12月8日、法政大学・市ヶ谷キャンパスにおいて、「カードファイト!! ヴァンガード」「探偵オペラ ミルキィホームズ」などで知られるブシロード・代表取締役社長の木谷高明氏による講演会が行われた。
「自身の持つ哲学、ベンチャー経営論、それてこれからの日本の文化産業の展望」をテーマに掲げたという本講演では、ブシロードに至るまで、約20年にもおよびキャリアの中で見えてきたもの、そして木谷氏から聴講者に向けてのメッセージなどが語られた。
木谷氏の半生から見えた起業のタイミングの難しさ
今年52歳になるという木谷氏は、中学・高校生の頃はテストなど、人と同じ答えを書くことで評価される仕組みに疑問を持っていたそうで、地元の公立高校に落ちたり、真面目には勉強をしていなかったそう。しかし、高校2年生の時に大学に行かなければ先へ進めないと考えて勉強をはじめ、2年間で14もの大学を受験し、武蔵大学経済学部に進学を果たしたという。
幼少期に読んでいたという「男一匹ガキ大将」などを通じて、時には価値が50倍にもなるという成長率の高さから株や経済に興味を持っていたこともあり、大学卒業後に山一證券に入社。その後、営業成績がよかったため、入社5年目でアメリカで勤務させてもらうことになったそうだ。
冬休みに車でアメリカを一周したり、看板に書いてある飲食店までの距離が100マイルだったなど、スケールの大きい話のほか、ブロッコリー時代に行なっていたコスプレダンスパーティー「コスパ」のアイデアのもとが、アメリカでのハロウィンダンスパーティーにあったことなど、アメリカでの経験談が語られた。
木谷氏が山一證券で働いていた80年代は、“大企業至上主義”で、独立してベンチャーを作っても取引をしてくれず、うまくいく可能性は低かったそう。しかし、アメリカにいた頃にベンチャーキャピタルに興味を持ったという木谷氏は、ベンチャー企業に話を聞いた時に小規模の会社にも関わらず、高学歴な人材が揃っていたことに刺激されたのだという。
小学校の頃、将来の夢に「大会社の社長になりたい」と書いていた木谷氏だったが、この時に初めて「会社を作らなきゃダメかな?」という起業のビジョンを持ったと話していた。
日本に戻ってきてからは、起業のための準備を始めようとしたものの、金融・証券系は、ブランド、組織、お金、システムが必要な免許事業で、独立に不向きな業種だったことから、起業したいと思ってはいたものの、何をすべきかわからず、その後5年間は勤め続けたのだそう。
また、木谷氏によると、ベンチャー企業を設立するにあたっては最初に入社する会社は選んだほうがいいという。そのポイントとして、将来、自身がやりたいと思う業種が、業務の延長線上にある企業に入ること、大企業に入っていい点、悪い点を見つつ、自身のキャリアにすること、ベンチャー企業の場合、社長の近くで経営者の考え方を学べる会社であることの3点を挙げていた。
その後、山一證券で9年半ぐらい働いた頃、ついに起業を決意。当時、子どもはまだ1歳ぐらいだったものの、むしろ子どもが幼いうちにやるべきだと考えていたそうで、また、奥さんにはすでに「起業するかもしれない」と話をしており、障害はなかったという。むしろ、精神的な支えや相談相手になるので、起業する人は結婚するか、もしくは相談できる人がいればいいと考えているそうだ。
むしろ、説得が難しかったのは両親のほうで、最初に始めようとしていた同人誌即売会のことを説明しても内容を理解できず、「支店長になればいい」と言われたのだという。
しかし、木谷氏は当時から、証券業は経済の発展に乗っている商売であり、ここ20年、日本の経済の規模が変わらず、また海外の経済の発展にも乗り遅れたことから、証券業は衰退業だと思っていることを両親にも説得したという。
このように、人生において何かを決断することは環境が大事であるとし、前向きな理由だけでなく、2、3割の後ろ向きな意見があったほうが思いきれるし、そのタイミングは運次第であると話した。
カードゲームを遊んで理解した“勝ちたい”という気持ち
そして、翌年の3月に退職氏、4月から友人のオフィスを間借りするかたちで立ち上げたのが「ブロッコリー」となるわけだが、なぜ同人誌即売会からビジネスを始めたのかについて、同人誌即売会を通してマーケットを把握し、ノウハウを蓄積したかったと説明。その中で見えてきたのが、キャラクタービジネス、そしてカードゲームビジネスだったそうだ。
カードゲームビジネスに注目した理由として、起業した96年当時は、日本でトレーディングカードがブームになっており、アニメ、ゲームを題材にしたものを多く売れていたという。そこからカードゲームへの流れに乗り、生み出されたのが「アクエリアンエイジ」だ。
木谷氏は、その段階でカードゲームについて、7割までは理解できていたと話す。カードゲームビジネスはインフラビジネスであり、ゲームが長く続く、一緒に楽しむ仲間が増えていくという安心感が必要であると考え、新商品発売前に長期的な販売、大会のスケジュールを発表し、宣伝にも力を入れることで人気を高めていったのだそうだ。
ただし、その当時は自分であまりプレイせず、その段階から先には進めなかったことを反省しつつ、初めてしっかりとプレイするようになった「ディメンション・ゼロ」から得られたものが、大きく今後につながっていったのだそう。
それによると、カードゲームは基本的に実力に左右されやすいジャンルであり、誰でも基本的には自分が勝ちたいという思いがあることから、一方的に負けた場合、ゲームから離れてしまう恐れがあることに気づき、カードゲームは相手に勝ちつつ、仲間と一緒に遊べるものにしなければいけないと考えたのだそう。
