スクウェア・エニックスが2021年10月14日に発売したPS4/Nintendo Switch/PC(Steam)向け完全新作RPG「ダンジョンエンカウンターズ」。本作のキーマンであるおふたりに、話をうかがった。
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インタビューに答えてくれたのは、本作のディレクターである伊藤裕之氏と、プロデューサーである加藤弘彰氏。スクウェア・エニックスのいくつものRPGでゲームデザインを手掛けてきた伊藤氏は、この意欲作をどんな思いで生み出したのか? そして、本作をプロデュースした加藤氏だから知っている、開発秘話とは?
本作をプレイした方にも、まだプレイするべきか迷っている方にも、読んでいただけたら幸いだ。
なお、インタビューの途中で、ラスボスを含むゲーム終盤に関する言及があり、その箇所の見出しには「ネタバレあり」の文言を入れてある。まだ本作をクリアしていない方は、注意して読んでほしい。ただ、こういったネタバレでおもしろさが目減りするタイプのゲームではないことも付け加えておく。
「ダンジョンエンカウンターズ」は伊藤氏にとって10年越しの悲願?
――伊藤さんがメディアのインタビューを受けるというのは、かなり珍しいことのように思います。やはり「ダンジョンエンカウンターズ」というタイトルに、並々ならぬ思い入れがあってのことでしょうか?
伊藤氏:「ぜひインタビューを受けてください」と宣伝側から要請があったので、受けています(笑)。今作は大きなタイトルではないので、インタビューを受けることで読者に知ってもらえればという思いです。
――なるほど(笑)。では、まずは本作をリリースすることになった経緯についてうかがいたいと思います。スクウェア・エニックスとしてもかなり異例のタイトルだと思うので、社内でのやり取りでもいろいろあったのではないかと想像するのですが。
加藤氏:いちばん最初に伊藤さんから企画書を見せてもらったのは10年くらい前です。新しいプロジェクトのためのアイデアがないか、伊藤さんにたずねたときに「実はこういうのを考えているんだけど」と見せてもらったものが、「ダンジョンエンカウンターズ」のベースになっているものだったのです。
システムに特化して、考えるたのしさを提供したい。そこを突き詰めたいからデザインはあえてシンプルにすると。でも私は「システムがおもしろいのだったら、デザインは盛ったほうがウケは良くなるのではないですか?」と言ったんです。伊藤さんは「いや、そこは違う」と。そのときはなかなか折り合いが付かず、いったんストップとなりました。
自分が改めてこのゲームを世に出してみたいと思えたのは、2017年に発売した「ファイナルファンタジーXII ザ ゾディアック エイジ」を開発している最中でした。テストプレイを繰り返していく中で、「効率よく戦っていくために、ガンビットをどう組み立てていくか?」という「考えるたのしさ」というものに対して、これはこれで良いなぁと思えるようになったんです。次に作るゲームはもっと「考えるたのしさ」をフィーチャーしたものにしてみたいと。
――10年前から話があったというのは、予想以上の期間ですね。でも、その後はかなり長い間、塩漬けになっていたと。
加藤氏:改めて伊藤さんと企画について話すことになったとき、伊藤さんが持ってきたのが、10年前に見せられたものとほぼ同じもので(笑)。市場的にもダウンロードオンリーのタイトルが増えていましたし、ありそうでなかった、「刺さる人には刺さる」ゲームになるのではないかということで、やる価値はありそうだという結論になりました。
当時、私の上長だった橋本さん(橋本真司氏。数多くの人気タイトルを手掛けているプロデューサー)に相談したところ、「新しいチャレンジは大事だから、やったほうがいい」と背中を押してもらって、プロジェクトとして動かすことになりました。「ファイナルファンタジーXIV」のプロデューサー兼ディレクターの吉田さん(吉田直樹氏)もすごく良い反応で「非常に先鋭的で面白そう! 個人的にも期待しています!」と言ってくれて。
システムは伊藤さんが作るんだから、おもしろいものになるよねと。でも「見た目が地味なゲームを買ってもらうには、どうすればいいんだろう?」という話に当然なるんです。実際に開発するための座組を揃えることになったとき、どうすれば注目してもらえるゲームになるのかという部分も含めて、社内でスタッフを揃えるのには難航しました。
――結果的に、開発には他者のRPGも数多く手掛ける開発会社の、キャトルコールさんが参加していますよね。
加藤氏:「サガ」チームのプロデューサーをしている市川さん(市川雅統氏)から「RPGを作るならキャトルコールさんが経験も豊富だから、紹介しましょうか?」と話がありまして。キャトルコールさんにお話したところ、プロジェクトにとても興味を持っていただけて、ではぜひ一緒にやっていきましょうと。
伊藤さんが作った仕様がすでにあったので、そこにビジュアルを乗せて、インターフェースも作ってという感じで進めていきました。
――伊藤さんは10年ほど期間があいてから、またほぼ同じ企画を出したということですけど、最初に企画を出して、それが通らなかったときは、どんなお気持ちだったのでしょう?
