、僕があまり教えるタイミングではなかったこともありますし、そもそも彼は自分なりにゲームを作ってきているので、礒部くんとも作り方が微妙に違うと思うんです。なので礒部くんの企画の作り方の話を聞いてると、すごく偉そうですけど自分と繋がっている部分があるのかなと思いました。

とにかくコンセプトが大事。そうした大事なものがあって、すべての体験がそれに帰ってくる。そこで筋を通しているというところは、僕自身も大事にしていることなんです。掲げているテーマに一貫性があって、かつ、そのテーマ自体が礒部くん自身の人生に紐づいている。礒部くんにしか感じられないこととか、そういう「人間」の出ている作品になっていると嬉しいなと。

あとは、やはり現代社会への風刺もあるじゃないですか。これはまさに僕が「フリューらしさ」として根づけばいいなって思っていたもので、規模が大きくないからこそ、現代社会の動きや今の世の中ってこうだよねという流れに回転数としてついていくことができるじゃないですか。

今、大規模なゲームを作るとしたら5年、下手したら10年くらいかかってしまう。そんな中、2~3年で企画を回せるのは、現代社会を写し取るという点ですごく相性がいい。遊んでくれるお客さんの体験と、大きなズレがありませんから。礒部くんが今後リーダーシップを取ってフリューさんのゲームを作っていくんだとしたら、その“らしさ”に繋がっていく要素なのかなって思いました。

――「レナティス」の舞台が渋谷ということにも繋がるような気がします。本作は実際の企業も登場するリアルなマップにもこだわられていますが、渋谷ってほんの数年で現実の光景も大きく変わってしまう可能性もあるような場所ですし。

礒部氏:最初からリアルな場所にしようと考えてはいたんですが、どこにするかは多少迷いましたね。外国人の方でも、パッと見ただけで日本の渋谷だって分かるので選びました。

これはユーザーさんに対して、現代に生きづらさがあるという点での共感を抱いてもらうためです。やはり日常生活、現代社会の延長線上にこのゲームこのメッセージ性があるっていうのを伝えるためには架空の都市じゃなく、リアルな渋谷なほうがより親近感がわいて、自分に落とし込んでくれるかなと。

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――渋谷といえば、「レナティス」と「新すばらしきこのせかい」とコラボレーションを発表されましたね。両作品にはそれこそ渋谷が舞台くらいしか接点がなさそうですが、どうやって実現したんですか?

礒部氏:僕は、クリエイターであると同時に、皆さんと同じように「ファイナルファンタジーVII」や「ファイナルファンタジーX」、「すばらしきこのせかい」などのファンだったんです。僕がゲーム業界を目指したのも「キングダム ハーツ」に影響を受けていますし、価値観とか、自分のクリエイティブな面での方向性の指針になったタイトルでした。

そもそも、僕にとっては渋谷といえば「すばらしきこのせかい」のイメージなんですよ。それで、ダメ元で「ちょっと何かできませんか」とお話しさせてもらったらトントン拍子でスクウェア・エニックスの野村哲也さん(※「すばらしきこのせかい」「キングダム ハーツ」シリーズなどの主要スタッフ)まで企画が届いて、ご本人にご挨拶もさせていただきました。ポジティブに「面白かったらなんでもいいよ」と受け止めていただけて、本当に心の広い方々ばかりで実現できました。

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企業とフリー、クリエイターとしてのメリットとは

――「レナティス」では女子高生のキャラクターについて、フリューさんのプリントシール事業部の協力を得たそうですね。そうした他の部署との連携は企業ならではのゲームの作り方かなと思いますが、一方で山中さんは「ゲーム作りに注力したい」との意向でフリーを選択されています。山中さんはどちらも経験されていますが、お二人は企業でこそ叶えられる部分、フリーだからこそ選べる部分など、それぞれのメリットについてどう感じられますか?

