バーチャルユーチューバ―(VTuber)の流行に伴い、特別技術を持たない人でも手軽に3Dアバターが作成できるソフトが出始めてきた。本稿ではそんな便利なソフトであるスマートフォン向けの「カスタムキャスト」「Mirrativ」「REALITY Avatar」を触ってみてのレビューをお届けする。
「カスタムキャスト」
「カスタムキャスト」はドワンゴとS-court(エスコート)による共同開発のアプリで、フェイスタイプやヘアタイプ、ボディ、コスチュームなどを自由にカスタマイズできる。キャッチコピーである「スマートフォンで誰でも簡単VTuber!!」の通りライブ配信も可能だが、配信を行うには本アプリ単独ではできず「nicocas」のインストールが必要となる。
アプリは基本的には無料で利用可能だが、アニメ作品などとコラボしたパーツセットのように、一部コンテンツは有料での配信となる。また、アップデートとして無料でパーツが追加されることもあるほか、ソーシャルゲームのように「○日ログインする」といったミッションが用意されており、これを達成することで追加のコスチュームなどが得られる仕組みもある。
カスタマイズ機能については、下表のように4つの大項目と、その大項目に紐づく多数の小項目が存在する(※大項目、小項目は記事の便宜上設定した名称)。
大項目 | 小項目 |
---|---|
ボディカスタム | 輪郭、顔サイズ、眉、目 サイズ、目 位置、目 開閉、瞳、身長、胸形、胸 位置、胴、首/肩、腕、尻、脚 |
ボディパーツ | ボディ、体型、フェイス、ボディカラー、髪型(5カ所)、眉、瞳、光彩、フェイスオプション(ホクロ、ヒゲ、シャドウなど)、アクセサリー、マニキュア、口紅、歯 |
ドレスパーツ | 〇〇セット、帽子、ヘッドドレス、トップス、ボトムス、靴、、ヘアアクセサリー、メガネ、マスク(眼帯やゴーグル含む)、フェイスアクセサリー(マスク、鼻ピアス)、グローブ、ネックレス、ブレスレット、アンクレット、アクセサリー(尻尾) |
パーツカスタム | 帽子、ヘッドドレス、ヘアアクセサリー、メガネ、マスク、フェイスアクセサリー、イヤリング、ネックレス、髪型、フェイスオプションを設定している場合、それらの位置やサイズ、傾き具合の調整が行える |
ドレスパーツ内の「トップス」のように筆者が一括りにしてしまったものもあるが、トップスに分類されるものにも制服、私服、水着などのタイプ分けされたコスチュームがある。アプリ内で全項目に名称が付けられているわけではなく、正確な分類も難しいのだが……まあ、とにかく膨大な項目をカスタマイズできるんだな、というのが感じてもらえるだろう。
設定できる項目数から想像できるかもしれないが、カスタマイズ性はかなり高いと言える。例えば髪型であればボディパーツ内から前髪、後髪をそれぞれ選択できるのに加え、エクステをつけるかのようにサイドから垂らす髪と、ポニーテールのように後ろから垂らす髪、さらにはアホ毛まで個別にパーツと色が選択できる。
そしてパーツカスタムでは、設定した髪をこれまた個別に長さ調節ができる。パーツカスタムで調整できる内容は各パーツによって変わり、前髪であれば長さだけだが、後ろから垂らす髪やアホ毛は3軸で回転させることにより、細かな向きまで調整可能だ。操作も基本的にパーツを選ぶ、スライドバーを動かすの2つだけで、スマホアプリらしくタップとスライドで完結する。
気になる点としては、とにかく設定項目や選べるパーツが多いため、「ここを変更するのはどの項目だっけ?」とか「さっき見たあのパーツがいいんだけどどれだっけ?」といった感じで、どこに何があるのか慣れるまで少し苦労するところだろうか。
細かいところでは、プレビューを確認しづらいときが何度かあったことを覚えている。例えば靴の項目を選ぶとカメラが足元に寄って見やすくしてくれるのだが、全身を確認したいため「確認」ボタンを押す→確認後にパーツ選択に戻って別の靴パーツを選択しても、足元のアップに戻らない仕様になっている。
