「7 Days to End with You」をレビュー。記憶喪失、さらに相手と言葉が通じないという状況で言語を推理し、ゲームを進めていくアドベンチャーゲーム。他に類を見ない、その独特な魅力を紹介する。
「7 Days to End with You」は、Lizardryからリリースされたアドベンチャーゲーム。ゲームシステムそのものは、シンプルなポイントクリック型アドベンチャーゲーム。しかし、「言語を推理する」という独特なゲーム性を持っていることが特徴だ。
何が起きたのか?ここはどこなのか?傍観者として7日間に立ち会う物語
「言語を推理する」というのは、文字通り、キャラクターの話している言語…言葉を推理するということ。本作の主人公は、記憶喪失な上、自分の言葉が通じないという状況に置かれている。当然、ゲーム内に登場するキャラクターが話している言葉もわからない。なので、相手の言っている言葉が何なのか、意味を推理していくことになる。いわば、辞書なし、推理力だけで翻訳を行うようなものだ。
プレイヤーは主人公で本人ではなく、傍観者という立ち位置。主人公が心の中で思ったことは日本語で表現されるためプレイヤーにも理解できる。しかし、主人公以外のキャラクターが言っていることは文字化けしたような記号として表現されるため、プレイヤーにも理解できない。なので、プレイヤーの置かれた状況は主人公とほとんど同様といっていいだろう。
ゲーム内のキャラクターといっても、基本的に主人公以外、一人しか登場しない。タイトル画面にも登場する女性。彼女が何という名前なのかは、言語が異なるのでもちろんわからない。主人公が目を覚ますと、目の前には彼女がおり、いろいろと世話をしてくれる。なので、おそらく敵ではないようだ。
彼女とコミュニケーションをとりながら、7日間を過ごすとエンディングとなる。ベッドで寝ると1日が経過。ベッドをタップすることで任意で寝ることができるので、やろうと思えば即座にエンディングを見ることができる。もちろんその場合、ストーリーはまったく進まず、何が起きているのかさっぱりわからないが…。一方、寝ない限りはいくらでも行動可能だ。
単語の意味を推理!徐々にわかっていく過程が知的興奮を呼ぶ
既にふれたとおり、本作のゲームシステムは、シンプルなポイントクリック型アドベンチャーゲームとなっている。背景の調べたい部分をタップすることで、会話や場所移動といったアクションが可能。ただもちろん、それだけで終わりではない。なにせ本作、会話といっても相手が何を言っているのかわからない。そこで出てくるのが単語の推理と、意味の記録だ。
本作のセリフは、単語ごとに分割されている。各単語はタップすることで、意味を記録することが可能。残念ながらこの記事ではゲーム中の文字が再現できない。そこで代わりに英語でたとえるなら、「Apple」という単語に対して「リンゴ」と、意味を記録していくかたちだ。意味を記録すると、それ以降同じ単語が出てくると、会話中にルビ(読み仮名)として表示されるようになる。
要するに、「英語」の授業で教科書に読み仮名を書いていくようなことを行うわけだが、これがそれほど簡単ではない。「英語」の授業なら、先生が単語の意味を教えてくれる。先生がいなかったとしても、辞書で調べればいい。しかし、本作には先生も辞書も存在しない。頼れるものは、推理だけだ。
会話のシチュエーションや、タップした場所の状況などから、「たぶんこの単語はこういうことなんだろう…」と推し量ると。たとえば、本棚をタップしたときに共通して出てくる単語は、おそらく「本」の可能性が高い。
推理可能な単語から次々意味を記録していくと、文章中に意味のわかる言語が増え、やがて他の言語の意味も検討がついてくる。こうやってじわじわと言語を理解していく過程がめちゃくちゃおもしろい。極上の知的興奮が味わえる。
もちろん推理に過ぎないので、意味が間違っている可能性もある。「本」だと思って記録していた単語が、本以外のものを表現する際に出てきた…。そんなケースがたくさん発生する。ただ、間違っていてもペナルティはない。記録は何回でも修正することが可能だ。なので、新たな意味を推理し、修正すればOK。むしろ、この間違った推理を修正していくという行為こそが、本作の魅力といえるかもしれない。
というのも、そもそも言葉とは、読み方も含めた文字と意味とを組み合わせたもの。このとき、文字と意味の組み合わせは一対一ではない。ひとつの言葉が複数の意味を持っており、さらにはそれがシチュエーションによって変化する。
これは何も、異なる言語間に限った話じゃない。たとえば、「あなたのことが好きだった」という日本語の文章を考えてみたい。この文章、高校の卒業式に呼び出された主人公がヒロインに告白された…なんてシチュエーションだったら、おそらく、3年間ガマンしてきた好意を告白してきた…なんて印象を受ける。けど、同窓会で10年ぶりに会った元同級生の言葉…なんてシチュエーションだったらどうだろう?「昔は好きだったけど、今は吹っ切れた」という意味にもとれるし、「これを機会に仲を深めたい」という意味にもとれる。はたまた、「自分の気持ちにふんぎりをつけるために、あえて過去形で言った」のかもしれない。言葉は同じでも、シチュエーションによって意味は変化するのだ。
こんな風に、文字に複数の意味を込めるというテクニックは、「ダブルミーニング」と呼ばれ、ゲームはもちろん、小説、映画などさまざまなエンターテインメントで当たり前のように使われてきた。表面上の意味とは別に、裏の意味が生まれるため、鑑賞者の注意を引き付け、感情移入を深めることができるからだ。さらに、作中のある時点で、裏の意味を明かすことで、鑑賞者は大きな衝撃を受ける…。
こうした、「ダブルミーニング」的な状況が常に生まれ続けるのが本作だ。本作は周回プレイが前提となっており、基本的に周回を重ねれば重ねるほど言葉の正しい意味が分かっていく。その度、自分の解釈の過ちも正されていく。「前回はこういう話だと思ってたけど、本当はこういう話だったのか!」となる。もちろん、それすら、間違いかもしれない…。厳密にいえば、言葉が複数の意味を持っている「ダブルミーニング」とは異なる。しかし、言葉の意味が変化することで、シチュエーションの解釈が変わっていく…という点は、「ダブルミーニング」のおもしろさに似た魅力を持っていると感じた。
難易度高めだけどプレイする価値はあり!腰を据えて楽しもう
欠点というほどではないが、難易度が高いという点については注意しておいた方がいいかもしれない。日本語と異なる言語を理解するという意味では、洋書を読むのに近いが、おそらく洋書の方がまだ読みやすいと感じるだろう。筆者は本作をプレイし、実は自分は英語を結構話せるほうなんだなと感じてしまったくらいだ。それくらい、本作の言語は未知であり、未知の言語を理解するのは難しい。ごく普通にプレイしてもエンディングまでそう長いプレイ時間が必要なゲームではないが、難易度的に気軽にプレイできる作品ではない。腰を据えてじっくり楽しむタイプの作品といえるだろう。
ただ、難易度は高いものの、プレイする価値は高いと思う。未知の言語を推理によってじわじわと理解していく楽しさは、本作ならでは。他の作品では決して味わえない楽しさだ。有料ゲームだが、価格もそれほど高い作品ではないので、ぜひ様々な人にプレイしてもらいたい。
App Store
https://apps.apple.com/jp/app/id1602772289
Google Play
https://play.google.com/store/apps/details?id=com.Lizardry.Youllbedeadin7days
Steam(近日登場)
https://store.steampowered.com/app/1859280/7_Days_to_End_with_You/