礒部氏:山中さんはもう初対面の人でも「この作品を作りました」と言えるので、相手の方も分かるじゃないですか。ただ新規の企画、とくに新卒であれば自分に実績がない。担保じゃないですけど、そこで上場企業の名前があれば、初対面の人でも安心して話を聞いてもらえるのがメリットの一つかなと思います。

山中氏:礒部くんは今いくつだっけ?

礒部氏:今31歳です。

山中氏:その若さで企画の真ん中を動かせるっていうこと自体が、企業に勤めることのメリットだよね。

礒部氏:若いうちから新規のタイトルを回させてくれるのは、フリューのメリットですね。想像以上に良くも悪くも全部やらないといけないので、それは大変であり、面白いところです。

山中氏:社内で信頼を勝ち取れば、大きいことを任せてもらえるっていうシンプルさがありますね。

それこそ、女子高生の生の声みたいなのも結構キャッチーじゃないですか。企業が歩んできたものを利用できる、そうした横の取り組みがあること自体が会社にとってもいいニュースだと思いますし、礒部くんらしさもあるよね。

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――山中さんは、そうしたメリット以上にフリーランスが魅力的だったということでしょうか?

山中氏:色々な理由がありますけど、企業に在籍する以上は社会人として振る舞うことが求められますよね。人に教えるとか、部下を持つとか。そうなってくると物を作る、企画やお話を考える時間以上に、会社員的な事務処理が必要になってきます。

それも含めてチーム作りとか、組織作りを楽しんでいける人は別なんですけどね。ただ自分の能力としては、もっとクリエイティブの方に時間を割いた方がいいんだろうなというところが、フリーランスを選んだきっかけの一つです。

あとは、僕が在籍していた時にフリューが掲げた方針と、僕の思想と真反対だった。社員として一緒にやることはできないなと思いました。

――確かに企業に在籍していると、上層部の考え方と現場の考え方の違いみたいなものはどうしてもありますね。

山中氏:そうですね。そうした会社との思想の違いもありますが、あとは単純に会社に所属していると、もうその仕事しかできないじゃないですか。それこそ会社の規模が急に膨れ上がることはまずありませんから、10億円以上のタイトルに関わってみたいとか、ゲーム以外の表現方法で自由に作品が作ってみたいとか、自分のキャリアを積み上げていきたいとか、色々な会社のやり方を経験したいと思ったら、こういう選択しかなかったのかなと思います。

こういうことを言うとフリーランスがすごく魅力的に見えるかもしれませんけど、3年後がどうなるか分からないという精神的な不安はあります。今の会社は簡単に人を辞めさせないので、たとえ心が折れた時でもきちんと給料が貰えて、どうにかなる生活基盤があるのは大きいですよ。

そこが精神的なクッションになっている部分はあると思うので、自分のメンタルをどうコントロールするかによっては、企業勤めが向いているとかも全然あると思います。

――そのあたりは個人の資質みたいなものによりますね。フリーランスが合う人もいれば、企業での取り組み方が合う人もいるでしょうし。

山中氏:とくに企業から離れてみて思うのは、やはりごく一部の人を除いてフリーランスの人間に全てを任せる体制は取りづらい。絶対に一番の責任者になりたいという考えなら、企業一択になるかと思いますね。

仮に、このまま自分がフリーランスですごく著名になっていっても、その会社のプロデューサーと一緒にというところが限界値でしょう。フリーランスになってからも「カリギュラ2」を前作と変わらない立場でやらせてもらえたのは、会社員時代からの延長だったからできたことで。もしこれがイチからだったら、会社としてフリーランスの人間に数億円を預けるような真似は難しいと思います。

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リスペクトを大切にしながら「あなたのためのゲーム」を届ける

――今まさに「レナティス」のプロモーションの真っ最中に伺うのも何ですが、今後の展望などをお伺いしてもよろしいでしょうか。

礒部氏:今後ですか……そうですね。先ほどのお話しと重なりますが「フリューらしさ」を言語化した上で、今後もタイトルを出していきたいなというのがベースにあります。

もちろん、まずは「レナティス」をしっかりユーザーの皆さんにお届けすることが第一です。皆さんに受け入れていただけるなら「レナティス2」のようなタイトルも出してみたい気持ちはありますし、もっと「レナティス」の世界を広げていくことを、まずやりたい、しなければいけないことかなと思います。

