コナミデジタルエンタテインメントが2025年6月5日に発売するNintendo Switch 2用ソフト「シャインポスト Be Your アイドル!」のレビューをお届けする。
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2021年に発売された小説を原作とし、アニメ・音楽・LIVEなどで、アイドルたちの物語を展開するメディアミックスプロジェクト「シャインポスト」。その一つとしてリリースが予定されていたゲーム「シャインポスト Be Your アイドル!」は、発表当時のスマートフォンゲームから姿を変え、最終的に家庭用ゲームとしてリリースを迎えることとなった。
筆者は2022年放送のTVアニメ「シャインポスト」を見て、そのクオリティの高さとドラマとしての仕掛けに驚かされた一人で、その後のゲームについても期待を抱いていた。そしていよいよゲームがリリースされるということで、一足先にゲームをプレイさせていただいた。
その感想を端的に表すと“むずっ!”という一言につきる。しかしながら、この難しさにはしっかりとした意味があるし、その捉え方も単なる難易度ではなく、アイドルを迎え入れ、彼女たちを成長に導いていく事務所運営そのものの酸いも甘いも感じられるという意味合いが強い。本レビューを通して、その魅力の一端を感じていただければ幸いだ。

アイドル好きだった主人公が一念発起して事務所を立ち上げるも……
本作では原作およびアニメで登場していた日生直輝ではなく、プレイヤー自身が主人公となる(※名前も自由に変更可能)。ある日、人気アイドル・螢(CV:大橋彩香)のライブを観て衝撃を受けたことをきっかけに一念発起し、アイドルの夢を支えるために芸能事務所の経営者を目指していく中、偶然にも会社設立のための資金を手に入れ、芸能事務所を設立するところから本作は始まっていく。


ダンス講師兼駆け出しの振付師である和泉野小夢(CV:豊崎愛生)をコンサルタントとして迎え入れ、経営者兼マネージャーとなったプレイヤーは、オーディションで5名のアイドルを選んで経営をスタートするのだが、まずは5年を区切りにすること、そしてユニットごとに3年で武道館を目指すという目標が掲げられる。ゲームとしてもこの2つが大きな軸となって進行していく。



ゲームにおける進行は、事務所運営、資金調達、アイドルの育成、そしてライブの開催に大別される。まずはそれぞれどういうことを行っていくのかを説明していこう。

事務所運営
事務所運営は事務所をいかに成長させていくのかを考える要素となっている。事務所としての運営能力は以下の項目に分かれていて、各項目に紐づいたコマンドを通してそのステータスを伸ばしていくこととなる。
・経営力:資金調達額に影響
・営業力:スポンサー数やグッズ費用に影響
・企画力:グッズ開発や施設開発に影響
・発信力:ファンの増加に影響
・育成力:各アイドルの育成に影響
・政治力:スポンサーの契約数や施設の割引に影響
ただし、コマンド選択時に気をつけておきたいのが各項目の成功率や成長にかかる費用は流動的であるということ。費用を安く、かつ成功するシチュエーションで選択したいのは当然のことながら、状況次第ではあえて火中の栗を拾う場面も出てくるので、そこはある程度見通しを立てながら進めておきたい。

ちなみに、本作でパラメータが設定されているのは事務所運営、そして各アイドルの能力に紐づく部分のみで、プレイヤーが能動的に介入できるのは事務所運営にかかるパラメータだけ。ここを疎かにするとさまざまな弊害が生まれてくるのだが、その中身については以降の項目で詳しく紹介する。

資金調達
上記でも少し触れているが、とにかく事務所の経営にはお金がかかる。何をするにしても資金が目減りしていくような状況だとライブの開催も危ぶまれるため、さまざまな資金調達によって安定した経営を目指すこととなる。
ゲーム序盤で主に取り組むのが、番組やイベントの出演などの営業活動による資金調達と、スポンサーとの契約だ。前者は所属するアイドルたちに頑張ってもらうことになり、後者はスポンサーから提示された条件を満たすことで資金を得ることができる(…が、未達成だと違約金が発生する)。得られる資金や契約できるスポンサーの数は、事務所経営における経営力、営業力、政治力に影響する要素となってくる。



資金がショートしないようにある程度立ち回りつつ、後述するライブの開催である程度収益を得られるようになってきたら、資金面の不安は徐々に払拭されていく。ひとまずはそのような意識で進めていくのがいいだろう。
アイドルの育成
本作では育成ゲームのように直接アイドルを育てていくのではなく、事務所の環境に応じて1ターンごとに成長していくほか、アイドルとの交流によってパラメータの変動が起きる仕組みとなっている。

