【CEDEC 2013】ゲームは人にどのような影響を与えているのか、最新の研究事例を紹介

発表会・イベント取材
0コメント 仁志睦

2013年8月21日~23日の3日間にわたって、神奈川県のパシフィコ横浜にて開催されたゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2013」。今回は東京大学 大学院学際情報学府の吉川真人氏によるセッション「デジタルゲームが人の認知機能に与える影響:ゲーム研究最前線 Todai Baba Game Lab」の内容をリポートする。

かつてゲームが脳に悪影響を与えるという説を提唱した書籍「ゲーム脳の恐怖」が世間を賑わせたことを覚えている人も多いだろう。近年は非常に問題の多い妄説というのが専門家の共通認識となっているが、では現在はどのような研究が行われていて、ゲームはどのような影響があるとされているのか。東京大学大学院 馬場研究所所属の吉川真人氏が、デジタルゲームと認知機能研究の現状や将来の発展の可能性などを語った。

東京大学大学院 学際情報学府の吉川真人氏。
馬場研究所に所属し、神経心理学やルドロジー(遊び学)を中心に研究中とのこと。

「ゲーム脳」はトンデモ学説

吉川氏は冒頭で改めて「ゲーム脳」について言及。「ゲーム脳」とは2002年に出版された森昭雄氏の著書「ゲーム脳の恐怖」に登場する言葉で、デジタルゲームをすると脳波が認知症患者と同じ傾向を示すとしていたことから、ゲーム悪影響論の根拠としてしばしばテレビ、雑誌などで引用された。

しかし、本書の実験内容は脳波パターンの考察や解釈に疑問点が多かったこと。大学生の実験結果を子供の脳の発達予測に適用したこと。ゲームとの比較対照としてクレペリン検査という認知負荷の高い作業を用いたことなど、さまざまな問題があったという。特に大きな問題として森氏の開発した簡易脳波計の信頼性が不明でデータの取得方法や実験者数、年齢構成といった基本的なことも抑えられていなかった点を挙げ、これは認知研究の実験では基礎的なNGであることを強調した。

では、認知機能研究とはどのように行われているのか。まず吉川氏は認知機能の定義について解説。認知機能が理解、判断、論理といった知的機能のことを指すこと。中でも意思決定、思考、推論などの「遂行機能」は前頭葉が司る高次認知機能とされていて、これらの能力が前述の「ゲーム脳」で低下すると指摘された部分であることなどを説明した。

こういった認知機能の研究には遺伝子研究、脳画像研究、心理検査、行動観察といった種類があり、これらの手法を組み合わせて実施されるという。デジタルゲームと認知機能との関連研究において中心になるのは心理検査で、例えばいくつもの黄色のマークにひとつだけ紫色のマークを混ぜ、それらが動いている動画を表示。これを途中で止めて、指摘したマークが何色だったかを当てるといったゲーム的な実験が行われているとのことだ。

なぜ、こうしたデジタルゲームを利用した認知研究に注目が集まっているのかというと、ひとつのゲームが視覚と判断力、視覚と思考力といった複数の認知機能に影響を及ぼすことが多く、認知トレーニングとして貴重であるからだという。また、ゲームが広く一般的に出回っているメディアであるため、社会的なインパクトが期待できることも理由のひとつになっていると吉川氏は述べた。

ゲームでどのような機能が改善するのか

実際の研究方法として、まずゲームをプレイする人とまったくプレイしない人の認知機能を比較する「対照研究」という事例を紹介。これは例えば週に7時間ゲームをプレイする集まりと1時間以下しかプレイしない集まりに、それぞれ数種類の心理検査を行って成績を比較するというもの。プレイするゲームの種類が複数にわたるため、どのゲームの効果が得られているのか測定しづらいという難点があるとのことだ。

もうひとつの事例は青年や老年に短期間に集中的にプレイしてもらって、認知機能がどの程度改善されたかを測定する「介入研究」。これはまったくゲームをしない高齢者に週に2時間プレイさせて、ゲームをやらせる前と後の心理検査のスコアを比べるというもので、プレイしたゲームにどのような効果があったか比較しやすいというメリットがあると吉川氏は語った。

