2025年1月17日より公開中の「劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク」で監督を務めた畑博之氏、脚本を務めた米内山陽子氏へのインタビューをお届けする。

目次
  1. 監督・畑博之(はた ひろゆき)氏
  2. 脚本・米内山陽子(よないやま ようこ)氏
  3. Colorful Paletteとも意見交換しながら“このチームとしての正解”を導き出した
  4. 現時点ではゲーム未登場、“一歌の両親”には声優陣もざわついた
  5. DECO*27氏が楽曲に込めた“歌えないミクへの想い”にも注目

セガとColorful Paletteによるスマートフォン向けゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」(以下、「プロセカ」)初のアニメーション映画となる「劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク」(以下、「劇場版プロセカ」)。

「劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク」はバーチャル・シンガーに背中を押されてきたキャラクターから初音ミクへの恩返し:監督・脚本インタビューの画像

新たに登場する“閉ざされた窓のセカイ”の初音ミクと、ゲームでおなじみのユニット、“Leo/need”、“MORE MORE JUMP!”、“Vivid BAD SQUAD”、“ワンダーランズ×ショウタイム”、“25時、ナイトコードで。”の面々による、完全オリジナルストーリーが描かれる。

本作を、アニメ制作スタッフはどのような想いで作っていったのか? 監督を務めた畑博之氏と脚本を手掛けた米内山陽子氏に、話をうかがった。

監督・畑博之(はた ひろゆき)氏

アニメーション監督・演出家。かねてより初音ミク好きであり、“Leo/need”、“MORE MORE JUMP!”、“Vivid BAD SQUAD”、“ワンダーランズ×ショウタイム”、“25時、ナイトコードで。”のダイジェストアニメーションでも監督・脚本を担当している。

脚本・米内山陽子(よないやま ようこ)氏

脚本家のほか、舞台手話通訳なども手掛ける。近年のアニメ作品における代表作は「パリピ孔明」、「スキップとローファー」、「ゆびさきと恋々」など。

Colorful Paletteとも意見交換しながら“このチームとしての正解”を導き出した

――本作にはゲームに登場しないオリジナルの初音ミクとして“閉ざされた窓のセカイ”のミクが登場します。この“歌えないミク”という設定はどのように生まれたのでしょう?

米内山:私が脚本として参加することが決まったときは、すでにこのコンセプトは決まっていました。初音ミクって“歌姫”として歌えることが大前提のキャラクターだと思っていたので、心に引っ掛かりが残るコンセプトだなという第一印象を持ちました。そこからどのように物語として膨らませていくか、話をうかがってすぐに考え始めたことを覚えています。

畑:自分としては、ミクさんは多種多様な存在なので、そういった(歌えない)ミクさんがいても不思議じゃないかもしれないな、とも感じました。そこから歌えるようになるまでの成長を描けるなら、おもしろい映画になるかもと思いました。

「劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク」はバーチャル・シンガーに背中を押されてきたキャラクターから初音ミクへの恩返し:監督・脚本インタビューの画像

――“歌えないミク”というコンセプトを物語に落とし込む上で、苦労した点、こだわった点はありますか?

米内山:“歌えないミク”のコンセプトに即して書いていくという点で特別な苦労というのはありませんでした。どちらかといえば頑張ったのは、キャラクターがとても多く登場するので、彼ら彼女らひとりひとりをどのようにストーリーに落とし込むかという点です。目標や、セカイに対するモチベーション、ストーリーの中で起きる事象への反応もキャラクターによってそれぞれ異なるので、その全員が「歌えないミクを救いたい」というひとつの目標に向かうにはどうすればいいのか、監督たちにもご相談しながら、たくさん考えました。

畑:バーチャル・シンガーたちに背中を押されて踏み出すことができた各ユニットのキャラクターたちが、今度は恩返しも兼ねてミクさんの背中を押す流れを自然に作りたいですよね。

――ゲームをプレイしていない人も楽しめるような作りは意識しましたか?

畑:多少は意識しましたが、やはりキャラクターが多いので説明的なものは入れず、やり取りなどで関係性を感じて貰う程度に抑えています。できれば各ユニットのプロローグである“メインストーリー”だけでも読んでおいていただけると、より楽しめると思います。

「劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク」はバーチャル・シンガーに背中を押されてきたキャラクターから初音ミクへの恩返し:監督・脚本インタビューの画像
「劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク」はバーチャル・シンガーに背中を押されてきたキャラクターから初音ミクへの恩返し:監督・脚本インタビューの画像

――原作ゲームを手掛けたColorful Paletteから「ここは大事にしてほしい」のようなオーダーはあったのでしょうか?

