Project LUMINAが2021年9月30日に発売予定のPS4/Xbox One/Nintendo Switch/PC(Steam)用ソフト「MELTY BLOOD: TYPE LUMINA」。本作の開発を担当するフランスパンのなりたのぶや氏、芹沢鴨音氏へのインタビューをお届けする。
「MELTY BLOOD: TYPE LUMINA」は、TYPE-MOONが2021年8月26日に発売した長編伝奇ビジュアルノベル「月姫 -A piece of blue glass moon-」の世界観をベースとした対戦格闘ゲーム。従来の「MELTY BLOOD」シリーズの特徴を受け継ぎながら、キャラクターデザイン、ゲームシステムなどを一新。現在の環境にあわせて一から制作される待望の「MELTY BLOOD」最新作だ。
9月30日の発売が迫る中、本作の開発を手掛けるフランスパンのなりたのぶや氏、芹沢鴨音氏へインタビューを実施。本作の開発経緯から細かなゲームの仕様まで幅広い内容を聞くことができた。「MELTY BLOOD: TYPE LUMINA」の発売を待ちわびている人はもちろん、本作が気になっているという人もぜひ読み進めてほしい。
なお、Gamerでは本作のプレイレポートも掲載中だ。こちらでもゲームのシステムや魅力を動画を交えて紹介しているのであわせてチェックしておこう。
「MELTY BLOOD: TYPE LUMINA」の開発経緯や参戦キャラクターを深堀り
――最初に自己紹介をお願いします。
なりたのぶや氏(以下、なりた):フランスパン代表のなりたです。「MELTY BLOOD: TYPE LUMINA」に関しては、実務は全て鴨音に任せて、そばから温かく見守る仕事をしています(笑)。
芹沢鴨音氏(以下、芹沢):フランスパンでディレクターをしている鴨音です。「MELTY BLOOD: TYPE LUMINA」では、開発のディレクターと、バトル部分のデザイン統括を担当しています。
――「MELTY BLOOD Actress Again Current Code」から数えると(2010年7月29日稼働)約11年ぶりの新作となる「MELTY BLOOD: TYPE LUMINA」ですが、どのような経緯で開発に至ったのでしょうか?
なりた:武内さん(TYPE-MOON代表の武内崇氏)とお話する機会がある際に、「そろそろ、新たなTYPE-MOON作品の新作格ゲー、どうですかね?」という提案はしていたんですけどタイミングが合わず、なかなか実現までは至らなかったんですよね。そんな中、「月姫 -A piece of blue glass moon-」の開発完了時期が見えてきたこともあって、「MELTY BLOOD: TYPE LUMINA」も決まったという感じです。
――フランスパンさんは、「UNDER NIGHT IN-BIRTH」シリーズも開発されていますが、開発期間的に大変だった部分もあったのではないでしょうか?
芹沢:実際の開発ではなく企画提案を続けていた期間もあるので、その部分を含めると結構長く大変でした。とはいえ、バトル部分の開発期間は重ならなかったので、ベストなものが作れたかなと思っています。
――私も「メルブラ」の新作が発表されるという話を聞いたときに、2012年頃にフランスパンさんの公式TwitterでHD版「メルブラ」の話をされていることを思い出して、感慨深かったです。
なりた:ありがとうございます。そうですね、あれくらいの時期(2010年頃)から、HD解像度でTYPE-MOONさんの格ゲーを作らせて欲しいと具体的に動きはじめていた感じです。TYPE-MOONさんのスケジュールがどうしても合わなかったこともありますが、ここまで長かったですね本当に(笑)。
もしメルブラHD版が出るとしたらキャラクターは全て書き直しになるので、MBAACCが単純に高画質化するのではなく、全く新しいメルティブラッドになります。
— フランスパン (@fura_pan) November 29, 2012
――2021年は格闘ゲームの新作がたくさん発表され、勢いを感じているのですが、長年格闘ゲームに携わってきたフランスパンさんとしてはどのような思いでしょうか?