伊藤氏:会社の都合がありますから、そこに感情の起伏はあまりなかったですね。
――では10年後に改めて企画を出したときも「念願のチャンスが来た」みたいな感じではなく、わりと淡々と?
伊藤氏:そういう機会が来たのかなとは思いました。プロデューサーに拾っていただいたからにはちゃんと作ろうという感じです。
「うしろで見ていても、さっぱり意味が分からない」ゲームを作りたかった
――そもそもこのゲームを頭の中で構築していったときの、着想のプロセスというのは、どういったものだったのでしょうか?
伊藤氏:もともと「シンプルなデザインのゲームを作りたい」という想いはあったんです。それも傍から見て「これってゲームなのかな?」と、画面を見ても、一見ゲームかどうか分からないようなものにしたかったんですね。
デイトレード(株取引のスタイルのひとつ)をしている方って、PCのモニターを何個も並べて、いろいろなグラフや数値を見ているじゃないですか。あのイメージがけっこう近いというか、理想形だったんです。
加藤氏:やっている人はいろいろな思考のもとで判断をしているんだけど、法則をしらない人が後ろで見ていてもさっぱり分からないという(笑)。
――たしかに、最初に「ダンジョンエンカウンターズ」の画面を見たときの印象には「数字が並んでいるけれど、これはいったいなんだろう?」という困惑がありました。
加藤氏:プレイを続けていると「これをたのしめている自分(プレイヤー)はすごい!」と思えるみたいな。最初の企画は画面構成も、完成版のような見下ろし視点ではなく、アリの巣を断面で見たような感じだったんです。複雑に入り組んだ線状のものが、地下100階まで続いているようなものですね。
とはいえ商品化するには、このままというわけにはいかないぞと。「一見するだけでは、おもしろそうに見えないものがいい」という話には納得したのですが、最終的にどんなビジュアルにすべきかというところで、頭を抱えました(笑)。
探索を通してマス目を塗りつぶしていって、かつゲーム内に設定されている「アドレス」、座標を頼りに進めていく――いろいろと試行錯誤を経て、この核となるシステムで考えた結果、斜め俯瞰で見れるのが、いちばん情報を把握しやすいだろうと。そうして現在の画面構成の雛形が出来上がりました。
――「アドレス」がゲームの着想のいちばん最初にあった感じですか?