畑:制作を開始するにあたっての特別なお願いはあまりなかったと思います。制作しながら「ゲームではこうなっている」、「でもアニメーション作品としてはこうしたい」みたいな部分を意見交換して、こちらの考えを尊重していただくこともあれば、ゲームの表現に近づけることもあったりと、折り合いをつけて進めていきました。

やはりColorful Paletteさんのほうではゲームのユーザーさんが「ちょっと違うな」と感じてしまわない作品にすることを大事にされていますので、そこの塩梅はお互いに納得するまで話し合いました。

米内山:監督が仰ったように、「絶対にこうしてください」みたいな指示などはなく、まずはドーンと構えていてくださって、こちらからそこに“チャレンジ球を投げる”と言いますか、「こういうことは可能だろうか?」「こういうストーリーにするのはどうだろうか?」といったやりとりを重ねながら、“このチームとしての正解”を導き出していきました。

やはりColorful Paletteさんにとっても非常に大事なコンテンツなので、譲れないところはしっかりご指摘いただいています。制作が大詰めに向かうにつれ、台詞の語尾やてにをはのひとつひとつ、ストーリーの流れについても「この展開だとキャラクターの考え方から外れているんじゃないか?」みたいなところもすごくたくさんチェックいただきました。こちらもフィードバックを踏まえてまたチャレンジ球を投げる、ということの繰り返しでした。

「劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク」はバーチャル・シンガーに背中を押されてきたキャラクターから初音ミクへの恩返し:監督・脚本インタビューの画像
「劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク」はバーチャル・シンガーに背中を押されてきたキャラクターから初音ミクへの恩返し:監督・脚本インタビューの画像

現時点ではゲーム未登場、“一歌の両親”には声優陣もざわついた

――キャラクターがセカイに入っていく際の演出が、ゲームでは詳細に描かれていないところなので印象に残りました。こういった“ゲームの描写を補強するシーン”を描く際に意識したことがあればお聞かせください。

畑:ゲームでは止め絵で描ける場面も、アニメでは映像として作り上げないといけません。たとえば“ワンダーランドのセカイ”などはゲームでは一枚絵で表現されますが、アニメでは遊具をはじめ、いろいろなものが動いていないと不自然ですよね。「アニメならこうしたい、ああしたい」という部分をひとつひとつ落とし込む中で、ゲームの設定に干渉しそうなところはColorful Paletteさんにも確認を取りつつ、作成していきました。

ちなみにセカイに入るときの光は、第三者には見えていないという設定です。Leo/needのダイジェストアニメーションでの描写を踏襲しています。

――こういった部分は映像化する中で膨らませるところかと思いますが、米内山さんが脚本の段階で“作品の解像度を上げる”ために意識した点はありますか?

米内山:「プロセカ」のストーリーはユニットごとに描かれていく部分が多いので、セカイのシーンはもちろんですが、日常シーンで「この子はこういう性格で、こういう関係性があって、こういう絡みをするんだよ」というのが伝わるように考えました。原作ゲームで“一瞬だけ生じるやりとりの空気感”みたいな部分を大事に、ファンの方に喜んでいただけるように頑張りました。

また、キャラクターたちのちょっとした仕草などはアニメーションならではの描写だと思います。セカイはもちろん、自宅にいるとき、街を歩いているときの一歌たちを“動き”として見てもらえるのは、「劇場版プロセカ」の注目ポイントと言えるんじゃないかと思います。

「劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク」はバーチャル・シンガーに背中を押されてきたキャラクターから初音ミクへの恩返し:監督・脚本インタビューの画像
「劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク」はバーチャル・シンガーに背中を押されてきたキャラクターから初音ミクへの恩返し:監督・脚本インタビューの画像

――原作ゲームではなかなか見られないキャラクターのやりとりなどはありますか?

畑:注目していただきたいのは、初登場となる一歌の両親です。本作のためにColorful Paletteさんにラフデザインを作っていただいています。それぞれのキャラクターが現実に生きていますし、とくに一歌は今回かなり中心的に動くので、日常としての生活感を描写するためにお願いしました。アニメになると、自宅でひとりでいる描写しかないというのも物足りないもので。

米内山:まだゲームには登場していないんですよね?

