8月15日に初の大型アップデートが行われたPC/iOS/Android向けアプリ「シャドウバース」の、ゲームデザイナーへのインタビューを掲載。ルール改定の効果や新モードの手応え、デッキ構築のコツを訊いた。
「シャドウバース」では、8月15日に大型アップデートを実施。新モード「2Pick」が追加されたほか、後攻1ターン目のドロー枚数が2枚に増える、といったルール改定も行われた。
特にルールの変更は、デジタル、アナログを問わずTCGプレイヤーに大きな影響を及ぼすもの。その効果のほどは数字にどう表れたのか? 2Pickのコツや楽しみ方、デッキ構築のポイント、今後力を入れていきたい分野まで、本作のゲームデザインを担当する宮下尚之氏(Cygames)にお話を伺った。
※インタビュー実施日:8月22日
2Pickの醍醐味とコツとは?
――本日はよろしくお願いいたします。まずは宮下さんの経歴をお聞かせいただけますか?
宮下氏:私はもともとアナログカードゲームのゲームデザインやソーシャルゲーム、ブラウザゲームのディレクターをしていました。木村(「シャドウバース」プロデューサー・木村唯人氏)から「シャドウバース」プロジェクトへの誘いを受け、2014年の秋にCygamesに転職して制作を始めました。
「シャドウバース」では主にゲームデザインを担当し、ゲームのルールや、各カードの能力バランスなどを決定しています。
――早速ですが、先の大型アップデートで追加された「2Pick」について伺います。導入の狙いはどういったものだったのでしょう?
宮下氏:大きく2つの狙いがあります。ひとつは、カード資産が少ない人でも、カードをたくさん持っているプレイヤーと同じ条件で戦えるモードを提供すること。もうひとつは、「シャドウバース」をやり込んでいる人が、報酬を狙って“ガチ”で遊べるモードを用意することです。
――即興でデッキを作るのは、ランクマッチとはまた違う醍醐味がありますよね。宮下さんから見た2Pickの楽しみやポイントはどこでしょう?
宮下氏:例えば強いカードとそこまで強くないカードのペアと、バランスの取れたそこそこのカードのペアのどっちを取るかなど、いろんなことを考えながらデッキを作っていくのが2Pickの醍醐味ですね。思い描く勝ち筋やコンセプトに寄せてピックしていくのがコツです。2Pickならではのデッキを作る楽しさが味わえます。
ランクマッチでは使われるデッキやカードがある程度絞られてきますが、2Pickだと意外なカードに出会ったり、使ったことのないカードを活かせたりするおもしろさがあります。これを機に、いろんなカードを使っていただきたいですね。
――実装されて1週間が経ちましたが、プレイヤーからの反応はいかがですか?
宮下氏:大変ご好評をいただき、本当にありがたく思っています。「こういうカードをピックすると強い」など、プレイヤー内で研究が進んでいるのが見て取れますね。ルームマッチで2Pickを遊べる機能も期待していただいているので、きちんとリリースして楽しんでいただきたいと思っています。
――2Pickはいつごろから企画していましたか?
宮下氏:プロジェクト初期のころからです。自分のデッキを構築して対戦するモードと、自分の資産ではないカードでデッキを組んで遊ぶモードの両方が必要だという考えがありました。
――アナログカードゲームでも、即席のデッキで戦う遊び方は確立されていますよね。ご自身の過去のアナログカードゲームの経験も活かされているのでしょうか?
宮下氏:まさにそのとおりですね。普段はあまり使わないカードを使ったり、通常の対戦と違ったテンポ感を生んでいるのは、アナログカードゲームのリミテッド戦のエッセンスです。
ただ、スマートフォンというデバイスの限られたスペースで数十枚のカードを選ぶのは難しいので、どんなふうにカードを選んでいただくかは熟考しました。
後攻2ドローに変更した効果のほどは?
