DCGとして、国内外で確固たる地位を築き上げてきた「Shadowverse(以下、シャドバ)」が、2022年6月17日で6周年を迎えた。これを機に、Gamerでは木村唯人氏、宮下尚之氏、友田一貴氏の対談企画を実施。「シャドバ」のキーパーソン3人に、これまでの歩みを振り返ってもらった。
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戦う二人だけがリーサルに気づいた決勝戦
――リリース当初から、eスポーツの側面を打ち出すことを考えていたそうですね。
木村氏:はい、当時eスポーツに力を入れていた国内企業はまだ多くなかったので、ここは攻めていきたいなと考えていました。
――当時描いていたビジョンはどのようなものでしたか?
木村氏:まさに今、行われていることを描いていました。ファンが集まって、チャンピオンを決めて、世界大会があって、それを見ているみんなが応援する。僕は見る人がいたらもうeスポーツだと思っています。みんなが見て応援したり、熱狂できる文化、環境を作ることは一つの目標でした。
――お三方が心に残っている大会や試合はありますか?
木村氏:この前のRAGEの決勝がすごかったなあ。
友田氏:僕もそれを言おうと思っていました。「RAGE Shadowverse 2022 Spring」のW's|sakuya選手対ぱらちゃん選手の試合ですよね。僕、ラストマッチの最後のターンに、決着がついたことがわからなかったんですよ。今まで大規模な大会はすべて実況してきたんですが、こんなことは初めてでした。
あとで見直してみると、戦っていた選手二人だけわかっていたんですよね。視聴者さん、実況・解説陣、スタッフさんみんながまだ続くと思っていた試合が、高みにいた二人だけ「GG」になっていた。誰も想像しなかったリーサルの取り方でした。
宮下氏:私も思わず「ええっ」て声が出ました。本当にすごかった。今までも感動的なシーンや感嘆するプレイングなどたくさんありましたが、純粋な驚きの大きさで言えば、あの決勝が一番です。
友田氏:見直すとぱらちゃん選手だけ、スピネをプレイされた瞬間に「うまっ」て言ってるんですよね。W's|sakuya選手も少し笑みを浮かべながらプレイしていたので、その二人だけがわかっていた。こんなレベルまで来てしまったかと思いましたね。
木村氏:RAGEのファイナルまでいく選手たちはもう次元が違います。こんなにうまいの!?って毎回驚きますね。
――さまざまなドラマが生まれる大規模な大会がある一方で、ES大会など小中規模の大会も非常に大切にされていますよね。
木村氏:カードゲームは勝つだけではなく、誰かと一緒に遊ぶこと自体が楽しいですよね。人とのつながりが増えたり、友達と一緒に練習して大会に出たり、そういう機会を作るために、小中規模のコミュニティが発展するような場を作りたいと思っています。
友田氏:やっぱりコミュニティって大事ですよね。私も富山の温泉に行って「シャドバ」大会を実況したことがありますが、地方の方々はそうそう大規模大会を見に行けるわけではないんですよ。「画面の向こうで実況・解説している人が来てくれてうれしい」って言っていただけて、改めて全国津々浦々にコミュニティがたくさんあることを実感しました。
ドラマと文化を生み出す「プロツアー」
――まさにさまざまなコミュニティからトッププレイヤーが生まれていて、その頂点としてプロ選手がいます。プロツアー(旧プロリーグ)が5年目を迎えたということで、これまでのプロツアーの印象をお聞かせいただけますか?
木村氏:やっぱりスターが生まれると見る人が増えるんですよね。そういう意味で、スター誕生にとても期待していましたし、意識していました。
当初、「シャドバ」がうまい人のプレイを定常的に見れる環境としてプロツアーを始めました。まだeスポーツがメジャーじゃない時に、読売ジャイアンツさんや横浜F・マリノスさんのようなビッグクラブがeスポーツ部門を作ったことで注目されたと思っています。
今は各チームや選手にファンがしっかりついているので、今後は「シャドバ」という垣根を超えて、いろいろなところで彼らが注目されたり、仕事が増えることに期待しています。これを続けることで、「シャドバ」をひとつの文化にしていきたいですね。
――今年からセカンドキャリア支援も始められました。
木村氏:プロになる時に、この先ずっとプロやっていけるのかという不安は絶対に付きまとうわけです。引退後の人生を歩んだ人がまだいないので、僕らができる限りサポートしていきます。きちんとしたセカンドキャリアを築けることを示していけば、プロにもっと挑戦しやすくなると思っています。
宮下氏を泣かせたあのベストバトル
――5年間のプロツアーで印象に残っている試合はありますか?
