エムツーが2012年12月よりライセンス提供を開始した“超・立体”映像技術「E-mote」。本技術により実現できることや今後の展望など、開発者の岡田潤氏と小出忠永氏に話を伺った。
「E-mote」(エモート)は「Emotional Motion Technology」の略称となっており、2Dイラストを立体感ある映像にすることができるイラストアニメーション技術のことを指す。そしてその「E-mote」技術を使い、イラストに立体感を与えたりするためのツールが「E-mote Lite」(エモートライト)だ。
2012年12月には「E-mote」のライセンス提供が開始され、2013年2月には「E-mote Lite」の試用版が公開となった。「E-mote Lite」では、“テンプレート”と呼ばれるものを使用することで、複雑な操作を必要とせず、クリエイター自らの手で自由に“超・立体”画像を作成することができる。
採用タイトルには、PCゲームブランド・うぃんどみるの「ウィッチズガーデン」があるほか、ツールの紹介ページでは「E-mote」を使用したサンプル動画が多数公開されている。この「E-mote」で実現できることや開発の経緯など、さまざまな話を伺ったので、その内容をお届けしていこう。
「E-mote」開発を担当した岡田潤氏と小出忠永氏へインタビュー
――まず「E-mote」の開発経緯を教えて下さい。
岡田氏:弊社では、昔からアクションゲームのキャラクターやユーザーインターフェース(UI)などを作るためのツールを社内で開発していました。現在使用しているツールの源流は、多関節キャラクターなどをグリグリ動かすためのモーションエディターとして、KONAMIさんから2009年に発売された「魂斗羅ReBirth」や「ドラキュラ伝説 ReBirth」の頃から使用しています。今回開発した「E-mote」は、そのモーションエディターをベースに、立ち絵のキャラクターを動かすことに特化して開発したものになります。
動く立ち絵を実現することになった経緯については、うぃんどみるさんからご相談をいただいたことがきっかけです。我々としても、立ち絵のキャラクターが細かく動くようになることで、キャラクターの感情表現の幅が一気に広がると予想しました。実際、うぃんどみるさんでスクリプトを担当された方もすごくいい仕事をされて、「ウィッチズガーデン」では感情表現がすごく豊かになっていました。
例えば、キャラクターが二人並んだ状態で話しているシーンでは、お互いが話すときはちゃんと相手に目線を向けて、主人公と話すときは主人公を見るという、今までになかった原理が入っています。感情表現の幅を広げるのはすごく意識した部分で、実際に動いているものを見たときは、「そうそう、これが見たかったんだ」という気分でした。
――もともと存在したツールをベースにしているとのことですが、「E-mote」として作り上げるまでの期間はどれくらいかかったのでしょうか?
岡田氏:専用のUI部分については、昨年の12月から開発を始めていますので3ヶ月程です。実際にはバックボーンとなるモーションエディターがありますので、そちらが2009年からの4年、そして専用UIの開発の3ヶ月ということになりますね。
実は「ウィッチズガーデン」開発時にはまだ「E-mote」用のUIがなく、元のモーションエディターを使い、弊社のオペレーターがイチから作成しています。それをうぃんどみるさんのスタッフが動かしているのですが、キャラの動かし方がすごい良く、こういう風に立ち絵が動けば、アドベンチャーゲーム全般のキャラクター表現や、エフェクト表現を一段上のレベルに押し上げられるだろう、という話になりました。
これをもっと広く提供してみたいと思ったのですが、ベースとなったモーションエディターが非常に複雑で、ただお客様に「どうぞ」と渡しても、使いこなすのが難しい状態でした。全部弊社で担当しようとしても、作業量が甚大になってしまいます。ですので、「E-mote」仕様のキャラクターを作成するために必要な部分だけを搭載した、専用のUIがあればいいのではないかという話になり、その結果としてできたのが「E-mote Lite」です。
――「E-mote Lite」を作る上での苦労点はどこでしょうか?