芹沢:今年はたくさんの格闘ゲームが発売されているので、もっと分散してほしいという思いもありますけど(笑)、でも本当に格闘ゲームの勢いを感じますよね。私自分もプレイヤーとして格闘ゲームを遊ばせていただいていますが、学生時代を思い出す勢いでたくさんのタイトルに触れられていて、本当に幸せだなと思います。
なりた:あとは続編ものしかない状態になっているので、どのメーカーさんからでも完全に新規IPでの新作が出てくれると嬉しいですね、と個人的には思っております。
――本作は全世界で同時期に発売されますが、海外のファンからの声も大きかったのではないでしょうか?
芹沢:そうですね。日本でも格闘ゲームが盛り上がっていると感じますが、海外は人口が多いですし、「MELTY BLOOD」や「UNDER NIGHT IN-BIRTH」をずっと遊び、コミュニティを盛り上げる活動をしてくれている方々がいるんです。そのため、たくさんの反響をいただいています。
今までの私たちのゲームは、日本で発売された後に海外で展開するパターンしかありませんでした。なので、海外のプレイヤーにとっては同じスタートラインからゲームを楽しめないことに、もどかしさもあったと思います。今作は誰もが同じスタートラインに立てるので、そういう意味でも喜んでもらえているんじゃないかなと思います。
――本作は「月姫 -A piece of blue glass moon-」に準拠した世界観に変わりましたが、ここではどのような変化が生まれましたか?
芹沢:「月姫」と「MELTY BLOOD」は古くから続いてきたタイトルなので、今からすべての作品を追っていくことが物理的に難しくなっていると思います。「MELTY BLOOD」はアーケードで長く稼働していたので、「月姫」を知らずに触れる方も少なくなかったのですが、世界観に興味を持ったとしても「月姫」をプレイすることは中々難しかった。
ですが本作は「月姫 -A piece of blue glass moon-」をベースにしていますので、その問題はクリアされています。「月姫 -A piece of blue glass moon-」を遊んだ人なら、「MELTY BLOOD: TYPE LUMINA」をばっちり楽しめるのはもちろんですが、逆のパターンでも「月姫」に触れやすい環境があるというのは、ある意味で一番の変化じゃないかと思っています。
――特に影響が大きかったのはキャラクターに関係するのではないかと思いますが、参戦キャラクターはどのように決めていったのでしょうか?
なりた:基本的にはTYPE-MOONさんと協議した形ですね。「月姫 -A piece of blue glass moon-」に登場するか否かだけでなく、月姫の物語のすぐ前後を含めた時間軸で、総耶周辺に確かに存在している人物、という点を軸に選定していきました。
我々としてはキャラクター性以外の部分で、格闘ゲームとして投げキャラや長いリーチのキャラなどが欲しいといった視点から、意見出しを行いました。
――シオンが登場しないというのはファンの間では大きな話題になりましたよね。
なりた:これに関しては本当に申し訳ありません。今回は「月姫 -A piece of blue glass moon-」の格闘ゲームという面を強く打ち出したかったので、シオンやワラキアの物語を入れてしまうと唐突過ぎると申しますか、収拾がつかなくなってしまうと思われたので、今回は一旦不参加という形にさせて頂きました。
芹沢:私たちとしては、まずは「月姫 -A piece of blue glass moon-」を楽しんでほしいと考えています。その後に「MELTY BLOOD: TYPE LUMINA」があるという立ち位置のためです。ですから、この段階でシオンが登場してタタリ編のストーリーが展開すると、物語が先に進みすぎてしまいます。
――たしかにそうですね。ですが、一方で都古のように「才能が開花した」という新しい設定で参戦するキャラもいますので、今後も色々と期待しています。
芹沢:いつどんな発表があるかわかりませんが、そんなサプライズを用意してくれるのもTYPE-MOONさんの面白いところだと思うので楽しみにしていただければと思います。
――初参戦キャラクターとしては、ノエルとヴローヴが発表されましたが、この2人のコンセプトを教えてください。
芹沢:まずはノエルについてなのですが、TYPE-MOONさんからは「初心者でも扱いやすいキャラクターにして欲しい」という要望がありました。彼女は巨大な武器「ハルバード」を持っているのでリーチが長いですし、小回りも利いて接近戦も対応できるので、そこは扱いやすいと思います。
また、彼女の性格が「強い相手には弱いけど、弱い相手には滅法強い」というもので、強い相手には無理をしないキャラクターだったので、格闘ゲームで言えば自分の都合の良いタイミングで攻めることができて、そうでない部分では上手いこと立ち回りで補ってもらう、というプレイフィールを目指しています。パッと触って簡単に楽しめる一方で、苦手な部分もあるキャラクターです。
芹沢:ヴローヴは、「月姫 -A piece of blue glass moon-」でも序盤に現れる脅威で、ボス感の強い存在です。やはり新キャラクターから始めようという人も多いと思うので、コンセプトが難しくなり過ぎないように意識しました。
ヴローヴは主に飛び道具を使う砲台のようなキャラクターなので、「月姫」でもある通りなかなか近づくのが難しい。でも近づいたら近づいたで大鉈を使ったインファイトも可能という強さを感じるキャラクターになっています。一般的なシューティングキャラであれば接近戦の切り替えしが弱いことも多いのですが、極端に弱くはしていません。なので使い心地は素直ですね。その代わり、シンプルゆえにセンスがいるキャラクターと言えるかもしれません。
――既存キャラクターの中で大きくコンセプトが変わったキャラクターなどはいますか?
