2013年8月21日~23日の3日間にわたり、パシフィコ横浜にてゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2013」が開催された。ここでは、スクウェア・エニックスの「拡散性ミリオンアーサーをPS Vitaに展開した事例について」と題した講演の模様をお届けする。

本講演では、スクウェア・エニックス 特モバイル二部 プロデューサーの古川雄樹氏と、ビサイド代表取締役社長の南治一徳氏から、「拡散性ミリオンアーサー」をスマートフォンからPS Vitaに移植する経緯や、実作業でのエピソードなどが語られた。

狭い会場だと予想し、出オチで笑いを取ろうと思いニムエのTシャツを着たという古川雄樹氏(右)と南治一徳氏(左)。
実際に講演が行われたのは約1000人が入れるメインホールで、会場の広さに驚いた様子を見せていた。

講演ではまず、古川氏が「拡散性ミリオンアーサー」の運営状況について説明。本作は日本を始め韓国、台湾、中国でも展開されており、2013年7月時点で全世界のユーザー数が600万人を突破している。大々的に告知されていないが、PS Vita版も10万人を突破しており、この記録を受けて担当チームのテンションが上がっているという。

海外での展開については、韓国版はApp Storeで最高1位、Google Playでは2位を記録したが、順位の入れ替わりが激しいことが特徴。運営は日本のスマートフォン版とPS Vita版、そして海外を含めてそれぞれ別の会社が担当しており、各社が施策を考えられる自由な体勢のようで、韓国ではオフラインイベントに力が入れられている。

台湾版はかなり安定した運営のようで、アクティブユーザーが減ってしまった分、新規も入ってきており、ユーザー数はほぼ一定の状態が保たれている。最近リリースされた中国版は、課金は控えめな傾向にあるが、とにかくユーザー数が多いことが特徴として挙げられた。

ここからはPS Vita版の展開について。そもそも本作がPS Vitaに移植されることになったのは、特モバイル二部でもコンシューマ機に挑戦してみたいという話が出ていたことがきっかけだという。さらにPS Vitaで基本無料のアイテム課金制、いわゆるFree to Play(F2P)タイトルがほとんどないため、挑戦してみる価値が十分にあるのでは、ということになったそうだ。

開発は2012年秋頃からスタートしており、2013年4月11日に配信されているが、スマートフォン版が4月9日で1周年を迎えるため、配信のタイミングを合わせたかったという理由があるとのこと。

PS Vitaに移植する際、スマートフォン版と同じワールドで一緒に遊べるようにするかという議題も出たようだ。しかし配信から1年経つため、全員がレベル1から始められる機会でもあることが重視され、ワールドは別々となっている。また、主人公が3人おり、それぞれのキャラクターで別の物語が展開するため、すでにスマートフォン版をプレイしている人に、別の主人公を選んで遊んでもらうことも視野に入れていたという。

開発での苦労点は、タッチ操作だけのスマートフォンとは違い、PS Vitaには十字キーやボタンがあるため、それらの操作に対応することが挙げられた。画面の比率については解像度が少し大きめに作られていたため大きな苦労ではないものの、単純にソースコードを流用しただけでは上手く表示できないため、調整には時間が掛けられている。

古川氏は、運営が始まってから気付いた点も多いという。例えばGREEやMobageでサービスを提供したり、アプリのストアで配信するのとは異なり、プラットフォーム内にバナーを表示させてユーザーを集めるのが難しいという側面がある。新規ユーザーの獲得は非常に重要であるため、各種メディアでの露出を図ったり、プロモーションビデオなどをYoutubeにアップロードするといった地道な宣伝活動が行われている。ゲーム内では積極的にコラボイベントが行われているが、こうしたコラボも非常に重要だという。

新規ユーザーを獲得するための苦労がある一方で、PS Vita版はスマートフォン版と比べて課金率が高いという。PS Vita版のユーザーは、そもそもゲームをするために本体を購入しているため、ゲームに対してお金を払う抵抗が少ない傾向にあることが理由のようだ。

スマートフォン版ユーザーと違うところは、プレイスタイルにも現れている。やはりスマートフォンは常時接続が可能なため、空いた時間があれば基本的にいつでもどこでもチェックできるが、PS Vita版は自宅のWi-Fiでの利用率が中心となっている。プレイする時間帯は朝と夜がメインだというので、朝起きてから外出するまでと、夜家に帰ってきてから寝るまでの間にプレイすることが多いことが考えられる。

現在、スマートフォン向けのアプリやソーシャルゲームが非常に多くリリースされていることもあり、まだF2Pで競い合わなければいけないタイトルがないPS Vita版では、ユーザーの継続率が高いことも特徴として挙げられた。

上手くいっている話ばかりではなく、PS Vita版のリリース後、古川氏が本番環境で(ユーザーと同じように)プレイしようと思ったら、ゲームのダウンロードに2時間ほどの時間を要したというエピソードも明かされた。PS Vitaのコンテンツだと1GBを超えるものは珍しくないが、「そこに甘えてしまったところがある」と、クライアントの容量削減をもっと行うべきだったとの反省点を述べていた。

