スクウェア・エニックスより7月13日に発売されたNintendo Switch向けソフト「OCTOPATH TRAVELER」(以下、オクトパストラベラー)。本作でプロデューサーを務めた、高橋真志氏へのインタビューをお届けする。

目次
  1. 試行錯誤の繰り返しだったドット絵と3DCG
  2. 原体験として記憶に残る「ファイナルファンタジー」の面影

本作は3DCGとドット絵、独創的なエフェクトが織りなす世界の中で、生まれた場所も目的も異なる8人の主人公で旅を繰り広げる、Nintendo Switch向け完全新規RPG。すでにリリースから1週間が経過しており、多くの人がプレイし、その世界を存分に楽しんでいることだろう。

今回のインタビューは、プロデューサーの高橋真志氏に「OCTOPATH TRAVELER」を2DRPGにした経緯、そしてこの作品が生まれるに至った原体験の数々を伺っている。ファミコンやスーパーファミコンのRPGを楽しんだ人たちにとって、このゲームが重要な意味を持つことがよく分かるインタビューだ。

試行錯誤の繰り返しだったドット絵と3DCG

――まず、なぜ「オクトパストラベラー」を2DRPGにしようと考えたのか、その経緯から教えてください。

高橋真志氏

高橋氏:一番大きかったのは、新規タイトルである以上、初見のインパクトで名前を覚えてもらわなければならないという考えでした。昨今出ているRPGを見たとき、フォトリアルな作品、イラストがリッチに動く作品とさまざまで、差別化が難しいのは事実だと思います。そこでバックボーンになったのが、私が子供のころに遊んだRPGだったんです。私は1985年生まれで、子供のころはJRPGの黄金時代と呼べるものでした。当時の影響が大きくて、スクウェア・エニックスに入社したときから「2DRPGを作りたい」とは常々話していたんです。

――かなり昔から2DRPGに対する思いがあったんですね。

高橋氏:入社当時はこんなことを言っても「今の時代に敢えて2Dのゲームを作るなんてCGで作るより難しい」と一蹴されていたんですけれど、いろいろなゲームに関わる中で今回の機会に恵まれて、本作の開発に至りました。

――「オクトパストラベラー」はただのドット絵ではなく、HD-2Dを採用していますよね。

高橋氏:最初は全てをドット絵で作り上げる試みをしていました。魔法のエフェクトや海や光の加減もすべてドット絵でトライしてみて、でもなかなか思ったものにならなかったんです。思い出を超えられないというか、かつてスーパーファミコンでリリースされたRPGは、当時のスペックの限界に挑戦していたと思うんです。それに対して今はスペックも上がり、ドットもより細かく表現できるようになりました。しかし綺麗にしすぎるとただのイラストになってしまいますし、だからといって荒くしすぎるとチープになります。

このように試行錯誤をする中、ひとつの可能性を感じたのが、ドット絵の背景に光を当てたり影を写し込む演出を見たりしたときでした。この演出がとても素敵だと思い、開発を担当するアクワイアさんと試作を繰り返し、ドット絵と3DCGを融合させる現在の手法にたどり着いたのです。

――しかし言うは易しで、2Dと3Dを融合させるのは難しいことではありませんでしたか?

高橋氏:それはもう、アクワイアさんと試行錯誤の連続でしたし、自分たちのセンスが問われるところでもありました。ドット絵だからといってクオリティが低く見られない、今世代機ならではのグラフィックになっているか、そのためには頭身がどれくらいにしたらいいのか、1ピクセルをどのサイズにするべきか、背景にある木のサイズは、ひとつの街のサイズは、とにかくすべてを草の根的に決めていきました。

――結果としてキャラクターは今の頭身になったわけですが、コンセプトや方向性は考えていたのですか?

高橋氏:ひとつの目標として、地に足の着いたリアリティのある世界にしたい考えがありました。だからキャラクターも、言い方は悪いですがちょっと地味なんですよ。なぜかというと、その世界に本当にいてもおかしくないデザインしたかったからです。だから派手な装飾もなければ、色味もビビッドなカラーを極力使わないようにしています。同じく街の背景に関してもリアリティは最優先でした。イメージボードを作って、「この街にはこんな小物がありそう」とアクワイアさんとイメージを膨らませていったんです。

――ひとつ気になったのが、プレイヤーキャラクターの頭身に対して、ボスとして出てくる一部の敵は八頭身かそれ以上じゃないですか。これにはなにか狙いがあったのですか?

