ゲーム専門学校を取材してその価値を読者に届ける特集企画「ゲームクリエイター教育の現場」。第二回は「日本工学院」の担当者にインタビューを実施した。
ゲームが大きく進化する裏側で、ゲーム開発の現場も進化を続けてきた。今では、無料のゲームエンジンが普及しており、独学でも十分ゲーム開発ができてしまう。誰かに教えを請いたいという場合でも、生成AIに聞けばいい。インディーゲーム市場が拡大傾向にあるのも、こうした背景があってこそだろう。
ではそんな現在において、「ゲーム作りを教える専門学校」には一体どのような価値があるのか? この特集では、そんな「今、あえて専門学校でゲーム作りを学ぶことの価値」に関する疑問をぶつけるべく、実際にゲーム専門学校を取材! 第二回となる今回は、「日本工学院」のインタビューをお届けする。

ゲームエンジン/インディーゲーム全盛の今、専門学校が提供できる3つの価値
最初にこの原稿を書いている筆者=田中一広の立ち位置を説明しておく。筆者は、ゲームライターと同時にゲームクリエイターであり、さらには専門学校で講義を行う非常勤講師でもある。だからこそ、「今、あえて専門学校でゲーム作りを学ぶことの価値」について、ある程度の「回答」を持っている。
その回答は、大まかに3つ。1つめは、「どうやってゲームを売るのか?」というビジネス的観点。ゲームを作るだけなら、ゲームエンジンと生成AIを組み合わせることで、誰でもある程度のものが作れるかもしれない。しかし「ゲームを売ってビジネス化する」となると、話は別だろう。誰でもSNSは利用可能だが、誰もがインフルエンサーになれるわけじゃないのと同じだ。
2つめは、技術的観点。市販のゲームと、インディーゲームとでは、製品としてのクオリティ面でやはり差があるのは事実だろう。
3つめは、チーム開発の観点。筆者自身がそうだが、最近は個人でゲームを作る人間も増えている。とはいえ、ゲームはシナリオ、音楽、グラフィック、プログラムという異なるジャンルのアートが集まって作られる総合芸術分野の作品だ。このため、「チーム」で作るのが基本。そして、あらゆる仕事は「チーム」で行うことになった途端、一人でやるのとは異なる難しさを見せる。
そこで、今回のインタビューでは、「ビジネス的観点」「技術的観点」「チーム開発の観点」という3つの観点に基づき、質問を行った。対応してくれたのは、日本工学院八王子専門学校 ゲームクリエイター科 科長の大圖 衛玄氏と、同じく科長の吉冨 賢介氏。
ちなみに、筆者が非常勤講師として講義を受け持っているのは、この日本工学院八王子専門学校である。このため、ある程度実際の内容を知っている部分もあるのだが、非常勤講師という立場上、学校のポリシーや方針について深い部分まで理解しているわけではない。だからこそ今回のインタビューは貴重な機会として、講師ではなく、あくまでいちゲームライターという立場で、深い部分まで突っ込んで確認してみた。

他者の目に触れる機会を設ける!売るための力を醸成する取り組み
――今日はインタビューの機会をいただき、ありがとうございます! いきなり具体的な話となってしまいますが、「ゲームを売る」という観点に立つと、ターゲッティングとか市場調査といったノウハウが必要になると思います。こうした点について、現在のカリキュラムではどのようにアプローチしているんですか?
吉冨氏:まず、企画の授業の一環としてターゲット設定やそのターゲットのニーズやインサイト(潜在欲求)を考えるという実習をしています。これらは実践的な分野ですので、ゲーム会社でプロデューサーとしての経験を持つ常勤講師が担当しています。

――なるほど。とはいえ、座学で理解可能な部分と、実際にゲームを「売る」という実践の部分には隔たりがありますよね。たとえプロであったとしても、プランの通りに売れるかと言うと、難しいです。こうした「実践」の部分にはどう取り組まれていますか?
吉冨氏:もちろん「売ろうとする試み」が、「収益を得ること」とイコールになるとは限らないと思います。実際に、プロであったとしても、プランの通りに収益が上がるかといえば、難しい。とはいえ、ゲームが「人」に対して娯楽的な価値を提供するものである以上、プランを考えなければなりません。「このようなお客さんを、こんな風に楽しませたい」というプランがまずあって、その先に「収益」があるという構造だからです。
――はい、そうですね。「売る」前提だからといって収益性だけを目指せばいいのかというと、そうではありません。それよりもむしろ、「誰かを楽しませる」という観点が重要ですね。
吉冨氏:本校では、学生の作品が「人の目」に触れる機会をなるべく増やすようにしています。チームでゲームを開発する授業においては、「プレイ会」という形で学生たちの間で作品を評価しあう機会を設けていますし、本校の文化祭である「紅華祭」や卒業展示といったかたちもあります。特に「紅華祭」や卒業展示については一般の方も多く訪れ、展示されているゲームをプレイされます。
――学生たちのゲームを集めたUSBメモリは、毎年売り切れているという話を聞いたことがあります。
吉冨氏:そもそも販売本数が少ないというのもありますが、それでも、ありがたいことに即座に売り切れていますね。学校外のイベントであれば、東京ゲームショウや、インディーゲームイベント「東京ゲームダンジョン」といった場所でも、学生たちのゲームを展示し、プレイした方からフィードバックを受けられるようにしています。
――なるほど。ではそうやって得たフィードバックを、どのようにゲームのクオリティへ反映させているのでしょうか?
吉冨氏:プレイ会では感想や評価をデジタルのアンケートで受け付け、集計後のデータを学生に戻しています。また、イベントでの展示では生でプレイを観察できますから、問題点をすぐに発見できます。それらで得られた情報をもとに、どのように改善するのか、講師と学生とで考えていくというかたちです。
技術面では体系的な知識を習得することを重視
――では、技術面の話に移ります。最近はゲームエンジンを使えば、かなり手軽にゲームが作れてしまいます。プログラムがわからなくとも、生成AIでサポートするという手があるという状況です。こうした中で、カリキュラム的にどのようにアプローチされているんですか?