伊藤氏:そうですね。フロアが変わっても、その場所から動かなければ、XとYのアドレスは同じ。なので「仮想階段下り」や「仮想エレベーター下り」といったアビリティを使うと、別のフロアの同じアドレスに現れるっていう。その繰り返しでダンジョンを作っていこう、という発想がありました。
加藤氏:余談ですけど、タイトルも「ダンジョンエンカウンターズ」に決まる前は、「◯◯アドレス」や「アドレス◯◯」など、アドレスにフィーチャーしたものを考えていたんです。英語圏のスタッフから「ファンタジー世界にその単語はマッチしないからやめたほうがいい」と言われたこともあり、最終的には現在のタイトルに落ち着きました。もちろんいまのタイトルも気に入っています。
テーマは「備えあれば憂いなし」――しっかり準備すれば酷い目には遭わずに済むはず
――本作のダンジョンは、10階層ごとに風景が全然違うものになって、それに合わせてマス目の配置やギミックも大きく変わっていました。それが「今度はどんな舞台が待っているんだろう?」というワクワク感にも繋がっていたと思います。個人的には、60階~69階の床がまったく見えない階層が、本作らしい意地の悪さを感じられて、良いなぁと思ったのですが(笑)。
伊藤氏:60階のところは森のような場所を進むフロアをイメージしていて、「霧」というテーマのもとにああいった形になりました。最初は見える床が半分はあって、もう半分が見えない床だったんですけど、見えなくても全然遊べるということが分かったので、ああいった仕様になりました。
――いわゆるレバガチャ(十字キーやスティックを不特定の方向にガチャガチャと動かすこと)で、まだ見つけていない床を見つけられるというのが分かると、それがけっこう気持ち良かったですね。
伊藤氏:「さっきそっちの方向にはボタンを押したと思ったのに、もう1度やったら通れるようになった」ということがありますよね。「なんでさっき反応しなかったのかな?」という。
――ありましたね(笑)。「あれっ、ここ行けたんだ」みたいな。
伊藤氏:そうやって調子よく進んでいると、うっかりバトルの番号を踏んだりするんですよね。
――そうですね(笑)。お話を聞いていると、伊藤さん自身もすごくたのしみながら、開発していたのかなという感じがします。
伊藤氏:いや、たのしいという感じはなかったですね。「なんとかここは今月中に作らなきゃ」とか、焦りながらの開発だったので。
加藤氏:データの量がすごいんですよ。見た目はシンプルですけど、データ量だけで言えば、これまで伊藤さんが関わってきたナンバリングの「ファイナルファンタジー」(以下「FF」)とほとんど変わらないんです。それを今回は伊藤さんひとりでほぼ全部やっているわけですから。それこそキャラクターの設定や、武器や防具の数値、マップの構造に至るまで。大変だったと思います。丁寧にバランスを取りながら、やってくれました。
――「FF」のような大作だと、やはり複数人での分業になりますよね。
加藤氏:今回は伊藤さん発案のプロジェクトということで、「シンプルかつ、考えるたのしさがある」というコンセプトを実現するには、伊藤さん自身がすべてをチェックできたほうがいいだろうと。基本的には伊藤さんにおまかせしています。それで、最初に100階層構造というのは明言していたので、そこは守ってもらいました。
――自分で明言したから後には引けない感じですね。
伊藤氏:おっしゃるとおりです。「とんでもなく広いなぁ」と思いながら、開発を進めていました(笑)。その中で、まんべんなくプレイヤーの印象に残るものを、打ち出さなきゃいけない。そこには気をつけましたね。
――自分の場合、石化を受けて、パーティメンバーを置いていかなきゃいけないという場面を経験してはじめて、ダンジョンに散っている仲間たちをパーティに加入させる方法にも気づいたんです。ひとつの要素を経験することで、連鎖的にその要素の別の活用方法も思いつけるようなデザインになっているように感じました。
伊藤氏:いままで同じようなことを意識してゲームを作り続けてきたので、そこは手癖になっているのかもしれません。「これを配置したら、次にこれが起こらなきゃいけない」というのは、「プレイヤーとの約束事」だと思うんですね。
――それから、石化はすぐに対処方法が見つかったのですが、モルモット化にはかなり苦しめられまして(笑)。あのようないくつもの意地悪な要素というのは、どういったお気持ちで入れたのでしょう?
