Achamothからリリースされたスマートフォン向けゲーム「触手を売る店」をレビュー。人の願いを叶えるという生物「触手」を育てる育成ゲーム。独特なビジュアルや世界観など、本作の魅力を紹介する。
「触手を売る店」はAchamothからリリースされたスマートフォン向け育成ゲーム。本作は個人クリエイターによって開発された、いわゆる「インディーゲーム」と呼ばれるタイプの作品だ。「インディーゲーム」といえば、企業が作るゲームでは表現することが難しいようなトガッた作品が魅力のひとつ。そして、本作はそんな「インディーゲーム」の魅力を最大限堪能させてくれる作品だ。なんといってもタイトルからして「触手を売る店」。もちろん、内容の方も十分トガッた内容だ。
他では絶対に味わえない設定!異様な生物「触手」を育成
本作の舞台は、かつて香港に存在した九龍城を思わせる都市。この都市には、なんでも願いを叶えてくれるという生物「触手」を扱う薬屋が存在している。この薬屋で使われる「土くれ人形」となって「触手」を育てていくことが、プレイヤーの仕事となる。
スクリーンショットを見てもらえれば一目瞭然だろう。不気味で、乱雑で、でも美しい。本作のビジュアルは非常に独特で、他のゲームでは絶対に味わえないテイスト。育成対象である「触手」も、タコやイカの手足のような一般的なイメージの触手ではなく、人間の手足やら人形やら草木やらといったものが雑然と融合した異様なビジュアルだ。
正直、このビジュアルを見た時点で「気持ち悪い、プレイしたくない」と感じるか、「なんて魅力的な世界観だ…」と魅入られるか分かれることだろう。そして、ビジュアルに魅入られたが最後、その後のゲームの流れにも魅入られるハズ。もちろん、筆者は魅入られた側の人間だ。
ビジュアルが異彩を放つ本作だが、ゲームシステム的には比較的オーソドックスといえる。時間経過によって生えてきた「触手」をタップで採取し、店の主人に渡すことで「霊酒」をゲット。「霊酒」を「触手」の母体である「御神木」に与えることで「御神木」が育ち、より多くの「触手」が生えるようになっていく。
ただ、さまざまな種類の「触手」を集めるためには、「御神木」の育成だけでは不完全。「触手」を共食いさせることで変化を促さなければならない。「触手」には「幼生」と「生体」という2つの段階があり、「幼生」に対して「生体」を与えることで共食いさせることが可能だ。どんなタイプの「触手」を与えるのか、「幼生」と「生体」の組み合わせによって異なる変化を見せる。レアな「触手」ほど、より多くの「霊酒」がもらえるという仕組みだ。
逃げ出した「悪い子」を追え!子どもたちを巡る都市残酷物語
ゲーム的には「触手」を育てることがメインだが、ストーリー的なメインは他に用意されている。それは、「悪い子」たちを巡る残酷な物語。主人公である「土くれ人形」は、冒頭、店に努める「星(シン)」にそそのかされ、とある扉を開いてしまう。この扉の中にいたのは、店の主人によって閉じ込められていた「悪い子」たち。もちろん、扉が開いたことで彼らは店から脱走してしまう。
主人公のもうひとつの目的が、この脱走した「悪い子」たちを捕まえること。そのための道具が「式神」。「式神」は「霊酒」と引き換えに購入できる道具で、「悪い子」たちを追跡することができる。そして、発見した子どもたちの状況は、「星」の持つ精神感応能力によって見ることが可能。これが本作におけるストーリーとなっている。
なお、「悪い子」と書いてきたが、これは物語中でそう呼ばれているため。もちろん、我々の価値観からしていわゆる「不良」的な子どもも存在するが、すべての子どもがそうというわけじゃない。なので、本当のところは「悪い子」が何を意味しているのか、そして薬屋は子どもを集めて一体何を行っているのか…というのが、物語を牽引するひとつの要素となっている。
「悪い子」というキーワードから、何やら薬屋の存在がきな臭く思えてくる。なので、脱走した子どもたちに感情移入してしまうのだが、彼らの行く末は、決して幸せなものではない。脱走によって一時的な自由は獲得しているものの、何しろ子どもなので自立しているわけじゃない。なので、都市の抱える闇へと転落していくことになる。とても残酷な物語だ。しかし、独特のビジュアルと世界観で語られるため、思わず引き込まれてしまう。
刺さった人には極上の体験が味わえる!作家性の高い一作
ここまで紹介してきたとおり、本作は非常にトガッた作品だ。「作家性」という「インディーズゲーム」の持つ一面をもっとも体現した一作と言っても過言ではないだろう。それだけに、誰にでもオススメできるような作品ではない。刺さる人には刺さるが、刺さらない人は全く刺さらない…そんな作品といえる。ただ、幸いなことに、刺さる人はビジュアルを見れば一発で分かるだろう。本作の画像を見て「イイ!」と思ったなら、あなたは刺さる人だ。
そして、もしあなたが刺さる人なら、本作はこの上ない極上の体験ができる作品となる。不気味さ、乱雑さ、美しさ、ダークなユーモアといった要素が混ざり合った混沌した魅力の虜になることだろう。もしこの記事を見て心が動いたなら、ダウンロードしないのはもったいない。他の作品では味わえない本作ならではの世界観を是非、体験してほしい。
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