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――「カリギュラ」はテレビアニメや小説など、メディアミックスも盛んでしたね。そこから、よりゲームの世界が広がっていた気がします。

山中氏:「カリギュラ」もそうでしたけど、メディアミックスは手を挙げてくれる会社さんと、その会社さんが手を挙げたくなるようなユーザーさんの熱量次第なんですよね。

「カリギュラ」くらいの規模で普通に売り出しても、お客さんから熱量高く遊んでもらうのは難しい。ちゃんと味方したくなるような、応援してもらえるような展開をきちんと意識するのは、フリューでゲームを作る以上に必要になる部分だと思います。

はっきり言ってしまえば「カリギュラ」であれば、アトラスさんの「女神異聞録ペルソナ」や「ペルソナ2 罪/罰」、「レナティス」であればスクウェア・エニックスさんの「キングダム ハーツ」「ファイナルファンタジー」や、先日コラボレーションしていた「すばらしきこのせかい」などを好きな人に、まず1作目を応援してほしいというのは避けて通れないですよね。

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――やはり、まず興味を抱くきっかけはそこですよね。

山中氏:我々もそうしたタイトルに影響を受けてクリエイターを志し、ゲーム作りをしているということが伝われば、きっとポジティブに応援してくれるでしょう。ただ、そこから2作目とか、礒部くん自身の新作となると、ここで応援してくれたお客さんはそのままでは応援してくれないじゃないですか。

最初は「自分と同じ作品が好きなクリエイター」として気にしてくれたとしても、そこで礒部くんというクリエイターがどういう人なのかとか、礒部くん自身の作家性みたいなものをきちんと知って好きになってもらわないと、次とか広い展開には繋がっていかない。ただ既存タイトルの人気にフリーライドしてあやかっただけのものであると判断されてしまったら、おしまいですから。これは礒部くんもきっと理解していると思うんですけど、礒部くん自身のクリエイターとしての個性をお客さんに分かってもらうというところが、ゲーム作りの中で必要なのかなと。

「フリューらしさ」の一つを言葉を選ばずに言うと、リスペクト元の他のタイトルが浮かぶっていうことだと思うんですよ。そこに共感した思想みたいな部分をクリエイターなりに拡張して、規模は小さくなるかもしれないけれど尖った表現をしているとか、世の中のメジャーが求めなかったところに進むとか、そういうタイトルだと受け取ってもらえたらいいなというのは、僕の作品に限らずフリューのタイトルが出るたびに思うところです。

礒部氏:まさしく山中さんに仰っていただいた通り、ビジュアルやスタッフィング、雰囲気などはリスペクトしているタイトルを意識している部分はあるんですけど、メッセージ性や共感性、どのユーザーに寄り添っていくかという部分は作品の中で非常に濃い要素として表れていると思います。「あなたのためのゲームだよ」という部分は、強調して伝えていかないといけないなと。

――ここ数年の山中さんはゲームに限らず、アカペラをテーマとした「うたごえはミルフィーユ(うたミル)」や、考察を楽しむ視聴者参加型の「MILGRAM -ミルグラム-」といったプロジェクトにも参加されていますね。

山中氏:名前は出せないもの、出せるもの色々なんですけどゲームにも関わっていて、自分の中のイメージ的には5:5でゲームとそれ以外っていう形なんですよ。ゲーム作りをやめたわけではありません。

ただ、ゲームって大きくなれば回転が5年に1回とかになってしまうじゃないですか。そこは自分としてもゲームだけを作っていくデメリットだと思っていて。5年も地下に潜るような形になってしまうじゃないですか。

