ビジュアルアーツとアイムビレッジは6月28日、サントリーホール 大ホールにて「Key オーケストラ・コンサート2019 ~祝!20周年。最大の感謝と感動をあなたへ~」を開催した。
ビジュアルアーツを代表するゲームブランドである「Key」。1998年の設立から「Kanon」「AIR」「CLANNAD」「リトルバスターズ!」などの人気タイトルの数々を世に送り出し、“泣きゲー”と呼ばれるジャンルを確立させたゲームブランドの一つだろう。
その20周年を記念して行われることとなった本コンサートでは、以前のコンサートで披露された7作品(「Kanon」「AIR」「CLANNAD」「planetarian~ちいさなほしのゆめ~」「リトルバスターズ!」「Angel Beats!」「Rewrite」)に加えて、新たに2015年放送のTVアニメ「Charlotte」、そしてNintendo Switch版が2019年6月20日に発売されたばかりの「Summer Pockets」の楽曲も披露される充実の内容となった。
筆者も、高校生当時にKey作品と出会い、大きな感動を与えてもらったいわゆる鍵っ子(※Keyのファンの呼称)の一人。そんな鍵っ子たちが集い、珠玉の楽曲たちが日本最高峰の音響を誇るサントリーホールで演奏された、コンサートの模様をお届けしよう。
前半は「Kanon」~「リトルバスターズ!」の楽曲を披露
オープニングを飾ったのはKeyにとっての始まりの作品である「Kanon」より、ゲームのオープニング画面で流れる「朝影」。作中での雪に彩られた風景を思い起こさせる、多くの鍵っ子にとっても馴染みの深い楽曲だとは思うが、より煌めきを感じさせるオーケストラアレンジで披露された。
作中の重要なシーンで流れる「残光」は神々しさを漂わせつつ、そこから切れ目なく「冬の花火」へと続く流れは、夕暮れの草原での真琴とのシーンを思い起こさせるものに。特に「冬の花火」は、ピアノの旋律に打楽器の音が折り重なっていく演奏が印象的だった。
次に演奏されたタイトルは「CLANNAD」。まずはタイトル画面で流れる最も印象的な楽曲「汐」が、原曲と同様のピアノの独奏で披露される。「CLANNAD」のテーマである「家族」「人生」「命」が凝縮された楽曲の後は一転、伊吹風子のテーマ曲となる「は~りぃすたーふぃっしゅ」を演奏。日常パートの何気ない風景を思い起こさせる一曲だ。
そして、「CLANNAD」の中でも終盤の重要なシーンで流れる「渚~坂の下の別れ」は、原曲である「渚」の弱々しくも優しいピアノの音色から、徐々にオーケストレーションが壮大になっていく、まさにゲームのシーンとリンクした、感情を揺さぶられる楽曲となっていた。
「planetarian ~ちいさなほしのゆめ~」からは、荒廃した世界観ながらもプラネタリウムという完結した空間を音楽で表現する「Gentle Jena -Starlit Night-」を披露。オーケストラならではの多彩な音色で楽曲の持つ神秘性を引き出していった。
「リトルバスターズ!」のパートで最初に披露されたのは、能美クドリャフカのテーマ曲である「えきぞちっく・といぼっくす」。元気で可愛らしい、おもちゃ箱の様な彩り豊かな楽器の音色で楽しめる、作中の学校風景も思い起こさせる楽曲となっていた。
棗恭介のテーマ曲「BOYS DON'T CRY」も作中で聴くことの多い曲ではあるが、管楽器群やハープも織り込まれたオーケストラならではの演奏に。続く神北小毬のテーマ曲「魔法のアンサンブル」は、原曲のキラキラした雰囲気を再現した、聴いていて心地よいサウンドとなっていた。
前半のラストを飾ったのは、夏の季節にピッタリの「AIR」。まずは神尾観鈴のテーマ曲「夏影」が、原曲の雰囲気を伴って演奏される。作中に登場する海辺の街並み、そしてそこで描かれた夏の風景を思い起こさせる、作品を象徴する楽曲の一つといっても過言ではないだろう。
ここで、ステージにLiaさんが姿を見せ、作中のクライマックスで流れる「青空」を披露。Liaさんの透き通る、伸びやかな歌声から始まり、そこにオーケストラ、そしてサビ部分で混声合唱が加わって荘厳な空間が生み出される。さらに、「AIR」とKeyの名を世に轟かせた「鳥の詩」は、Liaさんの歌声にフルオーケストラと混声合唱とが重なる、まさにドラマティックな彩りをもって披露された。
最新作「Summer Pockets」からは本コンサート最多の楽曲が演奏
ここで一旦休憩時間となり、司会の嶺内ともみさん(「Summer Pockets」久島 鴎 役)、岩井映美里さん(「Summer Pockets」紬 ヴェンダース 役)が登壇、ゲストとして馬場隆博氏(ビジュアルアーツ 代表取締役)、折戸伸治氏(ビジュアルアーツ「Key」作曲家)、そして当日の指揮を務めた志村健一氏(アイムビレッジ 代表取締役)を交えてのトークコーナーへと移っていった。
志村氏は、聴くと作中のシーンが浮かぶKeyならではの音楽の魅力に触れつつ、馬場氏、折戸氏はコンサートの翌日である6月29日にPC版の発売から1周年を迎えた「Summer Pockets」に関するトークを中心に展開。馬場氏からは、Nintendo Switch版ではグランドエンディングテーマ「ポケットをふくらませて」(原案の麻枝准氏が作詞・作曲)の歌詞が変わっていること、折戸氏からはロシアに赴いて収録したオーケストラアルバムについて、当日の発売に間に合わなかったものの、今回のコンサートではそのスコアが演奏に用いられていることが明かされる。また、「Summer Pockets」のキャストである岩井さんと嶺内さんもいるということで、それぞれ印象的なセリフやシーンをその場で披露する一幕もあった。
