デジタル・フロンティアが制作し、ソニー・ピクチャーズエンタテインメントが配給を担当するフルCG映画「バイオハザード ダムネーション」が10月27日より上映開始となる。今回、本映画の監督を務める神谷誠氏へインタビューを行う機会が得られ、制作エピソードなどを伺ってきたので、その内容をお届けする。
――まずフルCGならではの魅力を教えてください。
神谷氏:日本で映画を作っていると制約が多かったりするのですが、フルCGの場合、そういった制約が少なくていろんなことができるので、そこが作り手側の魅力としてありますね。
――映画は2Dと3Dどちらも上映されますが、3Dで見たときの魅力はどこでしょうか?
神谷氏:試写会などで見てくれた人たちからは、「やっぱり3Dで見た方がいいですね」と言っていただけました。というのも、「うわっー!」と驚かすような3D効果というのもありますが、それに終始して見終わると疲れてしまうような感じにはせず、自然に見られる3D効果になっているからだと思います。2Dだと位置関係が分かりづらかったりするのが、3Dでは空間的な広がりがあって分かりやすいと言ってくれた方もいますね。
――3Dだから苦労した部分というのはありますか?
神谷氏:苦労とは言いませんが、2Dと3Dでは演出や画面の作り方が微妙に異なり、3Dに向く向かないということがありますので、そこは注意して制作してきました。あとは2Dの場合、一度ひとつの画面を作ったら終わりますが、3Dの場合は左目用ができたら右目用を作らなければいけないというのがあります。ただ、最初からフルCGの3D映画を作ることになっていたので、カメラの設定をずらせば済みますし、微調整は必要でしたが苦労というほどの苦労はなかったと思います。
――試写会にお伺いして映画を見ましたが、リッカーは動きが素早く3Dでの表現が大変かなと思ったのですが。
神谷氏:リッカーにもモーションキャプチャーを使っています。役者さんが演じたお芝居をCGのデータに変換していくのですが、やっぱり人と違う形をした生き物なのでそれだけだと難しいですし、僕も今回の映画を製作するにあたって、リッカーは全部手付け(イチからアニメーションを作ること)になると思っていたんです。
ですがアニメーション部から、できる範囲でリッカーもモーションキャプチャーをしてほしいとリクエストがきたので、アクションチームの人たちには飛びかかる姿などリッカーっぽい動きをしてもらいました。そこで一番大変そうだったのが、四本足で走り回る部分ですね。昔、怪獣の動きを表現するときには膝をついて歩いていたりしたのですが、それだとスピーディーに動けないので、膝を使わずに四足歩行でスタジオの中を走りもらいましたが、普段使わない筋肉を使って辛かったみたいですね。
――リッカーもモーションキャプチャーで作っていたんですね。
神谷氏:基本的な部分はキャプチャーしていますが、アニメーションのスタッフが手付けしたものとミックスして、今の形になっています。
――監督ご自身もモーションキャプチャーに参加されたということですが、どの役で出演されているんでしょうか?
神谷氏:一番わかりやすいところでは、中盤にプラーガという寄生生物を口の中に押し込まれる兵士がいるのですが、その人の動きは僕がやっていますね。あとはモブのゾンビ、今回はガナードという言い方をしますが、そのガナードもいくつかやっています。
――モーションキャプチャーに参加しようと思ったきっかけは何でしょうか?
神谷氏:昔からキャプチャーの仕事を何本かやっているのですが、通常のお芝居は当然役者さんがうまいですし、アクションはアクションチームの人がうまいに決まっています。ただ、クリーチャーというかゾンビのような、いわゆる怪物っぽい動きは、どのカテゴリにも入らないじゃないですか。なので、意外とそういうのは自分がやったほうがうまいんじゃないか、と思いつつ監督をやっていたんですよ。
ただ、モーションキャプチャーをするには専用のスーツを着ないといけないですし、「ちょっと俺がやってみる」というわけにもいかず、なかなか機会がなかったんです。ただ今回、アメリカから呼んできた役者さんにお芝居をお願いしたのですが、それらが終わって、最後に撮りこぼしたりもう一度やりたいと思ったところをスタッフだけで収録する日が一日だけあったんですよ。映画的に言うと“うちトラ”というやつですね。それで「これはチャンスだ!」と思い(笑)、今回やらせてもらうことにしました。
――実際にやってみた感想はいかがですか?