伊藤氏:本作はストーリーがないので、思い切ったことができたのだと思います。ストーリーがあると、「ここで石化して、パーティメンバーを置いていかなきゃいけなくなったらまずいだろう」とか、「いなくなったら話が続かないよな」ということも考えなくてはいけないんですけど。今回は「ここでひとり失っても、打開する手はいくつもあるよ」という作りにできました。
メインメニューにあるイベントブック、バトルブックを読めばそれぞれの番号でなにが起きるかというのは、前もって確認できるわけですから。事前に備えていれば、酷い目には遭わなくて済むようになっていますしね。大丈夫だろうと。
本作のテーマのひとつが「備えあれば憂いなし」なんです。ボーイスカウトのモットーとして「そなえよつねに」という言葉がありますけど。イベントブックやバトルブックで前もって情報を開示して、災難を回避する手段も配置してあるので、酷い目に遭わずに目的を達成することも可能になっている。そういう構想で作りました。
「あの借金」の裏事情
――加藤プロデューサーのほうで、尖りすぎているところを調整したような箇所はありましたか?
加藤氏:多少「ん?」と思うところはあっても、これまでゲームを作ってきた伊藤さんのノウハウへの信頼があるので、基本はおまかせでした。困難の克服なども含めて、プレイヤーさんの体験そのものが、このゲームのストーリーだと思っていただけるものになっているなら、いいだろうと。
ただ、開発も終盤に入って、モニタースタッフによるテストプレイを行っていたときに「さすがにこれは……」と思ったことがありまして。トレジャーリセットの攻撃で「所持金がマイナス50万Gになる」という仕様なんですけど。借金を背負わされたモニタースタッフから「ちょっと心折れそうなんですけど……」というレポートが上がってきまして。伊藤さんとの会議で「もうちょっと緩和しませんか?」という話をしたんです。
「いったん考えます」という言葉を貰って、てっきり直したと思っていたのですが……。発売されてからSNSの投稿をチェックしたところ、「所持金がマイナス50万になった!」というつぶやきをけっこう見かけまして。実はそのままの仕様が残っていたことが判明したんです。私も通しプレイはするのですが、「FC(トレジャーリセットの出現マス)」は避けてしまいますから……。ですが、どうやって克服するかっていう部分でプレイヤーの皆さんは盛り上がってくださっていたので、それはそれで良かったのかなと。本当に驚きましたけどね。
――伊藤さんはそうしたプレイヤーの反応まで想定して、あえて残していたんですか?
伊藤氏:たぶんデータミスですね。
一同:(笑)
伊藤氏:一度金額をマイナス30万まで下げたのですが、なんらかの拍子に昔のデータが反映されてしまったのかもしれません。マイナス50万が本来の設計でしたし、直すと他のゲームバランスを崩す恐れがあったので、そのままにするのがベストだったんですよね。皆さんはトレジャーリセットに遭われました?
――僕は遭っていないですね。
TOKEN(編集部):自分も完全に避けてプレイしていました。
伊藤氏:僕も避けているので遭わないんですけど、もしマイナス50万の借金が発生しても、後にある特殊なアイテムを売れば500万Gが貰えるんですよ。そのアイテムさえ見つければ返済できるというふうには、もともとなっています。酷い目に遭った場合の救済措置は必ず入っているので、そこから「救済措置を探す旅」が始まると思ってもらえればと。
それから、ショップを使わず(お金を使わず)に最後までクリアするというのも可能になっているので、そういった方法を探していただくことで、プレイヤーなりのストーリーができあがるのかなと思います。
――ではいまのところ、マイナス50万という数値を修正パッチなどで変更する予定はない感じでしょうか?
