ソニー・コンピュータテインメントジャパンが2013年春に発売を予定しているPS Vita用ソフト「SOUL SACRIFICE(ソウル・サクリファイス)」。本作にコンセプターとして関わる株式会社comcept CEO コンセプターの稲船敬二氏にインタビューを行った。
「SOUL SACRIFICE」は、ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパン、comcept、マーベラスAQLの3社によって制作されているアクションゲーム。東京ゲームショウ2012でメディアセッションが行われ、本作のゲームシステムについてお伝えしたが、同セッションの終了後、comceptの稲船敬二氏にさまざまな話を伺うことができたので、その内容をお届けする。
――東京ゲームショウに20台のプレイアブル出展と発売日変更、いいニュースと残念なニュースがそれぞれありましたが、現在の心境をお聞かせください。
稲船氏:やっとユーザーさんに触っていただけるので、反応が楽しみで仕方がないというのがひとつと、その反応をもとにして発売が延びた期間にしっかり作ろうと思っています。やっぱり発売が冬から春に延期して申し訳ない気持ちがあるのですが、いいゲームに、もっといいゲームにできそうだという感覚を持っていますので、すごくワクワクしています。
――現状、稲船さんご自身や開発スタッフがプレイしていて一番自信があるところと、ここに改善要望がくるのでは?と思っているところはどこでしょうか。
稲船氏:どちらも山ほどあるんですが、ファーストインプレッションがすごくいいんです。チェックをするうえでの印象もいいんですが、まだ荒いところがあって、もっとつながりで見せていかなければいけないところがいっぱいあります。
今回のゲームショウでプレイできる10分程度の時間触ってもらうだけでも面白さがしっかり伝わる形になったので、狙っていた形の共闘アクションといいますか、一緒に戦っている感じの、一体感を持ったアクションを作ることができたという手応えがあります。
それをもっと高めるための細かな調整が今一番の課題だなと思っています。大きなところはできているんですが、さらに細かくやったほうが、もっと共闘できるなと。それを時間と技術面の許す限り進めていこうとしています。
――今お話しいただいたように共闘がテーマになっていると思いますが、シングルとマルチ、どちらかでしかできない要素はあるのでしょうか?
稲船氏:プレイ自体はシングルでもマルチでも同じようにできるんですが、シングルプレイの場合はやっぱり自分の意思ですべてができるじゃないですか。でも共闘の場合は自分の意思だけではいかない、人に何をされてしまうのか分からない部分があるんです。
――ボスを倒した後の救済と生贄の投票もそうですよね。
稲船氏:そうです。その部分に関していうと、やっぱりマルチプレイのほうが自分自身でも先が読めないランダム性があって、そこが面白さにつながるところでもあるんです。でも、それが嫌だっていう瞬間もやっぱりあるじゃないですか。その場合はシングルでどんどん進めていって、この部分を強化しようとか、こういう成長を遂げさせようと進めていくプレイスタイルになるんじゃないかなと思います。
――生贄と救済の選択によってキャラクターが成長していきますが、クエストの繰り返しプレイは可能なのでしょうか?
稲船氏:長く遊んでもらうための要素としてはやろうとしていますが、詳細についてはまだ語れません。クエストを何度も繰り返すというのは考えながらやっています。
――プレイ内容によってクエストクリア後の報酬が変わるようですが、どんなものが手に入るのでしょうか?
稲船氏:魔法を使うために必要な供物であったりですね。このあたりはうまくプレイすることによって手に入るものもありますし、通常のプレイやランダムで手に入るなど、いろんな組み合わせで手に入る形になっています。
――供物以外にアイテムの話を聞かないのですが、アイテムは存在するのでしょうか?
稲船氏:基本的にはすべて魔法なので、魔法を使うために必要な供物をアイテムと言えばありますね。
――では、いわゆる回復アイテムみたいなものはないと。
稲船氏:そうですね。HPを回復するための魔法となる供物を手に入れなければいけないということになります。
――ストーリーは謎の本に書かれた物語を追体験していくということですが、この本も物語上重要な存在になってくるんでしょうか?
稲船氏:やっぱり本にヒントのようなものが隠されていますので重要ですね。本なので1ページ目から読んでいくだけじゃなくて、いきなり最終ページも読めるし、途中のページも読めるという形にしています。もちろん1ページ目からやっていもいいんですが、途中のページが気になるなら、そこからプレイできるようにもしています。
――自由度の高い作りなんですね。
稲船氏:自由度は高いですよ。最終ステージから始めることができるシステムになっていますので。まあ、いきなり挑んでも勝てませんけどね(笑)。
――ゲームのスクリーンショット以外にもキャラクタービジュアルやアートデザインを公開されていますが、こういったイラストを多数制作したり公開することに何か理由やこだわりはあるのでしょうか?
