2024年12月8日に開催された対戦格闘ゲーム「鉄拳8」の公式世界大会「TEKKEN World Tour 2024 Global Finals」およびオフラインイベント「超・鉄拳祭」のレポートをお届け。
「TEKKEN World Tour 2024」(以下「TWT2024」)は、ツアー形式で行われている世界大会だ。世界各地で開催される大会でポイントを獲得し、世界と地域、2つのリーダーボード(ランキング)によって、シーズン世界最強を決定する「Global Finals」への進出者が決定する。今回行われた「Global Finals」では、各地域の代表選手が一堂に集い、世界最強を決定する熾烈な戦いが繰り広げられた。
さらに、「TWT2024」は「鉄拳8」にタイトルが変更されてから初めての「TWT」で、日本での開催も初めてのことである。それもあってか、会場にはかなり大勢のお客さんが入っていた。「鉄拳」シリーズは海外でも非常に人気のタイトルであるため海外から来た人も多く、他タイトルに比べて国際色豊かな会場となっていたのが印象的である。
「Global Finals」および「超・鉄拳祭」の会場となったベルサール渋谷ファースト地下1階のイベントホールはかなり広々としており、前方が「Global Finals」が行われるメインステージ、後方が物販コーナーとイベントブースという構成。立ち見席では飲食も可能で、アルコール類を飲みながらの観戦も可能というお祭り仕様だった。
その他には、ストリーマーのこく兄さんなどを招いたミニステージや、初代「鉄拳」や筐体版「鉄拳4」など、懐かしの歴代タイトルが遊べる対戦コーナーが展開。ミニステージで過去作の勝ち抜き戦も開催されており、昔のゲームらしいメチャクチャなバトルバランスの対戦が会場を盛り上げていた。
試合の休憩時間には「鉄拳」の歴代楽曲を使ったDJパフォーマンスが行われたり、パチスロ版「鉄拳」シリーズや過去作のメインビジュアルの展示があったり、麗奈の椅子に座れるフォトブースがあったりと、入場無料とは思えないほど盛りだくさんの内容となっていた。次回があるなら、ぜひともまた行きたいお祭りである。
熾烈な読み合いを制して優勝したのはまさかの“クマ”!VARREL所属のRangchu選手が日韓の思いを背負って優勝
TOP8は、各地域の大会を制した代表選手7名に加えて、12月7日より行われた最終予選・Last Chance Qualifier(LCQ)を1位で通過したEDGE選手が試合を行った。トーナメント表は以下の通り。
ウィナーズ
・CBM(仁/韓国)
・Reaf(仁/サウジアラビア)
・Rangchu(クマ/韓国)
・Arslan Ash(ニーナ/パキスタン)
ルーザーズ
・ATIF(ドラグノフ/パキスタン)
・Shadow 20z(ザフィーナ/アメリカ)
・THE JON(キング/パキスタン)
・EDGE(ファラン、シャヒーン/韓国)
“修羅の国”の異名を持つパキスタンの選手が多くTOP8入りを果たしているほか、「鉄拳」が格闘ゲームのメインストリームである韓国の選手も多数残る本トーナメント。日本選手は一八使いの第一人者であるケイスケ選手がTOP16入りを果たすも、惜しくも敗退となってしまい、日本の最高順位は13位となった。
試合開始前に、原田勝弘氏より次回のアップデート内容についてアナウンスが行われたのでまずはこちらを紹介。次回のアップデートでは、メインメニューにカスタマイズしたキャラクターが設置できるようになるほか、各キャラクターに新技や新ムーブが追加されるようだ。メインメニューへのカスタマイズキャラクターの設置は以前のインタビューにて「3Dモデルのライティングの関係上厳しい」と話していたので、本調整はかなり気合の入ったものであることが伺える。
事前のアナウンス通り新キャラクターの発表はなかったものの、ムービーの中にバラ模様のヘリコプターが登場。そのヘリコプターにはキスマーク付きのミサイルが搭載されており、ヘリコプターの攻撃対象はニーナであったことから、恐らく「アンナ・ウィリアムズ」が新キャラクターとして参戦するのではないかと思われる。新キャラクターの詳細な発表はThe Game Awards 2024にて公開予定とのことなので、続報に注目だ。