――先日のアップデートでは、後攻1ターン目のドローが2枚になりました。先攻・後攻の勝率を鑑みてということでしたが、効果は出ていますか?
宮下氏:アップデートした8月15日から5日間、Aランク以上、AAランク以上のランクマッチの結果を集計したところ、どちらも先攻の勝率が49%強とほぼ50%に収束しています。サンプル数は5日間でAランク帯以上のマッチが970万対戦、AAランク以上が105万対戦と十分取れており、信頼できる数字になっています。
――後攻のドローが増えて、安心感も増した印象です。
宮下氏:初手の入れ替えも積極的に行えますし、4ターン目に強力な進化を使いやすくなりました。その点が勝率にかなり寄与しています。ロングゲームになると手札の1枚差が効いてきますし、うまくバランスが取れていると思っています。
――私はコントロールデッキを使っているのですが、速攻デッキに対して対処しやすくなりました。
宮下氏:1ターン目に2枚引けると、序盤で何もできずに一方的にやられてしまうことも少なくなりますし、狙っている効果は出ていると思いますね。
――先攻・後攻のバランスは進化可能になるタイミングの差で取っていたと思うのですが、それでも勝率に隔たりが出てしまったのは想定外だったのでしょうか?
宮下氏:もちろん開発中も先攻・後攻のバランスに注意しながら作っていたのですが、開発期間や人員によってプレイできる回数に限りがあります。統計的に有意なサンプル数を取るのは物理的に難しく、バランスが取れているかはあくまで予測の範囲でしかありませんでした。
CBTや正式サービス後に多くのプレイヤーに遊んでいただき、しっかりデータを検証した結果、先攻の勝率が60%弱に上っていることが分かりました。そこであらかじめ準備しておいた対応策の中から、一番適切なルール改正を行いました。
――かなりの量のデータを取っていらっしゃる印象を受けるのですが、データ専用のチームなどがあるのでしょうか?
宮下氏:はい、データ分析を主な業務にしている者たちがおります。日々「シャドウバース」で使われている色々なデータを集積し、さまざまな角度から分析して、対戦のバランスやサービスの向上に役立てています。
――先ほどAランク帯、AAランク帯のお話を伺いましたが、下のランク帯のデータも取っていますか?
宮下氏:すべてのランクのデータを取っていますよ。低ランク帯に絞ったデータも見られるようになっています。使用されているカードのデータも収集していて、どのカードが人気があるのかも知ることができます。
――なるほど、そうしてさまざまな要素を加味しながらブラッシュアップしていくわけですね。
宮下氏:そうですね。例えば特別勝っているクラスやあまり勝っていないクラス、特定のカードを使ったデッキの勝率なども分かりますので、もし必要があれば対処することができます。
――「収穫祭」のコスト変更もデータ分析の結果によるものですか?
宮下氏:「収穫祭」の変更には複数の要因があります。ひとつは後攻1ターン目が2ドローになった恩恵を、他のカードやクラスより顕著に受けるだろうという予測です。
また「収穫祭」は他の同系統のカードに比べてコストがかなり低いという検証結果や、「冥府への道」を使ったデッキが高ランク帯で高い勝率を残しているというデータも得られました。そういった複合的な理由から変更を決定しています。
アップデート後は“冥府エルフ”デッキの勝率もAAランク帯で約50%くらいに落ち着いていますので、現状は“冥府エルフ”デッキが強すぎるということはないはずです。
――さまざまな調整を行っていらっしゃいますが、目指すところは50対50なのでしょうか?
宮下氏:55対45くらいの緩やかな有利不利は許容しつつ、総合して何かが飛び抜けて強いことがないようにしています。特に先攻・後攻のようなランダムに決まる部分で大きく勝率差が出てしまわないよう、気をつけています。
クラスに関しては、多少の有利不利が出るのがカードゲームだと思いますし、強いデッキがあってもすぐに有利なデッキが出てきますので、クラス間のバランスは先攻・後攻ほど50対50にしようとはしていません。それでも特定のクラスのデッキの勝率が高すぎたり、低すぎたりするのは健全ではありませんので、極端なブレがないように注視しています。
宮下氏の語るデッキ構築のポイント
――少々パーソナルなお話も伺いたいと思います。宮下さんご自身は個人的に「シャドウバース」をプレイされていますか?
