フリューが展開するインディーズADVシリーズ「カタルヒト」。ゲームコレクター・酒缶さんによる、同シリーズを立ち上げたプロデューサー・大地将氏へのインタビュー最終回と、「ファタモルガーナの館」のインプレッションをお届けする。
フリューがインディーズアドベンチャーの良質な名作を掘り起こしていくレーベル「カタルヒト」。その第1弾として2016年7月27日に配信を開始した3タイトルのインプレッションと「カタルヒト」レーベルのプロデューサー・大地氏へのインタビューを順次掲載していく企画ですが、今回が最終回になります。今回のインプレッション部分では「ファタモルガーナの館」のインプレッションをお送りします。
読み続けた後、更に読み続けながら考える楽しさ
事前情報として、「ファタモルガーナの館」は西洋浪漫サスペンスホラーというジャンルだと聞いていました。グラフィックを見ると確かに独特で「西洋浪漫」という言葉もうなずけます。「ホラー」というのも、ストーリーや設定に霊的なことや超常現象などがあれば成立するカテゴリーなので、読んでいけばすぐにわかるだろうなぁ、と思っていました。問題は「サスペンス」というジャンル表記。
どうやら呪われている館で起こる物語のようです。テキストと幻想的な歌で始まった時点で、スーッと物語の中に取り込まれていきます。まだ、ほとんど黒い画面しか見ていないのに、テキストも少ししか見ていないのに、音楽と歌の力によってとても強力にゲームへと引き寄せられていきます。もしかしてこれが呪いの始まり?
先に書いておきます。「彼岸花の咲く夜に 第一夜」や「WORLD END ECONOMiCA Episode.1」が選択肢のないノベルアドベンチャーで、どちらも大体7~10時間くらいで最後までプレイできるような感覚でしたけど、「ファタモルガーナの館」は同じ感覚ではプレイできません。全体のボリュームがかなり違った上で、もう一つ違いがあります。
それは選択肢。ゲームを始めるとすぐに選択肢が出てきます。この選択肢はあまり重要ではなさそうですが、とにかく選択肢が出てきたことこそが、「カタルヒト」レーベルの最初の3タイトルの中では特殊なタイトルと分かって頂けることでしょう。この辺りの作りと「サスペンス」が絡んでくるのでしょうか??
旦那さま?
どうやら、女中らしき女に「旦那さま」と呼びかけられた「あなた」がプレイヤー自身のようです。女中らしき女は「旦那さま」を知っているようですけど、「旦那さま」と呼ばれている人物は女中らしき女のことをわかっていないようです。
旦那さまになって女中らしい女からお話を聞いていくのが、このゲームのスタイルのようです。女中からお話を聞いていくため、全ての結末は決まっています。女中が話していく内容は途中で変化することはありません。ここから先はしばらく、読むこと、そして、考えることが大事になっていきます。さて、旦那さまと呼ばれている人物、すなわちプレイヤー自身は誰なのでしょうか?
女中が最初にする話は、1603年、亜麻色の髪をした青年メルとメルのことが大好きな妹ネリーが仲良く生活しているローズ家の話。メルとネリーは大の仲良しだけど、それは兄妹としての仲良し。
このままの生活が続けばいいのに、このまま大人になれればいいのに。でも、大人になるということは、社会とのつながりが深まっていき、時代背景や家柄の問題もあり、自身の考えとは違う未来に向かっていかないといけない状況が生まれてきます。
女中の話ということで、女中もこのお話には登場しています。そして、このローズ家の屋敷に侍女として白い髪の娘が現れることで平穏な生活が激変していってしまうのです。
女中が2つ目にする話は、1707年、ベステアと呼ばれる獣の話。自分の事を獣だと思っているベステアが、人間らしさを取り戻そうとしたり、獣に揺り戻されたりしながら、獣なりに平穏な生活をしています。一方、貿易商の男の帰りを待ち、生存を信じ、捜しに来た女性ポーリーンの話が差し込まれてきます。獣とポーリーンはどう関係しているのか。ポーリーンが探し求めている貿易商はどうなってしまったのか。
ポーリーンの話に出てくる貿易商の男が気になりますし、ポーリーンを助けてくれるハビの存在も気になってしまいます。
いや、個人的にはベステアのセリフのテキストが気になってしょうがないのですが。
ベステアの住む館にはやはり女中の姿があります。そして、ベステアの、ベステアなりの平穏な生活も、屋敷に突如白い髪の娘が訪れることでかき乱されていきます。
女中が3つ目にする話は、1869年、鉄道事業に身を投じる投資家ヤコポの話。屋敷にはヤコポの幼馴染のマリーアがメイドとして働いています。
この話にも例の女中が登場します。そして、投資家の妻が白い髪の娘。投資家は結婚した妻との間で信頼関係がなくなり、妻を監禁状態にして生活を行う中で、一人のメイドが二人の間を取り持とうとするが、状況はどんどんと悪くなっていってしまいます。
次々と出てくる女中の話。これらの話は同じ館で起きている出来事です。まぁ、そうですよ。「ファタモルガーナの館」なのですから、館で起きている物語ですよ。そして、どの館にも女中がいて、白い髪の娘も登場しています。
他には共通点はなかった? えっ、1つ目のお話の時はメルが主人公だと思ったけど、違うの?? 時代が違うってことは転生とかしているのかな??? まぁ、確かに白い髪の娘は全部違う人のようだから転生っぽいけど、女中は全部語り部と同じ人物っぽくない????