芹沢:大きく変わったのはアルクェイドくらいでしょうか。過去作のアルクェイドは様々なコンボを駆使して手数で攻めるテクニカルさが魅力のキャラクターでした。コンボはとても格好良いですし、テクニカルな要素も個性的で面白かったとは思うのですが、そもそも「月姫」ではパワーやスピードが凄くあるけど細かいところはそんなに、というキャラクターなので、今作ではその違和感を緩和できるように調整しています。
もちろんテクニカルな要素もたくさんありますが、ベースとなる操作感は素直で使いやすいキャラクターに仕上がっていると思います。アルクェイドはキャラクターの人気があって使いたいという方も多いと思うんですけど、これまでの彼女は難しすぎたなと感じていた人にもおすすめできると思います。
――秋葉は制服秋葉がベースになっているんですよね。
芹沢:そうですね。「月姫 -A piece of blue glass moon-」では秋葉の能力について語られない部分が多いので、当主としてではなく学生さが出ている制服秋葉になっています。もちろん、「檻髪」を使ったりはできるんですけど、まだ本気は出していないぞという風に見ていただけると。
――その他のキャラクターについてはいかがでしょうか?
芹沢:暴走アルクェイドは、これまでの重要だった技やプレイフィールはきちんと残しつつ、見た目に合わせて細かい部分が変わっています。ビジュアルとしても優雅な感じを出しているので、あえて言うなら真祖アルクェイドっぽさというか、そういう要素を感じられるキャラクターになっています。他のキャラクターについては、だいたいこれまでの性能をベースに長所は伸ばしつつ、難しすぎた部分を調整して遊びやすくしています。
原点の体験は変えずに新しい「MELTY BLOOD」へ
――ここまでゲーム内容についても大分お話いただきましたが、改めて「MELTY BLOOD」を一から作り直したことによる全体的なゲームデザインについてお聞かせください。
芹沢:「MELTY BLOOD: TYPE LUMINA」の命題として持っていたのが、「従来シリーズの良さを残しつつ、新しいものにする」というものでした。シリーズのファンが多いので、そこをしっかり大事にするのは当然として、続編やリメイクではなくまったく新しいゲームとしての未来を感じられるものに新生したいと考えていました。
そこで一番最初に行ったのが“メルブラらしさ”の分解と再構築です。ここが非常に難しいところで、「MELTY BLOOD」は長く続く作品なので、人によってプレイしたタイトルや時期が変わることが多く、描くメルブラ像が異ってくると思います。
例えば「月姫」が好きで同人版の初代「MELTY BLOOD」を遊んでいたけど以降のシリーズを遊んでいない人もいると思いますし、逆に格闘ゲームが好きで「MELTY BLOOD Act Cadenza」や「MELTY BLOOD Actress Again」から遊び始めたという人もたくさんいます。そんな幅広いファンの方々に、「MELTY BLOOD」っぽいなと受け入れていただける作品を目指して再構築しています。
そこで、共通するシステムを整理するなどして、“メルブラらしさ”の柱を決めていきました。システムの柱としては、シールドや相殺といった技のぶつかり合い、強制解放を軸とした読み合いなどがシリーズを通して存在するので、これを中心に構築していこうというのはありました。
ですが、「なぜ皆が『MELTY BLOOD』を楽しめていたのか」、という本質的な理由はそこでないとも考えていて。考えを整理していくうちに、最終的に「自由自在にキャラクターを操れる軽快な操作感」こそが“メルブラらしさ”であるという結論に至ったんです。
モックアップの時点では、新規性を重視するために多くのシステムを削り、新規の人でも遊びやすいように操作を簡略化したこともありました。二段ジャンプや空中ダッシュを無くしたり、ビートエッジに制限を付けたりしたこともあったのですが、やはり「メルブラ」ではなかったんですよね。それを確認できた時点で、ゲーム全体の方向性が定まったと思います。
――自分も「メルブラ」で第一に思い浮かぶのは空中戦です。空中での技の差し合いは、「メルブラ」ならではの体験でした。
芹沢:バッタゲーという表現もありますが(笑)。ただ、逆にあそこまで飛び回るゲームも珍しいですし、本当にメルブラの面白いところだと思っていますし、言い過ぎかもしれませんが唯一無二の部分ではあるので、そこはしっかり残していこうということになりました。
――本作をプレイさせていただいて、ゲームスピードがかなり早く感じたのですが変わっている部分はありますか?