畑:そうですね。キャストさんたちもちょっとざわついていました(笑)。

「劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク」はバーチャル・シンガーに背中を押されてきたキャラクターから初音ミクへの恩返し:監督・脚本インタビューの画像

DECO*27氏が楽曲に込めた“歌えないミクへの想い”にも注目

――ほかに「プロセカだから選択した」というような演出はありますか?

畑:「劇場版プロセカ」では各ユニットがそれぞれに“歌えないミク”から状況説明を受けるような場面があるので、同じ説明を何度もくり返すことなく、でもすべてのユニットが同じ情報を共有していることが分かるように、ユニット間で“橋渡し”していくような場面転換で表現しています。そこは「劇場版プロセカ」ならではと言えるかもしれません。

米内山:“どうやって情報を渡していくのか?”という点は脚本でもかなり考えました。何度も同じ説明が入ってしまうところは1度で済むようにしつつ、リアクションからキャラクターごとの個性を感じてもらえるものを目指しています。まふゆなどは大きなリアクションはせずに黙っているだろうな、とか。掛け合いも、キャラクターがとても多く登場することになるので、ユニットごとの特色も踏まえたやりとりになるように心掛けました。

「劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク」はバーチャル・シンガーに背中を押されてきたキャラクターから初音ミクへの恩返し:監督・脚本インタビューの画像
「劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク」はバーチャル・シンガーに背中を押されてきたキャラクターから初音ミクへの恩返し:監督・脚本インタビューの画像

――アニメは映像作品なので、映像にしてみてから台詞のニュアンスを変えるようなこともあるのかなと想像するのですが、そういうことはありましたか?

畑:シナリオからコンテに落とし込む段階で変わることは往々にしてあります。まれにアフレコの現場でキャストさんとすり合わせて変更する場合もありますね。コンテチェックをColorful Paletteさんにもしていただいていますので、ご意見を反映して細かく調整しています。

米内山:コンテ段階での調整は、大きく根幹が変わるようなものではなく、語尾や感情のトーンに関する部分などです。長くキャラクターを見守っているColorful Paletteさんや担当声優さんの理解が反映されていきました。

「劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク」はバーチャル・シンガーに背中を押されてきたキャラクターから初音ミクへの恩返し:監督・脚本インタビューの画像
「劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク」はバーチャル・シンガーに背中を押されてきたキャラクターから初音ミクへの恩返し:監督・脚本インタビューの画像

――すぐに劇場に足を運べないファンがいるだろうことも踏まえると、「映画を観ていても、観ていなくても原作ゲームをプレイしていて違和感のない着地点」みたいなものにする必要があったかと思うのですが、このあたりの落としどころはいかがでしょう?

畑:作品の時系列として「劇場版プロセカ」は進級前(※)なので、進級までのどこかにあったサブストーリーのような位置づけです。結末も、ゲーム本編に大きく影響することのないものになっています。

※ゲーム3周年以降のストーリーはメインキャラクター全員が1年進級した後という設定。「劇場版プロセカ」はそれより前のおはなしということになる。

「劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク」はバーチャル・シンガーに背中を押されてきたキャラクターから初音ミクへの恩返し:監督・脚本インタビューの画像

――最後に、ライブシーンにもかなり力が入っているとのことですが、おふたりそれぞれの思う注目ポイントを教えていただきたいです。

畑:ユニットごとの特色をしっかり描いて、それぞれの個性が際立つライブになっています。それぞれが熱く、楽しく、可愛く、神秘的で、カッコ良くと描くことができたかと思いますので、楽しんでいただけたら嬉しいです。

――ライブシーンはすべて手描きによる作画なのでしょうか?

畑:5ユニットのライブのキャラはすべて手描きです。“歌えないミク”の歌唱シーンは作画と3DCGのハイブリッドなのですが、3DCGのスタッフさんがむちゃくちゃ頑張ってくれて、作画との境目がほとんど分からない映像になっていると思います。

米内山:私はライブシーンはお客さんと同じ感覚で観ているので、本当にグッと来る良いシーンになっていると感動しました。その上で注目ポイントを述べるなら、それらのライブをどのユニットも「歌えないミクのためにやっている」ということです。みんなの“歌えないミクへの想い”がしっかり入った楽曲になっているので、DECO*27さんはやっぱり凄いなぁと。それを強く感じるポイントに気付いたとき、きっと皆さんもグッと来ると思うので、注目していただきたいです。

深淵なるゲームのおもしろさを探求しながら「アイカツ!」シリーズや「プリキュア」シリーズ、「プリティーシリーズ」などの女児アニメの魅力を広める活動にも力を入れている。

X(旧Twitter):https://twitter.com/Kusare_gamer

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