頭の中にたくさんの「?」が浮かぶ中でお話を読み進めることになります。オートプレイで読み進めると、若干速読的なスピード間になってしまうので、考えながら読み進めるときは「文字表示速度」を「遅い」にしておいた方が丁度よさそうです。
いずれにしても読めば読む程、自分が何を読んでいるのか、いや、「あなた」として女中から何を聞かされ続けているのか、軽度の混乱を持ちながら進めていくことになります。そう、だからこそこのゲームのジャンルが「サスペンス」なのです。
アドベンチャーゲームだからといって、プレイヤー自身が選択肢を選ぶことでストーリーが変化していき、能動的に解決していくようなスタイルが頭の中にあると、全然選択肢が出て来ない展開に対してもどかしい気持ちになっていきます。しかし、「ファタモルガーナの館」に関してはここまでずっと話を聞いているスタイルで、そもそも記憶を失った「あなた」の状態からスタートして記憶を取り戻すことで自分を取り戻していくわけですから、ほとんど何も選べないこと自体がプレイヤーとゲーム内のキャラクターとの一体感といえます。
この後、女中が4つ目の話をするのですが、今度は1099年とこれまでで一番古い話。登場人物もがらりと変わり、館に住んでいるミシェルというご主人様とその館に迷い込んだ白い髪の娘のお話でした。
全てのお話を聞き終わった時、あなたは何を思うだろうか? 何を取り戻し、何が欠落したままなのだろうか? そんな感じで「サスペンス」の中にプレイヤーはどっぷりと入り込んでしまうのです。
と、まぁ、ここまで書くとそれであっさり終わるように思いますが、実際のところ、ここまでの女中の話だけだと全体の1/3くらいの進行度といった感じです。
セーブ数+αくらいの数は分岐が出てきますし、システム的にもエンディングリストがあるので、デッドエンドを含めていくつかのエンディングを探していく遊び方もあります。ただ、このゲームに関しては、エンディング探しをするというよりは、バッドな選択肢を選んだ結果、悲しい結末にたどり着くけど、その結末も真相を知るための仕掛けと考えたほうがいいかもしれません。
大変読み応えのあるタイトルなので、秋の夜長、30時間超の大長編サスペンスストーリーを楽しみたければ、「ファタモルガーナの館」を選択肢の一つに入れることをお薦めします。
アドベンチャーゲームシーン全体を盛り上げる存在になるのが理想
大地将氏(以下、敬称略):この3タイトルはインディーズでは押しも押されない有名タイトルなんですけど、それでもやっぱり家庭用ゲームと比べたらかなり購入ハードルは高いんですよね。家庭用ゲーム機のパッケージタイトルならば、お店に行けば売っているじゃないですか。ダウンロード専売タイトルでも、ニンテンドーeShopやPS Storeに行けば売っていますけど、インディーズタイトルを一般の人が買おうと思ったら、例えば「ファタモルガーナの館」というタイトルを知って、それを検索してやっと情報にたどり着ける。
酒缶:そうですね。パッケージなら手に取って見ることができるし、eShopやPS Storeに行けば、ボタンを押せばゲームの説明が読めますよね。
大地:eShopのように、バナーやアイコンとしてメニューに並んでいる場所があればたどり着けるんですけどね。一応、インディーズタイトルを集めたレビューサイトやダウンロードサイトもあるんですけど、それこそ利用者は普段からインディーズタイトルに親しんでいる相当コアな方たちだけですし、もし一般の人がダウンロードサイトにたどり着いても、初めて訪れたサイトにクレジットカードを登録するのって、ふつうは抵抗がありますよね。
酒缶:知っているサイトで毎回買い物をすることが決まっていれば登録しやすいですけど……。
大地:そういったハードルのために、これらの作品が広まりにくい現状はがどうにももったいなく感じて。だったら日の当たる場所に連れて来たらどうなるんだろう、広く一般の人はこれらの作品をどう楽しんでくれるんだろう、と思っていました。
酒缶:そのインディーズタイトルをコンシューマに出したわけですけど、元々のインディーズのタイトルと今回移植した内容とで何か違いはありますか? 何か変えていたりしますか?