芹沢:「MELTY BLOOD Act Cadenza」や「MELTY BLOOD Actress Again」と比べて、ゲームスピードはそれほど変わっていませんが、どちらかというと少しだけ早くなっています。もちろん画面の比率が変わっているので、その辺りは人によって感じ方が違うかもしれません。
ゲームスピードがゆっくりなゲームはロジックや戦略性に満ちたものになりがちですが、本作は世に出ている格闘ゲームの中でもかなりゲームスピードが早いので、その場での判断力やアドリブ、読み合いが重要になっています。とにかく、メルブラらしさを追求した結果が、このゲームスピードだと思っていただけると。
――「メルブラ」の良さの一つには基本コンボが簡単という部分があると思っているのですが、本作ではさらに連打で空中コンボまでしてくれる「ラピッドビート」が追加されました。これはどのような経緯で実装したのでしょう?
芹沢:「メルブラ」と聞いて空中コンボからの空中投げを思い浮かべる人も多いと思います。ただ、あのコンボって慣れるまでは難しいじゃないですか。メルブラらしい面白さなので空中コンボは入れたい、でもそうすると操作が難しくなりすぎてしまう。そこでラピッドビートを用意して、「メルブラ」の面白いところをすぐに遊べるようにしたかったので実装しました。
それこそ格闘ゲームをやったことが無い人でもボタンを連打していれば、空中コンボに進んで空中投げまで繋がりますので、「これがメルブラ」っていう面白さを体験していただけるんじゃないかと思います。
「ラピッドビート」は初心者救済的な意味も大きいのですが、一方で格闘ゲーム上級者にとっても結構大事な要素になっています。というのもゲームスピードが早い中で、体力ゲージやヴァイタルソース、マジックサーキット、ムーンアイコンといったリソースや、相手の状況を確認する必要があり、ゲームスピードの早さに対して見なければいけない部分が非常に多いんです。これを普通のコンボゲームの難しさにすると、ゲームを楽しむのにめちゃくちゃ苦労することになってしまいます。
「MELTY BLOOD: TYPE LUMINA」はキャラクターの操作だけでなく、ゲージ運用を始めとした知識的な部分にも面白さを詰め込んでいるのですが、そこにたどり着く前にお腹いっぱいになってしまう人も多いかなと思っていて。ラピッドビートがあるおかげでゲーム全体を俯瞰で見やすくなるので、よりそういった面白さに集中できるかなと。なので、格闘ゲームに慣れた人でも「ラピッドビートがあったからこそ気づけた面白さ」には出会えると思うので、ぜひ活用してゲームを楽しんでいただけるとうれしいです。
――今作をプレイしていてコンボを空中投げで締めた際に、状況が大きく有利になるキャラクターが結構少ないなと感じたのですが、これは意図的なものでしょうか?