伊藤氏:そうですね。50万Gが差っ引かれるのは「送金」という攻撃を受けたときなんですけど、日本の銀行で一度に送れるお金の限度額が50万円だったかな、と思ってこの数字にしたんです。そういう理由なので、「じゃあ仕方ないか」と思ってもらえたらということで。「納得できないかもしれないけど、納得するしかない」と感じてもらうのが狙いでもあるので、そう思ってもらえると嬉しいです。
――わかりました(笑)。おふたりとも、苦労も含めて「ひとりひとりのプレイヤーなりのストーリーになってくれれば」ということを仰っていましたが、たしかに本作は、プレイした人同士で話してみても、プレイスタイルによって冒険の内容が、大きく異なっている気がします。
伊藤氏:このゲームには用意されたストーリーがないので、「ストーリーになる切っ掛けのようなものをいかに作るか?」ということを考えてトラップやイベントを配置しました。先ほどの借金なら「借金を返済する」というストーリーになるし、モルモットになったら「モルモット化を解く方法はどこにあるのか?」というのを見つけるストーリーになると思うんです。
落とし穴に落ちてパーティメンバーがバラバラになったら「仲間を探す旅」というふうに、それぞれのプレイヤーに、自分なりのストーリーを、ゲームプレイの中でたのしんでいただければなと。
Gamer編集部・TOKENも交えてのクリア後トーク(ゲーム終盤のネタバレあり)
――アビリティが手に入ると、「これがあれば、さっきまでのような苦労は今後しなくて済む」と感じる場面が多かったです。もっともありがたみが感じられるタイミングで入手できるように、計算されているのかなという印象です。
伊藤氏:ゲーム作りにも方程式みたいなものがあると思っていて。「簡単なものから徐々に複雑なものへ」というのを意識して、そういった仕様になりました。
あと入手のタイミングで意識したのは、100階層のうち、50階までには攻略に必要なアビリティがほとんど手に入っていないと、活用する機会がなくなってしまうだろうということですね。50階以降で手に入るアビリティは、無くてもクリアまでたどり着けるもの。あえてゲームのバランスを崩すようなものになっていると思います。
――「テレポーテーション」のアビリティは手に入るのがかなり終盤なものの、たどり着いていない階層にもワープできる、文字通りバランスブレイカーなアビリティですよね。
伊藤氏:「テレポーテーション」と「仮想エレベーター下り」はバランスブレイカーとして用意しました。
TOKEN(編集部):「テレポーテーション」は間違った座標を入力した瞬間、パーティメンバーが散り散りになってしまうから、使うのがすごく怖いですよね……。実際に一度なったんですけど。けれど、行方不明になったキャラクターを探すのも、最初のうちはかなり苦労するんですけど、いろいろなアビリティを駆使することで、かなり簡単になります。
伊藤氏:ゲームのベースにアドレスを利用した遊びというのがあるので、アビリティの使い方も、それを活かしたものが多くなっていった感じですね。
――アドレスで思い出したのですが、「アドレスブレイド」という名前の武器がありますよね。
加藤氏:実は「アドレスブレイド」もタイトル候補のひとつでした。
TOKEN(編集部):「アドレスブレイド」は攻撃効果数値が“1”なのに、試しに使ってみたら、もの凄いダメージが出たので、驚きました(笑)。実際に使ってみないとどれくらい有効なのか分からない装備がいくつかあって、「まずはいろいろ試してみる」というたのしさが、「ダンジョンエンカウンターズ」ではすごく感じられた気がします。
ランダムダメージの武器は与えるダメージが本当に幅広くて、それで大ダメージを与えられるほうに賭けるのか、固定ダメージの武器で堅実にダメージを与えていくのかっていうのも、プレイヤーの性格が出ますよね。僕は最終的に、ランダムダメージの武器をよく使っていたんですけど。
――僕と一緒にTGS前に先行プレイしたときのTOKENさんは、固定ダメージの武器を好んで使用していたので、いまの話はちょっと意外でした。僕は「K2000」を仲間にしてからは、「高エナジーミサイル」で敵の防御をゼロにしてから、ほかのパーティメンバーでとどめを刺すみたいな運用になりました。
TOKEN(編集部):自分はほとんど初期のメンバーで最後までプレイしたので、そこもやっぱり全然違いますね。
伊藤氏:おふたりはHPが1しかない魔獣はどうやって倒してました?