木村氏:僕は「シャドバフェス2018」で行ったプロリーグ開幕戦の、ミル選手のアーティファクトネメシスですね。相手の強力な盤面を、「加速装置」を置きながら次々にカードをプレイして返したんですよ。たくさんの人が見ている中で高度なプレイをやってのけるプロって本当にすごいんだって印象づけた、本当にスターが生まれるんじゃないかという雰囲気を作ってくれました。
宮下氏:私、実はAXIZのRumoi選手のファンボーイでして、敬意を込めてるもちゃんと呼ばせてください(笑)。2020年のベストバトル賞に選ばれた、るもちゃんと福岡ソフトバンクホークス ゲーミングのNISE選手との一戦ですね。NISE選手がコントロールエルフ、るもちゃんが妖怪ネクロで、「プリンにしてやるの」と「禁絶の一撃」でOTKが決まった試合なんです。
宮下氏:試合内容もとても良かったんですが、シーズン終了後の表彰式でるもちゃんがベストバトル賞で表彰される際に、感極まって涙されたんです。「たかがゲームと言われることもあるけれど、プロゲーマーという立場ならみんなに楽しみや感動を与えることができる。そういう環境を作ってくれたプロリーグに感謝しているし、これからもがんばっていきたい」というようなお話をされて、自分もそれを見て感動して泣いてしまって。
ゲームが好きで真剣に打ち込んでいる方が、プロシーンやセカンドキャリアでゲームを通じて活躍できる舞台を作るのは、個人的に大きな使命だと思っているんです。まさに、るもちゃんが言ってくれたことを実現したかった。自分が提供していることを受け取って実現してくれている人がいることが、すごくうれしかったんです。勝手にるもちゃんと相思相愛の気分になっていますけど……(笑)。
友田氏:いやあ、その話を聞いたら喜ぶと思いますよ。
宮下氏:チャンスと言うとおこがましいんですが、「シャドバ」を通じて誰かが活躍できる場を提供したいと思っていて、それをるもちゃんがしっかり活かしてくれたんだと感じた瞬間だったんですよね。
プロの矜持を見た「37点疾走ゼウス」
――友田さんはいかがですか?
友田氏:僕は20-21シーズン第2節のRiowh選手の連携ロイヤル対きょうま選手のコントロール進化エルフの試合ですね。これはプロだなって思わされたんです。
当時「至高神・ゼウス」というフィニッシャーがいて、進化の回数だけランダムに能力が働く能力を持っていました。だいたい5~7回くらい進化を稼いで、ランダム要素を使って勝つのが一般的でした。この試合、きょうま選手は山札残り1枚まで粘って、進化をギリギリまで稼いでプレイしたんです。
――コントロールしきってほぼ勝ちは見えていたけど、極限まで確実性を高めたんですね。
友田氏:チームや企業の名を背負ったプロの試合で、もしゼウスの機嫌が悪くて負けようものなら自分が許せなかったんでしょうね。デッキに1枚しか入れてないこともあって、18回くらい進化を稼いで、最終的に37点疾走で勝ちました。
プロはこの一戦にすべてをかけているんだなと思いましたね。1%でも負ける可能性を減らすために練習しているし、本番でも何十分かかってもいいから絶対勝つという、きょうま選手のプロ意識を感じました。
――Riowh選手からすると生き地獄ですね。
友田氏:でも、Riowh選手もゼウスが出た瞬間「外れろ!」って叫んでましたからね。守護フォロワーがいたので守護貫通と疾走が付与されるのが条件だったんですが、例え十数回進化を稼がれていてもその可能性に賭けていたんです。両者から勝利への執念を感じました。
「エボルヴ」プレイヤーはスマホ版未プレイの人ばかり!?
――「シャドバ」はアニメやコンシューマーゲームなどさまざまなIP展開をされていますが、4月に発売された「Shadowverse EVOLVE(以下、エボルヴ)」は大盛況です。6年目にして紙のカードゲームを発売した理由は何ですか?