芹沢:「MELTY BLOOD Act Cadenza」の初期バージョンに比べると有利フレームは短いですが、「MELTY BLOOD Actress Again」に比べると長いですね。これもゲームをやっていた年代によって変わってくる感覚ですね。
――たしかに自分は「MELTY BLOOD Act Cadenza」を一番遊んでいたのでそう感じたのかもしれません。
芹沢:もちろんキャラクターによって違うんですけど、「MELTY BLOOD Act Cadenza」の頃は空中投げで締めたあと、めちゃくちゃ有利フレームがあって。弓塚さつきなんかは、ハイジャンプして空中バックダッシュして起き攻めするくらいの猶予がありましたから(笑)。「MELTY BLOOD Actress Again」の頃は有利フレームが少なめのキャラクターが多かったのですが、この2つの間くらいのところに調整しています。
あとは「MELTY BLOOD: TYPE LUMINA」では空中投げをした後に、二段ジャンプができるんですよね。
――あれ、そうなんですか? 気づきませんでした……!
芹沢:空中コンボをするときに、二段ジャンプを使ってしまうとできないのですが、これを残して空中投げをした後は二段ジャンプが可能になっているので、コンボの使い分けが生まれてくるんじゃないかと思います。起き攻め重視なのであれば一段ジャンプのコンボで締めた方が状況は良くなりますから。
――なるほど……! 昔からのプレイヤーほど引っかかってしまう罠ですね(笑)。続いて、システム周りについて教えてください。まずは一番の大きな追加要素となるムーンアイコンにまつわるシステムですが、こちらを追加した意図はどのようなところにあったのでしょう?
芹沢:ムーンアイコンは「ムーンスキル」や「ムーンドライブ」など、色々なシステムに紐づいているのですが、基本的には新たなやり込み要素の柱として入れています。また、「MELTY BLOOD」はシリーズを重ねていく毎にシステムが増えていって混沌としているんですよね。それをきれいにまとめて一本化するために大きなシステムを追加しました。
ムーンアイコンで使用できる「ムーンスキル」と「ムーンドライブ」ですが、これらはムーンアイコンを考える前から実装したいと思っていたシステムではあったので、パズルのピースを合わせるような形で生まれました。
――先に「ムーンスキル」と「ムーンドライブ」があったんですね。
芹沢:そうですね。「月姫」という原典があるので月が満ちているときに強くなるというイメージとも合っているかなと。せっかくの新作なので強いシステムを入れたかったんですけど、そこに上手く説得力を持たせられたかなと思います。
――「ムーンスキル」はコマンド入力の必要もなく性能も高いのでかなり頼りになりますよね。ただ、本当に強いんで、ゲームが大味になってしまわないかという懸念もあります。
芹沢:おっしゃる通りワンボタンで出る必殺技でめちゃくちゃ強いです。流石に無敵などはないのですが、相殺判定が付いていたりしますし、ダメージも高かったりコンボの始動になる上に隙も少ないです。なぜムーンスキルを入れたのかというと、「メルブラ」の対戦って基本的に立ち回りで通常技しか振らないんですよね。
――たしかに必殺技はコンボパーツという認識が強いかもしれません。
芹沢:そうですよね。何故そうなるのかというと、コンボゲーってゲームスピードが早いじゃないですか。そしてコマンド入力にはどうしても時間がかかってしまう。操作が早い人でも1つの必殺技を出すときに十数フレームかかってしまいますし、であればその十数フレームで走って弱ボタン押したほうが良くない? っていう考え方もあるんですよね。
それはそれで悪い事ではないのですが、立ち回りで使える技が減ってしまうので、どうしても地味な見た目になりがちでした。そこで、方向キーを入れながらボタンで強い必殺技が出るというシステムを入れて、そこを解消したかったんです。
実はいわゆる波動・昇龍などのコマンド入力をすべてなくして、必殺技そのものをワンボタンにする案もあったんですけど、それではメルブラではなくなってしまうのでボツになったという経緯もあります。そのいいとこ取りをしたのがムーンスキルだと思っていただけると。
対戦が大味になるのではという部分については、実は結構弱点もあって、分かりやすいところだとシールドを取られると反撃が確定してしまうんですね。本作はシールドを取られた側がシールドを張り返すことができるんですけど、ムーンスキルはそれが出来ない。なので、立ち回りで使うのは強いんですけど、置きシールドに負けるという駆け引きがあります。ムーンスキルが強いから対策でシールドを張る、シールドを張るとムーンアイコンが減っていくのでムーンスキルが使えなくなっていく、そこでお互いに様子見を入れたりする……という形で、格闘ゲームらしい読み合いが生まれるんじゃないかと思います。