大圖氏:基本的にゲームエンジンを使うことより、ゲームに使われる技術の体系的な理解を重視してカリキュラムを組んでいます。C++を用いて、メモリの管理のような具体的なレベルから、設計といった抽象度の高いレベルまで、体系的に学んでいく…。これによって、「ゲームエンジンを使う」ではなく、「ゲームエンジンをフルスクラッチで作れる」というレベルの、いわば「ムキムキ」の技術力が身に着くといったカリキュラムです。
――なるほど。とはいえ、ゲームエンジンというものがある以上、「そこまで具体的なレベルの技術は学ぶ必要がなく、設計だけ押さえておけばいい」という考え方もありますよね?
大圖氏:ゲーム以外のジャンルですと、そういうケースの開発もあるかもしれません。ただゲームにおいては、具体的なレベルの技術を押さえておかないと、開発が難しい側面があると思います。というのも、ゲームは作品毎に新しい要素が用意されるものなので、その度に新しい機能を作らなければなりません。すると、「どうやって作ればいいんだ?」という技術的課題が発生します。これを解決するためには、具体的なレベルの技術を知っておく必要がありますよね。
――確かに、特にビジネス前提のゲームでは、「既存の技術を、ただ使用するだけでは実現できないこと」というのがつきまといますね。
大圖氏:今、生成AIによるコーディングも普及してきています。多分この先、細かいコーディング作業はもうほとんどAIエージェントがやってくれるのかもしれません。もしかすると、設計までやってくれるかもしれないですね。けど、最終的な責任は、やっぱり人間が取らなきゃいけません。その時、技術を体系的に理解しているかどうかは大きいのではないでしょうか。
――この先、生成AIが業界の状況を変えてしまうとしても、なお、技術を体系的に理解していることが問われると?
大圖氏:はい。ただ、具体的なレベルの技術から設計まで、体系的に学ぶということを一人でやるのは難しいように思います。導いてくれる講師、先輩はもちろん、時には切磋琢磨する友人も必要でしょう。そこに、専門学校の価値があるのではないでしょうか。
コミュニケーションをどう教え評価するのか?チーム開発の観点
――では次に、チーム開発について伺います。チーム開発ならではの問題というのがつきものだと思います。これは学生に限ったことではなく、プロの現場でもそうですよね。人間が複数いれば、実力、モチベーション、さらには性格にも差があって、そうしたことがどうしても、トラブルを生みます。こうした点にはどのような姿勢で向き合っているのですか?
吉冨氏:チーム開発にあたっては「トラブルの予防」と「トラブルへの対応」という2つの観点で臨んでいます。「トラブルの予防」については、まず授業のクラス自体を実力によって分けています。チームの構成もクラスごとに分けており、「実力のある人に作業が集中してしまう」という状況を回避できるよう努めています。とはいえ、アマチュアである学生の集団ですから、それだけではトラブルをゼロにはできません。
――はい。そうですね。
吉冨氏:そこで、「トラブルへの対応」として、講師側で状況を見つつ、作業の割り振りを変更したり、場合によっては個別面談を行うなどのサポートを行い、トラブルが最小限になるように努めています。
――なるほど。ちなみに、トラブルを起こさないようにするというのは、チームの「内側」…つまり学生側の課題でもありますよね。トラブルを避けつつ、いかにクオリティの高い作品を作り上げるか? これこそが「チームワークにおける実力」と言えます。そのためにはコミュニケーションが重要だと思うのですが、コミュニケーションを教えるという点や、評価という点ではどのように取り組んでいるのですか?
吉冨氏:「チーム開発」の進行自体が、コミュニケーション教育に繋がっていると思います。本校の「チーム開発」では、プロト、α、β、ファイナルというかたちで、多くのゲーム会社での開発進行と同じスタイルを採用しています。プロト、α、β、ファイナルの各タイミングで開発内容の振り返りを行い、改善点を話し合い、次のマイルストーンに向けてのブラッシュアップ案を模索します。こうした進行スタイル自体、「トラブルを避けつつ、クオリティの高い作品を作り上げる」ために生み出された手法ですよね?
――そうですね。どのタイミングで何を議論するかという話ですから。
吉冨氏:その上で日々の授業でも、朝と夕方の2回、チーム内で話し合う時間を設けています。また、ツール面では「Backlog(バックログ)」というツールを用いてタスクとスケジュールを共有し、進行します。「Backlog」はGitと連携していますので、プルリクエスト(※)など開発に必要なコミュニケーションも日々行っています。こうしたかたちで、プロの現場にも通じるコミュニケーション力が自然と身に付く授業形態にしています。
※プルリクエスト:作成したプログラムファイルなどが正常動作するか、他の人へ確認の依頼を送る機能のこと