――SNSなどで日常的な様子は多少知ることができても、我々としては何をされているのかまったく分からなくなりますよね。

山中氏:そうなってしまうので、もう少し回転の早いコンテンツもやり続けて名前を認識していただければと。

フリーランスって、こういうイメージのもの、こういう方向のものを作る人というところは守り続けなきゃいけない。作家性が分かりやすいのは、それだけで武器だと思いますし。逆に、一度でも「らしくないもの」を作ってしまうとどういうものを作る人間か不明瞭になってしまいます。そうした部分を守るために、ゲームに限らずあらゆるジャンルでも自分らしさみたいなものを保ち続けていければなと。

そうした活動を続けていく中で、5年後くらいにゲームが出た時に「あの作品の人か!」というバフがかかってくるといいなと思っています。自分としては、このスタイルが合っているのかなって。以前SNSでお話しした、今年発表できそうなタイトルも、僕がしたいことだけしているのでもうしばらくお待ちください。

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「フリューという会社のゲーム」が目指すべきところ

――せっかくなので、お互いに聞いてみたいことがあればお願いします。礒部さんはいかがですか?

礒部氏:ぶっちゃけ聞いちゃいますね。「カリギュラ3」ってどうなんですか?

山中氏:「カリギュラ2」がとてもいい形で世に送り出せたから、ただ「『カリギュラ3』を作りました」っていうのは嫌なんですよ。「2みたいなものだったね」とか「2より悪かったね」というものにしてはならないと思うんです。本当の意味で「カリギュラ3」を出すとしたら、まだいろいろなものがが整ってないというか。

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礒部氏:構想自体はあるんですか?

山中氏:今考えても時代が変わってしまうので、何を扱うかというところじゃなく、システム的な部分では「2がこうだったから3はこうだよね」みたいな部分はありますよ。

ただ、これは何度か言ってますが、皆さんのいう「『カリギュラ3』を作って!」って「面白い『カリギュラ3』を作って!」という意味なんですよ。ただ作ればいいわけではない。それが作れる体制になるまで作らないのが、礼儀だと思うんです。

それでも、もし僕が会社員のままで、会社に「作って」と命令されたら作らざるをえなかったと思います。作るも、作らないも選べる。そうしたわがままが通せるのが、フリーランスの良さですよね。

――では、山中さんからはどうですか?

山中氏:僕はもう「カリギュラ」を発表したときの気持ちはおぼろげなんだけど、ゲームを発表してみてどう?

僕や松浦くんの頃は……言ってしまえば焼け野原のような状態からのスタートだったわけで(笑)、そういうのとはちょっと違うよね。

――個人的にフリューさんのオリジナルタイトルで最初に楽しんだのは「レジェンド オブ レガシー」よりも前に出た「ロストディメンション」なんですが、あの頃と比べるとフリューさんに対する世間の反応ってかなり変化しましたよね。

山中氏:発表された時の反応も見てましたけど、ポジティブなものが多かったですね。

礒部氏:以前よりはネガティブな意味での「フリューなんだ」という反応は圧倒的に減ったような印象はあります。ただ、「カリギュラ」という存在が大きくて。「フリューといえば『カリギュラ』」という認識を、今後上書きできるようにしたいですね。

――今後を見据えるなら、やはり目指すべきところはそうなりますね。

山中氏:「レナティス」は「カリギュラ」よりも受け取る人の多いタイトルだと思うし、礒部くん自身もメジャータイトルで育っていることもあって、僕よりもメジャー志向でゲームが作れる人ですから「カリギュラ」よりも受け取ってもらえる層は広いんじゃないですか。

礒部氏:ありがとうございます。

――「レナティス」は何というか“ど真ん中”の雰囲気は感じます。世間でたくさんの人が遊んだようなゲームを、ちゃんと遊んできている方が作っているゲームというか。

山中氏:そう思いますよ。焼け野原のスタートだった時は、もう「カリギュラ」のようなタイトルしかユーザーへ訴求する方法がなかったというか。そうした時期が終わって、きちんとゲームメーカーとして認識された後の戦い方となると、フリューの未体験のゾーンに入ってくる。会社としてもずっと「カリギュラ」のような、特定の層にだけ刺すものばかり作っていくつもりもないでしょうし。そこからの進め方は、礒部くんの方が向いてたりするのかなと思うしね。発表する時、緊張しました?