宮下氏:もちろんです!
――どのクラスでプレイしていらっしゃいますか?
宮下氏:満遍なく使いますが、今だとドラゴンですね。
――どんなプレイングがお好きですか?
宮下氏:序盤をさばいて後半の有利な時間帯に運んでいくのが好きです。カードパワーが強いドラゴンはそういったプレイングがやりやすいですね。
――戦いにくいデッキはありますか?
宮下氏:以前はロイヤルやネクロマンサーのアグロデッキ相手に立ち遅れることが多かったのですが、後攻が2ドローになったことで立ち回りやすくなりました。そこは個人的にも後攻の勝率が改善されたと感じていますね。
――「どうやってデッキを組めばいいんだろう?」と悩む初心者の方もいると思います。デッキ作りのコツを教えてください。
宮下氏:まず、各クラスの基本カードを集めたデフォルトデッキを使ってストーリーをプレイすると、クラスのコンセプトが理解できます。ストーリーでもらえるプライズカードはとても強力なので、ぜひ6章までプレイしてみてください。それを手に入れてから、徐々に気に入ったカードやクラスを使ってみるといいと思います。
パックを買ったけど組み方がわからないという方は、自動編成機能を使うと比較的コストバランスの良い、遊びやすいデッキが組めます。カードは揃っていないけど勝てるデッキを使いたいという方は、公式サイト内のコラムで瀧村和幸さん(カードゲームのプロプレイヤー)がブロンズレアとシルバーレアで作れるお手軽デッキを紹介しておりますので、それを参考にデッキを組んで、強力なカードが手に入ったら入れ替えてみてください。
ゼロからデッキを作るのは結構大変で、バランスを取りつつ好きなカードを上手く入れていくのは上級者でも難しいことです。まずはデフォルトデッキや公式サイトのオススメお手軽デッキから始めて、そのデッキを改造していくのが良いでしょう。
また、インターネット上にあるプレイのコツを書いた攻略記事や、高ランク帯で活躍中のデッキを紹介しているサイトを参考にするのもひとつの手です。実績の出ているデッキはバランスがよく、しっかりとした強みもあります。
上を目指したい人はこれらの情報を参考にしながら、現在の環境で強いデッキを使ってみるとすごく勉強になりますよ。
――何でもそうですが、まずは真似からですね。
宮下氏:ゼロから作るのはなかなか大変ですね。「シャドウバースポータル」というデッキ構築サイトとデッキコードを使えば、手軽に自分のアプリ上で模範となるデッキを再現することができるので、利用していただきたいです。
――デッキの自動編成機能はどういったアルゴリズムで編成しているのでしょう?
宮下氏:詳しくはお話できないのですが、デッキを構成する基本的なカードやこれは使いたいだろうという高レアリティのカードを、コストのバランスを見てうまく抽出するようにしていますね。コストはかなり意識していて、うまくプレイできるようなコストカーブを描くようにしています。
――「シャドウバースポータル」は当初からゲームリリースと一緒にオープンする予定だったのでしょうか?
宮下氏:プロデューサーの木村は熱心なカードゲームユーザーで、スマートフォンの画面の制約上、どうしてもデッキを構築しにくい部分が出るのではないかと気にしていました。当初からインターネットでデッキビルドができるサービスを作ろうとしていましたし、そこでデッキコードによる連携も想定していました。シンプルなデッキコードでの連携も、開発がしっかり実装してくれました。
「シャドウバース」の強さがステータスになるように
――Cygames NEXTで新パック「ダークネス・エボルヴ」の追加が発表されましたが、クラスやカード種類に特化したパックなどの構想はありますか?