新情報の公開が終わったところで、世界最強を決める最後の戦いが幕を開けた。全試合を振り返ると長くなってしまうので、本レポートでは特に会場を沸かせた試合をピックアップしていこうと思う。
まずは、“世界を5回獲った男” Arslan Ash選手をRangchu選手が破った試合が見どころだろう。Rangchu選手は韓国籍の選手なのだが、日本の鉄拳コミュニティとの関わりも深い選手で、現在は強豪女性プレイヤー・みぃみ選手と日本で暮らしている。そのため韓国勢のみならず日本勢からも応援されており、2か国の期待を一身に背負ってArslan Ash選手との試合に臨んだ。
Rangchu選手が扱う「クマ」というキャラクターはシリーズを通して評価の高いキャラクターではなく、見た目通り体の判定が大きく、下段攻撃のリーチも短い。攻撃力こそ高いものの、相手のガードを崩す能力も乏しいキャラクターだ。
ただし、「鉄拳8」の新システムである「ヒート」中はかなり強力で、三島平八直伝の「最速風神拳」が使用可能となる。しかも、このクマ版最速風神拳は“本家より強い”。「鉄拳8」になってから最も評価を上げたキャラクターの一人(匹)だろう。
序盤はArslan Ash選手がセットカウント2-0とRangchu選手を大きく突き放し、「やっぱり今年の王者もArslan Ash選手か……?」と会場の誰しもが思ったことだろう。
しかし、3セット目でRangchu選手が細かい技のやり取りで圧力をかけ、高火力のコンボ始動技を叩き込むことに成功し1セットをもぎ取った。その後、クマの高火力な壁コンボが活かせる狭いステージが続いたことで、2-0の状況から3本連続で取り返すという驚異の逆転を見せた。
中堅キャラクターのクマで、最強の男が駆るトップティアキャラクターのニーナを倒すという大番狂わせに、会場の盛り上がりは最高潮。配信の方でもコンボに合わせた観客の掛け声が聞こえるので、鉄拳勢はぜひ試合を見ることをオススメする。
その後もRangchu選手はウィナーズサイドを無敗で勝ち上がり、決勝戦へと駒を進めた。ここで紹介したいのがRangchu選手の対戦相手が決まるルーザーズファイナルの試合である。これは、ドラグノフを一度でも使った事がある人なら震えずにはいられない試合だった。
ルーザーズファイナルの組み合わせは、パキスタンのドラグノフ使いAtif選手と、サウジアラビアの仁使いReaf選手というマッチアップに。どちらも派生技を盾にした読みあいが強力なキャラクターで、ショートアッパーやワンツーなどの基礎技のやり取りと、細々した横移動の応酬が見どころの試合となっている。
この試合では、両選手の“スカし確定”に注目してほしい。鉄拳では相手の技を巧みなレバー捌きでかわし、その隙にこちらの技を叩き込む“スカし確定”(通称:スカ確)が最大の見せ場だが、中でもAtif選手のスカ確は非常に印象的だった。Atif選手の使うドラグノフというキャラクターは、思いっきり相手を殴りつけるロシアンフック・アサルトや、下段の強襲技であるスレイライドなどが代表的な技で、攻め込むのは得意だがスカ確で使いやすい技には乏しい。「待つよりは攻め込む方が得意」という印象のキャラクターである。ところが、この試合を通してAtif選手は相手のスカ確にハンマーコックというコンボ始動技でスカ確を決めていたのだ。
この技はコマンドが↓↘→+LPと「鉄拳」の中ではやや複雑で、とっさに出すのには向かない技だ。コマンド入力+発生15フレームであるため技の出が遅いうえに、上段技なので相手のしゃがみステータス技に撃ってしまったら多大な隙をさらしてしまうため使いどころが難しい。
そんなハンマーコックをスカ確でバシバシ決めまくったのがこの日のAtif選手である。中でも衝撃的だったのが、セットカウント2-0の2ラウンド目。ここでReaf選手が牽制として放った最速右回し突きに対して、Atif選手がハンマーコックを決めるというプレイを見せた。