神谷氏:自分がどんな動きをしていたのかが分からないので、結構難しいなと思いつつも、CGになったのを見てから「ああっ、こういう動きをしていたんだな」という感じでした。
――今回アメリカの役者の方を起用されたようですが、日本と海外の役者で違いはありますか?
神谷氏:「バイオハザード」って英語でお芝居をする話なので、出てくる人も外国人じゃないですか。なのでリアルなお芝居をしてもらおうと思うと、帰国子女で英語が喋れる人と比べても、リアクションが違ったりします。例えば「Oh!」と言うときも、顔の動きや表情の付け方は、日本人と外国人では全然違うんです。やっぱり外国人と比べると日本人って表情が少し乏しいですし、リアクションも薄いので、リアルなお芝居をしてもらうなら外国人の方にやってもらうほうがリアリティに繋がってきます。
ただ、僕が初めてキャプチャーの仕事をした「ディノクライシス3」では、その時も英語のお芝居だったので外国の方を呼ぶことになっていたのですが、“外タレ”という、何かの仕事で日本にやってきて、空いた時間で芝居やモデルをやるという人たちがほとんどだったんです。なので台本を渡してもちゃんとしたお芝居ができるわけではないので、当時は大変でした。
ゲーム業界でも、外国人でなおかつちゃんとお芝居を勉強している人に演じてもらわないとダメだと思ったらしく、外国で収録するというのがよくあるパターンです。今回制作を担当しているデジタル・フロンティアは、東洋一広いキャプチャースタジオがあるというのがウリなので、外国からアクターの方を呼んできてお芝居をしてもらいました。やっぱりみなさんプロの役者なので、事前に台本を読みこんで役に対するアプローチも自分で考えてきてくれますし、それに対して僕が「もうちょっとこんな感じで」と指示を出すと、的確にお芝居をしてくれるので、ちゃんと外国の役者を呼んでよかったなと思います。
――キャラクターの見た目だけでなく、表情も非常にリアルでしたが、その辺りもこだわりがあるのでしょうか?
神谷氏:そうですね。CG技術は日に日に進歩していくじゃないですか。前作「バイオハザード ディジェネレーション」の反省点として、技術が成熟していなかったところもあると思うのですが、やっぱりキャラクターの表情が少し硬かったかなと。特にレオンはカプコンさんからも厳しくチェックが入りますので、アニメーターがキャラ崩れを恐れて、表情を小さくしてしまったところがありました。
それから4年ほど経ちますが、今の技術だと役者さんのフェイシャルキャプチャーといって顔もキャプチャーしますので、ちゃんといい表情が作れるようになってきましたし、今回は僕が当初想像していたよりもいい表情になっていると思います。
――キャラクター以外でカプコンさんからオーダーはありましたか?
