公式サイトに「バグに侵食された世界」というワードがあるのを見て、俄然興味を持ってしまったゲームがありました。そのゲームの名前は「Death end re;Quest(デス エンド リクエスト)」。今回、コンパイルハートさんからパッケージ版のソフトをお借りすることができたため、インプレッションをお届けします。
ゲーム開発においてバグというモノは、大変恐ろしいモノです。今でこそ、致命的なバグはアップデートで何とか改善することができますが、ネットにつながらないゲーム機の時代はマスターアップ後にバグが見つかると、すぐに直せるか、発売日に間に合わすことができるか、このバグを直した場合他のバグが出てこないかなどなど、恐ろしい事案がひたすら頭の中を駆け巡ったモノです。いや、頭の中だけでは済まないので、自らも駆けずり回り、いろんな人に頑張ってもらわなくてはならなかったワケですが……。
1日でも早くマスターロムを提出しようと思い、提出データをMOに入れて新幹線に駆け込み、手渡しで届けたモノの、とんぼ返りするとそのバージョンにバグが発見されていて、次の日もまた頑張ったような日々の記憶がだいぶ美化された状態で蘇ったのですが、目から何かが流れているのは気のせいでしょうか。
一方、自分が遊んでいるゲームにバグがあると、なぜか嬉しくなってしまい、より正しい手順でバグを出すことができないかといろいろな試みをしたくなってしまうこともありました。このやり方をしてもセーフだけど、こっちのやり方をするとアウト、なんてことを試しているうちに、これってデバッガーの仕事そのものじゃん、と思うわけです。ときにはそのやり方が若干姑息ながらも一番やりやすい攻略法になる場合もあるので、バグはバグで楽しめたんですよね。さすがにセーブデータが壊れるヤツとかは完全にアウトでしたけど。
今ならアップデートされてしまえば、遊んでいるゲームがよりよくなることが必然なので、致命的なバグを楽しむことはなかなかできなくなっていますが、このゲームであればすぐにバグを体験できる……はずです。
早速、「Death end re;Quest(デス エンド リクエスト)」をプレイしてみましょう。
どこか不気味なファンタジー世界
ゲームを起動すると、爽快な主題歌と共に幻想的な世界が画面いっぱいに広がります。ファンタジーな風景にデジタルがちらつき、バグっぽさが表現された世界。ゲームのジャンルは「RPG」なので、ファンタジーな風景はしっくりとくるのですが、デジタル表現の中に違和感が芽生えてきます。
映画でもゲームでも、日常表現にちょっとズレた何かが登場することで、どことなく不安を感じるモノですが、その不安をあおる表現としてデジタル表現が使われています。
いや、実際のところ、そのファンタジーな風景自体がデジタル表現なのですが、ひとまずその部分はリアルな表現ということにしておいて、一部が数字で表現されたり、画面がちらついたりするようなところに、どことなく不安を感じることになるのです。
ゲームを開始すると、難易度の選択。
今回はプレイ感覚を正しく伝えるために「NORMAL」でプレイすることにしますが、ゲーム開始後にも「Option」でいつでも難易度を変更できるので、ご安心ください。
不安をあおるオープニング。デジタルに侵食されていくビジュアル表現は十分に不気味なのですが、不協和音が加わることで、プレイヤーの不安感はさらに高まっていきます。
突如場面は変わって戦闘シーン。恐ろしい何かと戦っている少女が一人。
プレイヤー自身はまだ傍観者であり、何かをできるわけではありません。早くこの手で何かをしたいと思いながらも、何もすることはできません。
戦う少女と、どこか別のところから交信している男性がいるようですが、とにかくまだプレイヤーは蚊帳の外。
そして、少女に残酷な結末が……。
この衝撃的なシチュエーションは、果たしていつの時代のことなのか。過去のこと? 未来のこと? いつのことなのかわからないまま、目覚めた少女と共に、プレイヤーの冒険が始まります。
見知らぬ家の中で目覚めた少女は記憶を失っています。部屋の中にあるモノを調べながら、プレイヤー自身も徐々にこの世界に慣れていきます。
外に出ると綺麗なお花畑があり、プレイヤーが操作に慣れる中で、彼女自身は「冒険家」で、2000年に一度上空に現れるという伝説の「天空の都市」を探し求めて、軍事大国「ハーティス」にたどり着いたことを思い出したようです。
操作に慣れていくプレイヤーと、記憶を取り戻していく少女。お互いが足りない何かを補うように、お花畑を走り抜け、アイテムを拾いながら平原を走り抜けると、ロード画面でこの世界の全貌を見る事になります。
たどり着いた先は、赤茶色のゴツゴツとした岩で囲まれた土地。いきなり全然違う環境に放り込まれて不安な気分が増幅されます。
それ以上に画面のちらつきが気になるようになります。どうやら、バグの領域に入り込んだようですね。
モンスターに襲われている人を目撃すると不安な気分が一気に吹き飛び、戦うことになります。いや、彼女は戦えるのでしょうか? 記憶の限りだと「冒険家」なんですけど、この世界の「冒険家」って、戦う存在なのでしょうか?