「鉄拳8」を持っている人はぜひ、プラクティスモードで試してみてほしいのだが、隙が少ないのが特徴である最速右回し突きにハンマーコックでスカ確をとるのは本当に難しい。プラクティスモードで“よーいどん”から決めるのですら難しいのに、Atif選手はそれを相手とのやり取りの中でやってのけたのである。しかも、該当のシーンではAtif選手はバックステップをしゃがみで連続キャンセルする“山ステ”からハンマーコックを撃っており、その場から撃つよりも難度がはるかに高い。会場で見ていた筆者は思わず「ありえない……!」とつぶやいたスーパープレイである。
さて、そんなノリノリ状態のAtif選手がルーザーズファイナルを制し、Rangchu選手とのグランドファイナルへと駒を進めた。グランドファイナルでは、開幕からドラグノフの優秀な中段技を駆使して攻め立てるAtif選手。防御が苦手というクマの弱点をついて、序盤から反撃を許さずに1ラウンド目をもぎ取った。と、ここでRangchu選手のコントローラー接続が切れてしまうというアクシデントが発生。「TWT」では、こういったアクシデントが起きた場合、そのラウンドは即座に負けとなってしまう。
手痛い失点であることはもちろんだが、こういったアクシデントは「鉄拳」において非常に重要な“流れ”が途切れてしまいやすいので、見た目以上にこの損失は大きい。Rangchu選手の立ち上がりは非常に悪い展開となった。
だが、その直後に神がほほ笑んだのが1-0で迎えた1ラウンド目。壁際で体力1割、残り時間10秒という絶望的な状況に追い込まれたRangchu選手。Atif選手は体力リードを活かしてタイムアップを狙う戦術に切り替えた。
もう攻めるしかないRangchu選手は決死の2択を迫ったのだが、ここで軌跡が起きた。Rangchu選手が下段攻撃を撃ちに行ったところに、Atif選手が後ろ斜め上コマンドでのクリアリングキックを選択した。クリアリングキックは上方向+左キックというコマンドで出るのだが、斜め前上、真上、斜め後ろ上で若干性能が異なっている。斜め前、真上コマンドで出すクリアリングキックはダウンが取れるのだが、斜め後ろクリアリングキックのみダウンが取れないという性能なのだ。
クリアリングキックで倒しきれる場合は下がりつつ攻撃を出せるため非常に強い防御行動なのだが、この時は体力が僅かに1ドット残った。そしてこの1ドットこそが勝敗を分ける結果となったのである。クリアリングキックがヒットした後に、すかさずベアロールを繰り出したRangchu選手が2択を制してコンボ始動技をねじ込む。さらに、演出中はタイマーが止まる大技のレイジアーツを即座につなぐことで、まさかの大逆転勝利を収めた。
ドラグノフ側が後ろクリアリングキックではなく真上を選択していたら、ダウン状態からの復帰が間に合わず恐らくRangchu選手が負けていたし、クリアリングキックではなくダメージの高いスライサーソバットを選択していた場合もRangchu選手が負けていただろう。まさしく、神のいたずらで生まれたワンチャンスだったわけだ。
流れが悪くなった1セット目から2セット目冒頭の大逆転劇を決めたことで、傾いた流れは一気にRangchu選手のものに。そのままセットカウント3-1で優勝を決めきってしまった。
Rangchu選手が「TWT」を優勝するのは実に6年ぶりで、本大会をもって「TWT」を2回制覇した初の選手となった。初めて二度王者となったキャラクターがまさかの“クマ/パンダ”であるというのだから、まったく驚きである。
その後は表彰式が執り行われ、原田勝弘氏からTOP8の選手全員にメダルが授与。優勝したRangchu選手には、メダルに加えて特大の優勝トロフィーが手渡された。
表彰式の最後には実況席のゲンヤさんの提案で会場にいた全員で一斉に「ランチュ、おめでとう!」と叫び、彼の優勝を称えた。
