eスポーツの識者たちをゲストに迎え、「eスポーツとプロゲーマーの明日はどっちだ_2 ~今、現場で起こっていること~」をテーマとした、メディアコンテンツ研究家の黒川文雄氏によるトークイベント「黒川塾(四十七)」が5月24日に開催された。
「黒川塾(四十四)」では、“eスポーツ”をテーマに日本のeスポーツの現状や課題・未来の展望などについてディスカッションが行われた。その中で、浮き彫りとなった「eスポーツ選手のセカンドキャリア」や「eスポーツシーンの育成と運営、今後の課題」などの問題点にフォーカスしたのが「黒川塾(四十七)」だ。
今回ゲストとして登壇したのは、ゲーミングチームDeToNator代表で自身も「Alliance of Valiant Arms」で日本チャンピオンになった経験のある江尻勝氏、米国EchoFoxに所属し日本初女性プロゲーマーであり忍ism取締役でもあるチョコブランカさん、日本eスポーツ協会事務局長を務める筧誠一郎氏、CyberZ 執行役員 RAGEプロデューサーの大友真吾氏の4名だ。
各ゲストの簡単な自己紹介が行われた後、まずは黒川氏より、2022年アジア競技大会でeスポーツが正式なメダル種目になったが、日本の選手を派遣できないのは何故なのかと筧氏へ質問が投げかけられた。
日本選手を派遣するためにはその競技の団体が日本オリンピック委員会の加盟団体になる必要がある。加盟するためには、国内唯一の代表団体であることが条件になるのだが、「日本にはeスポーツの団体が3つあり認可されないのが現状」だと筧氏は説明する。また、国内に複数の支部を持っていることや、国内大会を開いているなどの条件も満たす必要があり、依然としてハードルは高いのだとか。しかし、統一に向けてそれぞれの団体で話し合いを行うことで、今年は難しいが来年にはまとまることができるのではないかとコメントした。
これに対して、実際に台湾のプロリーグなど海外の大会に選手を送り出している江尻氏は、「今のままeスポーツが競技化するのは日本にとって必ずしも良いことではない」と警鐘を鳴らした。eスポーツが興行として大々的に行われると、動員数やお金に関わる部分などがシビアに直結してくる。この問題を解決せずに競技大会を実施しても、“日本でeスポーツが流行ることはない”と結論付けられ、今まで築いてきたものが全て崩れ去る可能性もあると強い口調で述べた。
大友氏もこれに同意した上で、「イベントを見る側の意識改革も必要である」と述べる。海外のeスポーツ大会では、観客は試合内容に一喜一憂し贔屓のチームが勝てば大盛り上がりするし、負ければポップコーンを辺りに撒き散らす勢いで悔しがる。日本ではそういった文化が無いため、大会を運営する方が演出などに工夫し、盛り上がりやすい空間づくりを行うことで動員数の増加に繋がるのではないかと、RAGEを運営してきた経験を踏まえた上でコメント。最近では新しい試みとしてエイベックス・ライヴ・クリエイティヴと協業するなどして、手応えを感じているようだった。そして、今後も“魅せる”大会づくりを行っていきたいと意欲を見せた。
大会を開いてもらっていることに関しては感謝しているが、と前置きした上で江尻氏は大会の告知や誘致の仕方に対して不満があると述べる。というのも、以前、日本eスポーツ協会が開催した大会では十分な告知がされておらず、1チームしか大会に参加しなかったという事例があったためである。「盛り上がっているタイトルであっても、事情を知らない人からすると、盛り上がっていないように見えてしまう」と意見し、今後どのように改善していくつもりなのかと、筧氏に尋ねた。
これを受けて筧氏は、「観客や選手に不自由をかけていることは重々承知している。ただ、資金がない中、マンパワーでやりくりしているため中々に難しい」と内情を吐露する。しかし、大友氏のRAGEにおける取り組みをみて、「足りない部分を協業という形で補い合うことはとても勉強になった。今後はそういう部分も参考にしていきたい」とコメント。また、スター選手が生まれてくるように、選手を支援できるシステムを作り上げていかなければならないと、今後の課題を語った。
以前から“忍ism”で格闘ゲーマーの育成に取り組んでいるのはチョコブランカさん。黒川氏より、選手育成についてどう考えているかと質問をされると、意外にも「プロゲーマーを育てたくて行っている活動ではない」と語る。これまでのeスポーツのコミュニティを「森」とした時に、現在のeスポーツの盛り上がりは「森林採伐」のようだと指摘。eスポーツが盛り上がることは良いことだとしつつも、今までプレイヤー達が作ってきたコミュニティが壊される恐れがあるという。その上で自分たちが行っている活動により、若い世代を育てることで「森」に新しく木を植えることになればと話していた。
チーム監督という立場から選手の育成について思うところがあるか聞かれた江尻氏は、選手自身に理念が無いことを危惧しており、プロ意識を持って活動をして欲しいと語る。現状、なぜスポンサーやパートナーが付いてくれるのか、なぜゲームをプレイすることで金銭が発生するのか、という点を理解せずに活動している選手が多く、その点をきちんと教育する必要があるという。eスポーツは選手が主役なので祭り上げられるのは仕方ないが、選手はなぜ自分がプロとして活動できているのかを理解することで、より魅力的な人間になることができ、それがスター選手になるのではないかと語った。