和やかな時間を経て、コンサートもいよいよ後半へ。まずは「Rewrite」から篝のテーマ曲である「ヒナギク」を、ミステリアスなキャラクターのイメージが表現された、幻想的な音色で披露していく。続く「Philosophy of ours」はオープニング曲をアレンジしたものとなっており、シンプルながらも抑揚のあるメロディーが印象的だ。
そして最後はタイトル画面で流れる「旅」を演奏。1曲の中で変化の大きな楽曲ではあるが、その複雑さの中でもしっかりと聴かせてくれる、オーケストラの素晴らしさも感じられるものになっていた。
「Angel Beats!」からは、ピアノとチェロの独奏による前奏部から一気に力強さを増していく「theme of SSS」が披露される。SSS(死んだ世界戦線)のテーマ曲として勇ましさを感じる1曲を堪能した後は、奏でとの別れという重要なシーンで流れる楽曲を、ヴァイオリンの独奏から徐々に音が重なっていく、壮大さを感じさせるアプローチで聴かせた。
ここで熊木杏里さんがステージ上に登壇し、「Charlotte」の最終話で印象深い「君の文字」が熊木さんの歌唱とともに披露されることに。ピアノの音色と優しい歌声から始まり、ドラマティックなオーケストレーションとともに歌詞の一つ一つが作中のシーンとリンクしていく、作中の感動を味わえるパフォーマンスとなっていた。
そして最後のパートでは「Summer Pokects」の楽曲が披露されていく。ゲームタイトルと同じ名称の楽曲「Summer Pockets」は、タイトル画面で聴くことのできる一曲となっており、作曲家の水月陵さんによるピアノの独奏から始まり、そこから弦楽の演奏が重なっていき、ノスタルジーに包み込んだ。
ここで鴎によるセリフが差し込まれて日常曲メドレーへ。ヴァイオリンとチェロの独奏が穏やかな雰囲気を生み出す「蝉声とともに」、Keyらしい軽妙さなメロディーで外出するイメージを醸し出す「夏休みの過ごし方」、島の人々との交流を彩る、陽気さと優しさが感じられる「坂の上の陽炎」と、それぞれ異なるテイストの楽曲が続けて披露された。
紬のセリフに続いては、紬のテーマ曲である「Golden Hours」を、原曲とはまた違う、重厚さを伴うオーケストラらしいアレンジで演奏。さらに作中では紬が歌っている「紬の夏休み」を、オーケストラのさまざまな楽器が独奏で紡いでいく。原曲は歌詞とともに可愛らしい楽曲だが、インストゥルメンタルで聴くとまた一味違う味わいだ。
シンプルなピアノの独奏から徐々に音が重なっていく構成で、島での時間を思い起こさせる「Sea, You&Me」を披露した後、パートの締めくくりとして披露されたのはオープニングテーマである「アルカテイル」。鈴木このみさんの歌が原曲となっているが、その力強い歌声とメロディーがシンフォニックなサウンドとして表現されており、特にサビ部分での盛り上がりは圧巻。まさにゲームのオープニングムービーが思い起こされる演奏となった。
ここで予定されたプログラムは全て終了となったが、ここでアンコールに応えてLiaさんが登場すると、「planetarian ~星の人~」より「星の舟」が披露。壮大なオーケストラにLiaさんの綺麗な歌声がマッチした、スケール感のあるパフォーマンスとなった。
さらに熊木さんも加わって披露したのは、「Charlotte」のオープニングテーマである「Bravely You」。シンフォニックなオーケストラサウンドに2人のハーモニーが響き渡る、まさにここだけの楽曲に観客の気持ちの高鳴りが感じられるようだった。
そして最後は全てのキャストが壇上に集合し、それぞれに感想を述べてコンサートは終了となった。
プログラム
「Kanon」
01.朝影
02.残光
03.冬の花火
「CLANNAD」
04.汐
05.は~りぃすたーふぃっしゅ
06.渚~坂の下の別れ
「planetarian ~ちいさなほしのゆめ~」
07.Gentle Jena -Starlit Night-
「リトルバスターズ!」
08.えきぞちっく・といぼっくす
09.BOYS DON'T CRY
10.魔法のアンサンブル
「AIR」
11.夏影(インストのオリジナル版)
12.青空(歌/Lia)
13.鳥の詩(歌/Lia)
「Rewrite」
14.ヒナギク
15.Philosophy of ours
16.旅
「Angel Beats!」
17.theme of SSS
18.一番の宝物(インスト)
「Charlotte」
19.君の文字(歌/熊木杏里)
「Summer Pokects」
20.Summer Pockets
21.日常曲メドレー(蝉声とともに~夏休みの過ごし方~坂の上の陽炎)
22.Golden Hours
23.紬の夏休み
24.Sea,You&Me
25.アルカテイル
アンコール
「planetarian ~星の人~」
26.星の舟(歌/Lia)
「Charlotte」
27.Bravely You(歌/Lia、熊木杏里)