――僕は防御・魔防を削ってゴリ押ししていました。
TOKEN(編集部):自分は素手なら防御・魔防を無視して一撃で倒せることに気づいて……。
――あっ、それは気づかなかったです! なるほど……。
伊藤氏:あれに気づいたプレイヤーはアンデッド狩りをはじめると思うんですね。みんな素手で攻撃できるようにして。
――バトル番号を見ればピンポイントでアンデッドを狩ることができますからね。
伊藤氏:いまはあまり「裏ワザ」って言わないかもしれないですけど。そうやっていろいろな「抜け道」に気づいてもらうような要素を、入れ込もうというのがありました。
――そういった抜け道は、Twitterで拡散されたものをときどき目にします。そこで「あんなに苦労したのはなんだったんだ!」と思うのもまた、ゲームの思い出のひとつになりますよね。
TOKEN(編集部):ひとつのことに気づいても、また新しい要素で大変な思いをしたり。程よい緊張感の中で冒険できるバランスが味わえた印象です。
伊藤氏:倒す順番を間違えただけで全滅したりしますからね。
TOKEN(編集部):ラスボスについてなのですが。最初に人間のキャラクターが立ちはだかって、それを倒すと――というのが、なにがあってこうなったんだろう? と想像力をかき立てるものになっていますよね。
ネットで「こういうシチュエーションだったのではないか」と想像して描かれたファンアートなども見かけたんですけど、ほかのキャラクターたちが倒れている場所も、そういうところまで考えてのものだったのかなと思いました。
ダンジョンエンカウンターズ
— がり (@gari_osushi) October 30, 2021
ストーリーほぼ無いのでマップと状態でいろいろ妄想しちゃう
ゲームは地下80階まで降りて来たとこだけど、まだまだ楽しめそう〜 pic.twitter.com/VYDM0dYhUA
伊藤氏:キャラクターたちが持っている背景には、映画や本などで「誰かがどこかで見たり聞いたりしたこと」を落とし込んでいます。あとは「急がば回れ」とか「一石二鳥」とか、「ことわざ」で表せるような感触があると、印象に残るシチュエーションになるかなと思っているんです。先ほどの「備えあれば憂いなし」もそうですけど。
ラスボスに関しては「ミイラ取りがミイラになった」みたいなものを考えていたように思います。まぁ、フレーバーテキストは読まなくてもいいんですけどね。やることがなくなったときにふと読んでみたら、それはそれでおもしろいのではないかなと。
TOKEN(編集部):いやいや(笑)。それで想像を膨らませることで、また一段とキャラクターに愛着が湧いたりしますからね。
――ネットといえば、数値問題や地図問題は検索して答えを知ってしまうと、問題を解かずに強力なアイテムを入手できてしまうというのが、かなり思い切った仕様だったと思います。
伊藤氏:いまはネットの情報もチェックしながらゲームをプレイする人がほとんどだと思いますので、解き方のひとつとして利用してもらって問題ないです。そういったゲーム外でのコミュニケーションも含めてたのしんでいただければと。
続編は「伊藤氏がスクエニから◯◯◯にされれば」可能性アリ!?
――近年のコンテンツで、本作を開発する上で刺激になったものなどはありましたか?
