ソニー・インタラクティブエンタテインメントより、2019年11月8日に発売予定のPS4用ソフト「DEATH STRANDING」。本作を発売に先駆けてプレイすることができたので、本稿ではそのインプレッションをお届けする。
「DEATH STRANDING」は、小島秀夫監督が2015年12月16日に設立したスタジオ「コジマプロダクション」が放つ完全新規タイトルだ。翌年に行われた「E3 2016」のプレイステーションのプレスカンファレンスにてタイトル発表が行われたが、ゲームの詳しい内容が明かされることはなく、謎に包まれたタイトルであった。
しかし、3年という月日をかけて徐々にその片鱗が明らかとなる。ゲームシステムやストーリー、出演者など、新たな情報に我々は一喜一憂したものだ(憂は無かったかもしれない)。そして来たる2019年11月8日、いよいよ発売される。
本作は、「デス・ストランディング」と呼ばれる未曾有の現象が発生した世界が舞台となる。この世界では、人々は分断され孤立。各々がシェルター内での生活を余儀なくされ、繋がりを失った人類は滅亡への一途をたどっていた。主人公のサム・ポーター・ブリッジズは、そんな人々のために“未来”を運ぶ任務に赴く。
サムの主な目的は3つ。「北米大陸の各地に点在している拠点に荷物を届けること」「カイラル通信を繋ぎ分断された大陸を繋ぐこと」「エッジ・ノットシティに閉じ込められたアメリを救出すること」だ。
ここでは、この3つの目的に沿いながら、ゲームシステムや本作ならではの魅力を紹介していこう。
「北米大陸の各地に点在している拠点に荷物を届ける」
大きな目的の1つが「北米大陸の各地に点在している拠点に荷物を届ける」こと。各拠点は「デス・ストランディング」で孤立しており、生活に必要な食料などの物資や、生命を繋いでいくための精子や卵子、時には人間の死体などを物理的に運ぶ必要がある。プレイヤーは、伝説の配達人であるサムを操作し、オープンフィールドの中を探索しながら進んでいくことになる。
一見すると荷物を受け取り目的地に運ぶだけのゲームサイクルは単調に思えるかもしれないが、本作では、“荷物を運ぶ”という内容がリアリティに沿ってゲームシステムに落とし込まれている。ただ歩くだけでも本作のマップはぬかるみで滑ったりデコボコしていたりと一辺倒ではない。プレイヤーは安全に歩けるルートを常に考えながら配送ルートを決めていく必要がある。
また、配送には険しい山道を越えたり大きな川を渡らなければいけない場面も。幸い本作には、橋を掛けたり山を下る際に使えるロープ用パイルなどの道具が登場するので、これらを使用することで大幅な回り道を回避することが可能だ。
ここで面白いのが、これらの道具も配送する荷物と同じように自らが背負っていく必要がある点だ。これらの道具をたくさん持ち歩けばいざという時に便利だが、その分荷物が増えて移動が困難になる。一方、最低限の荷物を持ち歩くのであれば身軽だが、いざというときに対処が難しくなる。出発地点から目的地までの道のりをしっかり分析し、何を持って何を置くのか、プレイヤーの判断で同じ目的でも様々なアプローチが生まれるのが面白い。
ちなみに、ゲームを進めると3輪バイクの「トライク」やトラックなどの乗り物を利用することも可能になる。乗り物は移動スピードも速いし一度に大量の荷物を運べるため、一見するとこれだけで事足りるように感じるかもしれない。しかし、危険な山道を行くには適していなかったり、揺れが破損に至る精密な荷物が配送対象だったりするため、予想以上に活用できる場面は限られていた。やはり、目的地と配送対象の性質をしっかり把握することが大切だ。