その点はブシロードの起業後、最初に手がけた「ヴァイスシュヴァルツ」で徹底的に意識したという。結果として勝負が拮抗するシステムを作ることで、プレイヤーが負けたとしても惜しかったと思ってもらい、仲間を増やし、かつキャラクターを好きな人に楽しんでもらえるゲームとして「ヴァイスシュヴァルツ」が生まれた。
発売後、最高で15億円くらいで想定していた売上が、30億円ぐらいの規模になり、キャラクターを用いたカードゲームとしては異例のヒットとなった。
以後、カードゲーム市場で世界一を目指すというビジョンを掲げることとなるが、その過程として、まずはキャラクターもので成功させて、次に子供向けのカードゲームを展開することは最初から決めていたのだという。そして、「ヴァイスシュヴァルツ」などの成功を発表したのが、「カードファイト!! ヴァンガード(以下、ヴァンガード)」だ。
過去、子供向けのカードゲームに成功例は少ないと考えていた木谷氏は、「遊☆戯☆王」を手がけた高橋和希氏の弟子のひとりである伊藤彰氏を紹介してもらい、伊藤氏の温めていた企画を元に、「ヴァンガード」が生まれたのだそう。
その後、「ヴァンガード」のCMに、知名度の高い人を起用しようということになり、タレントと子供が一緒に出ているCMをイメージした上でお願いしたのが、DAIGOさんということだ。ちなみに、今現在放送中のCMは11作目となるが、現在のCMはあと1作で完結し、その後の話が今年のゴールデンウィークに放送された実写ドラマ「STAND UP!ヴァンガード」につながるのだという。
新日本プロレスの子会社化、そしてブシモのサービス展開へ
そういったプロモーションなどを通じて、「ヴァンガード」はカードゲームをやらない人でも知っているタイトルにまで育ち、そこまでは木谷氏自身の想定内だったそうだが、今年1月に子会社化した新日本プロレスリングに関しては偶然のタイミングだったという。
なぜ子会社化したのかという点については、キャラクターコンテンツビジネスとしての可能性、そして木谷氏自身も好きなプロレスというコンテンツがこのままでは忍びないという2点からだったという。特に、キャラクターコンテンツビジネスとしては、一度人気を獲得すれば競合が少ないこと、そして、海外向けに人気が出る可能性も高いことを挙げていた。
子会社化後は、さまざまなプロモーションを展開したこともあり、観客動員が増え、ファンにも訴求できる好カードが増えたという。また、現在サービス中のオンラインゲームとTCGを融合した「キング オブ プロレスリング(以下、キンプロ)」についても、購入はアナログ、対戦はオンラインという、今までとは異なるノウハウを蓄積できたということで、今後も同様の仕組みで出す可能性があると語っていた。
20万DLを突破したことが発表された。" />20万DLを突破したことが発表された。
さらに、先日サービスを開始したばかりのスマートフォン向けサービス「ブシモ」についても説明。このプロジェクトは多くの開発費を投じた、リスクの高いビジネスであり、スマートフォン市場に参入するのも怖かったそうだが、今後を考えた時、エンタメを扱う会社として関わっていないことのほうが怖いと考え、参入を決めたのだという。そして、このビジネスについては、自身がデバイス系に疎いということもあり、他のスタッフにまかせていると話した。
今後のスマートフォンの普及台数が倍になるのは間違いないと踏んでいるそうだが、すでに配信中の「恋愛リプレイ」に関しては、講演会時点ですでに20万ダウンロード近くまでいくなど、好調な出だしを見せており、上手くいくと思っていると自信をのぞかせていた。
同社の今後については、アナログのカードゲーム、「キンプロ」に代表されるカードゲームとオンラインのハイブリッド型、オンライン・ソーシャルのカードゲームの3つを柱とし、アナログのカードゲームを主軸にしつつも、カードとデータの連動要素なども盛り込んでいきたいと語っていた。
若い人たちに伝えた、前向きに“ヴァンガる”ことの大切さ
その後は、事前に募っていた質問に回答することに。そこでは、自身にとってTCGは生きがいであり、自分の子供と「ヴァンガード」で勝負できることの幸せを語ったり、今の時代を突破力が必要であり、社員には実現が難しくとも高い目標を立てさせること、採用の際にはその人間のオーラを見ていることなど、木谷氏の考える価値観に沿うかたちでの受け答えが目立った。
また、先日発表会も行われた響ミュージック設立については、「ヴァンガード」「探偵オペラ ミルキィホームズ」など、自社コンテンツが増えたことで、それに関わる音楽も自社でやることがあってもいいだろうと考えたそう。さらに、プロレスのビジネスの中で映像や音楽の重要性が拡大していくのもいいというビジョンも見据えていた。
さらに、現在国が進めているクール・ジャパン事業についても、より予算を投じて、日本のコンテンツを海外で展開したり、留学生を多く呼んで海外で日本語を喋れる人を増やすべきだという持論を披露。加えて、日本ではリーダーになる人材が不足しており、組織を動かすのが難しいことに言及し、リーダーを生み出すための教育が必要であると説いた。
同様に、コンテンツ業界に入りたい人は、大体が関わりたいという理由だけであるとし、本当に必要なのは0から1を生み出せる人であると述べ、そのためには素養はもちろんだが、経験からもそういったスキルを得ることもあるとした。
まとめとして、自分の限界を自分で決めたり、若い人ほどチャレンジすべき時に守りに入ってしまうと前置きしつつ、人口が歴史上始まって以来のこれから30億人規模での成長を迎えるこれからのエキサイティングな時代だからこそ、前向きに自身を成長させつつ、面白い人生を歩んでほしいとエールを送り、講演会は終了となった。
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