小出氏:どの機能を残すかを選択することですね。極端な話をしてしまうと、「E-mote」の仕組みでゲームのUIから何まで作ることが可能ですが、できることが多くても煩雑になり過ぎてしまいます。そのため、お客様がやりたいことを見極めて「これだけは残そう」と決め、機能を絞り込むのは大変でした。
岡田氏:「E-mote Lite」のコンセプトとして、広く使っていただきたいというものがあります。例えば自分が描いた絵を2.5次元の絵としてゲームに登場させたい、アプリにしたい、コンシューマゲームにしたい、そう思われる方は当然いらっしゃると思います。ですが、カワイイ絵を描いたので2.5次元の動く絵にして、それをYoutubeなどにアップロードして、みんなに見てほしいと思う方の方が多いと思います。
そういう方々でも簡単に使えるよう機能をチョイスしているため、表現の幅が狭まるかなと思っていたのですが、実際にツールができあがったら、自分たちが想像していた以上に「E-mote Lite」でも作れる範囲は広かったです。むしろ「ちょっと作れすぎちゃうぐらいだね」と思ったほどに(笑)。
小出氏:「E-mote」のような動きをアニメーションで表現するとなると、口パクや瞬き、眉毛の形など、いろんなパターンを用意しなければいけません。ですが「E-mote」では、変形によってパターンを用意してくれるので、動く絵が作れるにも関わらず、用意する素材は非常に少なくて済みます。
――実際のデータはあくまで2Dなのでしょうか?
小出氏:はい、2Dですね。非常に少ない素材で構成されており、髪の毛にいたっては大まかに4種類だけで構成できるようになっています。必要があれば細かく追加していただくことで、表現の幅を増やすことができるようになっています。先ほど申し上げた絞り込んだ機能については、オプションという形で順次追加していくことができるのも特徴のひとつとなっています。
――素材をたくさん用意することで、キャラクターの後ろ姿を表現したり、グルリと回転させることは可能なのでしょうか?
小出氏:そこは絞り込んだ機能のひとつです。実現そのものは可能ですが、何も知らない人がパッとやろうとするには、必要な絵素材などの問題もあって、かなり難しいと思います。
あと、2Dの絵って実は嘘をついているものが多いんですね。例えば「このリボンどこについているんだろう?」「この髪型どんな風になっているんだろう?」といったように。それを3Dポリゴンで表現する場合、どこかに落とし所を作らないといけないのですが、「E-mote」は“2Dの嘘をそのまま3Dっぽくする”ことができます。
正面のテンプレートを利用すればそのまま後ろ姿も作れますし、アドベンチャーゲームなどで会話の途中で後ろを向く機会はあまり多くないので、グルグルと回転させる必要はないかなという判断になりました。
――後ろ姿だけでなく、横向きの姿を作ることはできるのでしょうか?
小出氏:それは可能です。「E-mote」ではさまざまなテンプレートを用意していますので、斜め向きのキャラクターも表現できます。ほかにも、男性と女性のキャラクターでは頭の比率や体のサイズがかなり違いますが、それに合わせて男性用と女性用、それぞれの比率に合わせたテンプレートを用意しています。
そのため、男性キャラクターの比率に近い女性キャラクターを作りたい場合、男性キャラのテンプレートを使って女性キャラを作ることも可能です。その辺りの自由度はありますし、ちょっと丸っこいキャラクターと実写に近いキャラクター、どちらも同じテンプレートで動かせるのも「E-mote」の強みのひとつです。
こうした動作を3Dで表現するとなると、多くのコストと時間がかかってしまいますが、「E-mote」ではイラストレーターさんに絵さえ用意してもらえば、ここまで動かすことが可能です。「E-mote Lite」の試用版を提供していますが、その5時間後ぐらいにアマチュアの方がキャラクターを1体作ってアップロードできるぐらい、シンプルな仕組みになっています。
――「E-mote」用に描いた方がいいポイントはあるのでしょうか?
小出氏:正面を向いたキャラクターであれば、頭の輪郭のサイズさえ合っていれば、正面用のテンプレートをお使いいただくことで大体のものは動くようになっています。例えば二頭身キャラでも六頭身キャラでも、頭の輪郭(頭の頂点から顎の先端まで)をテンプレートのサイズに合わせていただければ問題ありません。
――では特に意識せず、普段通り描いたイラストが使えるんですね。
小出氏:描いたものを画像調整していただき、そこからパーツを抜き出して置いていく、言ってしまえばデジタル福笑いのような形式になっていますので、イラストレーターさん自身が調整することができます。過去に制作したアドベンチャーゲームの素材を使ってキャラクターを動かしたいという要望にも、恐らく応えられると思います。
――ではスクリプトの関係でプログラマーが作業したほうがいいということもなく、イラストレーターの方がそのまま揺れ具合なども調整できると。
小出氏:せっかく作ったけど使えないというのは非常に困りますので、その辺りの環境は特にこだわっています。マルチプラットフォーム展開にもこだわっており、Windows用に作った動く絵が、違うドライバーを使えばほぼ瞬時にスマートフォンや携帯ゲーム機でも動きますので、幅広く使っていただけると思います。
――2月から試用版の提供が始まっていますが、法人向けだけなどの制限はありますか?