荷物を運び届けるという本作のゲームサイクルのスパイスとなるのが、これを阻害する者たちの存在だ。その中でも最も大きな脅威となるのが「BT」と呼ばれる“死の世界”のものたち。「デス・ストランディング」が起きた世界では「時雨」と呼ばれる雨が降っており、この雨に触れたものは“時間”を急速に進められてしまう。生物なら老化し建物などのオブジェクトは劣化する。そしてこの「時雨」と共に現れるのが「BT」だ。
画面奥にうっすらと見えているのが「BT」。「時雨」と共に現れるので雨が降ってきたら要注意だ。 | |
通常の人間は「BT」を感知することができないが、サムたち「DOOMS」と呼ばれる能力者たちだけは、これを認識することができる。しかしサムはこの力が弱いため「BB(ブリッジ・ベイビー)」と繋がることで、“あの世”と繋がり「BT」を感知できる。 |
「BT」は、この世にいる人間をあの世に引きずり込もうとする存在だ。気配と音を頼りにこちらに近づいてくるので、「BT」と遭遇してしまったら息を潜めながらやり過ごしていきたいところ。R1ボタンで息を止めることができるので音を立てないよう進んでいこう。ただし、息を止めるとスタミナを消費して、次の呼吸の時に大きく息継ぎをしてしまう。ペース配分が重要だ。
「BT」がサムを感知すると地面に手形を残しながら近づいてくる。実体が見えない分、その恐怖は一層際立つ。 | |
「BT」に完全に感知されると辺りは黒いタールのようなものに覆われ、“死の世界”のものたちがサムを捕まえようとしてくる。 |
「BT」に捕まってしまうと、辺りは“キャッチャー”と呼ばれる「BT」がいる世界へ塗り替えられる。“キャッチャー”は非常に強力で一筋縄ではいかない。対抗手段ももちろんあるのだが、一定エリアを生きて逃げ切ることができれば戦わずに事を済ますことも可能だ。
もし万が一“キャッチャー”にやられてしまうと、その人間は“ヴォイド・アウト(対消滅)”し、辺り一帯を吹き飛ばして消滅してしまう。幸いサムは「帰還者」としての能力を持っているため死ぬことはないのだが、ヴォイド・アウトが起こった地域は大きなクレーターとなってしまう。時雨の力でしばらくするとクレーター地域は復活するが、それでも自分のプレイが実際のフィールドに影響を及ぼす様を見せられるのは中々にショッキングな体験だった。
「BT」は、配達任務における大きな障害としてサムに立ちふさがる。関わらないで済むのならそれが一番なので、息を潜め物陰に身を潜めながら進むことも可能だ。プレイスタイルにもよるが、小島監督の代名詞ともいえるステルスアクションの要素を感じることができるだろう。
しかし、その一方でどうしても「BT」と戦わなければならない場面にも遭遇する。形式的には「ボス戦」のようなものになり、こちらはサードパーソンシューティングゲームのような感覚で楽しめる。
ここで面白いのが、前述した通り「BT」に効果があるのはサムの体液を使った兵器となる点だ。最も効果があるのは血液になるのだが、血液はサムの体力も兼用しているのでむやみに攻撃をしていると思わぬピンチを招くこともある。輸血用パックを装備すると血液を補充することができるので、自分の残り血液と相談しながら攻撃をするという一風変わったバトルを楽しむことができた。
本作の基本的なゲームサイクルは以上のようになっている。ゲームの基幹となる部分はシンプルなのだが、そこに付随するシステムの1つ1つが斬新で、新しいゲーム体験を味わうことができた。ゲームを進めていくと新しい装備や建築物が作成可能になり、できることもドンドン増えていく。そのたびに新しいアプローチができるようになり、楽しさは右肩上がりに増えていく。
「カイラル通信を繋ぎ分断された大陸を繋ぐ」
目的の2つ目は「カイラル通信を可能にするセキュリティと運営コードが入った『Qpid』を使って分断された大陸を繋ぐこと」だ。カイラル通信とは大容量のデータを一瞬で送ることができるデータ通信のようなもの。この通信では過去を経由することで消滅したアメリカを復元することもできるのだとか。サムは、荷物を運びながら北米大陸を東から西へ渡りながら、各地の端末を「Qpid」という装置を使って繋いでいくことになる。
