長野県長野市にて8月1日・2日に総合エンターテインメントイベント「ズクズクフェス2026」が開催された。ここでは8月1日に行われたステージ「『FGO』塩川洋介×『Dyping』高荒大明 対談 ~ゲーム業界キャリアとインディーゲーム~」のレポートをお届けする。
「Fate/Grand Order」(以下、FGO)を手掛けた塩川洋介氏と、新進気鋭のインディーゲームクリエイター・高荒大明氏による対談となった今回のステージ。
塩川洋介氏は、現在ファーレンハイト213(213℉)を立ち上げ、「つるぎ姫」や「ルナパルス」といったインディーゲームの開発を進めている。また高荒大明氏は、ヘビサイドクリエイションというゲームデベロッパーとして活動しており、リリースタイトル「Dyping Escape」が1万DLされた実績を持つ新進気鋭のクリエイターだ。
ステージでは、そんな2人が「ゲームクリエイターとしてのキャリア」や「インディーゲームとは何か」について語られた。この記事では、このイベントの模様を紹介する。

どうすればゲームクリエイターになれる?「ゲーム業界へどう入ったか?」
対談は「ゲーム業界へどう入ったか?」をテーマにスタート。
高荒氏はそもそも東京大学で物理学部に所属しており、就職時の書類受けはよかったという。ただ、学歴だけで評価されたわけではないようだ。というのも高荒氏はゲーム制作サークルに入っており、面接の際も自分で開発したゲームを見てもらっていたという。
そのゲームは、一般的なソーシャルゲームで見られる、ド派手な必殺技を出しつつゲーム内容の説明を行うといったチュートリアル部分をしっかりと作っていたそうだ。こうしたユーザーに対して魅力を訴求しつつ、ゲーム内容を説明する部分により、会社の受けがよかったのではないかとのこと。ちなみに、学生時代のゲーム開発は半年に1作のペースで2年間行っていたという。

塩川氏は高校卒業後、専門学校に入学したそうだが、そこではシナリオライティングを学んでいたそうだ。ただ、その学校でゲームに関する授業を受けたことがきっかけでゲームに興味を持ち、ゲーム業界を目指したという。最初はアルバイトのような形でゲーム会社で働き、1年ほど働いて、気づいたら社員になっていたとのこと。
子どものころは一部の有名ゲームを除き、それほどゲームを遊んでいたわけではないので、ゲーム業界に入ってから勉強することが多かったそうだ。
このテーマの最後には、高荒氏と塩川氏の両方に共通する点として、ゲーム業界へ本格的に入る前の時点で、実際にゲーム制作を行っていたという点が挙げられた。
高荒氏はゲームサークルでゲームを開発しており、塩川氏はアルバイトとしてゲーム開発に携わっていた。これからゲーム業界を目指す人も、現在は無料のゲームエンジンや生成AIがあるため、ゲーム業界に入ってからゲームを作ろうとするのではなく、入る前から作るということが近道になるのではないかとの見解が述べられた。

ゲーム開発は楽しい?それとも辛い?「ゲーム開発で一番楽しかったことは?」
続いてのテーマは、「ゲーム開発で一番楽しかったことは?」。このテーマに対して高荒氏は、ゲーム開発を含む人生全部、生きるということが楽しいと語る。
たとえば高荒氏は学生時代にRPGのRTA(リアルタイムアタック)をよくやっていたという。その中で得た、「ファイナルファンタジー」で味方全員に反射魔法「リフレク」をかけ、味方全員に攻撃魔法をかけると敵に4回分のダメージを与えることができる……などの知識が、現在のゲーム制作に生きているそうだ。こんな風に過去の知識がゲーム開発に活きることに加え、ゲーム内の要素と要素が上手く繋がらない場合に、一気に解決できるようなアイデアを生み出した時も楽しさを感じるという。

一方、塩川氏は、ゲーム開発について。そんなに楽しくないと考えているようだ。むしろ99%ぐらいは辛い時間、耐える時間が続くと語った。ただ、どういう形であれ、ユーザーにゲームを触ってもらい、ユーザーと触れ合う時に、その辛さが回収されるという。
「FGO」を運営していた際も、イベント登壇の際にユーザーの存在を実感できたそうだ。もちろん、どの程度のプレイヤーが存在しているかはツールなどで数値として把握できるのだが、数値ではなく実際に対面することで、ユーザーの存在をよりリアルに実感できるとのこと。

逆境で諦めるか?それとも乗り越えられるか?「逆に一番辛かったことは」
「楽しかったこと」に続き、今度のテーマは「逆に一番辛かったことは」。そもそも「ゲーム開発の99%が辛い時間」と語っていた塩川氏は「たいてい辛い」とした上で、ちょっと辛いか、すごく辛いか、とても辛いか、死ぬほど辛いか……という中の、どれにあたるかの話になるという。
ただ一番辛かったことには、若手の頃、ディレクターとして携わっていた目玉タイトルについて、東京ゲームショウへの出展に間に合わなかったことが挙げられた。何十台もブースの設営予定が描かれた図面を見せられ「これが飛んだんだぞ」と言われたとのこと。聞いているだけでも恐ろしい話ではあるが、今でも思い出すだけで胃が痛くなるという。

これに対して高荒氏は、コミュニケーションの大変さを挙げた。高荒氏が会社をやめる直前、年上の部下がいたそうだ。前提として高荒氏自身の実力不足も認めた上で、この部下と仕事の方針をめぐる行き違いを経験したという。さらに、そんな中で体を壊し休職してしまったこともあり、今でも印象に強く残っているようだ。