小出氏:基本的なスタンスとしては法人様向けに作成したツールですが、個人の方からもお問い合わせが多く、ご契約を考えられている方もいらっしゃいます。
岡田氏:条件が折り合えば、個人法人という制限を付けることは考えていません。
――「E-mote」の発表後、かなりの反響があったと思いますが、御社から見たユーザーの反響やメーカーからの評判はいかがでしょうか?
岡田氏:こちらが思っていたよりも反響が強かったですね。実は少し反響を見てから営業をしようと思っていたのですが、試用版の申し込みに関する事務処理や、試用版をお使いいただいた企業様からの詳細なお問い合わせの対応などで手一杯な状況です。まだこちらから売り込みに行けていません(笑)。
――現状では、正式に発表されている「E-mote」採用タイトルは「ウィッチズガーデン」だけです。具体名は出せないと思いますが、ほかにも採用が決まっているタイトルはあるのでしょうか?
小出氏:そうですね、契約を前提にお問い合わせをいただいているところがあります。
岡田氏:コンシューマでもやりたいというお話をいただいており、どこが採用第一弾になるかという状況ですので、今後発表できるのではないかと思います。
――ゲーム開発のツールなので基本的にはBtoBの話になると思いますが、今回はリリース配信などの広報活動もされています。そのきっかけは何でしょうか?
岡田氏:弊社の社長から、いろんな人に使ってほしいため、個人の方にも開放しないかという話がありました。元々は業務用ツールですし、試用版をお使いいただける一ヶ月間はできるだけ手厚くサポートしていく方針だったため、正直難しいと思っていました。ですが実際にツールを触ってみると、頻繁にフリーズしてしまうこともありませんし、軽くて使いやすいツールに仕上がっていましたので、これなら個人の方にも触っていただけるかなとなりました。
一番大きいのは社長の意向なのですが(笑)、それに加え「E-mote Lite」の安定性があり、営業側としても宣伝になっていいのではという3つの判断があってGOが出ました。業務用ツールなので決して安いものではなく、同人サークルや一般の方で採用されるところは少ないかなと想像していたのですが、個人で抱えている仕事で使いたいというお話もいただいていますので、やってよかったなと思っています。
値段設定もあくまで業務用ですが、個人でも手が届かない訳ではない範囲になっています。本当はもう少し安くすることも可能ですが、ドライバーやサポートを全て含めた価格なので、一般の方が30万円という金額を見ると高く感じるかもしれませんが、業務用のツールとしては非常に安いと思っています。
――「ウィッチズガーデン」での動きをみると、シーンやキャラクターのセリフに合わせて動くという印象を受けました。セリフを止めた状態でも、ループ処理などでキャラクターの息遣いを表現することはできるのでしょうか?
岡田氏:可能です。「ウィッチズガーデン」では、負荷と表現の問題から、あえて息遣いのような表現は外されています。PCでアドベンチャーゲームをプレイされる方の中には、意外とスペックが低いマシンで遊ばれる方が多いため、なるべく演算が同時に発生しないよう、常に動かす表現は避けたという事情があります。最近のスペックのPCでしたら「ウィッチズガーデン」で同時に表示できる最大3キャラクターがずっと動いていても問題ありませんが、低スペックでも動かせるよう、CPUやGPUの負荷が考慮されています。
小出氏:あとは演出の都合として、常に動いていると目が慣れてしまい、人によってはうっとおしく感じてしまうこともあります。アドベンチャーゲームは基本的に現在喋っているキャラクターにフォーカスしたいため、常に周りのキャラクターも動いていると困るという面がありました。
――ゲームのシステム設定で、揺れ具合や慣性のオン/オフなどを設定できますが、これはツール側で実現しているのでしょうか?