大地:可能なかぎり、原作の表現を尊重するというコンセプトで作っていますが、そのままではリリースできない部分に関しては若干変更してあります。
酒缶:それは、CERO的なものですか?
大地:そうです。CEROのD判定でセーフだった部分に関してはそのままにしてあります。レーティング機構と戦っている、と言ったら変ですけど、何度もやり取りしてセーフティーラインを探りました。
酒缶:なかなか難しいですよね。
大地:技術的な意味でも、移植のハードルはもう少し低いだろうと見積もっていたんですけど、甘かったです(苦笑)。ノベルゲームと言えども、PCの潤沢なメモリ上でゴリゴリと動いているモノを3DSに持って来るのは大変で。PCと3DSで使用できるファイル形式が違ったり、一般流通に乗せての商用利用ということで画像や楽曲の法務手続きが発生したりと、細かくいろいろな手間はかかってますね。
―酒缶:でも、インディーズタイトルを移植するときのノウハウができたんじゃないですか?
―大地:b:それはありますよね。移植のノウハウは溜まっているので、反響次第ではタイトルを増やしていきたいですね。
酒缶:インディーズとして実績のあるサークルにお声かけをして、実績のあるタイトルを移植していますけど、逆に、「カタルヒト」レーベルからオリジナルのタイトルが出てくることはあるんですか?
大地:やりたいですね。今回、いろんなモノを作る熱い人たちに会ったので、レーベルとして実績ができて次のステップに進めたら、そのクリエイターさんたちに協力してもらってオリジナルのタイトルもできたら理想だと思っています。
酒缶:その場合は「カタルヒト」レーベルである必要があるかという問題もありますけど。
大地:でも、折角なら、カタルヒトスペシャルとして出したいですよね。ものすごく古い言い方ですけど。
酒缶:今後の展開として、何かお話しできることってありますか?
大地:さしあたり、9月28日に「WORLD END ECONOMiCA Episode.2」の配信が始まり、今後のタイトルとしては、女性ファンの多い「図書室のネヴァジスタ」というタイトルを開発しています。これもこの後配信が決定しているので、乞う御期待。
酒缶:その後の展開は何かあるんですか?
大地:動いているモノもあります。
酒缶:言えないモノも?
大地:あります。
酒缶:インディーズタイトルを調べながら、「次はこれかな?」と想像していればいいですか?
大地:ご期待ください……ですね。
酒缶:で、当然、それ以外の新規タイトルも……結構大掛かりに動いているんですか?
大地:大掛かりに……とまではなかなか行かないですけど、今の段階では反響次第という正直なところですね。ダウンロードタイトルなので、やっぱり口コミが欲しいんです。
酒缶:わかりました。では、最後に「カタルヒト」のアピールをしてください。
大地:「カタルヒト」は皆さまの反響次第のレーベルなので、簡単には止まりたくないし、反響によって次へ次へと進めるレーベルです。だから、自分が推しているタイトル以外も触れていただき、人気が出て、アドベンチャーゲームシーン全体を盛り上げる存在になるのが理想だと思っていますので、よろしくお願いします。
酒缶:期待しています。ありがとうございました。
「カタルヒト」ポータルサイト
http://www.cs.furyu.jp/kataruhito/
プロフィール
酒缶(さけかん)/ゲームコレクター
1万本以上のゲームソフトを所有するゲームコレクターをしつつ、フリーの立場でゲームの開発やライターなど、いろいろやりながらゲーム業界内にこっそり生息中。ゲーム関係者へのインタビューをまとめた電子書籍「ゲームコレクター・酒缶のファミ友Re:コレクション」を展開中。関わったゲームソフトは3DSダウンロードソフトウェア「ダンジョンRPG ピクダン2」「謎解きメイズからの脱出」など多数。価格コムでは、ゲームソフトとAndroidアプリのプロフェッショナルレビュアーを担当している。
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