絵本のようなビジュアルと、どこか意味ありげな姿の少年少女がどうしても気になってしまう「嘘つき姫と盲目王子」。PS4版のプレイ環境をGamer編集部内に用意していただきましたので、インプレッションをお届けします。
嘘つき姫と化け物は何ができるか
「嘘つき姫と盲目王子」は、ストーリーの進行に合わせてアクションステージを進めていく、ステージクリア型のアクションゲーム。プレイヤー自身は「狼」と「姫」を使い分け、「王子」と共にゴールを目指して突き進んでいきます。ゲームを攻略する上で、一番大事なのは化け物である「狼」と人間である「姫」の違いについて、しっかりと把握していくことになります。
「狼」は頑丈な体をしているため、高いところから落ちても大丈夫です。体重も人間よりは重い設定の様です。
「狼」は大きな体をしているため、高いところにもジャンプで飛び乗れます。
「狼」は力が強いので、いろんなモノを破壊したり、吹っ飛ばしたりできます。
「狼」は凶暴なので、森に住んでいる「人食いの化け物」を倒すことができます。
「狼」が殴って衝撃を与えると、発動するギミックがあります。ここでは向きを変えて動いている花のつぼみをタイミングよく殴ることで、つぼみが向いている方向に種を発射しています。
しかし、「狼」は「王子」と手をつなぐことができません。
一方、「姫」は、高いところから落ちると倒れてしまいますし、あまり高いところにジャンプで飛び乗れませんし、何も壊せませんし、「人食いの化け物」を倒すこともできませんけど、スイッチなどのギミックを動かすことができます。
そして、「姫」は、「王子」と手をつなぐことができます。
「狼」と「姫」は同一の存在で、切り替えながらゲームを進めていくことになります。これって、単純な話「狼」になって「王子」と手をつなぐことができれば、ほとんど「狼」の状態で突き進めばいいように思いますけど、そうはならないところが、このゲームのバランスの良いところ。実は「狼」と「姫」と「王子」は、単なるゲームの都合ではない、ストーリーや世界観を含んだ重い関係性のバランスを取りながら、一緒に冒険をしているのです。
狼と王子の出会い
ゲームをプレイする上で、常に大事になるのがストーリーなので、序盤のストーリーを少し追ってみます。
舞台は、小さな王国を取り囲む、魔女が支配していて、「人食いの化け物」が徘徊する闇深い森。「狼」は毎夜、小高い岩の上で月に向かって歌っていました。
その美しい歌声に誘われて、毎夜、闇深い森に通う王子。この時点で「王子」には特に何の問題もなく、目も普通に見えていました。
「狼」が歌を歌い終わると、「王子」は「狼」に拍手を送る。そんなのどかな日々がしばらく続きました。
「王子」は「狼」の歌声に惚れるも、その姿を知りません。「狼」は最初、「王子」のことを食べてしまおうと思っていたのですが、何度も拍手を受けているうちに「狼」は「王子」の拍手を悪くないと思うようになり、いつしか王子の拍手を楽しみに歌うようになっていきます。
「狼」は「王子」に正体をバレたくありません。
しかし、ある日、「王子」は歌声の主に会うために小高い岩を登ってきてしまいました。
歌を歌っていた「狼」は、「王子」が小高い岩を登っていることに気付くも、姿を見られたくないため、とっさに彼に向かって手を伸ばしました。
運悪く、「狼」の手が「王子」にぶつかり、ケガをさせてしまいます。「王子」が小高い岩から落ちるのを、手を伸ばして助けようとする「狼」。
しかし、「王子」は「狼」を恐れてじたばたとしてしまい、「狼」は動揺して、「王子」の手を放してしまったため、「王子」は小高い岩から落下してしまいます。
以後、目が見えなくなってしまった「王子」は、王族として二度と人前に出ることはなく、お城の塔に幽閉されてしまいます。
「王子」は、「狼」を恐れているけど、「狼」の声はわかりません。そして、「王子」は、美しい歌声は好きだけど、その歌声の主のことを知りません。そのため、幽閉された「王子」に「狼」が話しかけても、「王子」が恐れることはありません。
「狼」は「王子」を「魔女」のところに連れていき、目を治してもらおうと思いました。しかし、「王子」は化け物を恐れている上に「狼」の手の感触を知っているため、このままでは連れていくことができません。そこで、「狼」は「魔女」のところに行き、人間の姿にしてもらうことにしました。
そして、「狼」は自分の歌声を差し出して、人間の姿、「姫」の姿にしてもらうことにしました。
「王子」のために歌声を手放し、偽りの姿になった「狼」が、「王子」を「魔女」のところまで連れていく冒険が始まります。
絵柄とは裏腹に、ドキッとするような内容のストーリーなので、絵本とはいっても決して子ども向けではなく大人向けのちょっと影のある絵本になっています。ゲームのタイトルにもなっている「姫」ですが、そもそもの存在が「姫」ではありません。「王子」も元々はしっかりと目が見える存在でしたけど、今は不幸にも盲目の「王子」になってしまっています。この絵本のような物語を読み進めることで、「姫」と「王子」と「狼」の関係性が変化していくのを見守ることになります。