小出氏:正式版に入る要素として「E-mote physics」(エモート フィジックス)という仕組みがあります。これは髪や胸の揺れを座標関係から自動で計算し、その揺れ具合を調整できるというものです。揺れを無しにすることもできますし、パーツごとに揺れのテンプレートというものがありますので、そこから選んでいただくことでバインバインと揺れるようになったり、一回だけゆさっと揺れるようにしたりと、自由自在に変えることができます。
――キャラクターだけでなく、アクセサリー類も動かせるようになっていますが、キャラを動かすのと異なる部分はあるのでしょうか?
小出氏:それは正式版でのサービスプランとなりますが、追加パーツを増やし、それを動かしたいというサービス提供も考えております。標準の「E-mote Lite」ですと手の動きなどはできませんが、追加プランを選択していただくことで身振り手振りや、先ほどのお話にもあった息遣いのモーションを追加することができるようになっています。
岡田氏:この辺りは追加プランでオーダーいただき、弊社のオペレーターが大元のモーションエディターを使い、キッチリ作り込んでお渡しするというプランで考えています。その方が、お客様と弊社の作業負荷を考えても良い分割の仕方かなと思っています。
――背景も動かせるとのことですが、キャラクターを動かすことと作業的な違いはあるのでしょうか?
小出氏:背景を動かしたりするのは「E-mote Lite」のプランからは外れまして、ベースとなったモーションエディターの仕組みになります。
岡田氏:ただ、「E-mote Lite」にも背景を動かせる仕組みを搭載する方向で考えており、背景のパーティクルのパラメーターを調整して、絵を差し替えるだけで動く背景が作れるというものも、近日中に公開する予定です。
――「E-mote」の紹介ページでは、イベントCGを動かす「夏の海」と、背景を動かす「雪景色」の解説動画がありましたが、どのように作られているのでしょうか?
岡田氏:これは一品もので、ベースのモーションエディターで作り込んでいるサンプルになります。BGテンプレ(背景テンプレート)に関しては、これから「E-mote Lite」にも組み込む予定ですので、こんなことができるというのをお見せするのがいいかなと思って公開しています。
雲の動きは、そのプランが使えるようになったら背景の変形パターンを変えることで、お客様でも再現が可能になります。魚眼レンズのような効果を入れたうえで、背景の画像を微妙にシフトさせ、歪みをうまく活用して動かしています。
小出氏:動かしているものを1枚の絵と考え、さらにそれを動かして重ねていくこともできるようになっています。重なっている動きの中から一枚だけリアルタイムで別の動きをさせてみたり、一枚だけ抜き出してみたりということも実現できます。
――背景でモブキャラクターを歩かせることは可能なのでしょうか?
小出氏:手間がかかると思いますが、基本的には可能ですね。歩いているモブを作っていただき、そこにパーティクルの要素を加えてモブを生成することもできますので、キャラクターが喋っている後ろでいろんなモブが歩いては消え、歩いては消えという表現ができます。
岡田氏:ただ、そこまでいくと先ほど申し上げたオプションで、完全に一品ものとしてのオーダーで見積もりをするという形になりますね。
――そこはコストとの兼ね合いになる、という感じでしょうか。
岡田氏:そうですね。まさに表現したいこととコストの兼ね合いで、お客様の判断でどこまでお金をかけるか選んでいただけるようになるといいのかなと思っています。
小出氏:リソースと仕組みを作る作業に関しては、「E-mote」ですごく効率化できます。通常、このような仕組みを作ろうとすると、デザイナーさんとプログラマーさんの間で何度もやり取りが必要になりますが、「E-mote」を使っていただければデザイナーさんの中だけで完結させることが可能です。
岡田氏:もう古いキーワードになっていますが、いわゆるWYSIWYG(ウィジウィグ)という、作ったものがそのまま動くということがすごく重要だと考えています。弊社ではコンシューマの仕事も行っていますので、対応機種も非常に幅広く取れており、ツールの強みになっていると思います。
小出氏:かつては、絵を描いてそれに対応した素材も自分で作り、キャラクターはこう動かすものだと見せてプログラマーさんに渡し、出来上がったものに対して「そうじゃなくてこう動かしてほしい」などとやり取りをする必要がありましたが、「E-mote」の場合はどの数値を与えたらどのような挙動をするのかなど、全てエディターの中で確認することができます。
岡田氏:どこをいじったらどう動くかを、体のひねりや顔の動きなどに割り当てて作り上げたモーションが「E-mote」のボーンですね。そのボーンを編集するための専用UIとして作ったのが「E-mote Lite」です。「E-mote Lite」を作ってみたところ、思いのほか使い勝手がよかったので、これをBG(背景)やUIにも拡張していけるのではと思っています。
弊社としては、立ち絵表現に限らずBGやUIなど、ゲームの表現をリッチ化する方向性でいますが、リッチなものになるほどとにかくコストがかかります。また、デザイナーとプログラマー間でやり取りする工数も多くなると実感していますので、それらを「E-mote Lite」に乗せることができれば、リッチなものを妥当なコストで作れるようになり、開発に携わる皆さんに喜んでもらえるのではと考えています。
極端なことを言ってしまえば、ゲームを作る以外のことが面倒なんですよね(笑)。その面倒なところを全て短縮するというコンセプトで開発を進めています。ツールだけでなく、自社でゲームの開発を行っているのも強みだと思っており、いろんな機種に移植する仕事をしておりますので、問題が出たら随時解決できますし、そこでの経験も全部反映させています。
――プラットフォームごとにカスタマイズされていたりするのでしょうか?