ああ、やっぱりそう思いますよね。戦うのは確かにこの少女なのですが、操作をするのはプレイヤー。つまりは、プレイヤー自身がしっかりと戦うことができれば、少女の記憶なんて気にする必要はありません。
バトルでは、少女とクリーチャーの攻撃順番が画面の左上に表示され、順番が回ってくると操作をすることができます。少女に順番が回ってきたら、クリーチャーたちが止まっている状態で、少女だけが自由に動くことができ、行動する場所への移動が完了したら、3つのコマンドを選んで行動を決めます。
コマンドの種類はそれなりにあるのですが、とりあえず「Action」を選ぶと「Command」内の「アタック」を3回連続で決めることができます。「アタック」を3回続けた場合には、最後に追加攻撃の「ノックバグ」が発生し、攻撃を当てたクリーチャーを吹っ飛ばすことができるので、ひとまずここは「ノックバグ」を発生させることで、手堅く勝利をつかみましょう。
バトルを行うフィールドは範囲が決められていて、吹っ飛ばされたクリーチャーはフィールドの仕切り部分にぶつかると跳ね返ってくるし、クリーチャー同士がぶつかったらお互いダメージを受けるよう。クリーチャーの位置関係を把握した上で、いかにしてクリーチャーを吹っ飛ばすかが、バトルをするうえでの攻略になってきそうです。
ここからストーリーをちょっと飛ばして王宮内の攻略。心持ち、画面のちらつきが増えたような印象。
更に、怪しい人物の声が聞こえ、不安な気持ちが高まってきます。
急いで外に逃げると、外の世界がおかしくなっていて、バグによる不安な要素が増幅されていきます。
ある人物の不気味な言葉が思い返されます。
王宮内のバトルでは、床に発光している部分があり、これがどうやら「バグ」のようで、キャラクターが触れると「汚染」されてしまうので、注意しないといけません。キャラクターの「汚染度」が100%になると戦闘不能になるため、自由に移動できるといっても慎重な移動が大事になります。敵の攻撃でも「汚染度」は上がるので、なるべく敵に攻撃を受けないように気を付けながら戦うことが重要になります。
果たして神なのか、何なのかよくわからない存在は、「バグ」を駆除してくれているようで、以前から一緒に戦っている存在のようです。
そして、汚染されて苦しむ少女から1匹のクリーチャーが誕生。
バグ? すでにここまでに何度も「バグ」に関わる表現の要素がたくさん出てきていているのですが、どれが本当の「バグ」なのかわかりません。しかし、新しく発生したこのクリーチャー、通称「バグゥ」は敵の兵士を食べてしまいました。バグとは敵なのか味方なのか。バグは基本的には修正すべき存在なのですが、制御すれば味方にもなるということなのでしょうか。
少女が冒険をしている舞台は、実はゲームの世界で、少女自身がこのゲームのディレクター。手助けをしてくれた天の声はプログラマーというシチュエーションのネタ晴らしが展開されるのですが、よくよく考えると少女自身を操作しているのはプレイヤーなので、ゲームの中では行方不明になっているはずの「リアル」なゲームディレクターの少女がプレイヤー自身という一体感を感じるようになります。
奇妙な出来事の起こるリアル世界
一方、現実世界では、ゲームの開発会社「エニグマ」でゲームプログラマーとして働いている「水梨新」中心にお話が展開されます。
「水梨新」が、以前関わっていたゲーム「ワールズ・オデッセイ」のプロジェクトが終了してから約1年後が舞台。「ワールズ・オデッセイ」は、「エニグマ」が社運をかけて開発に取り組んだVRMMORPG。VRMMOとは「仮想現実・大規模多人数オンライン」という意味で、VRゴーグルを装着してプレイするオンラインゲームで、簡単に言うと「レディー・プレイヤー1」みたいな感じ。しかし、「ワールズ・オデッセイ」はバグに侵食されているため、今では誰もプレイできないし、運営もされて……いないはずでした。