いつでも盲目王子のために
絵本を読んでいるかのように楽しめるストーリーと、それに合わせて作られたステージにより、ゲームが進行していきます。「姫」に何ができて、「狼」だと何ができない、というような制限については、機械的にルールを把握するのではなく、ストーリーや設定に合わせて考えれば自然と馴染むようなつくりになっています。
プレイヤーは「狼」と「姫」を操作できるけど、「王子」を直接操作できないことが、このゲームにおける最大のポイントとなっています。なので、「王子」をうまくナビゲーションして、一緒にゴールしなくてはなりません。
盲目の「王子」は、何もなければその場に立ち止まったままです。
「王子」を放置しても問題ないところはありますが、アクションゲームなので、放置していると突然敵が迫ってきていて、「王子」がやられてしまい、涙を流すような展開は結構あるので注意が必要です。
それゆえに、常に「王子」を画面内に収めつつ、ピンチにならないように対応していくような遊び方になっていきます。「狼」だと「王子」を直接動かすことができず、「姫」だと「王子」と手をつないで一緒に移動できるので、ステージ中の大半は「姫」と「王子」が手をつなぐという微笑ましい姿を見る事ができます。
しかし、「姫」も「狼」も声を発するだけであれば、「王子」はどちらの声だか判断できません。これは、「姫」と「狼」が同一人物(?)だから当たり前なのですが、このことから更にいろいろなことができるようになっています。
「王子」は指示に合わせて、一定距離の移動をすることができます。二人同時に乗ると壊れてしまう橋を一人ずつ渡るときや、離れた場所から誘導して進んでもらう時など、いろんなパターンで活用できます。
「王子」は指示に合わせて、モノを持つことができます。
「王子」がモノを持った状態で、手をつないで導くこともできるため、「王子」にランタンを持たせて、手をつないで火元まで導き、ランタンに火を点けて移動するような、複合的なギミックを組み合わせた謎解きに対応するようなことだってできるようになります。
その他、高いところから硬い地面に落下すると「王子」は倒れてしまうこともあり、常に「王子」を守ってあげなくてはなりません。
プレイする前に、公式サイトなどの情報を見てパズルっぽい要素の強いゲームかと思ってはいたのですが、実際にプレイしてみると、プレイヤーが気付いて実行できるような難易度に抑えられているように感じました。
1つのステージ内のギミックが、直前にクリアしたギミックの応用をこなしていくような作りになっていて、プレイを積み重ねるたびに、しっかりとプレイヤー自身の知識として蓄積されていくんですよ。
そして、ストーリーを進めることで「姫」と「狼」の特性を理解することができ、自然と操作で対応できるようになり、その上でストーリーの内容自体にグッと引き寄せられるため、先が気になってしまいます。
また、プレイ中にそこそこチェックポイントがあるため、失敗してもあまり戻されることがなく、ストーリーをクリアするだけならそれなりに強引に進めることができるのですが、適度に取りにくいところに配置されている花びらを見つけたり、花を取って「王子」にプレゼントするような、微笑ましい収集要素があるため、クリア後もまだまだ楽しめそうです。
花びらを収集すると、収集した枚数に合わせて設定画が解放されるようになっているので、ストーリーが完結してもまだまだ「嘘つき姫と盲目王子」の世界観に浸り続けることができます。
実のところ、今回はある程度プレイしたところで切り上げようと思っていたのですが、あともう少し、いやもう少し……いやいやまだやめられないだろう……とプレイを続けてしまい、かなりしっかりと「王子」を導かないといけない難易度高めのラストステージまでしっかりとクリアして、個人的にはストーリーとは関係なく「姫」を許すことができました。
パズルっぽい要素はあるけど、そこにはあまりこだわらず、どことなくダークな要素のある童話的なストーリーにどっぷりと浸りたい人こそがじっくりと楽しめるゲームなんじゃないかなぁ。
プロフィール
酒缶(さけかん)/ゲームコレクター
15000種類以上のゲームソフトを所有するゲームコレクターをしつつ、フリーの立場でゲームの開発やライターなど、いろいろやりながらゲーム業界内にこっそり生息中。「東京エンカウント弐」にゲームアドバイザーとして協力。関わったゲームソフトは3DSダウンロードソフトウェア「ダンジョンRPG ピクダン2」「謎解きメイズからの脱出」など多数。価格コムでは、ゲームソフトのプロフェッショナルレビュアーを担当している。
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