神谷氏:まず「ダムネーション」が決まった時、次もレオンでやってほしいというのがありました。あとは前作の舞台がアメリカだったので、次は(アメリカ以外の)外国を舞台にしてほしいというのもありました。そこからは、逆に僕の方から「エイダを出しましょう」「舞台を東欧にしましょう」といった提案をさせていただきました。
ほかには、当初クリーチャーをたくさん出してほしいというオーダーがありましたが、スケジュールや予算、話の規模感などから厳選し、リッカーとタイラントに絞って登場させることになりました。ハニガンについてはあまり何も言われませんでしたが、レオンやエイダ、クリーチャーに対するオーダーはありましたね。
例えばタイラントに関しては、わりと「ダムネーション」オリジナルのデザインになっています。というのも、映画に出てくるタイラントは身長が5mぐらいあるのですが、ゲームに登場したタイラントの設定は3mぐらいなんですよ。やっぱり5mはでかすぎると指摘があったのですが、こういう理由があるため大きくしていますと話し合いをして今の姿を通していただきました。
それから、レオンを出すことが決まって僕がエイダを出したいと思っていたこともあり、最初は二人の濃密なラブストーリーを軸とした話を作れないかと提案したんです。そのときは何も言われなかったのですが、基本的に映画を作っている間、僕のところにゲームに関する情報は入ってこないので、途中で「ちょっとラブストーリーものはやめてもらえませんか」と話があり「ああ、恐らく『バイオハザード6』の方との兼ね合いが出てきたんだろうな」と薄々感じたこともありました(笑)。
――映画制作の際にはウクライナにロケハンに行ったとのことですが、ロケハンに行くまでの経緯を教えてください。
神谷氏:前作でも本当はロケハンに行きたかったんですが、スケジュールの都合で行けなかったんですよ。ただ、アメリカは何回も行ったことがありますし、スタッフの中にも行ったことがある人がいるだろうし、ハリウッド映画を見ればアメリカがどんなところか、何となくイメージもできました。ただ、東欧っていうと、みんなそれぞれイメージが定まらないんですね。
僕は十数年前に押井守監督の作品で「アヴァロン」という実写映画があり、その時にスタッフとして参加していて、2か月半ほどポーランドに行ったことがあるんです。そこで見た、レンガや石造りの建物、古い石畳、旧ソ連支配下の時代に作られた妙に仰々しい建物などが印象に残っていました。
「ダムネーション」でも街中に戦車を持ってきたりしていますので、そういったミリタリーな雰囲気ともマッチすると思い、外国だったら東欧がいいねと話をしていました。それで脚本の菅(菅 正太郎)さんがストーリーのネタにするため、ウクライナの色んな場所を参考に資料を調べていたこともあるので、ウクライナに行くのが一番いいだろうということになりました。
――ウクライナでは具体的にどのような場所を訪れたのでしょうか?
神谷氏:「ダムネーション」の冒頭では地下道みたいな場所が出てくるのですが、そこは実際に街の下に地下道が張り巡らされている、ウクライナのオデッサという街を参考にしました。もともとは街の実効支配を強めるため、石を切り出して早く街を作ってしまえという経緯で地下道ができたのですが、第二次世界大戦中にパルチザンという人たちが立てこもってナチスドイツに抵抗運動をしていたところでもあるんです。映画でもその話を参考にしている部分があるので、実際に訪れてその雰囲気をCGで再現しています。
街の様子では、リヴィヴと呼ばれる旧市街を参考にしました。古い石畳の建物があったり、官庁街、映画内では大統領府と言っていますが、いわゆる旧ソ連っぽい建物がたくさんありました。ほかにも、冷戦中に使われていたと思うのですが、潜水艦の秘密基地のような場所も行ってきましたね。入り江の山みたいな場所があり、その中がくり抜かれ、奥はミサイルを受けても大丈夫なような防爆扉に守られていて、今は使われていないことから見学コースになっていました。
米ソの条約によって、廃止になった核ミサイルのサイロも公開されている場所があるんですよ。アメリカにも一箇所あるみたいですが、今回行ったのは原っぱのような場所にポツンと小屋が立っている感じのところでした。ここも見学コースなので、周りには昔のミサイルが展示されていて、小屋の中もこれまでの歴史が展示されています。
ですが、小屋の中に床が開く場所があり、地下につながる階段を下りてトンネルを進んでいくと、さらにエレベーターがあり、それに乗ると実際に核ミサイルの発射ボタンがある施設になっていました。見学コースの付添いで一緒にいたおじさんが「じゃあお前核のボタン押してみろ」って押させてくれたりと(笑)、結構面白いところがいっぱいありましたね。
映画内の官邸は、第二次大戦中にスターリン、チャーチル、ルーズベルトの3人がヤルタ会談を行ったリヴァディア宮殿が、古くて豪華な執務室があったりして、いかにも首相官邸っぽい場所だったので参考にしました。ウクライナには結局一週間弱ロケハンに行っていたのですが、見に行った場所は一箇所にまとまっていなくて、朝6時出発で車移動みたいな強行軍でしたね(笑)。本当はチェルノブイリも見ますかという話があったのですが、スタッフのみんながみんな僕みたいな命知らずではないので、そこは見れなかったですね。
――撮影やロケハンで海外にいくことがあると思いますが、今回に限らず、海外で印象に残ったものや撮影に影響を与えた場所などはありますか?
