ADVが好きなゲームライターが真のADVマニアを目指す連載企画。第9回は「神無迷路」を紹介します。
連載「ADVマニアへの道」はADV好きのライター・カワチが、新旧問わずにさまざまなADV作品を研究していき、そのマニアへの道を目指していく内容。今回はインディーゲームクリエイターの致意さんによる「神無迷路」を取り上げます。
外界から隔絶された研究所で起こる殺人事件の謎を解き明かせ
本作は「僕たちが死ぬまであと七日」「湖心亭奇談集」「人魔」などのノベルゲームを手がけた致意さんによる最新作。
主人公である浪人生の波立良志(はりゅう りょうし)が、生活費のために怪しい地下研究所のアルバイトに申し込んで参加したところ、そこで殺人事件に出くわすというストーリー。テキストを読み進め、その途中に現れる選択肢を選びながら、物語の展開を追体験していくという形式で物語は進行します。
現地には9年前に亡くなったはずの幼なじみの小酒井澪(こさかい みお)がいたり、地下でおこなわれる実験が不可思議なものだったりと、さまざまな謎が付きまとうなか、プレイヤーは真実を求めてゲームを進めていくことに。
本作は特定のエンディングを迎えることで選ぶことができなかった選択肢が選べるようになり、周回を繰り返すことで事件の全容が分かるような仕組み。プレイ時間は5時間ほどですが、ゲームをクリアしたときの満足感は高いです。まだ未プレイの人は、ぜひレビューやインタビューを読まずに、まっさらな状態でストーリーを体験してみて欲しいですね。
レビュー:シナリオのおもしろさはもちろん、ギャグのテンポやストレスのないシステムも素晴らしい
閉鎖空間で事件が起きることや、選択肢によって突飛な展開になること、そしてなにより登場人物が青いシルエットであること。本作は「かまいたちの夜」の影響を色濃く受けた作品です。画面写真やPVを見るだけでも感じ取れることができますが、実際にゲームをプレイすると文章のテンポ感やギャグのセンスなど、こまかいところまで「かまいたちの夜」へのリスペクトを感じます。「かまいたちの夜」の素晴らしいところは本をあまり読まない層にも読書のおもしろさを教えてくれるところ。本作も先が気になる展開やキャラクターのコミカルなやり取り、ゲームならではの視覚的表現でストーリーにのめり込ませてくれます。
また、「かまいたちの夜」リスペクトであるものの、しっかり現代向けのクオリティにアップグレード。迫力のあるCGムービーやフルボイスのキャラクターたちが物語を盛り上げてくれます。また、文字を進めるたびにつねに場面やキャラクターがこまかく動くので視覚的にも楽しめます。
本作は殺人事件の謎を追うミステリーですが、量子力学や時間逆行なども題材にしていてSF要素も強い作品です。「かまいたちの夜」を求めてプレイするとビックリするかもしれませんが、練り込まれた設定やストーリー、プレイヤーに読ませるストーリーの順番などもよく出来ており、最後まで飽きさせない作品になっています。
とくにストーリーのルートやフローチャートの使い方がうまく、「このルートの設定が、このルートの設定に関わってくるのか!」「ここでこのルートとこのルートがつながるのか!」といった驚きに満ち溢れています。
キャラクターに関しても謎めいた美少女やギャンブル狂いのおやじ、気だけるげな女性科学者など個性的な人物ばかり。いわゆる賑やかしのために作られたキャラクターは存在せず、どの人物も物語には必要不可欠。ゲームを進めることでキャラクターたちの意外な一面も判明したりと、それぞれに見せ場が用意されています。声優陣は有名どころではありませんが、どのキャラクターも雰囲気バッチリで合っています。フルボイスにしたのは大正解だと思います。
とくにギャグっぽい選択肢を選んだときに発生するコメディ展開はボイスがあるからこそ、キャラクターの話し方や会話の間で笑わせてくれます。
5時間ぐらいで終わるボリュームの作品ですが、ギャグのおもしろさやメイン部分のSFなど、どれもおもしろくて大満足の内容。フルボイスでありながら500円という価格設定も驚きです。以下のインタビューで筆者が気になった部分を作者の致意さんにお聞きしたのでぜひチェックしてみてください。
インタビュー
ここからは致意さんへのインタビューをお届け。「神無迷路」の話題だけでなく、致意さんがゲームクリエイターを目指したきっかけや影響を受けた作品などについてもお聞きしました。
――致意さんのプロフィールを教えてください。ゲームクリエイターを目指したきっかけなどを教えてください。
致意と申します。28歳で、中国を拠点に活動しているフルタイムのインディーゲーム開発者です。最近は日本市場を中心に活動しています。今回、このような機会をくださったGamerに大変感謝しています。まだ未熟な制作者であり、さまざまなな面で精進が必要ですが、皆様どうぞよろしくお願いいたします。
中学生の頃から日本のノベルゲームに夢中になり、そこで初めて自分でゲームを作りたいという想いが芽生えました。大学二年生の時、自学自習で「端木斐異聞録」というノベルゲームを制作しました。100本くらい売れればいいほうだと思っていましたが、なんと初週で約5000本も売れました。このゲーム制作で得た収益が生活を支えるのに十分だったため、ゲーム制作を続けることを決意しました。
――自身が影響を受けたゲームを教えてください。
「かまいたちの夜」、特に第一作目は私にとって非常に重要な作品であり、最近でも繰り返し楽しんでいます。また、中学生の頃から大好きな「逆転裁判」シリーズや、雰囲気作りが非常に優れている「殻ノ少女」シリーズからも多大な影響を受けました。もちろん、「極限脱出」シリーズや科学ADVシリーズもプレイしており、これらも私にとって非常に深い影響を与えました。ADVではありませんが、アトラスの「メガテン」シリーズや「ペルソナ」シリーズも私に大きな影響を与えています。
――「神無迷路」について教えてください。開発にはどれぐらいの時間がかかりましたか? 制作で苦労した点なども教えてください。
「神無迷路」は、SFサスペンスをテーマにしたノベルゲームで、開発にはおよそ8ヶ月の時間がかかりました。最大の困難は、Unity3Dでのノベルゲームの開発が初めてであり、さまざまな部分で慣れないところが多かったことです。幸い、Naninovelというプラグインを使用したため、開発の難易度が大幅に減少しました。
――ゲーム発売後の反応はいかがでしたか?