しかし、「水梨新」は、「ワールズ・オデッセイ」が動いていることを知り、「ワールズ・オデッセイ」をゲームディレクターの「二ノ宮しいな」がプレイしていることを突き止めます。
ゲームをプレイしているのは「二ノ宮しいな」のはずだけど、果たして彼女はどこにいるのだろうか? そもそも、このゲームはどうして動いているのだろうか? とりあえずプログラムを修正することで、ゲームの中の少女はピンチを切り抜けることがわかりつつも、ゲーム開発会社「エニグマ」に行くと会社がマスコミに囲まれているおかしな状況。
単純に、「ワールド・オデッセイ」の中で少女が戦うのがメインで、あくまでも「水梨新」はそのサポートとして活躍するだけかと思えば、こちらはこちらでストーリーが展開されていきます。
全体マップから行きたい場所を選んで移動すると、ストーリーが展開されます。ゲームの中で不意に現れたおかしなアイテムがあれば、それにまつわる場所に移動することで、ストーリーが展開されていきます。
ゲームの中ではバグによる恐怖を払しょくするために戦っていましたけど、現実世界ではゲームの中で見つけたアイテムを起点にした心霊現象がストーリーに絡んできます。
ゲームの中のバグは、ゲームの中のキャラクターの頑張りがあるモノの、当然ながら現実世界にいるプログラマーがプログラムを修正することで改善されていくのですが、果たして現実世界で起きていることは、何をどうすれば改善されるのでしょうか。
ゲームでも現実でも絶望に抗え!
ゲーム世界では敵とバトルをしてキャラクターを成長させる要素が大事になってくる一方、現実世界ではその都度、全体マップから拠点を移動することでストーリーが展開するアドベンチャーゲーム的なゲーム進行になっています。
当然ながらゲーム世界と現実世界は独立しているわけではなく、ザッピング的なつくりになっていて、ゲーム世界の方で先に進めない展開になった時には、現実世界の問題点を解消することで、ゲーム世界を進められるようになっています。
どちらの世界でも、バストアップ+ボイスによるストーリー進行があるのですが、時々発生する選択肢がかなり重要な要素になっています。最終的にはマルチエンディングに絡んでいくような作りになっているようですが、序盤で大事なのはゲームオーバーにならないこと。
実のところ、このゲームでは、選択肢の一方を選ぶとバッドエンドになることが多いため、選択肢が出てきてもすぐに選択せず、とりあえずセーブをしておくことが正しい選択になります。
ときには選択肢のところでセーブができないこともあるし、特定の場所に入るといきなりバッドエンドになることもあるため、ゲーム世界ではセーブポイントで細かくセーブをしておくことも重要になりそうです。
ゲーム世界では、最初は「シイナ」一人で冒険をしていますけど、冒険を続けることで仲間が増えていきます。バトルは3人までしか参加できないので、仲間になったキャラクターの特徴を見極めることで、理想のパーティを組んでいくことになりそうです。
攻撃の際には3回コマンドを選ぶことができ、3回とも「アタック」にすれば「ノックバグ」を発動してクリーチャーを吹っ飛ばすことができることはすでに説明していますけど、この吹っ飛んだクリーチャーを仲間のいるところに飛ばせば強力な攻撃で支援をしてもらえます。
