6月19日にソニー・インタラクティブエンタテインメントより発売される、PS4専用ソフト「The Last of Us Part II」のレビューをお届けする。
目次
前作のエンディングから5年後。エリーの復讐劇が幕を開ける
2013年の「ゲーム・オブ・ザ・イヤー」(GOTY)を多数受賞し、1,700万本を超えるヒット作となった「The Last of Us」。「The Last of Us Part II」は、その続編となるタイトルだ。
前作では、未知のウィルスによるパンデミックで崩壊したアメリカを舞台に、主人公・ジョエルと、ウィルスに対する抗体をもつ少女・エリーの旅が描かれていた。「Part II」では、前作のエンディングから5年後の世界が舞台となる。
本作で主人公を務めるのは、前作においてジョエルのパートナーだったエリーだ。5年の月日が経ち、19歳となったエリーは一人前の戦士として成長し、生き残った人間たちの集落であるジャクソンに身を寄せている。プロローグにあたる部分では、前作の旅の後、ジョエルとエリーがジャクソンで平和な日常を送っているシーンからゲームはスタートする。
しかし、その平和はある事件を境に終わりを告げ、エリーは平和な日常を捨てて復讐のための戦いに身を投じることになる。この時に何が起こったのかはネタバレとなってしまうため伏せるが、プレイヤーにとってかなり衝撃的な出来事が待ち受けており、序盤から息をつかせない展開にグイグイと引き込まれる。
また本作においても、前作で描かれた「親子」というテーマは重要な位置づけとなっているのだが、前作からかなり描き方を変えてきており、ゲームという媒体にはこんな物語表現ができるのかと改めて唸らされた。最近のゲームをあまり知らない人達に本作のゲームシーンを見せれば、ゲームに対する認識が一発で変わるのではと思わされたほどだ。
グラフィックの進化にも目を見張らされる。前作、とくにリマスター版をプレイした方はご存知かと思うが、前作の時点でほぼ実写のような美麗なグラフィック表現がなされていたため、正直なところ「これ以上綺麗になっても、人間の目には違いが分からないのでは」という不安があった。
しかし、ゲームをプレイした瞬間に、生え茂る草木や積もる雪、キャラクターのモデルにモーションまで、あらゆる面がより高品質になっていることをすぐに感じられた(とくに草木のリアルさの進化は、近くで見るとかなり実感しやすい)。これまでPS4でリリースされた、あらゆるタイトルの中でも1、2を争うほど美麗な映像表現がなされている。PS3にとっての前作「The Last of Us」のように、本作がPS4というハードの一つの到達点として語られることになるのは間違いないだろう。
操作感はそのままに、エリーならではのアクション性に変化
マップを回って弾薬や装備の資材を集めながら目的地を目指し、行く手を阻む敵の手から逃れながら進んでいく、サバイバルアクションとしての基本的なゲーム性は前作のものを引き継いでいる。操作面についても前作のものが引き継がれているが、主人公がエリーに交代したことで、アクション面にも変化が起きている。
まず前作では、障害物に身を潜めたり、足音を小さくするための動きとして、中腰に姿勢を変えるしゃがみアクションがあったのだが、本作では中腰でのしゃがみに加えて、さらに姿勢を低くする匍匐の動きができるようになった。
敵に見つからないように進む、ステルスプレイが重要な本作においては、匍匐はかなり重要なアクションだ。遮蔽物がない場所でも、草木の茂みに身を隠すことで視界から逃れることができ、匍匐での移動は足音も察知されにくい。ただ草木に見を隠す遮蔽は完璧ではなく、敵に近づかれると見つかってしまうので、その前に移動するか、先手をうってステルスキルを狙う必要がある。