稲船氏:共闘という話の中に、心の戦いというか、魂の戦いみたいなものを盛り込んでいますので、やっぱりアートスタイルにはすごくこだわっています。単にパラメーターが強い弱いといった事務的なものだけでなく、プレイヤーにも戦う敵にも過去がありますので、登場キャラクターの心の部分を分かってもらうために意識してビジュアルを制作しています。
ゲーム内でもボスを倒そうとしている時に人間だったころの心の叫びが聞こえたりしますが、そういった苦しみや悲しみなどを知ってもらいたいんですね。アートにはそういう部分を込めていますので、デザインの良い悪いだけでなく、アートをどんどん公開することで、ゲームを購入してもらう前にこのゲームの深いところを感じてもらえればいいかなと思っています。
――ご自身がデザインを考案されたモンスターはいるのでしょうか?
稲船氏:いえ、今回僕はそこまで出しゃばっていないです。プロデューサーではなく、コンセプターであることを貫いていますので、ちゃんとSCEさんにもプロデューサーがいて、comceptにもディレクターがいて、それぞれがしっかりとやってくれています。アートに関しても、comcept側とマーベラスAQLさん側にそれぞれ担当がいますし、SCEさんにチェックしてくれる人がいます。
そういう人たちにコンセプターとしての指示は与えますが、こういう風にしてくれとか、こういった敵にしてくれといったことは今回まったくやっていないので。それでも指示通りというか、指示以上のものが上がってきますので楽させてもらっていますし、アートに関しては特にそうです。
――ではお気に入りのモンスターを教えていただけますか。
稲船氏:結構全部気に入っているんですけど、公開している中で言うと、ケルベロスはカッコよく描かれているんですけど逆にカッコよすぎて、ハーピーのほうが可愛いですよね。キモカワイイ。それにケルベロスが燃えても何というか普通ですけど、ハーピーが燃えると臭そうな感じがするじゃないですか(笑)、それも気持ちいいですよね。本当に全部が個性的なので、いいキャラクターばかりですし、今回初めてPVで出したリヴァイアサンもインパクトありますよね。
――武器や魔法で気に入っているものはありますか?
稲船氏:武器はやっぱり使いやすい、使いにくいがあると思うんですが、僕は下手くそなので、近距離よりも遠距離攻撃が好きですね。ただ、近距離の中では体当たりするような魔法や、瞬時に早く移動できる魔法があって、それを使ってみんなの周りをグルグル回っていると、自分は全然攻撃に参加していないんだけど、すごい活躍している気になれるという意味ではいい魔法なんじゃないかなと思います(笑)。
――会場で試遊させていただきましたが、ボス戦の戦闘時間がやや長めに設定されている感じがしました。これはボスの心の叫びが聞こえてくるといった、ストーリーやボスの背景を描くためでしょうか?
稲船氏:今回出展したものはゲームショウ用に作っているので、あれが普通のプレイのものではないんですよ。限られた時間の中でユーザーさんに何を感じてもらうかが大切なので、雑魚をちまちま倒して、ボス戦が始まったら「はい、時間終わりです」とはできないじゃないですか。ボス戦が始まっていろいろ試したいのにすぐ倒し終わってしまうのもダメなので、雑魚はいますよという程度にしておき、ボス戦をしっかり楽しめるように長く設定しているというのがあります。
わりと自分の体力も多めに設定していますが、戦闘中にいろいろな魔法を試して、でも自分が死んでしまったり隣の人が死んでしまった時、その後どうするかな、ということもできるよう、微妙な設定をギリギリまで作っていました。なので試遊台はゲームショウ専用のチューニングになっています。
――では実際の製品版ではバランスが変わると。
稲船氏:それは本の1ページ目と、例えば350ページ目は違いますから(笑)。1ページ目からあんなに長く戦うようにはなっていなくて、もっと簡単に倒せるものも当然あります。
――魔法を使うには供物を消費しますが、これらがなくなってしまうことはないのでしょうか?
稲船氏:供物は自分が装備しているものは消費アイテムなのでなくなっていきます。ですがステージ上にも供物があり、それを使って体力を回復することも可能ですし、あとは供物を持っていかなくても魔法が使えるような要素も一部あったりします。なので、雑魚敵を倒して供物を手に入れたりとか、持っている供物がなくなった時にどうするのかという選択も用意しています。
ただ、モンスターを生贄にしても必ず体力回復の供物がくるか分からないので、回復の供物が手に入らず体力がどんどん減ってきたとき、救済というものが生きてくるんです。今回の試遊では、たぶんほとんどの人が生贄を選択します。そっちの方が派手ですから。でも実際にプレイしていると、救済を選択しなければいけなくなります。それもこのゲームの重要なところで、偽善的に救済したいのでなく、自分が生き残るために救済しなくてはいけないというシチュエーションが来る、そういったゲームになっています。
――どちらか一方を選び続けることはやはり難しいのでしょうか?