高橋氏:最初はそこも違和感のない大きさでボスキャラクターを作っていたんです。でもボスの迫力は特に重要だと考えたのと、スーパーファミコン時代の「ファイナルファンタジー」のボスのような威圧感がほしかったんです。だからなにか意図があったというより、「ボスはこうあってほしい」という私たちの願望ですね。

――キャラクターにボイスを付けた理由も気になります。

高橋氏:ボイスを付けるかどうかは早い段階から議論していたところで、結論としては「どっちでもあるべきだ」でした。だからボイスのオンオフ、言語の切り替えはできるようにしてあります。デフォルトとしてオンにした意図としては、単純に昔風のゲームのままにしても面白みがない、違いを感じてもらいたい想いがありました。ボイスがあることのメリットは、テキストで説明しなければいけない部分が如実に変わることです。どんなテンションなのか、細かいニュアンスも声が表現してくれます。これを文字で説明すると、途端にくどくなりますし、文字を読むことがメインのゲームになってしまうのは今回のゲームが目指すところではなかったからです。

――ボイスが入る前と後で、印象が変わったキャラクターはいますか?

高橋氏:それはもう全員と言いたいところですけど(笑)。ボイスが入ったことでイメージがさらに膨らんで、演出面にも手を加え直したケースは全員にあります。それでもあえて1人挙げるなら、最初にボイスを収録したオルベリクですかね。この作品は構想期間を含めると3年近く続けてきて、オルベリクは最初に生み出したキャラクターでもあります。いろいろなビジュアルや設定を作っては捨て、作っては捨てを繰り返してもオルベリクだけは生き残り続けてきて、個人的にも思い入れは強いです。そんな人物にボイスが付いたことは感慨深かったですし、安堵した思い出があります。

――キャラクターの個性という点では、それぞれのフィールドコマンドもありますよね。

高橋氏:まず、それぞれどういうキャラクターがいいかは、ジョブから考え始めました。シナリオとして、あるいはグラフィックとしての個性だけがあっても、ゲームとして面白くなければ評価されません。次に、これも先程話したとおり、ファンタジーに寄りすぎずリアリティのある世界観にしたかった思いがあり、中世ヨーロッパ当時にあったであろう職業を8人に割り振っていきました。

次にポイントとなったのが、本作では「ロールプレイ」を楽しんでもらいたいという考えです。剣士なら剣士らしい旅、踊子なら踊子らしい旅をしてほしい、だから剣士であるオルベリクは「試合」という、戦いに重きを置いたフィールドコマンドになりました。

――プレイ次第では8人のキャラクターのシナリオが同時に進行していきますが、整合性を取るのは難しくなかったですか?

高橋氏:よく「サガ」シリーズと比較していただくんですけれど、そもそも私たちはフリーシナリオを目指したわけではありませんでした。8人の主人公は、それぞれがそれぞれのストーリーを持っていて、そこに複雑性は持たせていないんです。むしろ、今動かしているキャラクターがなにをするべきか、動機とゴールを分かりやすくすることを最優先しました。今回は、新規のタイトルに挑戦するということで、できるだけ多くの人が遊びやすい形を目指そうと。

――8人の物語が複雑に絡み合うのではなく、8本の軸が存在すると。

高橋氏:そうですね。明確なスタートとゴールが全員にあって、どこに行けばいいか分からない、なにが終わったのか分からない状況は避けるように努めました。

――発売に至るまでに2度体験版を配信していましたが、反響に変化はありましたか?

高橋氏:ありましたね。スタッフのモチベーションにも繋がりました。その一方でハードルがどんどん上がっていくのも感じ怖くもなりましたね(笑)。もちろん良い意見、悪い意見の両方がありましたので、改善点が見つかったのと同時に、自分たちが良いと思っている部分に確証が得られたという意味でも、体験版&アンケートを実施できてよかったと思います。

――複数回体験版を配信する計画は、以前から決まっていたのですか?

高橋氏:1回は配信しよう、とは当初から話していたと思います。1回目も厳しい意見が来るのを覚悟していましたので、その上で直せる余裕があるうちに出そうという計画でした。蓋を開けてみたら国内外から本当に大きな反響をいただいたので、直すべきところを直したことを知ってもらえるように修正点を纏めたPVなども制作しました。それに加えて、特に海外において、製品版にセーブデータを引き継げる体験版が待たれていたので、その声に応える形でもう1回配信することになりました。

原体験として記憶に残る「ファイナルファンタジー」の面影

――高橋さん自身もスーパーファミコン時代のRPGに強い影響を受けてきたと思います。具体的に、子供のころはどんなゲームをプレイしてきましたか?