ステルスプレイを行う際、敵の位置を表示してくれるミニマップやマーキングといった要素はないので、敵をプレイヤーの目視で見つけ出す必要がある。そこで重要になるのが、前作にもあった、R1ボタンで発動するアクション「聞き耳」だ。「聞き耳」を行うと、足音から敵の位置を大まかに把握したり、どんな会話をしているかが聞き取れるようになる。ストーカーなど、一部の敵はこの「聞き耳」に引っかかり辛くなっていたりと万能ではない面もあるが、その重要性は前作以上だと感じた。
というのも、本作では、エリーが所持しているナイフに耐久値の設定がなくなった代わりに、ステルスキルの態勢になった際、ナイフを消費して敵を即死させるアクションが行えなくなっている(それにあわせて、感染段階の進んだ感染者のステルスキルも不可能に)。ステルスキルを狙う際は、相手を殺すまで結構な時間を要するため、モーション中に発見されてしまいやすい。エリーを成長させていくとこのモーションは高速化できるのだが、序盤はそれも難しい。ツーマンセルを組んで、互いの視界をフォローしながら巡回しているタイプの敵も多く配置されているので、聞き耳を多様して周囲の敵の位置をきっちりと把握しておくのはかなり重要だと感じた。
新たに設けられた回避アクション(L1ボタンを短押しで発動、長押しで前作同様のダッシュに)は、敵との近接戦闘に発展した際に非常に有効。ジョエルの場合は間近の距離で敵と遭遇した場合、素手だったとしても近接攻撃を連打していればそのまま力押しで倒せるケースが多かったのだが、エリーの場合は近接武器を所持していない状態の攻撃力が低く、前作の感覚で近接戦闘を挑むと、逆に返り討ちにあってしまうケースが多いと感じた。近接戦闘を挑む場合は、まずは相手の攻撃を回避し、空振った隙に攻撃を入れていく必要がある。中には、近接攻撃をガードでふせいで来る敵もおり、前作ではシンプルだった近接時のアクション性が高くなっている。
それ以外にも、ダッシュで助走をつけて、離れた足場に飛び移ったり、垂れ下がったロープに掴まり、スイングで離れた位置に移動する……といったジャンプを使ったアスレチック系のアクションも追加された。このあたりは、開発を担当するノーティードッグのもうひとつの人気シリーズ「アンチャーテッド」にもあった要素で、戦闘時以外のアクションの幅も広がっている。
新種の登場によって、敵はさらに手強く厄介に
エリーの行く手を阻む敵は「感染者」と「人間」という、大きく2種類のカテゴリに分けられ、それぞれで特性がまったく異なるのも前作と同様。ただし本作では、どちらも前作以上に手強い相手になっている。
まず、ウィルスによって異形の怪物と化してしまったのが「感染者」(インフェクテッド)と呼ばれる存在。感染者には、感染の段階によって「ランナー」「ストーカー」「クリッカー」「ブローター」などの種別があり、ランナーなら戦闘力がそれほど高くない代わりに、感染者の中では広い視界を有するのに対し、クリッカーは視力を失った代わりに、聴覚が発達し、音波を反響させてプレイヤーの位置を割り出してきたりと、それぞれに異なる特性をもっている。
前作に登場した4種に加えて、本作から新たに登場するようになったのが「シャンブラー」と呼ばれる感染者だ。シャンブラーは攻撃を受けるとガスのようなものを噴射してダメージを与えてくるのが特徴。プレイヤーに向かって直進してくるのが基本行動となる感染者に対しては、近距離で威力を発揮するショットガンなどの武器で対処するのがベターなのだが、シャンブラーはダメージを受けるのと同時に周囲にガスを吹き出すため、至近距離での攻撃はリスクが生まれる。ある程度距離をとりながら攻撃する必要があるが、それが難しい狭い室内で出現すると、手強い相手となる。
一方の人間は、銃などの遠距離武器や、仲間同士で連携をとりながら行動してくる。本作の人間は前作以上にAIが強化されているようで、それぞれの視界をカバーしあいながらチームで巡回をしたり、一度戦闘が始まると、あっという間にこちらを取り囲んで四方から銃撃を浴びせてくる。
