札幌市と、セガ札幌スタジオなどをはじめとした札幌を基盤とするゲーム開発関連企業による合同イベント「Sapporo Game Camp 2026」が、10月9日から11日まで開催された。ここでは、10月9日に行われた基調講演「AI時代のゲームづくり!『作る人』から『作り方を考える人』へ」の内容をお届けする。

はじめに「Sapporo Game Camp」について簡単に説明したい。本イベントは、札幌のIT人材およびゲームクリエイターの育成と、さらなるエンタメ業界の盛り上げを目的としたもの。ゲーム開発に関心を持つ社会人、学生を対象にゲーム開発企業所属のクリエイターと共に2日間かけてゲーム開発を行う「Game Jam」と、小学校から高校生までの生徒を対象とした「ぷよぷよ」を題材にしたプログラミング講座や「初めてのCG講座」、さらには高校生向けセッションをはじめ、さまざまなゲストによるトークセッションなどが行われる。
2022年に第1回が開催され、今回は第5回目となる。会場のサッポロファクトリーアトリウムを埋め尽くすほどの観客が訪れ年々規模が拡大している、大盛況のゲームイベントである。
基調講演:AI時代のゲームづくり!「作る人」から「作り方を考える人」へ
基調講演に登壇したのは、インフィニットループ 代表取締役社長 小野真弘氏と、Applibot(以下、アプリボット) 執行役員 プロデューサー/ディレクターの松川大地氏。

小野真弘氏は、研究職からIT業界へ転身後、開発・マネジメント・経営まで多角的なキャリアを積む。2011年よりインフィニットループに参画。副社長を経て2023年より代表取締役社長。複数社の取締役も兼務する。エンジニア出身のバックグラウンドを活かし、技術実装から事業設計までを俯瞰して組織を牽引。xR(VR等)やゲーム開発領域に注力する傍ら、AI時代に対応した事業・開発体制のアップデートにも精力的に取り組んでいる。

松川氏は、2015年にサイバーエージェントへ新卒入社後、2017年よりアプリボットへ参画。2019年に同社執行役員に就任。プロデューサー兼ディレクターとして「NieR Re[in]carnation」(2021年)や、プロデューサーとして「FINAL FANTASY VII EVER CRISIS」(2023年)など、世界的な大型IPタイトルの開発・運用を牽引する。2026年現在は、複数の新規開発案件を統括するほか、新設されたコンシューマーゲーム事業部の担当役員に着任。あわせてデータマイニングやカスタマーサポートといった全社横断組織のマネジメントも担当し、次世代のゲーム開発・事業基盤の強化を推進している。

この基調講演では小野氏がモデレーターを務め、主に松川氏がAI時代の到来に伴うこれからのクリエイター像を伝えていく形式で実施された。
基調講演は、小野氏の問いかけからスタート。小野氏が「これまでのゲーム開発は、企画や要件が整理された後、各セクションの担当者が縦割りで時間をかけて『作る』ことがほとんどだったが、大規模プロジェクトではどのような人員配置だったのか」と尋ねると、松川氏は「過去の150人から200人規模のチームでは、『作り方を考える人』はわずか10人程度で、残りの140人は工程を動かし作り上げることに特化していた」と振り返った。
しかし現在ではほぼ全員が、考えながら作るスタイルへと変化しているという。その変化の最たる要因がAIの導入だ。
松川氏によれば、現在アプリボットの社内では、アイデアの精度や方向性を検証する壁打ちの相手が、上長やトレーナーといった人間からAIへと移行しているという。ChatGPTなどにプロジェクト共通のプロンプトを設定することでナレッジが蓄積され、「この人にはこういう提案の仕方をした方がいい」といった社内攻略のコンサルティングまでAIが担っている実態が明かされた。
AIが一定の品質担保やチェック項目を網羅してくれるため、人間(上長)はより広い視野での設計や、クリエイティビティを高める業務に時間を割けるようになった。
小野氏が「個々の作業スピードが上がることで、同じ設計に基づいているはずなのにといった食い違いは出ないのか」と開発現場ならではの懸念をぶつけると、松川氏は「食い違いや無駄は発生するが、それ以上にリカバリーの速度が尋常ではなくなった」と答えた。属人化が薄れ、品質の均一化が図りやすくなった結果、権限と裁量を持つ「〇〇ディレクター」や「リード」と呼ばれるポジションをより多くのスタッフに任せられるようになり、組織力全体の底上げに繋がっているという。

仕様書での空中戦が終焉。モックアップ至上主義による高速イテレーション
AIの導入により、ゲームの面白さを判断するプロセスも劇的な変化を遂げている。松川氏は「最終決定権がディレクターにあることは変わらないが、合意形成の仕方が大きく変わった」と語る。
これまでの開発では、作り直しを防ぐために仕様書や設計書をベースに「ああでもない、こうでもない」と議論する、いわゆる「空中戦」に膨大な時間を費やしていた。しかし現在は、AIと相性の良いHTMLなどを用いて、アイデアをすぐに遊べるモックアップ(試作品)として出力できるようになった。
実際、入社3年目の若手プランナーが、AIを活用してスマートフォンの振動機能まで組み込んだゲームをわずか1週間で作成し、フィードバックを受けると午後には修正してくるという驚異的なスピードでイテレーション(反復改善)が回っている事例が紹介された。
小野氏が「見積もりを提出する段階でモックアップも出せるようになり、企画書からのプロセスが変わっているのか」と問うと、松川氏はそれに同意した。かつては「ドカンとやって、バキッとなるんです」といった擬音で表現するような感覚的な説明では企画の承認が下りず、言語化スキルも必須だった。
しかし今は「とりあえず作ってみて、実物を触ってから面白さを言語化する」時代になっている。松川氏は「若手が経験を積むには、企画書を書くのではなく、AIを使ってモックを作り『こんなものができたんですけど』と見せてフィードバックをもらう、筋トレのようなアプローチが最も濃密な経験になる」と推奨した。