岡田氏:そうですね、全プラットフォーム向けに出力できるようにしたり、この機種だと処理が重くなってしまうので改善しようなど、そうした調整は随時行っています。実際に自分たちで使っているツールですので、使い物にならないということにはなりません。
小出氏:キャラクターを1体作っていただければ、多くの場合どの機種、どの画面比率にも出力できます。仮にPS3用のデータを作っていただければ、それをPSP向けに縮小して出力することも、同一のソースから行えるようになっています。さすがに携帯機から据え置き機のように、解像度が低いものを高解像度向けに出力するとぼやけてしまいますので、その際は元のデータを大きく作成していただく必要があります。
――動作するPCの最低スペックはどれくらいで考えているのでしょうか?
岡田氏:コンシューマゲームですと60fpsで動かすことが多いですが、アドベンチャーゲームだと30fps、場合によっては20fpsでも意外と問題なく見ることができます。なので20fpsや30fpsを許容範囲と考えると、かなり低いスペックでも動きます。ボトルネックになるとしたらCPUよりもGPUだと思っており、最近のPCでしたらオンボードでも平気ですが、5、6年前のノートPC、いわゆるネットブックになるとフレームレートに影響が出てきたりと、スペック的に厳しいかもしれません。
先程の話にもあったように、「E-mote」はデジタル福笑いのような構成になっている関係上、たくさんのテクスチャを重ね掛けしますので、その描画が追いつかない可能性が出てきます。ただ、スマートフォンでしたらiPhone 3GSでも動きますし、最近の現世代機でしたら問題なく動くと考えています。
――Androidでは端末による性能差で苦労されている部分はありますか?
岡田氏:スタッフが持っている機種については一通り確認してみましたが、Androidの細かい検証はこれからになります。正直なところ、出ている機種が非常に多いので全てをチェックしきれません。
ですが、Androidはアドベンチャーゲームのプラットフォームを考えると絶対に無視できませんし、段階的にオフィシャルでの対応機種を増やしていく形で、積極的に対応していく予定です。特に「E-mote」の場合、アドベンチャーゲームだけでなく、コミュニケーションアプリの開発にも向いていますので。
――コミュニケーションアプリということは、画面タッチに反応してキャラクターを動かすことも可能なのでしょうか?
岡田氏:可能です。そこはアプリを開発されるプログラマーさんの仕事になりますが、実現するための余地はこちらで整えています。
小出氏:ベースとなったモーションエディターをアクションゲームなどで使っていた経験上、当たり判定にも使用できますので、この部分をタッチしたら特定の反応が返ってくるといったことも可能です。むしろアプリでは、コミュニケーションアプリの方が強みになりますね。
――「E-mote」で得意とする表現はどこでしょうか?
小出氏:やはりゲームを作ってきた経験を活かしたツールですので、当たり判定をはじめ、インタラクティブな部分でしょうか。
岡田氏:プログラムから与えられた指示に従って、リアルタイムにアニメーションを変化させられるので、ゲームやコミュニケーションアプリなど、映像の流しっぱなしではない、ユーザーさんの入力に合わせて反応が返ってくる部分は強みだと思っています。
小出氏:一例ではありますが、テキストになっているところをタッチしたら動きが変わるオープニングムービーを作る、といったことも実現可能になっています。
――ムービーを作るのにも使えるのでしょうか?
