日本一ソフトウェアが2017年9月7日にリリースするPS4/PS Vita向けアドベンチャーゲーム「祝姫 -祀-」。ここでは、PS4版のインプレッションを掲載する。
※「祝姫 -祀-」はCERO Z(18歳以上のみ対象)のタイトルとなります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮頂きますようよろしくお願いいたします。
本作は2016年1月にPC向けタイトルとしてリリースされた「祝姫」をコンシューマに移植した作品だ。シナリオを、「ひぐらしのなく頃に」の竜騎士07氏が、キャラクターデザインを、多数のアドベンチャーゲームやライトノベルで活躍している和遥キナ氏が担当するなど、その豪華な布陣も話題を呼んだ。
PS4/PS Vita版では、竜騎士07によってシナリオが部分的に書き直されていることに加え、追加シナリオ「結姫(ムスビヒメ)」も新たに収録しており、単純な移植に留まらないプラスアルファの作品となっている。本稿では、PS4版のインプレッションをお届けしていこう。
筆者はPS4版で初めて「祝姫」を体験したのだが、純和風ホラーを背景としたゾクッとする世界観や、前半と後半の展開の温度差、呪いをテーマにした凄惨なストーリーなど、竜騎士07氏の代表作である「ひぐらしのなく頃に」や「うみねこのなく頃に」にも通じる、唯一無二の作家性を端々から感じることができた。
和遥キナ氏が描くキャラクターも印象深い。主人公の煤払 涼を筆頭に、ヒロインの黒神十重、春宮椿子、美濃部 鼎、布川 梨里杏といった、大きなインパクトを残すキャラクターたちは、ストーリーを華やかに彩り、時に黒く染める。
特に、本作の象徴とも言える十重の存在は、プレイヤーの記憶に深く刻まれるだろう。一見すると、長い黒髪の美しい少女だが、その目は虚ろで、言葉数も少なく、およそ常人には理解不能なミステリアスさに包まれている。不気味な日本人形を常に抱きかかえていることも、何か勘ぐらせるものがある。涼に対し当たりが強いのも、深い理由がありそうだ。とにかく謎だらけのキャラクターである。
おそらく、初見で彼女の深層を理解することは困難だろう。しかし物語を進めていくにつれ、プレイヤーは、十重が背負う宿命の重さや、心の内に秘めた哀しく切ない感情を知ることになる。それまでおぼろげだった物語の輪郭が、徐々に形を成し始める瞬間だ。
また、涼の遠い親戚である椿子は、普段はホワッとした親しみやすい正統派のヒロインかと思いきや、かなり強烈な過去を持ち、本人はそのことにコンプレックスを抱いている。鼎や梨里杏も同じく、一見しただけでは察することができない意外な側面を持っているのだ。本作は、人間性を深く掘り下げて描いていることも大きな特徴。一人ひとりのキャラクターに厚みを持たせていることが、ゲームへの没入感、ひいてはキャラクターに対する感情移入へ繋がっているのだ。
ホラー作品としてのこだわりにも注目したい。些細なことで日常が崩れてしまう危うさや、どこまでが夢でどこまでが現実か理解できない曖昧な境界線、理不尽な「呪い」によって襲いかかる不幸。全てが終わり安心しきった瞬間、心の隙間を突いて再び訪れる恐怖の存在など、怒涛の展開はプレイヤーに息つくヒマすら与えてくれない。
なかなか大変な作品ではあるし、好き嫌いが別れる部分もあるが、ハマる人はとことんハマる。そんな魅力が「祝姫」には詰まっているのだ。
本作は決して、終始笑顔のまま堪能できるタイプの作品ではない。冒頭でも語ったが、和風ホラーテイストが強い作品であり、白昼夢や呪いといった、穏やかではない題材やキーワードがテキストボックス内を踊る。残虐描写もなかなか強烈で、18歳以下はプレイすることを許されないCERO Zに相応しい内容であると言えるだろう。
一部を除く序盤ストーリーは、いわゆる学園もののような雰囲気だ。涼が、可愛らしいヒロイン達と繰り広げるラブコメのような展開は、物語の深層を忘れてしまいそうになる。しかし、そのギャップこそが恐ろしく、物語に没入する要因でもあるのだ。
また、本稿のようなインプレッション記事では、通例として、まず基礎情報から始まり、次いでゲームシステムの紹介を行うというフォーマットめいた流れがあったりなかったりするが、本作は、この手のテキストアドベンチャーにおいてある種必須項目と化しつつある「選択肢」がない。
基本的に、文章を読み進めていくのみだ。「ひぐらしのなく頃に」にも選択肢はなかったが、本作も同じく、インタラクティブ性を廃したデザインだ。とはいえ、それがこの作品において致命的なことかというと、筆者はそうは思わなかった。確かに、ゲームらしいアクティブさを求めるのならば、プレイヤーが介入できる要素は必要だろう。
しかし、ストーリーを表現することに徹するという本作のコンセプトやデザインを考えれば、選択肢があろうがなかろうが、そんな事は問題ではない。プレイヤーの心に訴えかけるシナリオや演出こそが本作のキモであるため、シンプルにそれらを堪能するには、このスタイルが一番適切だったという考えはよく理解できるのだ。
公式サイトでは、Web上でプレイできる体験版も公開されている。本稿を読んで「祝姫」が気になったという方は、一度体験版を試してみるのもいいだろう。
発売日は9月7日であるため暦的には秋となるが、ここ数年は9月と言っても暑さがしつこく続いている。夏の締めとして本作をプレイしてみるのも一興だろう。……とかいうちょっと苦しい締め方で本稿の紹介を終えたいと思う。