これはカメラ移動の仕様が「靴」の項目を選択した際に判定があり、項目内の個別パーツには判定がないためと思われる。とはいえ、パーツ個別に同様の判定を入れたら、今度は靴を見やすいようカメラを斜めにしたのに毎回正面に戻る、という不便さが生まれてしまうと思うので、仕様を変更してほしいとは言いづらいのだが。
操作そのものは簡単だが、人によっては慣れるまでこうしたインターフェースやプレビュー部分で気になる箇所が出てくるだろう。それを踏まえても魅力的なのは、やはり抜群のカスタマイズ性だ。カスタマイズ部分についても、私服のバリエーションが少なめかなと気になったところはあるが、リリース当初はなかった男性キャラの作成機能が追加されるなど、アップデートに対して力を入れていることが伺える。要望が多いものは順次追加されていくのでは、との期待感が持てるのも好感触だ。
「Mirrativ」
ミラティブが提供する社名と同じ名前の「Mirrativ」(ミラティブ)は、スマートフォンで手軽に生放送、実況放送が行えることを謳うアプリ。そのための機能として、“エモモ”と呼ばれるアバターを作成できるという形だ。
アバターのカスタマイズ要素は以下の項目があり、それぞれでパーツを選んだり、パーツによっては色の選択も行えるようになっている。
- 性別
- 顔の形
- 体型
- 髪型
- 眉
- 目
- 鼻
- 口
- 衣装
- 帽子
- 顔のオプション
先に紹介した「カスタムキャスト」と比べるとカスタマイズ性は見劣りするが、カスタマイズ時の画面は使いやすい。これはキャラクターの股下が存在しないため、全身と比べると表示領域が絞られ、UIとキャラ表示の範囲を明確に分けられていることが理由だろう。ただ、せっかくならパーツの選択部分などにスクロールバーを表示して、選択できるものがどれだけあるのか視覚的にわかりやすくしてほしかったという気もする。
カスタマイズで使えるパーツは、アプリ内通貨の「コイン」を消費してガチャを回すことで増やせる仕組み。コインの入手方法は複数あり、リアルマネーで購入するほか、キャンペーンで無料コインがもらえることもある。本稿はアバター作成が目的のため配信までは行っていないが、配信を行うと視聴数やコメント数などによって、配信翌日に“オーブ”がもらえ、このオーブをコインに変換することも可能となっている。
「配信でオーブがもらえ、それをコインにできる」という点からも、アプリの方向性はアバターのカスタマイズより、“手軽に配信が行えること”に重点を置いている印象だ。もっと言うなら、他者の配信を視聴するのも本アプリで行えるため、コミュニケーションツールとして考えられているのかもしれない。
追加パーツは多いが、アバターのカスタマイズが目的で始めるには無料の部分だけでは物足りない部分があるだろう。非常に個人的な意見としては、初期パーツにメガネがひとつもなかった点が残念である。メガネのアリ・ナシはたけのこきのこ並に派閥間の溝が深く、もはや宣戦布告を受けた気分である。……しかし、アバターの作成と配信がアプリ1つで完結するという部分は、配信を試してみたい人にとって魅力的なポイントに映りそうだ。
「REALITY Avatar」
Wright Flyer Live Entertainmentが提供しているアプリには「REALITY」と「REALITY Avatar」がある。「REALITY」は“VTuber専用ライブ配信プラットフォーム”としており、VTuberの配信が視聴できるというもの。もう一方の「REALITY Avatar」でアバターの作成やVTuberとなってライブ配信が行える、という区分けになっている。
アプリのストアでは名前に区別がついているものの、公式サイトではこの2アプリを区別しづらい部分があり、アバター作成目的で始めて「REALITY」のほうをインストールすると少し戸惑ってしまうかもしれない。インストール後もアプリの違いがアイコンの色だけという点もアプリを混在してしまいそうだなと、アバターの作成前から少し気になった。