どのクリーチャーをどの方向に吹っ飛ばせばいいか考えていくところのプレイ感覚は、ビリヤードに近いかもしれません。手玉を自由な位置に移動した上で、吹っ飛んだクリーチャーの跳ね返る方向を考えながら、的確な攻撃を繰り出していくことが重要になります。
但し、吹っ飛ばしたクリーチャーが特定のキャラクターの周辺に集中してしまうと、クリーチャーのターンでそのキャラクターだけ攻撃を喰らいまくってしまうため、パーティメンバーが増えた際のバトルでは、「ガード」を入れ込むなど、あえて吹っ飛ばさない攻撃に切り替えることも大事になってきます。
ゲーム世界では、ダンジョンを攻略していくと、最後にはものすごく強いクリーチャーと戦うことになります。雑魚相手には「ノックバグ」で敵を吹っ飛ばすことがかなり有効でしたけど、ボスは巨大で重いため、あまり吹っ飛ばすことができず、戦闘が長くなる傾向にあるようです。
バトルが長引くと必然的に敵から攻撃を喰らうことが増え、キャラクターの「汚染度」がどんどん上がっていきます。この「汚染度」が80%を超えると、キャラクターが「グリッジスタイル」に変身してしまいます。
この「グリッジスタイル」は、単なるセクシーなビジュアルが特徴なわけではなく、強力な攻撃を決められるようになります。普通に攻撃をするだけでも、普段よりも強力な攻撃になりますが、3つ目のコマンドを「ワイルドスキル」にすることで、より強力な技を決めることができます。「シイナ」だと「スピベルグリッジ」ですね。
ゲーム世界で死んでしまうともう2度と現実世界に戻って来られないかもしれない設定のため、ゲーム世界では死なないようにプレイを続けることになります。
現実世界では警察や怪しい組織などが蠢く中で必死にゲームのサポートを続けていくようなストーリー展開は、とにかく先が気になりました。
ゲームを開始してすぐに、このゲームはホラーなのではないかと思ってしまっていたのですが、いろいろなバッドエンドを体験した上で、現実世界の心霊現象やオカルト要素が出てくる展開を見ているうちに、今作はホラー作品だと確信できました。
バグとは、ゲームの世界を外側から見れば、単純に修正されるべきおかしな存在で、プログラマーの手によって修正されていくのですが、それでは現実世界の方で起きている現象は、その外側にいる何かによって操られているのだろうか、などなど、ホラー視点でゲーム全体を見ていると、いろいろな想像を膨らませながらゲームを楽しむことができます。
今回は約10時間プレイさせていただいたのですが、さまざまな事柄がどのようにして解決していくのか、とにかく先が気になりすぎるゲーム、というのが、一番の感想。今回のプレイでは体験できなかったのですが、ゲーム世界の戦闘にリアル世界から「バトルジャックシステム」を使って干渉することができるなど、バグとプログラマーの関連性を高めるようなシステムが用意されているのもかなり気になりました。
ゲームの中ではバグによる絶望的な恐怖をたくさん体験することになるのですが、それでもバグは面白いことを十分に実感できましたよ。
プロフィール
酒缶(さけかん)/ゲームコレクター
15000種類以上のゲームソフトを所有するゲームコレクターをしつつ、フリーの立場でゲームの開発やライターなど、いろいろやりながらゲーム業界内にこっそり生息中。「東京エンカウント弐」にゲームアドバイザーとして協力。関わったゲームソフトは3DSダウンロードソフトウェア「ダンジョンRPG ピクダン2」「謎解きメイズからの脱出」など多数。価格コムでは、ゲームソフトのプロフェッショナルレビュアーを担当している。
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