小出氏:そうですね。リアルタイムアニメーションが基本ですし、パーティクルやマスキングの仕組み、当たり判定などいろんな機能がありますので、ムービーの演出で女の子が横にサーッと流れていくときにタッチすれば、女の子の動きが変わるといったことも表現可能です。
――逆に苦手としているものや、現在課題と思っている部分はどこでしょうか?
小出氏:現状では、描いていただいた絵を「E-mote」に乗せるため、一度パーツ化という手間を挟むことになるのですが、ここをもっと簡略化する方法を模索しています。例えばフォトショップで描いていただいた絵を、PSDファイルのまま放り込んでいただくだけでキャラクターのパーツが全部自動で配置されるなど、そういった仕組みができないかと検討しているところです。
苦手な表現については、2.5次元ですので、頭をぐるっと回したりといった、3D的な表現は難しいですね。360度回転するテンプレートも用意できないかと思っているのですが、ツールを利用していただく方に用意してもらう絵の数が増えてしまうという問題もあります。
岡田氏:そこは今後の研究課題です。例えば後ろで腕を組んでいる状態から前に出すような動きも、クロスフェードでつなぎ、素早くごまかしてしまえば表現できるのではないか、という感触はあります。いろいろと伸ばしていきたい方向は考えていますが、まずはインタラクティブでリッチな絵をリーズナブルに作るという方針から、ブレないようにしたいと考えています。
――「E-mote」の動きをアニメーションや3Dで表現するのと比べ、手間の差はどうでしょうか?
岡田氏:「E-mote」は初めて触った人が5時間程度でキャラクターを作れてしまうぐらいですので、圧倒的に楽だと思います。アニメーションを作ったり3Dモデリングをしていたら、とてもそれだけの短時間ではできないですし、立ち絵をリアルタイムで動かすことに関して言えば、数あるツールの中でも有数の簡単さだと思います。
あと、日本のアニメ文化、マンガ文化で育ってきたデフォルメの効いた絵というのは、3D化しづらいという問題もあります。さらにそれを3Dにできる絵として描くイラストレーターさん、その絵を3Dに落とし込めるモデラーさん、どちらも希少な存在ですので、職人いらずで実現できるように考えています。
――CPUやGPUにかかる負荷の面ではいかがでしょうか?
岡田氏:2Dアニメーションだとムービーになりますし、今はGPUを使ったムービーの再生支援もすごくフォーマット化されていますので、さすがにムービーの方が軽いと思います。
小出氏:ただ、アニメーションのように60分の1秒(1/60秒)ごとの絵を用意していただくよりは、作成するコストは「E-mote」の方が少なくて済むと思います。
岡田氏:逆に特定のカットを飛ばしたり、デフォルメを掛けた絵を入れたりといったことに柔軟に対応できるわけではありませんので、そこに限界があるとも言えます。用途や表現の仕方の違いになってきますが、尺の決まった2Dアニメーションだからこそできる表現もあると思います。
――これまでお話しいただいた内容のほかにも追加したい機能を考えられていたりしますか?
小出氏:長期的にはいくつかありますが、まだキッチリと決まっていません。もっと作業が楽になる仕組みと、もう一歩3Dに近づく方法があるのではと模索している最中です。
――今後もっと表現を増やしていく場合、「E-mote」を改良していくのでしょうか。それとも新しいツールを作ることになるのでしょうか?
岡田氏:そこは臨機応変に対応しようと思っています。「E-mote Lite」に搭載できる範囲のものは「E-mote Lite」で実現して、ロジックの違うものを作ったほうがいいと判断したら、迷わず新しいものを作っていきます。
小出氏:「E-mote」自体が弊社で使っているツールの枝葉のひとつですので、「E-mote」のような別のツールが発生する可能性もありますし、「E-mote」の先でさらに枝分かれする可能性もあると思っています。
――話はそれますが、「ウィッチズガーデン」で「E-mote」の起動ロゴが流れました。今後も同じものを使っていくのでしょうか?
岡田氏:そのつもりです。
――ちなみにその声を担当していたのは…?
岡田氏:弊社社員でございます(笑)。
――気になっていたのでスッキリしました。最後に今後の意気込みをお聞かせください。
岡田氏:何度か口にしているのですが、日本のアドベンチャーゲームの表現をもう一段押し上げる手伝いをしていきたいと思います。
小出氏:2.5次元の民主化といいますか、「E-mote」でできるような動きのある立ち絵をもっと一般的にしていきたいなと思います。
――ありがとうございました。