稲船氏:自分で救済は絶対にしないと決めても、そこにはすごい試練が待っていますよ。生贄にせず、救済しかしない場合はもっと試練が待っています(笑)。真実のファンタジー、リアルなファンタジーを描きたいと思っていますが、世の中もこういうことだろうなって。
例えば会社で働いていて、自分はこうしたい、正義を貫きたいんだと言っても、上司の命令には従わざるを得なくて、間違っていると思うことを部下に言ってしまうことって多々あるんですよね。それって、自分が代償を払うのが怖いからやっている行動になっちゃうんです。
本当に代償を払えれば、それこそ自分がクビになってもいいと思えれば部下に正しいことを言って間違いを正すこともできます。でも、それをリアルに会社のゲームを作ってやっても面白くないなと(笑)。
――確かにそれはかなりシビアですよね。
稲船氏:なので、ファンタジーの世界で自分がリアルに経験していること、本当は上司の命令に従いなくないんだっていうのをここでぶつけてもらえればいいし、上司と一緒に遊ぶことになったら迷わず生贄にしてもいいんですよ。そういうストレス発散になるようなゲームにもなっていると思います。僕がプレイしていても迷わず生贄にされたので(笑)。
――その生贄と救済によってその後の展開も変化するのでしょうか?
稲船氏:エンディングに行くまでの道のりであったり、ストーリーやクエストであったり、それらの変化があります。この部分で言うと、ただ単に経験値の変化だけではない変化を楽しんでもらえると思います。
――事前のセッションでは、装備も魔法でまかなうと聞いたのですが。
稲船氏:そうですね、防具では岩をまとう魔法があったりして、戦隊キャラみたいになります(笑)。そのまま剣を振ったり魔法を使って攻撃もできますから、防具の魔法を入れているとお得な感じがしますよね。
――発表会では自分の背骨を引き抜いて使うというエクスカリバーの使用方法もお話しされていましたが、その辺りの考案は開発スタッフの方が?
稲船氏:考案はうちのスタッフがしますが、僕はヒントを与えるんですね。やっぱり普通に考えると、最強の武器を死んでまで使おうと思わないじゃないですか。でもそこで「死んでもいいじゃん」って言うんですよ。最大の代償はやっぱり自分の命だよねって。もっと言うと、自分の命よりも最大の代償があるとすると、例えば家族や愛する人の命、それが最大の命ですよね。
そうすると、自分の家族と一緒にプレイしていて、家族を犠牲にするのかどうか。仮に奥さんを犠牲にするとき、奥さんに怒れるのを覚悟して犠牲にするのか、それともざまあみろなんて思いながら犠牲にするのか、いろいろあるじゃないですか。なのでゲームにのめり込めばのめり込むほど、誰かを犠牲にするにはすごい覚悟が必要になるので、その辺りのことをスタッフに言ってあげるんですよ。そうすると彼らは、エクスカリバーを使うために背骨を抜いて死んでしまってもいいんじゃないか、という発想を出してくるです。
――モンスターの考案はされていないとのことですが、もしご自身がモンスターになるとしたらどんなモンスターになると思いますか?
稲船氏:(モンスターは自分の欲望を形にするので)なんだろう…僕の一番の欲望は。結構物欲が強いんですよね。僕はすごい何でも集めるんですけど、カメラとかも好きで、大体何でも200ぐらい集めるんですよ。そうすると何となく買うものがなくなってきて飽きるんです。なので物欲の強そうなモンスターかな。
――最後にユーザーの方へメッセージをお願いします。
稲船氏:ユーザーさんの期待に応えることを考えてずっとやってきました。その前にSCEさんの期待に応えなければいけず(笑)、それをクリアするのは大変なんですが、じょじょにクリアしつつあります。SCEさんもすごく力を入れてくれていますし、その期待に応えられる、ユーザーさんにしっかり届けられる作品になってきていると思います。
ユーザーさんの声を入れつつ、必ず満足してもらって、このためならPS Vitaを買ってもいいと必ず言わせたいと思っているので、体験版も用意していますし、発売前にPS Vitaが品切れになる前に、先にPS Vitaを買って体験版を楽しんでもらいたいと思います。ぜひ期待していてください。