ちなみに塩川氏は、実際に辛いことが発生した後、土下座や頭を坊主にすることを考え、実際に坊主にしたという。とはいえ、坊主になったとしても、事態がどうにかなるわけではない。咀嚼できたのは、時が経ってからで「辛いことがあっても前を向いてやってくしかない」と思えたという。
高荒氏も体調を崩し休職することが、インディーゲーム作りに力を入れるきっかけになったとしており、逆境は必ず訪れるが、そこで諦めるか、乗り越えていけるかが分かれ目になると語っていた。

なぜインディーゲームの道に入ったのか?「インディーゲームを作り始めたきっかけは?」
4つめのテーマは、「インディーゲームを作り始めたきっかけは?」。高荒氏がインディーゲームを作り始めたきっかけは、身近な人の影響だという。
2017年ごろ、個人開発のさまざまなジャンルのゲームがSteamでリリースされ、大当たりとはいかないまでも、そこそこ売れるというケースが発生していた。高荒氏の身近な人もゲームを販売しており、高荒氏自身も「自分もいけるのではないか?」と考えたそうだ。ゲームを自分で出すこと自体がかっこいいし、なんか楽しそうという思い、インディーゲーム開発を決意したとのこと。

一方の塩川氏は、2022年の独立がきっかけだったという。それまでのキャリアの中で、「FGO」というIPを使ってさまざまな事業を行い、IPの発展については一定の達成感を感じていたとのこと。そこで独立時に次の挑戦として決意したのが、オリジナルゲームの開発であり、インディーゲーム開発を行うことになったそうだ。

インディーなら作りたいゲームが作れるのか?「会社での制作とインディーゲームの制作の違いは」
5つめのテーマは、「会社での制作とインディーゲームの制作の違いは」。塩川氏は、会社での制作の特徴は「縦割り」「分業」という点が大きいと語った。インディーゲームの制作では、仕様書やルール、フローなどを、そこまで細かく決めて進めるわけではないという。ざっくりとした内容は決めるものの、以降はその都度できたものを確認し、口頭でコミュニケーションしつつ進めていっても問題ないと述べた。
一方で、たとえば「FGO」であれば300人といった規模のチームが存在していたため、口頭のコミュニケーションだけで情報伝達するのは不可能。このため、300人中の10人を指示するための資料が必要になる。そこからさらに、その10人がチェックする10人を動かすというような流れが生じるという。
インディーゲーム開発では、極論ゲームの0から100まで全部自身でチェックして手を出すことができるが、会社となるとそれは難しいと話していた。

高荒氏は会社での制作において、そもそもある程度の裁量は持っていたものの、自分でやりたいことを言える状態ではなかったという。一方、インディーゲームを制作している現在は、その逆だと語る。
ただ、「自分に裁量がある」ことと、「自分でやりたいことができる」というのは違うことだと語る。インディーゲームを生業とする場合、稼ぐ必要性があるため、本当にやりたいことばかりやってるわけにもいかないとのこと。
また、会社での制作の場合、3年~5年の開発期間というのは一般的だが、インディーゲーム制作で5年開発するとなると、その間どう生活していくのかが課題になるという。

高荒氏の話を受けて塩川氏は、インディーゲームのクリエイターには人やお金、時間といった制約の中で工夫している人が多いと語った。これに対して高荒氏は、専業のインディーゲームクリエイターに対し、働きながら作っている人の方が、意外と自由な側面があると語る。兼業の場合、ゲームで必ず稼がなければいけないわけではないため、突飛なアイディアでも試しやすいという面もあるようだ。

挑戦しやすい環境だからやるだけ!「これからのインディーゲームは?」
最後のテーマは、「これからのインディーゲームは?」という大きなテーマ。このテーマに対し高荒氏は、まず悪い側面として、競争の激化を挙げた。5年前に「これくらいのクオリティでゲームを出すと、このくらい売れるだろう」という水準にあったゲームを、今出した場合、全然伸びず、レビューもつかないといった厳しい状況になりつつあるという。
ただ一方で、技術の発展によって1人で担当可能な範囲が広がっており、インディーゲームの有益な情報を聞ける機会も増えているとのこと。このため、ある程度戦略的に進めれば、きっと上手く行くと信じているとのことだった。
また、高荒氏は「ゲーム会社のノリをそのまま持ち込むと、意外とうまくいかない」と語る。ゲーム会社の一般的なノウハウからすれば「きちんと仕様書を作る」という点は基本だが、現在5人体制の高荒氏の環境では、仕様書を用意していないという。チームの規模や目指すゲームによって、開発アプローチを変えていくことも大事なのではないかとのことだ。

塩川氏も、チャレンジしやすい環境ということは間違いないと語った。その理由として、先人たちのノウハウが大量に残されており、「ズクズクフェス2026」をはじめとしたインディーゲームイベントなどもあり、とにかく情報が多いことが挙げられた。
これだけ挑戦のハードルが下がっているということは、あとは「やるだけじゃん」と考えているという。また、高荒氏の言う「チームの規模や目指すゲームによって、開発アプローチを変える」という点についても、現実の状況に合わせていくことが必要だとした。

こうして対談ステージは終了。個人的には、インディーゲームを含むゲーム開発全般の厳しさと、もの作りの楽しさが感じられる対談になった。
塩川氏や高荒氏の話にある通り、現在はゲームエンジンが無料で扱え、プログラムが分からなくとも生成AIがコーディングしてくれる時代。もしこの記事を見て「自分もゲームを作ってみたい!」と感じたのであれば、是非チャレンジしてみてほしい。
あとは「やるだけじゃん」!

ズクズクフェス2026 公式サイト
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