宮下氏:今のところは未定なのですが、必要に応じてプレイヤーに喜んでもらえる形態を考えて必要であれば展開していきます。
「シャドウバース」に限らず、後から始めた方が追いつきやすいようにするのはカードゲーム全般の課題ですので、さまざまな方向からフォローしていくことは当然考えています。
――追いつきやすいようにするのは本当に大事ですね。
宮下氏:やはり1年、2年、その先と続けていきたいタイトルなので、常に新しく入ってきた方が楽しく遊べるように、フォローアップの仕組みを準備しています。木村もそこの問題意識を強く持っていますので、デジタルの強みも活かしつつ、しっかりフォローしていこうと考えております。
――賞金制大会などもご準備されていますが、ミドルクラスや初心者向けの大会などの企画も考えていらっしゃいますか?
宮下氏:はい。木村はそちらも熱心に考えておりまして、全国の小さいショップさんなどでいわゆる“草の根大会”がたくさん開かれることを理想としています。各地域で拠点になるショップさんができ、カジュアルな大会が開かれ、小さいお子さんから大人の方まで楽しく遊べる環境を作るのが大事だと話しています。
先日も名古屋のショップさんで店舗大会をサポートしましたが、各地の店舗さんと協力して開く店舗大会やイベントサポートといった取り組みを徐々に始めています。それを全国に広げて、規模は小さくても遊べるような場所を作りながら、店舗さんへのサポートをしっかり拡充してサービスを広げていきたいと思っています。
――デジタルTCGではありますが、人と人とのコミュニティも大事にしていこうとしている印象です。
宮下氏:私もアナログカードゲームが好きで、リアルで行う対人ゲームの盛り上がりや根源的な楽しさを知っていますので、小さい草の根大会から大きな賞金制大会まで、リアルイベントは大切にしていきたいですね。
――先日、編集部内でも対戦企画を行ったのですが、かなり盛り上がりました。
宮下氏:弊社内にも別のゲームのプロジェクトが多くあるのですが、プロジェクトごとの「シャドウバース」大会を開いてもらうことがあります。中には50人くらい参加する大会もあり、その決勝トーナメントの解説を頼まれることがあります(笑)。プレイヤーのリアクションにみんなが一喜一憂しているのを見るとおもしろいですね。
――少々話がそれますが、「シャドウバース」をプレイしていてBGMがすごくマッチしているなと感じました。こちらは社内で作られているのですか?
宮下氏:BGMは池頼広(いけ よしひろ)さんという有名な作曲家が作られています。ドラマの「相棒」シリーズのテーマやTVの劇中曲などを手がけている方です。「神撃のバハムート GENESIS」というアニメ作品の音楽を池さんにお願いしたご縁もあって、「シャドウバース」のBGMもお願いしました。
当初からBGMは池さんにお願いしようと考えていました。原曲はすべてオーケストラの生録音で作られています。ご好評いただいているのは非常にありがたいですね。
――ありがとうございます。最後に「シャドウバース」という作品をどんなふうに育てていきたいか、お答えいただけますか?
宮下氏:リリース直後からご好評いただいて、うれしい反面びっくりしているところもあります。やはり既存のソーシャルゲームとは違うので、最初はTCGが好きな方がプレイしてくださって、徐々に広まっていけばと思っていました。これに甘んじることなく、新しいパックの追加などをしっかり行っていこうと考えています。
また、先日もRAGEという賞金制大会への参加を発表しましたが、ああいった大きな舞台で活躍したプレイヤーがみんなの憧れになって、「シャドウバース」が強いことがステータスになるまでサービスを続けていきたいですね。
プレイヤーの方々には長く安心して遊んでいただきつつ、「シャドウバース」をプレイしていること、何らかの形で関わっていることが、その人にとってプラスになるようなタイトルにしていきたいと思っています。