また厄介なのが、エリーの匂いを嗅ぎつけてくる「番犬」の存在。これまでは、敵の巡回ルートの範囲外に隠れてさえいれば安全という状況がほとんどだったのだが、敵の中に番犬が配置されている場合、ただじっとしているだけだと、匂いを追跡され、その時点でのこちらの居場所を特定されてしまう(「聞き耳」の動作に入ることで、現在自分が匂いをつけられているかが分かる)。一度匂いをつけられ始めると、大きな音を立てて犬の注意を逸らすか、今の場所から大きく移動するしかなく、どちらの行動をとっても敵に異常を察知されるリスクを負うことになる。
加えて番犬は、指示を出す人間とほぼ必ずセットで行動するうえ、こちらを発見すると鳴き声でその存在を周囲に知らせつつ、番犬自身も襲いかかってくる。番犬に襲われると、一定時間拘束され、その間に周囲の敵から銃撃を受ける羽目にもなり、非常に厄介。ただ、指示を出している人間を排除すればその場に立ち尽くすことが多いので、人間側をいかに無力化するかが重要になるだろう。
ゲームプレイに明確な変化が起こる、幅の広い成長システム
マップ内の様々な場所で入手できるサプリメントを使うことで、エリーを成長させていくことが可能。成長要素は前作にもあったのだが、本作では「サバイバル」「ステルス」「クラフティング」「精度」「爆発物」の5つのカテゴリに別れたツリー方式へと変更された(それぞれのカテゴリは、サバイバルガイドを集めることで解放される)。聞き耳の精度を高める、体力の最大値を増やす、照準のブレを少なくする、爆発物の威力強化といったさまざまな項目があり、成長の幅は前作よりも広くなっている。
中でも「ステルス」の項目は、成長させることでゲームプレイが大幅に変わってくる。
聞き耳や匍匐の速度を上げるのに加えて、何よりも大きいのが、銃声を消すサイレンサーを工作できるようになること。前作のストーリーモードでは、離れた敵をステルスキルするには弓を使うしかなかったが、サイレンサーにより拳銃でも敵を物音を立てずに無力化できるようになり、ステルスプレイの快適性が大幅に向上した。
ただし、サイレンサーには耐久値が設定されており、一定回数使用すると壊れてしまう。工作には布と容器が必要だが、布は治療キットと火炎瓶という使用頻度の高めの装備を作る際にも必要となる。
サイレンサー以外にも、弓に使う矢も工作できるようになっていたり、工作の重要性が高くなっているが、資材は最大3個までしか持ち歩けないため、入手した資材をどの装備に回すかの選択が非常に悩ましくなっている。
また「ステルス」は、最大まで成長させるとステルスキルのモーションが変更され、前作のナイフキルのような速度で息の根を止められるようになり、発見されるリスクが劇的に下がる。プレイヤーのスキル向上だけではなく、キャラクターを成長させた際のゲームプレイの変化を、しっかりと実感できるようになっている。
やりこみ要素は前作以上に充実。チャプターごとの再プレイも最初から可能に
本作はストーリーの進行にあわせてマップを進んでいく、いわゆるリニアタイプのゲームにあたる。しかし前作からフィールドの規模が大きくなり、ストーリーの進行に影響しない、サブクエスト的な要素が用意されるチャプターもあり、探索の楽しみもより充実した。
とくに様々な場所に配置されている金庫からは、中に銃弾やサプリメント、武器改造用のパーツなどの貴重な資材が入手できるなどメリットが大きい。ただし金庫を開けるには、4~6桁の暗証番号が必要で、マップ内で入手できるメモなどからヒントを得て、番号を的中させなければならない。
前作にも金庫は登場し、そちらでは暗証番号の書かれたメモを所持していれば勝手に開くようになっていたが、今回は手動での入力が必要。番号を当てるには謎解き的なギミックを解く場合もあり、ちょっとしたお宝探しの感覚を味わえる。