また、選手達の自主性を育てることも大事だと江尻氏は続ける。実際にDeToNatorでは、選手やマネージャーを台湾に在住させ、全て自分たちの判断で活動させるということを実践しているという。手助けをしたい気持ちはもちろんあるが、自分たちが今何をしなければならないのか自発的に考えなければ一流の選手にはなれないという想いから、敢えてそのような過酷な環境を用意したのだとか。現状の選手たちについて「eスポーツが盛り上がっているうちはいいが、この環境がいつまで続くかはわからない。そのような状況に陥ったときでも、各自がモチベーションのサイクルを回せるよう、今から危機感を持つことが大事」と話した。
イベントを運営している側からみた選手の印象を尋ねられた大友氏は、「ゲームのジャンルによっても立ち振舞が違うことを感じる」とコメント。
曰く格闘ゲームなどのトッププレイヤーは経験が長い人が多く、マナーや礼節をわきまえている人が多いと感じる一方、比較的若いタイトルでは、プレイヤーも若年層が多いためSNSなどで思わしくない行動を起こしてしまうこともあるのだという。しかし、そんなプレイヤーも大会を重ねていくことで、どこかでプロとしてのスイッチが入る瞬間があるそうだ。そのような経緯を踏まえて、自分たちは深く選手の育成に関わることはできないが、“見られる場”を作っていくことでプレイヤーに自覚を促していければと話していた。
eスポーツが盛り上がりを見せる中、国内のパブリッシャーに変化はあったか? と黒川氏が話題を振ると、「スマートフォンでは対戦型のゲームが増えており、そこで相談を受けるケースが増えているのだが、とても協力的」と大友氏は言う。また、例として「ストリートファイターV」の大会を挙げ、賞品としてゲーム内で使えるオリジナルコスチュームなどを提供してもらい、とても嬉しかったと述べた。
筧氏も、パブリッシャー毎に違いはあるが、eスポーツに対して前向きに向き合う企業が増えてきたと感じるそうだ。あるパブリッシャーでは、自社タイトルを使用して行われる大会のレギュレーションを策定しはじめていることや、今まで大会を開催するにあたり門前払いを受けていたパブリッシャーに「あの時に競技タイトルとして協力していればよかった」と話を受けることもあり、今年に入ってからeスポーツに対するイメージが変わってきていると感じているようだった。
最後に話題として挙げたのは、eスポーツ選手のセカンドキャリアについてだ。まず口火を切ったのは大友氏。今後、ゲーム系の配信者が増えていくのではないかと氏は考えており、そのような人たちの受け皿としてCyberZで運営をしている「OPENREC」が役割を持てたらと話す。
続いてチョコブランカさんは、今まで格闘ゲームではコーチ業が一般化していないことを受けて今年からコーチ業に乗り出したという。現在も色々な分野に挑戦している最中で、それが誰かのセカンドキャリアになればいいと未来への展望を語った。
筧氏は、「eスポーツに限った話ではなく、どの分野においても寿命というのは存在する」とし、寿命を全うした後、そういった人たちをサポートするシステムを模索中だと言う。日本eスポーツ協会では具体的な活動として、eスポーツが他のスポーツのように地域や地元で根を張るための運動を行っているそうだ。またユース団体のようなものを作り上げ、若い世代の内から切磋琢磨していく環境があれば、自ずと日本のeスポーツのレベルは上がっていくのではないかと述べる。こういった活動が実を結び始めれば、自然とeスポーツを取り扱う学校が増えたり、監督やコーチといった職が生まれ産業として回っていくのではないかとし、今後もそのための活動を続けていくそうだ。
最後に江尻氏は、DeToNatorではパートナー企業など関連会社に就職している例もあり、セカンドキャリアにも様々な道があることを示す。また、ここまで選手に対して厳しい意見を述べてきたことについて、「人生は現役を退いてからのほうが長い、それを理解した上で相応の覚悟をもって臨んで欲しいからである」と語る。チームに入ったからといってそこで安心するのではなく、本来であれば自分たちの手でセカンドキャリアを切り開いていかなければならないと自主性の大事さを説き、そこに真剣に向き合った選手には、こちらも全力でサポートしていきたいと熱い気持ちを露わにした。
eスポーツやプロゲーマーという職業は、まだ生まれたばかりなので、今後どうなっていくのかは、まだ誰にも分からないのが現状だ。そんな厳しい世界で生きていくために、選手達や関係者が乗り越えなければならない山は高いものになるのは致し方ないのかもしれない。しかし、その現場を牽引している識者たちが熱いハートを持って現場で戦っていることを知れたのは僥倖と言えるだろう。eスポーツの今後の発展を願う一個人としても、今回のセッションの内容は多くの人に知っておいてもらいたいものだと感じた。
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