――なるほど。続いてムーンドライブについてお聞きしたいのですが、ムーンスキルが分かりやすく強いのに比べて、こちらはプレイヤーによって評価も変わってきそうだなという印象でした。
芹沢:シールドやラピッドビート、ムーンスキルなどのシステムはわかりやすい用途があるんですけど、ムーンドライブはプレイヤーの自由度を広げるために作られたシステムです。発動時は全身無敵でカンニングができたり、ムーンスキルが強化されたり、機動力が上がったりという明確なメリットがあるのですが、強化時間が終わるとムーンアイコンが無くなってしまうんですよね。そのため人によって使いどころや強みの感じ方が違うと思いますし、中にはまったく使わない人もいると思います。リリースされて色々なセオリーができると嬉しいですね。
――自分もムーンスキルが使いやすいこともあって、ムーンドライブはつい忘れてしまうことが多かったです。
芹沢:いえいえ、それで良いと思います。最初から全部のシステムを使いこなすのは難しいと思います。一通りどんなゲームか分かってきて、次のステップに進みたいというときに研究してもらえるといいのかなと思います。
――本作を遊んでいてもう一つ大きな変化だと感じたのがシールド周りの仕様変更です。今回のシールドの基本的な仕様設計やデザインについてお聞かせください。
芹沢:さきほど「メルブラ」らしさの柱の一つとしてシールドを挙げました。ただ、過去作のシールドって柱になり得るくらい強いのかというと実はそうでもなかったんですよ。空ぶると大きな隙を晒すことになりますし、タイミングはシビアだし、せっかくシールドをとっても反撃方法も結構難しくて。「MELTY BLOOD」はA・B・C・Dボタンの4ボタンで、シールドはDボタンに割り振られているんですけど、ボタン1つ使ってるわりに全然押せなくないか……という(笑)。
また、格闘ゲーム初心者がゲームを練習するときに、オフェンスは練習もしやすく上達も早いのですが、ディフェンスは知識や経験がものをいうので、練習しにくくて困るんですよね。そこで頼れる何かが欲しいということで、シールドはめちゃくちゃ強くしています。シールドや相殺をして技がぶつかり合うのはビジュアル的にもかっこいいので、盛り上がりどころとしてしっかりと作っています。
――今回はシールドを取ったあとのカウンターをシールドで取り返せるという部分が大きな変化だなと感じていて、シールドカウンター周りの読み合いは本作の見どころになりそうですよね。
芹沢:シールドカウンターの駆け引きはかなりスピーディーで見どころです。最初は難しく見えるかもしれませんが、直感的に遊べるので積極的に使っていただきたいですね。中にはシールドカウンターが運ゲーだと感じる人もいるかもしれませんが、研究をしていくとやり込みで補える部分が増えるように作っています。
――なるほど、多少じゃんけんの要素はありつつというバランスなんですね。
芹沢:そうですね。状況によって最適解が変わっていくので、それを判断していくとリスクとリターンを管理していけるようになっています。ただのじゃんけんにはなっていなくて、「ここはこっちが本命だから……こうでしょ?」みたいな状況が実際にあったりします。
――そもそもの部分なんですけど、今回はEXシールドと持続シールドという概念は無いですよね?
芹沢:はい、押しっぱなしでも出がかりでとっても性能に変化はありません。あとはマジックサーキットの消費も無くなっていますが、シールドを失敗したときにムーンアイコンが減るようになっています。やっていくと分かると思うんですけど、シールドの硬直はムーンアイコンで変動して、ムーンアイコンが少ないと隙が大きくなるんです。なので、「シールド強いじゃん」といって使いまくっていると、その分リスクも大きくなるというバランスになっています。
――あぁ、なるほど! ここでもムーンアイコンのリソース管理が重要になってくるんですね。
芹沢:そうです。なので、ムーンアイコンを温存すると、今度はムーンスキルが使えなくなりますし……。そういった駆け引きが本作の重要なポイントですね。
――ムーンアイコン周りのシステムは深いですけど、かなり面白いですね。続いてオンライン要素についてお聞きします。ストアページを見ていてロビー画面のような画像をみかけたのですが、本作にはロビー機能があるのでしょうか?