予想以上に良い結果となりました。売上の約9割は日本からです。今年はちょうど「かまいたちの夜」発売30周年に当たるため、多くのメディアが「神無迷路」に注目してくれました。さらには、我孫子武丸さんご本人にも注目していただきました。今振り返っても、非常に光栄で恐れ多い思いです。
発売後、多くの実況動画やブログ記事が出てきましたが、ほとんどすべてて目を通しています。皆さんの反応を見ることは、私にとって非常に嬉しいことです。
――定価が500円でありながら、フルボイスであることに驚きました。最初からフルボイスにすることは決めていたのでしょうか?
ええ、私が制作するゲームのほとんどはフルボイス対応です。日本の声優さんの料金はそれほど高くなく、フルボイスであっても中国のそれに比べて半分以上も安いです……もちろん、もっと重要なのはその質の高さです!
ここで、今回の作品にご協力いただいた声優さんたちの名前を記載させていただきます。彼らの貢献に心から感謝し、もっと多くの方々に知っていただきたいと思っています。
餅伸牡丹 (波立良志役)
Ah-ya(霜月時雨役)
時兎(斉藤忠明役)
天使珠(雪村萩乃役)
井之上 賢(黑川源次郎役)
E縞パンだ(蕗屋勇太役)
芳乃柳太郎(若林和夫役)
犬塚わんこ(小酒井澪役)
真佐宗 芳(清水美紀役)
五十六ゴロリ(武田直樹役)
――キャラクターが青いシルエットであること以外にも、豊富な分岐やコミカルで笑えるシーン、文章のテンポ感など、多彩な部分で「かまいたちの夜」へのリスペクトを感じました。「神無迷路」を作るにあたり、「かまいたちの夜」を参考にした部分をお聞かせください。
こちらが伝えたかったことを汲んでくださり、ありがとうございます! 「かまいたちの夜」の真髄は、そのプロット設計にもあります。こちらのツイートで詳しく書いたので、ぜひご覧ください。
ノベルゲームにも音楽の「BPM」に似たような概念が存在すると考えています。ノベルゲームにおけるBPMとは、平均して一つのシーンに何行のセリフがあるかです。セリフの数が多ければテンポがゆっくりになり、少なければテンポが速くなります。
「かまいたちの夜」では、各シーンは平均して約30行程度のセリフで構成されており、テンポの速いゲームと言えます。余計な描写がなく、プレイヤーの注意を文章に引きつけ続けます。
関連する内容について以前書いたものがあるので、こちらのツイートもぜひご覧ください。
――「神無迷路」はミステリーとしてはもちろん平行世界や暗黒物質など科学SFの要素も多かったですが、致意さんは量子力学の分野にも興味があるのでしょうか?
ええ、すごく興味があります。量子力学の専門家ではないのですが、資料を調べて、その情報をプレイヤーに提供することは楽しいです。
――量子力学が題材のノベルゲームですと、打越鋼太郎さんの「Ever17」や「極限脱出」シリーズ、科学ADVの「STEINS;GATE」などが有名ですが、これらの作品を致意さんはプレイしていますか? 「神無迷路」を制作するにあたり、これらの作品を参考にしたりしましたか?
もちろん、これらのゲームはすべてプレイしました。打越鋼太郎先生、私はずっとあなたのファンです! そして林直孝先生、I love you!
――本作は複雑に絡み合うストーリーをフローチャートの形で分かりやすくプレイヤーに遊ばせてくれます。致意さんさんはプレイヤーがゲームをプレイしていてストレスを感じないようにどのようなところで気を配りましたか?