事務所内ではアイドルのレッスンを効率化させていく施設の設営および強化が可能となっている。それぞれ影響するのは以下のようになっている。
・録音ブース:ボーカル値の上昇
・ダンス練習場:ダンス値の上昇
・撮影スペース:カリスマ値の上昇
・メイクルーム:ビジュアル値の上昇
・休憩エリア:メンタル値の上昇
施設の強化はできることならどんどんしていきたいところだが、資金に加えて事務所運営のステータスを一定まで上げておくことが条件となるため、結局はバランスよく立ち回る必要がある。アイドルの育成にはやはり環境が大事ということだろう。

同時に、本作では事務所に所属するアイドルと交流することで、そのアイドル自身のパラメータを成長させることもできる。最大5段階のイベントが用意されており、全てのイベントを見ると覚醒状態となって、パラメータが一気に上昇する。そういったシステム面の恩恵もさることながら、純粋に一人ひとりのアイドルと向き合う要素としても楽しめる。



また、モチベーションという点でもアイドルの交流は欠かせない要素となっている。ユニットメンバーと長時間交流しなかったり、ライブの間隔が空いたりするとアイドルたちは不安に感じてしまい、実際にメンタルに不調をきたして、ライブにも大きな影響を及ぼす。リカバリー自体は可能だが、その分だけ武道館への道のりの障害になってしまうので、未然に防ぐことが大切だ。


ライブの開催
上記で紹介してきたことは最終的にライブでのパフォーマンスや成果に直結することになる。ただし、ライブを行うために当然ながら会場が必要になってくるため、まずはブッキングについて触れておこう。
ライブ自体は当日に開催することも可能となっているが、前もって予約しておくことで費用を抑えて実施することができる。最大6ヶ月先まで予約が可能で、早めに予約しておけばおくほどにその割引率も高くなるのだが、一方でキャンセルには違約金が発生する。そしてライブの開催時にアイドルたちの状態を万全にしておけるかという点でリスクもあるので、複合的な判断が求められる。

ライブでは当然披露する楽曲、そしてアイドルたちが着用する衣装が必要となるが、それぞれ衣装・楽曲の発注にはお金がかかるため、最初のうちは限られた内容で進めていき、資金に余裕ができたら充実させていくことになるだろう。


また、ライブは当然ながら多額の費用がかかるため、そのコストを補うだけの収益構造が求められるのだが、そのアプローチとして忘れてはいけないのがグッズの存在。グッズ開発もレベルアップには経営力、企画力、発信力が求められるのだが、収入を上げるためにはできる限り開発していく必要がある。

これらが前段階での準備となり、いよいよライブ本番ではセットリストを組んでライブを成功に導いていく。ここでは主にパフォーマンスする楽曲、配置、衣装を決めていくことになるが、楽曲にはそれぞれタイプが用意されており、ライブ開催時期によってトレンドとなるタイプが異なる点は注意しておきたい。また、センター適性があったり、複数楽曲の場合には1曲ごとの体力の消費なども考慮する必要があり、これがなかなか骨が折れる。

そうして準備を整えた先では、ライブの成功を祈って彼女たちを見届けることになる。カメラのフォーカスを特定のアイドルに設定したりと、ある程度プレイヤー側で意図的にできる部分はあるもの、あくまでライブの成否は事前の準備がものを言う。振り付けや演出自体もアイドルのライブとしてのリアルさを感じさせるものとなっており、自分たちが手塩にかけたアイドルたちが無事にライブを乗り切れるかも含めて本作ならではの空気感が漂う。


ライブを成功させることはもちろんだが、要求されたセットリストの曲数を満たした上で成功させることで徐々にアイドルとしてのクラスが上がり、ライブができる会場の規模も大きくなっていく。そしてクラス5になると武道館の予約が可能になり、そこでライブを成功させるとユニットとしての成功を果たす、といった流れがゲームの進め方となる。


正直なところ、これだけでも説明としてはかなりかいつまんだものになっているのだが、実はゲームを通じてこれらの要素を理解していった先にこそ、本作の本質的な面白さが潜んでいる。以降はその仕組みに触れつつ、筆者の所感を紹介しよう。