古川氏は自身の話の最後に、PS Vita版は今後も独自で進化させていくという意気込みと合わせ、「スマートフォン市場では面白いゲームがこれでもかというぐらいリリースされていますので、PS Vitaに興味がある人は参入してみてもいいのではないでしょうか」と、集まった業界関係者たちに声を掛けていた。

続いては、PS Vita版「拡散性ミリオンアーサー」の開発・運営を行う、ビサイドの代表取締役社長の南冶一徳氏が、技術的観点からPS Vita移植に関する話を行った。

まずはプログラム部分について。移植の提案を受けた当初はObjectiveC版のソースコードしかなく、ある程度自動変換できるツールを考えていたところ、Android版の「拡散性ミリオンアーサー」がリリースされた。このAndroid版がC++言語で開発されていたため、こちらをベースにすることで、ObjectiveCのソースを流用するよりも工数が削減できたという。

サーバープログラムも基本的には流用しているが、こちらは最新のものではなく、古いバージョンが改良しつつ用いられている。これには、当時大型アップデートで「騎士団」システムの実装が予定されていたが、準備が難航していたため最新版を避けたという理由がある。

グラフィック面では、iOS/Android版はOpenGL(OpenGL ES 1.1の機能)を利用しているのに対し、PS VitaにはOpenGLのライブラリがないことが最初のハードルになったという。ただ、グラフィックチップは同じ系列のもので、性能的にはPS Vitaのほうが上だったため、「十分いける」という読みがあったとのこと。

グラフィックで唯一障害となったこととして、OpenGLにはフレームのバッファ数に制限がないことに対し、PS VitaのSDKには制限があったことが挙げられた。スマートフォン版のソースではその制限を超えることがあったため、そこをカバーする必要があったようだ。

続いてネットワーク関係では、PS VitaにUI WebViewがないため、ブラウザを外部呼出しのアプリで対応しなければいけないことが一番の障害になると考えていたという。実際に本作をプレイしてみると分かるが、ブラウザを起動すると別のアプリが画面の上に出てくるという形で実現されているので、いったんサウンドなどが途切れてしまうようになっている。回避策を探したが見つからず、公式情報はHTMLでやりたかったため、現在のような仕様になっているとのこと。

ほかには、エラーで回線切断が起きたとき、ユーザーに対してどのような表示をしなければいけないか細かく決まっているなど、PlayStation Networkのレギュレーションが厳しかったことも挙げられた。この点については慣れてしまえば問題ないため、経験者がいるとスムーズに進められるとアドバイスをしていた。

また、運営や開発の会社が独自に招待コードなどを発行することもNGであり、SCEが発行するプロダクトコードが必須であることも明かされた。PS Vita版でコードを発行すると1ヶ月以上前から動いていないと実行できず、そもそもコードによって配るカードを登録しなければいけないため、宣伝周りの動きが大変だという。課金の仕組みも当然PlayStation Networkの利用が必須となり、開発者としては手間がかかる一方、非常にセキュアな環境が提供できるというメリットもある。

さて、ここまで大変な話が多かったが、PS Vitaならではの要素が搭載されていることを忘れてはいけない。物理ボタンや画面サイズは古川氏からも話があったが、ほかにも「ホロ・リアルシミュレーション」や「PPSシステム」といった新機能がある。

ホロ・リアルシミュレーションは、ゲーム中に登場するホロカードを見る際、本体の傾きによってリアルのカードのようにキラキラの見え方が変わるというもの。

最近導入されたPPSシステムは、一言でいえば胸が揺れるシステムなのだが、ちゃんと傾きに合わせて揺れるようになっているのがポイント。導入のきっかけは夏に行われた水着イベントだが、そのタイミングで「閃乱カグラ」とのコラボレーションが決まったため、南冶氏は「バッチリじゃん!」と思っていたようだ。

ちなみにこのPPSシステム、紹介用の動画がYoutubeにアップロードされているのだが、公開後にYoutubeから年齢制限コンテンツに適用するとの連絡があったという。実際にYoutubeにアクセスしてもらうと分かるが、「この動画には、コミュニティ ガイドラインに基づき、年齢制限が適用されています」との表記がされており、これが適用された動画はスクウェア・エニックスでは初となる。

PPSシステムに関するエピソードはほかにもあり、中国や韓国の担当スタッフにPPSシステムを見せたところ「一刻も早くうちの国にも欲しい!」と言われるほどの食いつきがあったという。しかしスマートフォンでは実現が難しい機能なので、少なくとも今はPS Vita版ユーザーだけが楽しめる特権だろう。

余談が多くなったが、最後に南冶氏は「マルチプラットフォームでは、iOS/Androidに加えて、スマートフォンを選択肢として考えるのもアリだと思います」と自身の意見を述べた。ただ、PS Vitaで展開するのであれば、スマートフォン版も横画面のゲームにするなど、ある程度移植を考えてから作っておくことも必要だと指摘。スマートフォン版の開発時には、ゲームエンジンを利用することでPS Vitaへ移植しやすくなるといったアドバイスもしていた。

拡散性ミリオンアーサー

スクウェア・エニックス

PSVitaダウンロード

  • 発売日:2013年4月11日
  • 17歳以上対象
  • PS Store ダウンロード版
拡散性ミリオンアーサー

※メーカー発表情報を基に掲載しています。掲載画像には、開発中のものが含まれている場合があります。

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