神谷氏:もともとポーランドが東欧のイメージとしてあり、街中に戦車をもってきた風景とか、実際に戦車に乗せてもらったこともあるので、同じ型の戦車をモデリングして人を乗せたときに、「僕が入ってこれぐらいだったから、隙間はもうちょっとこうだよ」といった指示がリアルに言えたというのがあります。こういう仕事をしていると、普段人が行けないような場所に入る機会があるんですよ。今やっている仕事でも、自衛隊の基地で撮影をしているんですが、陸海空を全部制覇しました(笑)。
――ストーリーは政府と貧困層の反政府勢力の紛争が描かれていることもあり、若干思想的な部分もありますが、こういった内容を描くときに気を使った部分はありますか?
神谷氏:結果として思想的な感じになっているのかもしれませんが、紛争を取り扱っていますので、戦争万歳にしてはいけないだろうというのはあります。アメリカやロシアといった大国が小さな国に及ぼす影響であったりとか、小さな国の中のさらに小さな人たちの意見であったり、そういうものは力の大小で揉み消してはいけないものだろうと思っていますので、一辺倒では描かないようにするというのが基本的な姿勢です。
――10月4日にはゲームの「バイオハザード6」が発売され、監督ご自身もシリーズが好きとのことですが、映画とゲーム、それぞれどこが魅力だと考えていますか?
神谷氏:前作の「ディジェネレーション」もですが、フルCG映画なので、当然CGでキャラクターを作るじゃないですか。ゲームもキャラクターはCGで作られていますし、同じCGなので見た目はどうしても同じになってきます。一方の実写版は、ゲームのキャラクターや設定は使っていますが、世界はだいぶ違いますし、言ってしまえば“ポール・W・S・アンダーソンワールド”なんですよね。
「バイオハザード」はゲームファンが多い作品ですし、CG映画の場合は見た目もほぼ同じなので、あまりゲームからかけ離れたことをすると、ゲームファンの方に違和感を感じさせてしまいます。僕自身が「バイオハザード」のゲームが好きだというところもあり、ゲームの世界観を大切にしたいなと思いながら作っています。なのでそれぞれの魅力というより、そこの融和性が魅力だと思います。
――最後に上映を待っているユーザーへメッセージをお願いします。
神谷氏:今年は奇しくも実写版映画の公開があり、「バイオハザード6」が発売され、フルCG映画として「ダムネーション」があるという「バイオ」祭りになっています。どういう巡りあわせか、「ダムネーション」がその祭りのトリを飾る作品になっていますので、たっぷりと「バイオ」ワールドに浸っていただき、最後に「ダムネーション」も楽しんでいただけると嬉しいです。
また、すでに「バイオハザード6」をプレイしている方もたくさんいると思いますが、ストーリーは「6」の前を描いたものになっていますので、どういう話の繋がりなのかといった面からも楽しんでいただけると思います。CG映画というと敷居が高いと感じるかもしれませんが、見ていただけたら絶対に面白い作品になっていると思いますので、先入観をもたず映画館に足を運んでみてください。
(C)2012カプコン/バイオハザードCG2製作委員会
※画面は開発中のものです。
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