3年で武道館……目指せますか?プレイヤーに問いかけるマルチエンディング形式
冒頭の説明ではあえて触れなかったのだが、デビューしてから3年で武道館を目指す反面、事務所としては5年間経営するという部分はもしかすると違和感を覚えたかもしれない。それなら残りの2年は何をするのだろうか、と。
その答えはとてもシンプルで、1年おきに3組のアイドルユニットを結成して、それぞれ3年間で武道館を目指す、というのが本質的な本作の進行となっている。1年目はまだ1組だけなのだが、3年目にはなんと3組を同時にマネジメントしながら、同時に事務所としての経営も安定化させる必要がある。正直なところ、1回目にプレイしたときはこの仕組みに本当に驚かされた。やること多すぎませんか…?
上記について補足しておくと、本作は半月を1ターンとして設定しており1年間で24ターン、1ユニットにつき最大72ターンが用意されている。しかしながら1ターンにつき行動できることはユニットが増えても変わらず、例えばライブを1ユニットが行えばほかのユニットはそのターンで特に行動は起こせない、ということなので、特に3年目ははちゃめちゃなスケジュール管理が必要となる。

逆に、最初のユニットが3年目を終えると、武道館ライブにたどり着くかどうか、そして成功するかどうかに関わらず、プレイヤー自身がマネジメントすることは無くなり、一区切りを迎えることになる。結果的に5年目が一番事務所としての能力が上がり、なおかつ過去2組のユニットの資産も活用できる3組目のユニットが活躍できる場になってくる。

つまり、事務所としては、2組目までで下地を作って、3組目で武道館ライブを成功させる、というビジョンを立てることも可能。実際、そういうプレイングそのものを本作では否定していない。しかしながら、武道館に立てなかったユニットはプレイヤーの方針により解散となり、解散ライブすらプレイヤーによって行うかどうかの選択を求められることとなる。この罪悪感と向き合うことが果たしてできるのか、というのはプレイヤーにとっての大きな指針となってくる。

というのも、本作はいわゆる進行状況に応じたオートセーブデータが一つ保持されるのみで、行動選択前にセーブすることはできず、なおかついわゆる周回要素なども用意されていない。プレイする上でサポート役の小夢が随所でフォローしてくれる局面はあるものの、かなりの部分でプレイヤーの立ち回りに依ったゲームシステムになっている。
このシステムを採用したことでアイドルたちを導くための1ターンごとの意味合いがより濃いものになってくるし、プレイング自体もその人の方針によって幅が生まれてくるだろう。その上で目標を達成したときの喜びは何者にも代えがたいものがある。

上記の点も踏まえた細かなプレイングの話をすると、一周目からすべてのユニットで武道館ライブを成功させることは仕組み上は可能となっているし、その立ち回りにも一定の方向性はあるものの、それを自身の手で見つけ出すことに本作の楽しさの本質がある。ぜひ実際のプレイで確かめてみてほしい。
なお、本作ではマルチエンディングが採用されているが、このバリエーションもアイドルと向き合うという点ですごく胸に響くものとなっていた。ただし、資金がショートした時のエンディングだけは何度も見たいものではないので、(特に武道館ライブに挑む時は)計画的な運用を心がけよう。

アイドルの人間ドラマを描く「シャインポスト」としての魅力を備えたゲームに
本作のゲームループ自体はとてもシンプルでひたすらにメインモードを繰り返す遊びではあるのだが、そのほかにもアニメ/小説版「シャインポスト」の設定に準拠した、各ユニットのアイドルにフォーカスしたシナリオが読める「ヒロインストーリーズ」、そして育成可能なアイドルの情報を閲覧したり、メインモードで入手した楽曲や衣装を反映したライブを楽しめる「ビューワー」が用意されている。


最後に本作のライブの仕様について少しだけ触れておきたい。本作ではアイドルを演じた声優の歌声をディープラーニング技術で学習したAI歌声ライブラリを採用しているそうで、ライブでの歌唱は全曲でポジションを変更することが可能。どの楽曲でもアイドル自身が歌唱するというのは物量的に難しいアプローチだったとは思うが、今回の形式を採用することで実際に歌い分けが実現できるのを聴くと、やはりライブそのものの実在感が増してくるため、いろいろな組み合わせを試してみたくなる。

アニメ版「シャインポスト」を見たときに、一部特殊な設定を盛り込みつつも描いているのはアイドルとしての人間ドラマだったことに感動を覚えたのだが、改めて本作をプレイしてみて、その根底にある部分は変わらずに経営シミュレーションとしてのゲームの面白さを感じることができた。同じように「シャインポスト」の魅力を感じた人は、ぜひゲームとしての「シャインポスト」が描くものを体験してみてほしい。

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※画面は開発中のものです。
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