礒部氏:いえ、楽しかったです。

山中氏:これなんですよ。人間としての強度が違う(笑)。

礒部氏:いやいや(笑)。

山中氏:抑圧と解放を感じてきた人生なんでしょうが、たぶん礒部くんは抑圧されたまま悩むとより「別にもう解放でええやん!」って思ってるタイプ。だからこそ抑圧されたままの人間や社会に一言あるんでしょうし。「カリギュラ」のコンセプトなんて背徳感ですからね。もっと内向的です。

こういう、より大きくなっていかなきゃいけないタイミングでの取り組みは、性格的に向いてるんだろうと思いますよ。

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――これから礒部さんは「レナティス」をさらに多くの人へ発信していかなければいけませんが、思えば山中さんはプレイヤーに対して自分の考えを発信するのがお上手でしたよね。自分の世界に引き込んでいくというか。「カリギュラ」の発売当時は生放送にもよく出られて、ご自身の言葉で伝えられていたような気がします。

山中氏:どうしても本来そうあるべきでないと思いながらも、この規模のゲームは「誰が発信するか」という部分はすごく大きい。発信の仕方も、言葉選びも本当に難しいので、きっと試行錯誤していくんだろうなと。僕は割と抵抗なかったけど、礒部くんは生放送って得意なほう?

礒部氏:めちゃくちゃ楽しいですよ。小林千晃くん(「レナティス」霧積真凛役)なんかは、ご飯も行ったりしたので、物理的な接点も多く、こういうネイルとかも放送中にいじってくれるんですけど、初対面のMCさんなんかはなかなかいじってくれなくて(笑)。

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――礒部さんへ、何かアドバイスとして伝えられることはありますか?

山中氏:どういう言葉を選ぶかというのは、もう本当にセンスめいた部分もあるので教えづらいんですけど……僕が気をつけていたのは偉ぶらないこと、弱さを開示することだと思います。

フリューの初期の焼け野原の時代って、ちょっと実体よりも大きなタイトルに見せようとしてた部分があったような気がするんですよね。実際には足りてない部分がたくさんあるのに、そこを隠していたというか。

そうじゃなくて、我々には新興のブランドである、予算が限られているっていうのを受け入れた上で、だからできることがあって、それを大事にしないといけないのかなと。潤沢な予算のあるタイトルと比べたら、どうしたってグラフィックなどは太刀打ちできません。だからってそこに触れないとかではなく、選択と集中の中で「ここに集中しています」と訴える。

お客さんが客観的に思うことと、こちらが言ってることがずれたら意味がない。お客さんの客観通りに物事を受け入れた上で、その上で「限られたものの中で、これをやってるんです」と言うようにしてました。「カリギュラ」のときにそれを許してくれたのは宣伝チームですし、きっと同じようなことを考えていてくれたからだと思います。

偉ぶらないっていうのは「カリギュラ」であれば「あの時のペルソナが好きな人」に味方になってもらったわけなんですけど「あなたたちと同じだよ」というのが大事なんです。「もし、あなたたちがゲームクリエイターだったら、これをやってたよね」というようなもの。「あなたたちと同じものを愛した人間がゲームクリエイターとして行き着いた結果、こうなりました」というところを理解してもらえるように努めました。

それは「レナティス」の作り方にも共通すると思うんですけれど、格好つけるべきなんだけれども、できないことはできないし。僕はよく「大きい会社のゲームと違って~」と平気で言ってたんですけど、そういう潔さも大事なのかなと思います。

