「御簾納直彦ミステリィ 篝火ノ屋敷」第13回は、2002年にカプコンから発売されたPS2用ソフト「クロックタワー3」を紹介します。
「クロックタワー」といえば、今は無きヒューマンから1995年にスーパーファミコンで第一作目が発売され、多くゲームファンに恐怖と衝撃を与えた、ホラーゲームの代名詞とも言える作品だ。その後シリーズは「クロックタワー2(セカンド)」、スピンオフタイトルの「クロックタワーゴーストヘッド」(1998年)と続いてきたことは、ファンであればご存知だろう。
今回取り上げる「3」は、シリーズ初のPS2向けタイトルとして登場した。そして本作は、ナンバリングこそ冠しているが、ゲームデザインがこれまでのシリーズと大きく異なる。一番大きな特徴は「クロックタワー」の特徴でもあるポインターでの操作を廃し、3Dの空間で、主人公を直接操作するアクション寄りの作風になっていることだ。「4」以前の「バイオハザード」に近い作風といえば、イメージしやすいかもしれない。
加えてキャラクターの設定も、過去作との関わりはほぼ無くなっている。シリーズの代名詞とも言えるキャラクター「シザーマン」をモチーフにした敵キャラクターは出てくるが、その容姿や凶器の形状などは大きく異なる。しかし、主人公が非力な少女であることや、「恐怖」を強く意識したホラーテイストな世界観、敵から隠れてピンチをやり過ごす回避ポイント、パニックメーターが溜まると錯乱状態になり正常な操作が困難になる点など、引き続き搭載されているシステムも多い。
また筆者の体感だが、難易度も過去作に比べて引き下げられている印象だった。初代「クロックタワー」や「2」でシザーマンに何十回と殺され、心が折れまくったユーザーからすれば、プレイしやすくなっているだろう。筆者自身も、「3」に関して言えば、特に難しいと感じることはなく、わりかしサクっとクリアできた覚えがある。
また「クロックタワー3」と言えば、映画監督の深作欣二氏がCGムービーパートの監督として、制作に参加したことも大きな話題となった。映画業界で、長年監督として手腕を振るってきた深作氏の演出が、ゲームでどのように生きるのか。実際にプレイしてみると、キャラクターのセリフや動きが演劇的になっており、映画畑の監督がディレクションを行っていることが随所に感じられる。
本作のメイキングDVDでは、主人公メリッサ役のオーディションの様子や、実際の撮影風景などが収録されている。観てみると、ムービーパートの制作現場は、まるで映画の撮影のようでもあるが、一方で、モーションキャプチャのスーツを着ながら演技を行う様子はゲーム的だ。
映画製作とゲーム制作の様式をミックスさせたような現場の映像を見るだけで、本作が既存のゲーム制作の手法とは異なる道程であることが分かる。そこには「クロックタワー」のコンセプトを受け継ぎつつも、まったく新しいことにチャレンジしていこうというスタッフの気概を感じるのだ。本作に関しては、ゲームファンとしては様々な意見があると思うが、少なくとも深作氏の参加によって、「クロックタワー」という作品に新しい血が入ってきたことは間違いないと思う。
はっきり言って本作のゲームとしての完成度について、満点ではないと筆者は思っている。過去作と比べて、あまりに多くの部分が変わっているし、シリーズファンの目から見て、受け入れられない部分もあったことだろう。リリース時の評価が賛否両論だったのも致し方ないと言える。
しかし1つ言えることは、本作はゲーム制作の新たな手法を提示したチャレンジャブルな非常に作品であるということだ。セールス面において大ヒットとまではいかなかったし、そのためか、現在のところ続編も出ていない。ただ、クリエイティブにおいて、チャレンジとは可能性を広げることであり、物作りを行ううえでは絶対に忘れてはならないことだ。そういった視点で観てみると、「クロックタワー3」は十分評価に値する作品なのではないか。
現在のところ本作を遊べる環境はPS2に限られているが、本稿を読んで興味を持ったという方は、ぜひ一度プレイしてみてほしい。