本日3月20日より、大阪中之島美術館で開催される「大カプコン展 -世界を魅了するゲームクリエイション(以下大カプコン展)」。それに先立ち、メディア向けの内覧会が開催された。この記事ではその模様とイベント内容についてお伝えする。

世界中にその名を広げるゲーム会社カプコン。その人気も相まって、現在大阪で開催中の「モンスターハンター20周年 -大狩猟展-」のように、さまざまなイベントがこれまでにも開催されてきた。
そうした中で、大阪中之島美術館とタッグを組んだ展覧会「大カプコン展」が開催されることとなった。ゲームとは縁遠そうな美術館での開催で、かつ社名を冠していることからこの 展覧会に力の入っていることが感じられ、一体どんな内容なのか、興味を持っている方も多いだろう。

「美術館がゲームを扱うのは初めてなのでは?」美術館でゲームを扱うその意味とは?
内覧会はまず、大阪中之島美術館の館長である菅谷富夫氏と、株式会社カプコンのプロデューサーであり展覧会の監修を行った牧野泰之氏による挨拶・見どころの解説から始まった。
菅谷氏は「多くの人に聞いてみたが、美術館でアニメやマンガを扱うことはあっても、ゲームを扱うのははじめての試みなのではないか?」と美術館でゲームを展示するということに触れ、「カプコンさんには全社を上げて協力してもらった。今回の企画では今あるものも持ってきて置くだけではゲームの展示にはならない。なのでこの展示のために多くのものを1から作っていただいた」と続けた。さらにこの企画が3年前から動いていたという事実に触れ、美術館としてゲームをどう扱うのかを時間をかけて協議してきたとその苦労も語られた。
そして「ゲームを美術館がはじめて扱うということだけがこの企画の価値ではない。我々の日常には画像や音声などデジタルが溢れている。その最高峰の1つがゲーム。そうしたデジタルの産物がどのように作られているのかを意識化することが今美術館でやるべきことじゃないか。これからゲームを見る側からの研究もどんどん進んでいくと思うが、この展示がそれの第一歩になるのではないか?」と締められた。

牧野氏は見どころとして「アニメやマンガ、実写映画などとモノ作りとして似ているところはもちろんあるがゲームならではのポイントもある。カプコンならではの創意工夫を、歴史や開発の裏側を通して見ていただくことを心がけた。もちろん原画や開発資料も展示しているが、ゲームをそのまま置くだけでは展覧会にならない。なので、それらゲームがどのように作られたのか、どのような苦労があるのか、それを見せるためにゼロから展示物を2年かけて作ってきた」と今回の展覧会のコンセプトを語った。

貴重な資料と体験展示でゲーム制作の裏側が分かる!
実際に展覧会を見て回ってみると、先の語られたコンセプトや狙いを強く感じられるものだった。
まず入ってすぐ出迎えてくれるのは、カプコンのキャラクターたちが壁面に映し出される「キャラクターパレード」だ。事前に公開されていたイメージ写真で想像していたものとはことなり、巨大なキャラクターが登場し驚かされた。人の数倍もあるキャラクターたちの行進はかなりの迫力だ。このキャラクターアニメーションは全て新規で用意されたものらしく、この展覧会でのみ見られるものだろう。「ストリートファイター」シリーズや「モンスターハンター」シリーズなどの現在カプコンが主力とするIPだけでなく、かなり意外なキャラクターチョイスもあり往年のカプコンファンなら入ってすぐに興奮できるだろう。

さらに続くエリアはカプコンの歴史を振り返るエリアだ。壁面にはカプコンの歴史や主要IPのシリーズが樹形図となってずらりと掲示されている。さらに作品については映像付きで紹介されている。個人的にはその後ろに掲示されたカプコンがこれまで発売したほぼすべてのゲームのロゴを並べ掲示した展示で自分のお気に入りの作品を探すのが楽しかった。


さらにカプコンの人気キャラクターの設定資料やパッケージイラストなどの生原画もずらりと展示されている。多くのゲーマーが一度は目にしたことのあるイラストの貴重な実物が展示されており、ファンならばこれを見るために会場に足を運ぶべきだろう。原画ゆえの画材の質感が見て取れ、印刷や画像では見慣れたイラストも違った凄みを感じられるのがすばらしい。まさに美術館だからこその展示だろう。さらにポスターやソフトの実物、宝塚歌劇団が「大逆転裁判」「戦国BASARA」の公演で使用した衣装の実物、映画「逆転裁判」の小道具などなど貴重な資料も合わせて展示されている。


カプコンのこれまでの歩みを見たあとは、そうした作品がいかに作られてきたかを知るエリアが待っている。まさに展覧会のコンセプトであるゲーム制作の裏側を紐解く構造というわけだ。
ゲーム内のアニメーション・エフェクトがいかに作られているかを「ストリートファイターII」と「ストリートファイター6」の波動拳で比べ過去と現在の技術と制作の差を感じさせる展示に始まり、ダルシムのヨガフレイムでかつてゲームでは表現が難しかった半透明をいかに実現させたかを実演する展示、ロックマンを例に色数とサイズに成約があったかつてのドットグラフィックの難しさと工夫を紹介するパネルと実際にドット打ちを体験するカプコンピクセルラボ、ゲーム内の効果音がどうやって録音されたかを動画で見比べて種明かししてくれる展示などなど、ゲーム制作の絵と音を中心にその工夫と秘密を紹介するエリアとなっている。



絵と音にフォーカスしているのは美術館ならではの視点であると同時に、誰にでもその工夫が見えやすいものであり、老若男女問わずゲーム開発の苦労を感じられるものでよかった。また、このあとのエリアも含めかなりインタラクティブコンテンツが用意されている印象で、ゲーム会社が美術館の展覧会のためにいろいろ作ってきたんだということを強く感じられる。展示に偏らないこの展覧会は往年のファンのみならず、カプコンについてまだ詳しくない子供であっても楽しめそうだ。