この「介入研究」について実際のゲームを用いた研究の内容や成果も紹介された。最初に紹介されたのは定番パズルゲーム「テトリス」を使った事例だ。研究方法と成果は以下のスライドのとおりで、視覚や空間処理の課題に改善が見られたという。ただ、「テトリス」の情報処理は単純なので、あまり多くの機能が改善するということはないそうだ。

ちなみに、ここで行われる視覚検査はふたつの立体の図形を表示して、同じ形のものか答えるといったもので、これにより2次元の画像を3次元的にイメージする能力を検証できるとのこと。また、最初にいくつかの数字を表示して画面を切り替え、次に表示された数字が最初の画面にあったか答えるといったテストも行われているそうだ。

次にエレクトロニック・アーツの人気FPS「Medal of Honor」を使った事例を紹介。このテストはミュンヘン大学で2年間まったくゲームをプレイしていない学生32名を対象にして以下のスライドの内容でテストを行ったというもので、被験者には認知的柔軟性の改善が認められたという。

この認知的柔軟性の検査では4つに分けられた正方形にアルファベットと数字を表示。下部分に表示した場合はアルファベットが母音か子音が解答させ、上に表示した場合は数字が偶数か奇数か答えさせることで、変化するルールに対応できるかを見るとのことだ。

最後に紹介されたのがマイクロソフトのRTS「Rise of Nation」を用いた研究事例だ。イリノイ州のゲームをしない高齢者40名を対象にしたもので、以下のスライドのようなテストを実施したところ視覚(空間把握)、短期記憶や認知的柔軟性、作業記憶、判断能力などが改善されたという。

RTSをプレイしたことがある人なら分かると思うが、このジャンルはさまざまなタスクを切り替えたり、複数の作業を同時並行したりする必要があるので、認知機能への影響が高いと言われているそうだ。また「ドンキーコング」「パックマン」「脳トレ」といったゲームをプレイすることで、心理検査の応答速度や作業記憶などが改善したという報告もなされていることもあわせて紹介された。

認知機能研究における現状での問題点と今後の課題

ここまでの事例を見ての通り、ゲームによっても認知機能が低下するという研究結果はなく、むしろ改善が示させることのほうが多いという。さらに情報処理が複雑なゲームほど複数の認知機能への改善効果が見られる傾向にあり、新しいタイプのデジタルゲームが出るたびに認知機能への影響について研究する必要があると吉川氏は総括した。

ただし、このような研究で得られた認知機能の改善が実生活にどのような影響を与えるかはまだ未解明で、これらの研究成果をどう利用していくかが今後の課題だという。その上で吉川氏は、認知障碍者や高齢者の認知リハビリテーション向けのデジタルゲーム導入の可能性に言及。デジタルゲームは短時間で複数機能に対して効果が出る可能性があり、コスト面での節約が期待できること。

認知リハビリテーションは長期的な継続が必要になるので、飽きにくいなどのメリットが紹介された。また、最初に紹介した思考、推論、意志決定などの遂行機能は社会技能と相関のある機能として注目されており、各種研究や論文などにおいてストレス統制、学業成就、社会的な成功との関連があるのではといった指摘がなされているとのことだ。

一方で、本当にデジタルゲームの影響で認知機能は改善しているのかという指摘もあるという。特に問題とされているのが次の2点で、ひとつはデジタルゲームと心理検査が類似しているのでスコアが出やすいのではないかということ。もうひとつは実験のために募集されたゲーマーへのプラシーボ効果で、ゲーマーは「ゲームというのは優れたもの」と思い込んで実験に臨むため、いいスコアが出るのではないかと言われているそうだ。

もちろん、ゲームを止められなくなる中毒症状や暴力的なゲームをプレイすることによる攻撃性の上昇など、デジタルゲームが与える悪影響の研究も続けられているとのこと。最後に吉川氏は「認知機能の改善効果はあるが、これらの悪影響の部分にも留意して適切、適度なデジタルゲームの利用を促していきたい」と述べ、セッションを終了した。

※画面は開発中のものです。

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