伊藤氏:とくにこのゲームが、というのはないのですが、考えた仕様がほかのゲームでも使われているか、それとも使われていないのかというのは、必ずチェックしましたね。「このゲームで使われているから、アイディアが被らないようにこれはやめよう」という場合もありますし、逆に「このゲームで使っているということは、手堅いシステムだから大丈夫」と安心感を持って導入できたものもあります。
スマートフォンのRPGだと、バトルが終わるとHPやMPなど、すべての数値が元に戻っているものがほとんどですよね。そういったゲームに慣れ親しんだ方たちが、コンシューマーゲームの本作をサッとプレイできるようにしたいというのは意識しました。防御と魔防が戦闘終了時に回復するのは、そういった理由もあります。
逆に、いままでのゲームに導入されていなかったものというのは「良くないからやっていなかった」のか、それとも「誰も気づかなかったからやっていなかった」のか、どちらかだと思うんです。後者ならやる価値はありますよね。
靴を履く習慣のない国に行ったセールスマンが「ここでは靴なんか売れない」と思うのか、「全員に靴を買ってもらえる可能性がある」と思うのか――という話がありますけど、それに近いように思います。
――ありがとうございます。それでは、まとめに入ります。「ダンジョンエンカウンターズ」でおふたりは、プレイヤーにどんな体験をしてほしいとお考えでしょうか?
伊藤氏:困難な状況に陥ったとき、それをどう打開していくか、考えるのを楽しんでいただければなと思います。解決方法は必ずゲームの中で見つかるようになっているので、頑張って探してみてください。
加藤氏:私も基本的には伊藤さんと同じです。それから、プレイしてたのしんでくださっている方には「ありがとうございます」とお伝えしたいです。また、まだ本作をプレイしていない方の中にも、気に入っていただける方はきっといらっしゃると思うので、この記事を読んだり、トレーラーを観てピンと来た方には、ぜひ遊んでいただきたいなと。よろしくお願いします。
伊藤氏:あ、それから。このゲームには最初のバトルでチュートリアルがあったと思うのですけど、あのチュートリアルをラスボス戦で見ることもできます。1回目のバトルがラスボス戦で、そのまま勝利してエンディングを迎えることもできるはずなので、1度普通にプレイしたあとは、そういった挑戦もしてみるのもアリかもしれないですね。
すでにプレイしているユーザーさんには、いろいろなチャレンジに挑戦してみていただきたいです。ネットにはすでにそういったプレイが挙がっているという話も、宣伝担当から聞いています。
スクウェア・エニックス宣伝担当:ユーザーさんの中にはRTA(リアルタイムアタック)に挑戦して、最初の戦闘でラスボスを撃破している方も、ちらほらいらっしゃるようです。
伊藤氏:個人的にタイムアタックとして挑戦してみてほしいのは、すべての床の塗りつぶしです。これがいちばんやり応えがあると思います。
――えぇっ(苦笑)。これまたハードなチャレンジですね……。最後になりますが、「ダンジョンエンカウンターズ」の流れを汲むような新作を、今後も作っていきたいとお考えですか?
加藤氏:私としては、本作みたいな新たな路線に挑戦する機会がまたあったらあったでおもしろい体験が提供できるかなとは思いつつ――今回で「ダンジョンエンカウンターズ」という、ゲームとしてのシステムの核はできました。ここの良さは変えずに、ビジュアルやストーリーを+αして、また違った体験をしていただくという、本作を発展させる方向もありなのかなと考えています。
――伊藤さんはいかがでしょうか?
伊藤氏:会社員なので、会社が作らせてくれるならという前提ですけど。ユーザーさんから「またこういうゲームを遊びたい」というご意見があれば、ぜひぜひ作ってみたいとは思っています。
これまで通り、誰かの企画に合わせたゲームデザインというものは、バトルであれなんであれ、作っていくつもりです。まぁ、万が一、会社から「もう伊藤さんの好きにしていいですよ!」と野放しにされることがあれば、このゲームと同じようなものが出来上がるのではないでしょうか。
一同:(笑)
――また本作のような新しい挑戦に満ちたタイトルをプレイできる日が来ることを、たのしみにしたいと思います。本日はありがとうございました。