続いてのエリアはゲームがいかにファンタジーとリアリティを描いてきたかを紹介するエリアだ。カプコン社内で教本として使われてきたスタッフお手製の美術解剖指南書の展示や、実物を撮影し3Dデータにする3Dスキャンの紹介、さらに石膏像にポリゴンやUVマップ、テクスチャを投射してキャラクターがいかに3Dで造形されているかを見せる展示などリアルな表現をどのように追求してきたかを見せる一方で、「戦国BASARA」のぶっ飛んだ歴史解釈やド派手なゲーム内エフェクト、目には見えない当たり判定の解説も並べ、ゲームのリアルとファンタジーがどこにあるのかを探る構成になっている。


個人的に当たり判定の紹介ボードが面白く、流れる解説動画のナレーションをここだけ「ストリートファイター」シリーズのeスポーツシーンではおなじみの実況者アールさんが担当していたのがらしい演出だった。また、その隣では特別コラボ映像である「吉田沙保里vsリュウ~私より強いやつに会いに行く~」も上映されており、こちらは大阪中之島美術館でのみの上映となっているようだ。気になる方はぜひこちらもチェックしよう。

ゲーム制作の裏側を勉強したあとは体験エリアが待っている。
暗い展示室に入り、トラッカーをつけたライトで壁を照らすとそこだけプロジェクションマッピングが浮かび上がりゾンビが現れる「バイオハザード・新ウォークスルー体験」、iPhoneのLiDARスキャナを用いたモーションキャプチャー体験コーナーだ。
「バイオハザード・新ウォークスルー体験」はお化け屋敷のような恐怖を煽るコンテンツではなく、あくまでゲームの恐怖演出を実体験するインスタレーションだ。心臓バクバクの恐怖を求めて行くと肩透かしを食らってしまうかもしれない。が、あくまで美術館がホラーゲームの演出をいかに伝えるかを目指した展示だということを念頭に置いておこう。視線誘導やプレーヤーのインタラクションでアクションが起こるというホラーゲームだからこその演出を体験できる。
モーションキャプチャー体験コーナー(あと紹介は省いたが前のフロアにあるフェイシャルトラッキング体験コーナー)も、ゲームメディアの記事を読むようなゲーマーだと技術自体に驚きを感じることはできない。だがそこはちゃんとわかっており、例えばナルホド君を演じることを選ぶと、御剣が演技指導をしてくれるなどファンを喜ばせる演出を用意してくれている。御剣に指示されながら「異議あり!」のポーズを取るのはなかなか楽しい体験だった。


最後のエリアはカプコンのクリエイターが何を考えてゲームを生み出しているのかを知るエリアだ。
ずらりと並んだモニターにはカプコンのさまざまなゲームで活躍するプロデューサーやアートディレクター、プログラマーにコンポーザーとさまざまな役職のスタッフへのインタビュー動画が流れており、こだわりや苦労を語っている。この中には、今のカプコンを支える自社ゲームエンジンRE ENGINEのプログラマーへのインタビューもあり、深い話が聞ける貴重な展示となっている。

また、ここで最も注目を集めるであろう展示が企画書の実物展示だ。「ロックマン」「ストリートファイターII」「ソンソン」の企画書が1枚1枚掲示されており、その中身をじっくり読むことができる。展示にしてくれているのは、本当にありがたい限りだ。企画書の中身を見せなければゲーム制作の裏側を伝えられないという思いをここからも感じられる。話には聞いていた企画書に登場するが実装されなかった「ストリートファイターII」の空手家の姿を実際にちゃんと中身を見ることができたのはうれしかった。また、「ストリートファイターII」に関しては各ステージの背景ラフも展示されている。
ここにはカプコン作品への思い出を集める投書コーナーも用意されている。展覧会で震えたカプコン愛をぜひ投稿してほしい。

展覧会の展示は以上となるが、美術館らしくグッズ販売ショップも併設されている。グッズの詳細については公式サイトで告知されているので、来訪前にこちらもぜひチェックしておこう。大阪中之島美術館とのコラボグッズはここ限定だそうだ。
また、あわせて大カプコン展の音声ガイドは声優の森川智之さんが担当されている。展示について深く知ることができるだけでなく、カプコン作品にも多数出演される森川さんだけあって、キャラクターの演技も行ってくれるのでこちらもぜひチェックしてほしい。


あの名作がどう作られたか感じよう!
内覧会の初めに語られたように、美術館でゲームを扱う意味として、ゲーム制作の裏側を見せることを選び、それを忠実に作り上げた展覧会だった。今後美術館でゲームを扱うことが増えてくることも想像され、その指標にもなるよう丁寧に準備された印象も感じられる。
普段ゲームを遊ぶだけで、その裏にあるクリエイターの努力は見えづらい。その一端を知ることができる貴重な機会に「大カプコン展」はなるだろう。大阪での閉幕の後、名古屋、鳥取、東京でも開催が予定されている。ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか?
イベント情報
「大カプコン展 -世界を魅了するゲームクリエイション」
開催期間:2025年3月20日(木)〜6月22日(日)
※土日祝・3月中・4月28日~5月6日は日時指定券(ローソンチケットで販売)と日時予約が必要。中之島美術館では平日券のみ販売。
開催時間:10時〜17時(最終入場16時半)
開催場所:大阪中之島美術館
イベント公式サイト:https://daicapcomten.jp/
会場公式サイト:https://nakka-art.jp/
(C)CAPCOM
※画面は開発中のものです。
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