2011年9月6日~8日の期間、一般社団法人コンピュータエンターテインメントの主催により、パシフィコ横浜 会議センターにて開催中の「Computer Entertainment Developers Conference 2011(CEDEC 2011)」。本稿では、現在、海外市場を見据えていく上で欠かせないローカライズについての講演を紹介する。
目次
本講演では、ゲームジャーナリストの小野憲史氏による進行のもと、ディベロッパー代表として、サイバーコネクトツー ゲームデザイナーの簗瀬洋平氏、パブリッシャー代表としてスクウェア・エニックス ローカライズトランスレーターの柴山正治氏、ローカライズベンダー代表としてバースデーソング音楽出版 Windwardゲームローカライズ事業部プロデューサーのエミリオ・ガジェゴ・サンブラノ氏、フリーランスの立場として英日ゲーム翻訳者の矢澤竜太氏がローカライズについて、いくつかのテーマに沿って討論した。
ローカライズのタイミング
まず話題にのぼったのはローカライズのタイミングについて。すでに国内においてもゲーム市場の主流は海外となっていることから、海外のトレンドを早いうちから共有すべきだという意見が出た。例えば、企画を立ち上げてゲーム開発を進めたとしても、実際に発売するタイミングでは海外におけるトレンドからズレてしまっているケースもあるという。
そして、国内市場と海外市場におけるUI、言語、ビジュアル、そして文化の違いなどさまざまな要素を検証しつつローカライズを進めていく必要があるという認識を各々が持っていた。
社内のローカライズ意識を向上させるには?
続いて、ローカライズ意識の向上についてでは、ある程度マニュアルに則ったかたちでドキュメント化して、社内で共有することで啓発していく方法や、ローカライズを効率的に進行するために、ローカライズを工程を組み込むことのできるディレクターの存在が重要だという。また、ローカライズでの高いクオリティを維持するために各セクションを巻き込んでいくべきだという意見も出た。
しかし、エミリオ氏によると、現状、小中規模の開発会社では、海外パブリッシャーが決まっているケースは稀であり、すぐにローカライズを考える余裕はないため、短期間でローカライズの作業を行うこととなる。また、スマートフォン、ソーシャルゲームのローカライズについても増加傾向にあるとし、合わせてローカライズに対する啓蒙活動を行っていく必要があると述べていた。
ローカライズの品質向上に必要な資料
矢澤氏によると、翻訳においては一行における工程数が重要であり、そのためには文脈情報や背景、ストーリーなどの資料が必要となる。そして、欧米市場では一般的なゲームデザインドキュメントも必要ではあるものの、現状では渡されないという。
そのような現状を鑑み、梁瀬氏が今回のセッションのためにサンプルの資料を用意した。エクセルで作られたその資料では、台本の形式をとりながらもト書きのボリュームが多めに用意され、また、各キャラクター名からIDを自動取得し、そのIDをクリックすることで、自動でキャラクター情報へ飛ぶように作られている。
このキャラクター情報、個性・教養・役割などキャラクターを構成する要素はもちろん、意外なところで重要視されていたのがキャラクター名のスペルだ。普段日本人は外国人の名前を認識するときにはカタカナを連想するが、それを観てまた翻訳するのはまた手間であり、その他造語の場合もあるため、このように用意してあるととても便利になっている。
カルチャライズを意識したローカライズ
また、翻訳において難しいことはもうひとつ存在する。それが各国の文化に合わせた翻訳の味付けをどうすべきか、そのビジョンを誰が管理すべきかという点である。実際、キャラクターの一人称について、そのキャラクターのイメージに合わせて「僕」にするか「俺」にするかなどはオリジナルのチームでは決められないため、特定の誰かが決める必要がある。
その一例として、ローカライズチームが内部にいるスクウェア・エニックスでは、基本的にはローカライズの翻訳者が決定権を有し、同時に他の言語のローカライズ化などとの意見交換であったり、開発チームとの打ち合わせを行い、情報格差を最小限に抑えていくという。
ローカライズの品質を客観的に測定できるか?
品質を測定することは、ビジネスとしての側面もあるため難しい問題ではあるが、ローカライズしたタイトルに対し、対象のユーザーが満足できるかという点にあり、現状、国内ではローカライズについて評価される場合は少なく、情報は不足しているという。そのため、よりローカライズへのユーザーの意識の向上や発言機会の増加を図っていく必要がある。
ローカライズにおいて必要なこと
最後に、ローカライズにおいては必要なことを各自述べていったが、そこで挙がったのは、ゲーム開発における情報や面白さの共有、また、スケジュールの遵守や各セクション間の濃密なコミュニケーションを取ることで、ディベロッパー、パブリッシャー、ローカライズベンダー、フリー翻訳者の風通しをよくし、海外展開を図っていくべきとした。