芹沢:実はあれは、いわゆるロビーではないんですよ。ルームを立ててそこにプレイヤーが入ってきて対戦するような一般的なルームマッチ機能のビジュアルを、ロビーっぽく表現しているんです。アバターが表示されてワイワイ遊んでいる感じにはなっているんですけど、アバターで自由に動き回ったりする作りにはしていません。ルームマッチの快適さを大事にしつつ、それでいて見た目は遊んでいる感を出しつつ気軽に対戦が楽しめるようにと、両方の良いとこどりをした感じです。オンライン機能的には、ランクマッチとプレイヤーマッチ、ランキングボード、リプレイなど、基本的なものは揃っています。
――ネットコードは、ディレイ方式とロールバック方式のどちらが採用されているのでしょう?
芹沢:本作ではロールバック方式が採用されています。これまでのタイトルではディレイ方式でのネットコードを採用していたので初めての試みになります。やはり海外のプレイヤーからすると、ディレイ方式ではネットワーク対戦が成り立たないんですね。国内であれば1F~3Fくらいの遅延で遊べると思うんですけど、海外ではほとんどが4F以上の遅延となり、ラグが多すぎて遊びづらいという意見が大きかったんです。もちろん国内での対戦でも遅延0で遊べるので、ロールバック方式による恩恵はかなり大きいんじゃないかなと思います。
――オンライン対戦はかなり捗りそうですね。eスポーツ的な展開にも期待したいと思っています。
芹沢:なかなかオフラインのイベントが開催し辛い時勢ではありますが、ロールバックに対応することで、オンラインでのイベントも開きやすい土壌はできたかなと思うので、まずはこの環境で遊んでいただきつつ盛り上げていければと思っています。
「MELTY BLOOD」という作品は、日本国内での有志による大会やイベント、コミュニティ活動の歴史が長く、そのおかげで海外のコミュニティも巻き込んで相互に盛り上がっています。そういった方々がオンラインイベントを開催しやすい環境を作りたいと思い、ネットワークの部分には力を入れています。
――今後、シーズンパスなどを導入する予定はありますか?
芹沢:まだそういうお話ができる段階では無いのですが、シーズンパスはともかくとして、格闘ゲームとしてのゲーム性を拡充していく面でも、触れられる「月姫」のキャラクターを増やすという面でも、その必要性は強く認識しています。とにかく「MELTY BLOOD」というシリーズを今後もしっかりと続けていきたいですね。
私はプレイヤーとしても開発者としても「メルブラ」とともに育ってきたので、このシリーズには強い思い入れがあります。ただ「Act Cadenza」「Actress Again」「Current Code」と開発に携わり、そこで一旦メルブラは完結して終わってしまいました。なので正直なところ、「メルブラ」の続きはもう出せないんじゃないかなと諦めかけていたところもありました。「月姫 -A piece of blue glass moon-」が出るまでに、ゲーム制作を続けているのだろうかという悩みもあって。
そんななか、奇跡的にタイミングが重なり合って「MELTY BLOOD: TYPE LUMINA」をついにリリースできる運びになったので、今後もしっかりと続けていけるように最善を尽くしたいと考えています。
――最後に「MELTY BLOOD: TYPE LUMINA」を楽しみにしている方たちに向けてメッセージをお願いします。
なりた:「月姫 -A piece of blue glass moon-」を遊ばれた皆さんに、スムーズに楽しんでもらえるといいなと思っています。今後のこの先を考えるにあたっても「月姫」に出てきたキャラクターをもうちょっと出せるんじゃないかなと思っているので、そういった要望に応えていけるようにこれからも頑張っていきます。
芹沢:「MELTY BLOOD」という作品はいろんな方々に長く遊んでもらっているシリーズなので、しっかりと楽しんでいただけるよう、なるべく原点の体験は変えずに全身全霊を込めて作らせていただきました。ぜひ遊んでいただき、作品を盛り上げてもらえると今後の展開にも繋がると思いますので、応援していただけますと幸いです。
――ありがとうございました。
(C)TYPE-MOON / Project LUMINA
※画面は開発中のものです。
コメントを投稿する
この記事に関する意見や疑問などコメントを投稿してください。コメントポリシー