マップの各所に残された遺物のメモからは、かつてその土地で暮らしていた人々が、パンデミック後にどのような行動を取っていたかが読み取れるようになっており、より世界観の理解を深められる。
前作にあった、漫画の単行本を収集する要素も、作中世界で流行していたトレーディングカード収集として受け継がれている。カードには、アメコミ的なヒーローのイラストが描かれ、一枚一枚にヒーローごとの強さや設定が詳細に記載されており、その種類は膨大。このコンプリートを目指すというやりこみ要素も用意されている。
なお前作では、一度ストーリーモードを一通りクリアしないとチャプターを選択しての再プレイが解放されなかったのだが、本作では最初から現在クリアしている範囲のチャプターを選び、そこからの再プレイが可能になった。そのエリアにいくつ遺物があり、現在はその内の何個を回収しているのかも確認できるので、すべての遺物を集めてから進まないと気が済まないタイプのプレイヤーにとってありがたい仕様となっている。
他にも細かい要素として、難易度に「VERY EASY」が追加され、アクションゲームを普段ほとんどやらないプレイヤーにも優しくなっている。その上で本作が素晴らしいのが、ゲーム全体だけではなく、自分や敵の強さ、手に入る資源の数、隠れやすさといった複数の項目ごとに難易度をいじれるようになっていること。
例えば、戦闘が苦手だからプレイヤーや敵の強さは「EASY」に下げつつ、資材をやりくりするサバイバルやステルス面はそれなりのやりごたえが欲しいから「NORMAL」に……といったように、プレイヤーが体験したいゲーム性にあわせて細かく難易度をカスタムすることができる。
さらに、オートセーブが行われるチェックポイントの数が大幅に増えているのも個人的にかなりありがたいと感じた。とくに戦闘においては、ほぼ敵を1人ステルスキルするごとにチェックポイントが発生するようになっており、途中で敵に倒されても、一気に進行状況を戻されてストレスが溜まる……といった事態がまず発生しない。またチェックポイントとは別に、戦闘パートのみを最初からやり直すという機能も用意されており、システム面でもかなり細かい部分に配慮が行き届いた仕様となっている。
ゲームだからこそ生み出せる感情を組み込んだ、新たなエンターテイメントの形
「Part II」においては、グラフィックや演出はもちろん、探索やアクション要素の強化など、「傑作」と呼ばれた前作から、あらゆる面がスケールアップを遂げた。システム周りの仕様が細かく改善されたことで、普段あまりゲームをプレイしない人にとってもかなりとっつきやすく、探索要素の増加により、さらなるやりこみを求めるプレイヤーにとっても遊び甲斐のある作品となっている。
そうしたより万人向けの作りとなる一方、本作の物語がもつパワーは、いい意味でも悪い意味でもとにかく強烈だ。物語のテーマがエリーの復讐劇となることは冒頭でも述べたが、本作では意図的に過剰な暴力表現が組み込まれている。中には、体力が減ると武器を捨て、降伏の意思を見せるような敵もいるのだが、見逃そうとすると再び攻撃を加えてくる。敵が降伏したとしても、問答無用でトドメを刺すのがゲーム的な正解だが、それを行うとどうしても後味の悪さは残る。
こうした複雑なテーマを内包した作品は、映画や書籍にも存在するが、先に上げた降伏する敵にトドメを刺す例のように、その行為をプレイヤー自らに行わせるからこそ動く感情が存在する。本作はそうした、「ゲームだからこそ表現できるテーマ性」を極限まで突き詰めた作品と言えるだろう。
今後、ゲーム史に残る傑作として語り継がれることになるであろう「The Last of Us Part II」。ゲームというエンターテイメントがもつ可能性を感じてもらうためにも、1人でも多くの方に、本作をプレイしていただきたい。