そうした時代とちょっと違うのが、今はインディーズが台頭しているところだと思います。そういう思いを訴えるんだったら、インディーズの方が強い。そうじゃないところでどう振る舞うのかは、僕もフリューのタイトルもやっていないことなので、これから会社とスタッフが一緒に考えていくべきなのかなと思います。

礒部氏:「カリギュラ」や「CRYSTAR -クライスタ-」などが出て評価され始めて、フリューのブランドに求めるファンのレベルが上がってきているので、それに応えていかなければいけないと思っています。もちろん昔よりは予算やノウハウなど大きくなってきてはいますが、それでも、他の会社と違って、規模は小さいですね。

――どうやって自分の思想を伝えて、プレイヤーの方々に味方になってもらうのかは、今後さらに考えていかないといけない部分かもしれませんね。フリューさんとしては「会社のファン」みたいな方が増えて、色々なタイトルに興味を持ってほしいところですよね。

山中氏:そこは、クリエイターの属人性とメッセージ性が難しいですよね。フリューの作品は、プロデューサーによって全く別じゃないですか。気持ち的に継承している部分もあるけど、作り方にもお互いに一切関与していないし、別の会社の別のゲームかってくらい絡みがない。

そういう中で「フリューのゲームが好き」という人ってどういうメカニズムなんだろう。多分、きっと本来は関連性のないものを、関連付けて繋がっているように見えるというものだと思うので。

礒部氏:一匹狼だらけですからね。孤独ですよ(笑)。ただ僕の場合は同期がいたり、同じように新卒で新作を出し続けている林さんみたいな存在がいるので、その辺は山中さんのときとの違いかもしれないです。あとは部署としても今後はフリューファンを作りたいね、という話は出てきているので、徐々に進化はしているんですかね。

“フリューっぽさ”って何だろう?――「カリギュラ」「レナティス」のキーマンが語る、共感を呼ぶゲームとはの画像

――色々なクリエイターの方々によるメッセージ性が濃いゲームを、コンスタントに発売できるというのがフリューさんの強みですね。

山中氏:そこから離れてみて、立ち回りによってはものすごく面白いゲーム会社になるだろうなって思います。

昨今はインディーズの作品でも今は1億以上の開発費がかかっているものもあって、そういったゲームと比べられる市場の中でシナリオとキャラクターの部分にしっかり注目していて、尖ったコンセプトで出せる。立ち回り次第では誰かの希望になり得るゲーム会社なので、フリューという立ち位置やスタンスをもっと世間に提示したほうがいいというのは、辞める前から言っていた気がします。

――最後に読者の方々に一言ずつメッセージをいただけますか。

山中氏:フリュー作品に注目いただいてありがとうございます。そういう方がいる時点で、ゲーム会社として大きな進歩を遂げていることを実感します。

辞めた身ながら対談に呼んでもらえて、とても楽しくお話できました。僕も1ゲームユーザーとして、礒部くんがどんなメッセージを世の中に提示していくのか楽しみにしています。

最新作である「レナティス」もゲーム業界のメインストリームでは味わえない、特殊な作品になっているかと思います。クリエイターの熱意は間違いないと思いますので、今後も応援していただけると嬉しいです。

礒部氏:山中さんとこのような場で話す機会がなかったのですが、改めて振り返り当時を思い出しました。えもでした。そして、ここまで読んでいただき感謝です。ありがとうございます。

「レナティス」と「カリギュラ」、全く異なるタイトルではありますが、「ユーザーに寄り添うタイトル」「ゲーム体験というコンセプトを徹底した作り」という部分は、共通してます。

今回初めて「レナティス」を知った!「カリギュラ」を知った!という方がいれば、是非プレイしてみてください。それらのタイトルが、何か少しでもみなさんの価値観に影響を与えられたらいいなと思います。

趣味のゲーム系をはじめ、IT/ビジネス系などWeb媒体を中心に活動。AAAタイトルから乙女ゲーム、インディーズまで何でも遊ぶ雑食ゲーマー。あらゆる次元のアイドルと映画も愛してます。

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