さて、肝心のアバター作成については、以下の項目をカスタマイズできる。
- 髪型
- 目
- 眉
- 頬(チークなど)
- ほくろ
- 服
- 帽子(獣耳や髪飾りなどのアクセサリ含む)
- イヤリング
- メガネ
- フェイスシール(絆創膏)
- 性別
これらに加え、髪型や目、服などの項目は用意されたカラーパターンから色も選択できるようになっている。カスタマイズ面は「カスタムキャスト」にはおよばないものの、無料の範囲内の「Mirrativ」より充実している印象だ。気になる点として、「髪型」や「目」といった項目は左右にスライドして選択するが、各項目内のパーツは上下にスライドして選ぶという、上下左右入り混じった操作仕様になっているところが不思議に感じた。
特別操作しづらいといったことはないのだが、スライドバーもないため、「パーツはこれだけしかないのかな?」と見落としてしまう懸念がある。パーツの存在に気付かず不満を持たれてしまう事態が生まれてしまっては、なんとも「もったいない」ところだろう。
「REALITY Avatar」は2018年10月の配信開始から対応プラットフォームの拡大や、アバターパーツ・体型の追加などを行ってきているのだが、パーツの追加といったアップデートが外から見ていて分かりづらいというのももったいない点のように思える。公式サイトにアップデートの履歴が掲載されているわけではなく、公式Twitterやアプリ内のお知らせで告知されるため、普段から触っていないと気付きにくいのだ。
また、無料でのアバターパーツ追加はあるが、有償販売のものは自分のために購入して使うのではなく、「ギフト」として配信者にプレゼントする形となる。そのため、「配信者となって人気を得て、ギフトをもらってカスタマイズをより楽しむ」か、「配信者にプレゼントして使ってもらい、推していることを楽しむ」というスタンスに分かれそうだ(もちろん両方楽しんでもいいのだが)。アバターカスタマイズに配信が関わってくることから、こちらも「Mirrativ」のようにコミュニケーションツールとしての面が強いのかもしれない。
ちょっと否定的に感じる内容が多くなってしまったかもしれないが、「REALITY Avatar」でアバターを作成している際、非常に良いと感じたポイントがある。「カスタムキャスト」や「Mirrativ」はフリック操作でアバターのポーズや表情を変えるのだが、本アプリは端末の前面カメラで利用者の顔をとらえ、その動きをキャラクターに反映してくれるのだ。これは配信のときだけでなく、アバター作成のときでも変わらない。
例えばヘアアクセサリを設定して、アクセを見やすいように前面カメラに向かって顔を傾けたとしよう。そうすると画面内のキャラクターも動くため、現実で自分も同じアクセをつけて、鏡に向かって似合っているか確認しているような感じで見栄えを確かめられるのだ。
実際、そんな風に確認しながらアバターを作成していたら、「あっ、俺(のキャラ)かわいい!」とか「女性が自撮りするときってこんな感じだろうか」と、徐々に美少女であることが楽しくなってきた。男性が女性のアバターをまとって女性として振る舞う「バ美肉(バーチャル美少女受肉)」なる言葉も存在するが、筆者もまさにその感覚を味わい、危うくバ美肉おじさんになるところだった。さすがに配信までする勇気はなかったが、バ美肉の魅力、その片鱗を感じる貴重な体験だったとお伝えしたい。
3アプリをまとめると、アバターカスタマイズを思いっきり楽しみたいなら「カスタムキャスト」、配信の手軽さを求めるなら「Mirrativ」、バ美肉してみたいなら「REALITY Avatar」といった感じだろうか。我ながらひどい総括でWright Flyerさんから怒られそうだが、今回アプリを触ってみて、それぞれ定めている方向性が違うのだろうと感じた。アバター作成目当てで始めてみても、思わぬ体験と出会えるかもしれないので、気になるものがあったら触ってみてはどうだろうか。