――評価の面ではいかがですか?
吉冨氏:「積極的に発言していない」だとか、「ツールを上手く使えていない」といった個々の注意点については、日々の授業の中や、プロト、α、β、ファイナルのタイミングで行われる「振り返り会」で、講師からフィードバックを行っています。また、コミュニケーションがうまく行っているチームはその作品自体が良くなりますから、作品自体の評価が自然と高くなり、成績も高評価になりますね。
――なるほど。わかりました。
ゲーム業界が求める真のエンジニアを育成!エンジン開発までもカリキュラム化!

――では最後に、もう少し大きな観点で質問させてください。ゲーム業界は進歩の速い業界ですよね。最近は生成AIのようなものも登場し、これまでに増して技術の進化が速いです。こうした状況を、どう捉えていますか?
大圖氏:基本的に、業界の進化にあわせ連動するかたちで、カリキュラムの見直しを行っています。たとえばここ10年ほどは、ゲーム業界自体がスマートフォン向けゲームをメインとしており、ゲームエンジンであるUnityが高い需要を持っていました。そこで、本校の授業でも、Unityの扱いを増やしていました。一方最近は、ゲームエンジンに頼らない技術力が、多くのゲーム系企業から求められています。そこで、フルスクラッチによるゲームエンジン開発という方向へ授業内容をシフトしています。
――教える講師側も進化に合わせたアップデートが必要ですよね。こうした点についてどうアプローチされているんですか?
大圖氏:ひとことで講師といっても、技術への関心の方向は、人それぞれです。ただ学校的には、こうした講師の個人差を吸収し、一定のクオリティの授業を提供しなければなりません。そこで本校は、全教員で共通の教材を使い、教材自体のアップデートを随時行っています。教材を通じて最新技術や教えるためのノウハウのキャッチアップを行っていただくというかたちです。
――なるほど。ところで、学生によっては、学習の過程で挫折感を覚えてしまうことがありますよね。「プランナーやってみたけど、アイデア出すのが苦手と気づいた」だとか、「プログラマー目指していたけど、思っていたより3Dが難しい」といったかたちで。こうした際にはどのようにフォローされているのですか?
吉冨氏:本校では学生のプログラムの理解度によってレベル別でクラスを分け、適正な授業進捗となるように心がけています。また、プランナーを目指す学生に対しては企画書を作るだけでなく、自分でプロトタイプを制作する授業を行っています。頭の中でアイデアを出すことが苦手でも、実際に動くものからならアイデアを出せるということがあるからです。このように、そもそも挫折が起きにくい体制 授業の仕組みを整えているんです。
――はい。ただ、それでも挫折感を覚えてしまうことは、あるわけですよね?
吉冨氏:ゲーム業界への就職率の高さは自負していますが、そこに到達できなかった学生もほぼ全員がIT業界への就職はできています。就職という点ではほとんど挫折がない学科とも言えますね。また、ごくまれにプログラムの勉強に挫折した学生が出たとしても、様々な学科を擁する総合学園なので他の道を探るサポートをすることができます。
――おお、それは、なんというか…めちゃくちゃ安心感ありますね…! 質問は以上です。本日はどうもありがとうございました!
「日本工学院」の提供する価値とは「プロとしての基礎の徹底」!?
今回のインタビューを終えて、筆者は 「日本工学院」の提供する「専門学校の価値」とは、「プロとしての基礎の徹底」にあると感じた。
「技術力」というと、「常識外れのことが実現できる物凄い力」のように感じる人もいるかもしれない。確かに業界の中には「常識外れのことが実現できる物凄い力」を持ったスーパークリエイターも、存在はする。
ただ、プロの現場で求められる「技術力」とは、たいていの場合、「体系的に仕組みを理解する力」であったり、「目的達成のためにチームメンバーと協力するためのコミュニケーションができること」であったりする。こうした「技術力」を獲得するには、地道な訓練が必要となるからこそ、挫折してしまうことだってある。
だからこそ、未来への選択肢を豊富に用意し、セーフティネットとしておくことで、安心して「プロとしての基礎」を学ぶことが可能になるのだ。こうした点で同校に興味を持った人は、是非WEBサイトなどで詳細をチェックして欲しい。
日本工学院
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