カイラル通信を繋ぐということは、その都市に暮らす人たちにもメリットがあることなのだが、一方で「アメリカ都市連合(UCA)」に加盟することでもある。中には繋がることを良しとしない人たちも存在しており、時には彼らと分かり合っていく必要もある。彼らが何を危惧しているのか、それぞれが抱える事情からも「デス・ストランディング」後の世界観が感じられる。
もちろんカイラル通信を繋ぐという行為は、ゲームシステムにも大きく影響する。小島監督は、本作のゲームジャンルを「ストランド・ゲーム(ソーシャル・ストランド・システム)」と表現したが、それが大きく関わってくるのがこの部分だ。
先程、サムは様々な道具や建設物を設置できることを説明したが、これはネットワークに繋がれた他のプレイヤーにも表示されるのだ。カイラル通信を繋ぐことで、一定範囲の他のプレイヤーが設置したオブジェクトが自身のマップに表示されるようになる。
なので最初に赴くエリアは、他のプレイヤーの痕跡などが表示されておらず、凄く殺風景で寂しい。利便性という意味でも、全て自分で調達する必要があるのでとても不便だ。しかし、カイラル通信を繋ぐとこれが一変。他のプレイヤーの建築物や看板などが表示され、ワッとにぎやかになる。
これらの道具や建築物、看板などには「いいね」をすることが可能だ。オブジェクトを利用すると自動で「1いいね」が、それとは別に手動で「いいね」を送ることもできる。手動の「いいね」は、一定秒数好きな数だけ送れるので、まさに今自分が欲しかった場所に橋がかかっていたりすると、思わず「いいね」ボタンを連打してしまう。逆に自分が設置するオブジェクトも、できれば「いいね」を貰いたいのが本当のところ。「ここに置いたら皆使ってくれるかな?」など考えながらプレイすると、本作をより一層楽しめるだろう。
雨宿りができる「時雨シェルター」。雨がよく降るエリアなどに置いてあると非常に助かる。 | |
オンライン上のプレイヤーが協力して資材を集め、国道を復興するという任務も登場。道ができれば車両の利便性が増すだろう。 |
このように本作のソーシャル要素は非同期型なのだが、繋がることがお互いにとってメリットとなるのだ。そこに「いいね」というゲームシステム的には何のメリットも無い要素が加わることで、損得勘定を超えたプレイを思わずしたくなってしまう。これまでも自分のプレイの痕跡が誰かのプレイに役立つというゲームシステムは存在していたが、そこにフォーカスして一歩踏み込んだのがソーシャル・ストランド・システムと言えそうだ。
「エッジ・ノットシティに閉じ込められたアメリを救出する」
実はサムは、分断された大陸を繋ぐことに否定的な人間だ。そんな彼がこの世界を繋ぐ遠征に出ることを承知した理由の大部分を占めるのが、UCAの新たな大統領候補「アメリ」の救出にある。世界を繋ぐのはあくまで“ついで”というのが彼の言い分だ。
そもそもゲームを開始した当初、サム・ポーター・ブリッジズは孤独な男だ。何度も「もう誰とも繋がるつもりはない」と言い、ぶっきらぼうに言葉を並べる。だが、最後の一歩のところで非情になりきれない人間臭さも彼の魅力だ。そんなサムが、遠征の果てにどのような繋がりを得て、どのような答えに辿り着くのだろうか。
本作のテーマは“繋がり”。ゲーム内でも繰り返しこの単語が使われており、ストーリーはもちろんゲームシステムとしても我々プレイヤーにその意味を問いかけてくる。プレイ中はぜひサムに感情移入しながら、自分だったらどうするか? 繋がる意味は? など考えながら「A HIDEO KOJIMA GAME」を心ゆくまで楽しんで欲しい。