「神無迷路」のクリア難易度はそれほど高くありません。主な理由は、すべてのフラグ変数がグローバルであり、個別の周回に限定されていないからです。どこかのフラグが立っていない場合でも、その付近のノードにジャンプするだけでよく、最初からやり直す必要はありません。セーブシステムの使用頻度を減少させ、プレイヤーが手動でセーブしなくてもゲームをクリアできるようになっています。
――多彩なルートやバッドエンドが存在する本作ですが、どのように作品を組み立てていったのでしょうか?
大きなサイズのノートを買って、その上にフローチャートの下書きを描きました。フローチャートを構築するのは簡単なことではありませんが、最近いくつか新しい考えが浮かびました。それは次の作品で反映されると思います。
――群馬県にあるJR上越線の土合駅を本作のモデルにした理由をお聞かせください。
土合駅の下り線ホームは、暗黒物質を研究する場所として非常に適しています。世界中の暗黒物質研究所は、ほとんど似たような場所に建設されています。たとえば、中国四川省の「錦屏地下実験室」は、山を貫くトンネルの中に建てられています。
隔絶された場所で何かが起こるというのは、とても魅力的です。多くのサスペンスストーリーは、このような場所を舞台に選びます。土合駅は、まさにそのような場にふさわしい場所です。
――本作の主人公である波立良志は、プレイヤーの映し鏡でもありながら、ひょうきんなところもあって彼自身に魅力のあるキャラクターに仕上がっています。どのような主人公にしようと思って作りましたか?
プレイヤーにとって理解しやすいキャラクターを作りたいと考えています。救世主ではなく、どこにでもいる普通の人です。何か問題が起きたとき、まず自分の利益を考え、臆病で事なかれ主義、衝動的で感情的です。これは決して好ましい特性ではありませんが、人間の共通の弱点です。
――ヒロインの霜月時雨は主人公の波立良志とすごくいいコンビでした。時雨はどのようなヒロインにしようと思って生まれたキャラクターですか?
可愛いショートヘアのミステリアスな少女――。これは間違いなくミステリー小説にぴったりのヒロインのイメージです。私は小学生の頃から「名探偵コナン」の灰原哀に夢中でした。その影響で、今では全てのゲームのヒロインはショートヘアのキャラクターになっています。
――本作には黑川源次郎や清水美紀など魅力的なサブキャラクターが多数登場します。致意さんが好きなキャラクターを教えてください。また、ゲームで明かされないキャラクターの裏設定があればぜひ教えてください。
すべてのキャラクターが好きです。黒川源次郎の台詞は元々標準的な日本語でしたが、声優の井之上賢さんが「福岡弁」に変えてくれました。この方言のおかげで、キャラクターにさらに魅力が増したと感じています。
英語版でプレイすると、黒川源次郎のセリフにはアメリカ西部のカウボーイのような雰囲気があることに気づくでしょう。ぜひ皆さんも試してみてください。そう考えると、黒川おじさんが結構好きかもしれません。
――「神無迷路」はすでに続編が動いているようですが、次回はどのような作品になるのか言える範囲でお聞かせください。
次回作では、フローチャートシステムのさらなる可能性を探りたいと思っています。物語の舞台は南関東地域に設定される予定です。
――致意さんはノベルゲームの魅力はどこにあると思いますか?
ノベルゲームの魅力は、独特な感情体験を創り出すところにあります。私は、ノベルゲームの本質とは、インタラクティブなノベルであると考えます。したがって、小説のすべての法則はノベルゲームにも適用されるのです。小説の核心は、生活を芸術的に加工し、それを読者に伝えることで、読者を深い感情に引き込むことです。
過去にプレイしたノベルゲームで感じた感動の瞬間を、今でも忘れることができません。そして、今では自分もプレイヤーの感情を動かす物語を創り出すことができ、とても嬉しいです。
――将来的にノベルゲームというジャンルはどのようになっていくと思いますか?
ゲーム制作の難易度が低くなるにつれて、ノベルゲーム制作スキルを持つ優れた小説家が増えるかもしれません。将来、日本でより多くの面白いノベルゲームが登場することを楽しみにしています!
――ファンにひとことよろしくお願いします。
新作ゲームの制作を頑張りますので、今後ともどうぞよろしくお願いします!
Steamストアページ(PC)
https://store.steampowered.com/app/2876250/_/
ニンテンドーeショップストアページ(Nintendo Switch)
https://store-jp.nintendo.com/item/software/D70010000083974
後記
「かまいたちの夜」をモチーフにした作品ということで、気になってプレイしてみた「神無迷路」。「かまいたちの夜」の素晴らしい点を引き継ぎつつ、独自の魅力を追及した作品になっていてとても感心させられました。日本で誕生した往年の名作と海外の若き新規クリエイターの感性が交じり合ったハイブリッドのような作品が生まれるような時代が本格的にやってきているのだなと思わされました。
次回以降も素晴らしいADVを発掘し、みなさんにお届けしたいと思いますので、引き続き応援よろしくお願いします!
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