ただでさえプレイヤーの実力が粒ぞろいなパキスタン勢が、トップティアのキャラクターで立ちはだかる中。長年連れ添った相棒であるクマで優勝を決める姿は、格闘ゲーマーならだれでも感動を覚えることだろう。競技シーンのレベルアップに伴いキャラクター選択の自由度が狭まりつつある昨今の情勢の中で、自分の信じたキャラクターで優勝を決めたRangchu選手には、ぜひ最大限の賛辞を贈りたい。
その後、優勝したRangchu選手にグループインタビューが執り行われた。最後にこのインタビューの内容を紹介して、本レポートの締めとさせていただく。
――優勝が決まった瞬間、会場でRangchuコールが巻き起こりましたが、あの瞬間の気持ちをお聞かせください。
Rangchu選手:直近の大会で成績が良かったこともあって、皆の期待に応えたいというプレッシャーがありました。なので、勝てた瞬間は期待に応えられたことが何より嬉しかったです。僕は日本在住なので友達もたくさん見に来てくれていましたし、応援してくれる人の声援が本当に力になりました。
――今日の試合では先行されたところから逆転する試合が多かったと思いますが、どういった風に気持ちを切り替えながら勝利をつかんだのでしょうか?
Rangchu選手:負けている試合も内容が悪かったわけではないので、集中を切らさないように頑張るしかなかったですね。普段と違って、応援してくれる声がちょっとずつヘッドホン越しに聞こえてきたので、諦めずに頑張ることができました。
――プロライセンスを取得するまでにもかなりの苦労をされていたRangchu選手ですが、ここまでの道のりを振り返ってみていかがでしょうか?
Rangchu選手:ライセンスを取れなかった理由は、上位に入るのは得意ですが優勝するのが苦手だったことにあると思います。今回はひたすら勝ち進むことを目標にしてみて、それが上手くいったのだと思いますね。
――グランドファイナルではコントローラーのアクシデントがあったかと思います。どうしても流れが悪くなりがちなアクシデントから、どのように気持ちを持ち直したのですか?
Rangchu選手:普段ならメンタルが落ち込んでいたかもしれませんが、今回はウィナーズ側だったので「まだ序盤だし取られても大丈夫」と言い聞かせることで気持ちが揺れないようにしていました。
――今回は鉄拳強豪国であるパキスタンの選手も多く参加していましたが、彼らに勝った時の気持ちをお聞かせください。
Rangchu選手:「鉄拳7」の中盤からパキスタンの選手が大会を多く制覇してきて、世界の評価は日本や韓国よりパキスタンの方が上だったと思います。今回の大会の中で、僕はそのイメージを変えたいという気持ちがありました。なので、パキスタンの選手に勝つことができて本当に嬉しいし、イメージを少しでも変えられたらうれしいです。
――2018年の優勝から実に6年ぶりのTWT優勝ということですが、この6年を振り返ってみた感想はありますか?
Rangchu選手:当時は今より攻略レベルが低かったので、この6年で年々厳しくなっていく感覚でした。もうチャンスはないかもと思っていた中で今回優勝することができて、すごく嬉しいですね。「鉄拳8」が発売されてからの1年間は、「Rangchuは上位に入るけど優勝しないプレイヤー」という世間の評価がとても悔しくて、今年の後半は特に優勝を獲りたい気持ちが強かったですね。
――相棒のクマについて、振り返ってみた感想を教えてください。
Rangchu選手:クマというキャラクターは評価が高くなくて、皆にキャラクターを変えた方が良いんじゃないかとアドバイスをもらっていました。そんな中で立ち回りを変えてみたり、他のキャラクターを使ってみたりしたんですけどあまり上手くいかなくて……。夏頃は特に迷走していました。その苦労を乗り越えることができたからこそ、今日の勝利につながったと思います。アドバイスをくれた仲間たち、一緒に練習した仲間たちに感謝を伝えたいですね。
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