高橋氏:最初の原点と言えるゲームはファミコンまで遡って「ファイナルファンタジーIII」でした。まだ幼稚園のころで、当時文字はすべて平仮名だったので読めるんですけど、「こんとん」とか「せいなるちから」とか、分からない言葉を分からないなりに考えてプレイしていたのを覚えています(笑)。攻略自体は兄がいたので、一緒に協力しながら進めていきましたね。

その後スーパーファミコンになってからは「ファイナルファンタジーV」を最初にプレイしました。以前制作した「ブレイブリーデフォルト」は「ファイナルファンタジーV」の延長線という考えで作り始めたので、当時の思い出が活きた部分もあるかもしれません。

――幼稚園のころからRPGをプレイしているのは、かなり珍しい体験だと思います。

高橋氏:そうですね。ただ、子供のとき僕の家は「ゲームは1日1時間」ではなく、「1週間に1時間」とかなり厳しく決められていて、平日は攻略本を読みながら、「このアイテムを買おう」とか、「余裕があったらこのダンジョンまで行こう」とか、入念に考えて、休日になったら1時間を無駄にしないよう遊んでいました。1週間に1時間しか遊べないと、1年でクリアできるゲームは精々1本、だからこそ、それら1つ1つが強く印象に残っているのかもしれません。

――「オクトパストラベラー」が影響を受けた当時の作品はあるのですか?

高橋氏:ぜんぜん違うシステムになったのであまり比較をしていただきたくもないのですが、「ファイナルファンタジーVI」の硬派なドット絵の世界観を作りたい、そして群像劇のゲームを作りたい気持ちが最初にあり、原体験のゲームとして参考にしました。当然今のゲームも大好きですけど、スクエニに入ったからには、いつかこんなゲームが作りたいと思っていた作品です。もしかすると「2Dだと容量も少ないし作るの楽なんでしょ」と思われるかもしれませんが、3Dでできることが2Dだとできない場合もたくさんあります。何よりアクワイアさんが一番大変だったと思いますが、大変ながらもやりがいを感じていただけたと聞いて、とてもありがたい気持ちでした。

――ジャンルをコマンドRPGにしたのも、その影響は少なからず出ていますよね。

高橋氏:このグラフィックで、当時を知るファンの皆さんに期待されるシステムはなんだろう、と考えたときに素直に決めました。ただ、当時のゲームシステムをそのまま再現するだけでは、昔のゲームをもう一度やればいい、で終わってしまいます。ブーストやブレイクといったシステムはそんな思いから生み出されたものなんです。このおかげで、強い行動ばかりを繰り返すだけのゲームにはならなくなりましたよね。

――確かに、かつてのRPGはやり込んでいくと、ひとつの強い攻撃方法に行き着くケースがよくありました。

高橋氏:社内にGUR(ゲームユーザーリサーチ)というチームがあるのですが、僕らは以前「ブレイブリー」シリーズを作ったときから彼らとテストプレイを重ねて、ゲームバランスにはこだわってきました。これはバグを取るためのデバッグの範囲を超え、「どの技が使いやすいか」「強すぎる技はないか」といった細かいゲームバランスを確認するためで、デバッグが始まる前に必ずこのテストプレイのための時間を設けようと考えました。結果として、当初は攻略法がかなり偏ってしまっていたのに比べ、最終的には1人1人のオススメ攻略法がバラバラになりましたし、戦略としての余地はかなり残されていると思います。

――ユーザーからの反響という意味では、日本と海外で2DRPGの見方に違いはあるのですか?

高橋氏:E3やJapan Expoも参加しましたが、それほど差は感じないです。元々、自分たち日本人が喜ぶJRPGを作ることがコンセプトにあり、あえて海外の方が喜ぶだろうとステレオタイプに思うものを意識せずに作ってあります。そしてそのほうが、海外の方にも受け入れられるという経験則もありました。かつて、日本市場だけでやっていくのは難しく、これからは海外市場をメインターゲットに据えなくてはいけない、でもなかなか上手くいかないという時代がありました。その時代に、自分たちが遊びたいもの、日本のお客さん向けを徹底的に意識して作ったのが「ブレイブリーデフォルト」でしたが、結果的に海外でも好意的に受け入れてもらえました。結局のところ、僕たちが1ユーザーとして遊びたいと思える作品をシンプルに作ることと、得意分野で勝負することが一番なのかなと。

――「オクトパストラベラー」以降、2DRPGはどのような道を歩んでいくと思いますか?

高橋氏:どどんなことを言ってもおこがましい、難しい質問ですね(笑)。2Dのゲームが再認識され盛り上がってきていると思いますし、こういったゲームを好いてくれる人も多くなったら嬉しいですね。このジャンルがメインストリームになる!なんて驕ったことはこれっぽっちも思っていないですけど、僕らと同じように、2Dのゲームに魅力を感じてくれる人がさらに若い世代から出てきてくれたらとても幸せです。

――ありがとうございました。

※画面は開発中のものです。

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