木村氏:「シャドバ」はデジタルカードゲームとして最適化されていて、デジタルカードゲームとしておもしろいように作られています。その利点もたくさんありますが、紙のカードゲームの方がいいこともあります。例えばリアルなカードが手元にあること、同じ相手とじっくり戦えることですね。
また、他のTCGタイトルはデジタルとアナログの両方があり、どちらからでも入れるようになっています。一方で「シャドバ」はデジタルだけ。なら、アナログカードゲームを作るのもいいのではないかと思い始めたんです。
そうしたら、作れる環境がすべて揃っていた。カードもたくさんあるし、会社にもカードゲーム開発者として歴戦のスタッフがすでにいたんですよね。
――作るタイミングが来たということですね。
木村氏:「シャドバ」を文化にするという点において、アニメや漫画、コンシューマーゲームがあって、逆にアナログカードゲームがないことが不自然かなとも思っていました。
とはいえ、やはり一番の理由は、アナログカードゲームを作ったら、スマホ版と同じぐらいおもしろい「シャドバ」が作れそうだと思い至ったからですね。同じ「シャドバ」として共通点を持ちながら、違う楽しみが味わえる新たな別のゲームを作りたいと思ったんです。
――友田さんは「エボルヴ」の発表会にも出ていらっしゃいましたね。紙の「シャドバ」が出ると聞いてどんなふうに感じましたか?
友田氏:もともとアナログTCGをずっとやっていたのもあって、大好きな「シャドバ」がアナログカードゲームで出ることがうれしかったです。第1弾からすごい人気ですよね、発売前にカートンで予約していてよかったです(笑)。
実は、大会で実況・解説するために、プライベートでいろいろな方と対戦しながら勉強させてもらっているんです。練習の一環でショップに顔を出して、知らない人と対戦したり、感想を聞いたりしています。意外だったのが、「エボルヴ」のプレイヤーって本家「シャドバ」を知らない人ばかりだったんですよ。
――そうなんですか!?
友田氏:アプリ版の延長で、アプリ版プレイヤーたちとアナログで遊べるんだと思ってたんですけど、全然違いました。アプリ版をプレイしていないから、もちろん僕のことも知らないんです。それがすごい新鮮で。「今アプリ版をプレイしています、友田さんのことも知っています」という人は体感で1割くらいです。
アナログカードゲームの世界ってデジタルと全然違うんですよね。だからこそ、「エボルヴ」が「シャドバ」の世界への入り口になってるんだなと実感しました。
これを機にアプリ版も遊んでほしいですし、逆にアプリ版ユーザーも「エボルヴ」を遊べば全然違う楽しさが味わえると思います。エボルヴのパワーを、想像していたものより何十倍も感じさせられましたね。
木村氏:実はTCGとして遊ばなくても、カードだけ集めている方も結構いらっしゃるみたいなんです。それは、Cygamesが今まで積み上げてきたものを評価してくださったからなのかなと思います。「シャドバ」はもちろん、「神撃のバハムート」や「グランブルーファンタジー」など、Cygamesのタイトルが好きな人が買ってくださっている印象です。そういった今までの積み重ねがあって手に取っていただけていることは実感していますね。
――さまざまな他作品を含めて「シャドバ」の世界を広げていく上で、プロデューサーとしてのこだわりはありますか?
木村氏:みんなが本当に楽しめるものをやることと、ある程度広いターゲットに贈りたいということですね。「シャドバ」ってすごく間口も奥行きも広いIPなんですよ。そういうところもユーザーさんに知っていただきながら、今後も皆さんが本当に楽しめることをやりたいと思っています。
多様性と流動性、カジュアルさの両立を目指して
――最後に、本家「シャドバ」の今後をお聞かせください。開発側として強化していきたい点などはありますか?
木村氏:遊びやすさをさらに追求していきたいですね。6年続けているゲームですが、久々に「シャドバ」をやってみようと思ったり、アニメや「エボルヴ」をきっかけに、新たに「シャドバ」をプレイしてみようと思ってくださったユーザーの方々がスムーズに始められるよう、機能を充実していきたいと考えています。あとは「クロスオーバー」のような新しい遊び方も引き続き実装していきたいですね。
宮下氏:今の「シャドバ」は多様性や流動性を実現する過程で、複雑性が増している一面もあると思っています。だからこそプロツアーや競技シーンでのハイレベルなプレイを楽しめるのですが、その一方で、カジュアルな楽しみ方を犠牲にしてはいけないと考えています。相反する要素を両立させることはとても高い壁ですが、難しい課題に6年間ずっと取り組んでいる開発チームなので、多様性と流動性、カジュアルさをより高次元で融合したゲーム環境を作っていきたいです。
木村氏:いろんな試行錯誤の連続で、DCGの正解とも言えるゲームモデルを模索してきた6年です。未だはっきりとはしていませんが、「こういうのが良いのではないか」と思える部分も見えてきました。だからこそもっと大きなチャレンジをして、皆さんにもっとおもしろさを提供したいと思う7年目です。「エボルヴ」というタイトルもできて、起きている時間はずっと「シャドバ」が楽しめるようにしてあるので、ぜひこれからもたくさん遊んでください。