専門職の垣根が消滅する未来。クリエイターという大きな括りへ
本講演の核心テーマである「作り方を考える人」とはどのような人材か。松川氏は、縦のセクションの垣根を越えてトータルコーディネートができる人材だと定義した。
AIが作業を代替してくれるからこそ、プロジェクトにとって最適なアプローチをケースバイケースで選び取れる人材が重宝される。さらに、AIに質問すれば新しいツールの使い方もすぐに教えてもらえるため、プランナーがUnityやUnreal Engineを学ぶハードルも大きく下がっている。
松川氏は、最終的なビジョンとして「プランナーやデザイナーといった専門職のラベルがなくなり、全員が『クリエイター』になり、コードが得意、UIが得意といった『タグの差』程度になっていくのではないか」という見解を示した。
これに対し小野氏が「では、学校で基礎を学ぶことは無駄になるのか」と鋭く切り込むと、松川氏は「絶対にそんなことはない」と即答した。AIは優秀な相棒だが、適切な指示を出すためには、他業種の人間がどのような技術を使っているのかという基礎知識が不可欠であり、それを知らずにAIを使うと大きな事故に繋がるからだ。
また、グラフィック面におけるAI活用については、権利的なセンシティブさの問題や、「新しい価値を提供する」というアプリボットの理念から、現状はアイデア出しの補助ツールに留め、最終的な成果物は必ず人の手で描く方針をとっているというリアルな事情も明かされた。

AI時代だからこそ際立つコミュニケーションとチームビルディング
AIによって個人作業が効率化される一方で、人間関係やチームビルディングに関するユニークなAI活用法も検討されている。
松川氏は、社内チャット(Slack)のテキストをAIが相対的に分析し、言葉が強いメンバーに対して「少し口調が強いかもしれません」とAIから客観的な指摘を行わせるシステムを仕込んでいる最中だと明かした。
小野氏も「価値観の違いから摩擦が起きるし、注意する側もエネルギーが必要だった。それをAIに肩代わりしてもらうのは非常に良い」と深く共感していた。人間からは言いづらい耳の痛い指摘をAIに代行させることで、チーム内の心理的負担を軽減する現代ならではの取り組みだ。
また、作業が効率化された結果、逆に「会議の回数は増えた」という現象も起きているという。しかしそれは単なる進捗報告ではなく、「これがなぜ面白いのか」「どうすればもっと良くなるのか」といった、ゲームの本質的な面白さを追求する建設的な議論だ。
一部のリード陣だけでなく、関わったメンバー全員が参加して意見を出し合えるほど、スピード感と低カロリーさで開発が回っている証左だと言える。

求められるのは熱量。次世代クリエイターへのメッセージ
講演の終盤、これからゲーム業界を目指す学生たちへ向けたアドバイスとして、松川氏は「無名でもいいから、最初から最後まで1本、ゲームを作りきってリリースしてみること」を強く勧めた。
売れるかどうかではなく、全ての工程を経験することが何にも代えがたい経験となり、AIという相棒を使ってどう学習していくかの視野も広がるからだ。
アプリボットの新卒研修でも、初対面の3~4人で1週間でゲームを1本作るという過酷なゲームジャムを行っているという。意見の衝突も起きるが、AIの力も相まって年々そのクオリティは高くなっており、全社でプレイして採点する仕組みをとっている。
そこで失敗したとしても、その反省を実際のプロジェクト配属後に活かせるため、非常に価値の高い取り組みとなっているそうだ。
AIによって技術的な差が均一化・標準化されていく時代において、採用などで最も重視されるのは昔から変わらず「マインドや熱量、何を成し遂げたいかという夢」であると松川氏は力強く語った。
技術はAIの力を借りて後からでも追い上げられるが、行動を起こすための熱こそが、AIに代替されない人間の強みだからだ。
実際、絵が描けなくてもAIを駆使してデザイナーに的確な指示を出し、企画職上がりで2Dディレクターを務めている人材もすでに存在しているという。
なお、アプリボットではAIの活用について、セキュリティや倫理的な検証を経た上で全社的なガイドラインを設けているとのこと。さらに「誰がどれだけAIを使ったか」のランキングを裏側で取得し、コストに見合ったアウトプットが出せているかを管理・適正化するフェーズにも入りつつあるというリアルな企業事情も語られた。
最後に松川氏は、「今の時代はスピーディーに学べ、自己表現ができる羨ましい環境です。私が1~2年目の頃は、必死に本を読み、時に心無い言葉をかけられながらコードを書いていましたが、今は違います。上の世代を突き上げる勢いで勉強し、AIを使いこなして唯一無二の存在になってほしい。そして、熱を忘れずに夢を追いかけてください」と学生たちに熱いエールを送った。
これを受け、小野氏も「熱量と行動力、自分の行動を生み出し見直してみることが何よりも大切です」と総括し、大盛況のうちに基調講演は幕を閉じた。

「Sapporo Game Camp 2026」公式サイト
https://sapporo-game-camp.com/2026/
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