7月11日、東京・渋谷ヒカリエホールにて開催された「GMIC TOKYO 2014」。ここでは、気鋭のベンチャー企業のトップ3人をゲストに迎えたパネルディスカッション「企業のグローバル経営とイノベーション」をレポートする。

目次
  1. 近年の激しい技術革新がもたらしたもの
  2. グローバル展開の際に直面する課題
  3. モバイルビジネスの今後の展望は?

近年の激しい技術革新がもたらしたもの

このセッションはGMOインターネット株式会社の熊谷正寿氏、株式会社ディー・エヌ・エーの守安功氏、KLab株式会社の真田哲弥氏というベンチャーの分野をリードする企業のトップ3人が、「企業のグローバル経営とイノベーション」をテーマにディスカッションを行うというもので、日本経済新聞社の関口和一氏がモデレーターを務めた。

GMOインターネット<br />代表取締役兼社長・グループ代表 熊谷正寿氏
GMOインターネット
代表取締役兼社長・グループ代表 熊谷正寿氏

まず、関口氏より議論の皮切りとして、近年のモバイル業界の激しい技術革新をどう捉えているか、事業に対してどのような変革をうながしたかという質問が出された。変革が早かったから生き残れたというのは熊谷氏で、「一般の会社なら変革のスピードについていけなかったろうが、自分たちは何もなかったからリスクを取ることができた」と回答した。

パケット定額制がターニングポイントだったと答えたのはディー・エヌ・エーの守安氏。かつては通信料金が非常に高かったため、携帯電話のコンテンツでは、なるべく通信を使わないようにするというのが一般的だったが、パケット定額制が始まったことにより、本格的なインターネットサービスを提供できるようになったと語った。

さらに、守安氏は「コンテンツの海外展開がしやすくなったことが大きい」ともコメント。以前は、日本と諸外国では携帯電話の仕様が大きく異なっていて、フラッシュを使った日本の一般的なコンテンツは海外の端末では動かないなどの問題があったため、日本で流行したものをそのまま海外で展開することができなかったという。だが、スマートフォンの普及によって規格が統一されたことにより、一気にグローバル展開しやすくなったと振り返った。

App StoreやGoogle Playができたことにより、「モバゲー」などプラットフォームレイヤーだったガラケー時代のスタイルが機能しにくくなっのはジレンマだったが、今後ゲームに関しては開発やパブリッシングの部分でナンバー1を目指していくとのこと。プラットフォームビジネスのほうも引き続き重視していくそうで、技術がさらに進んでブラウザ上でできることが増えていけば、AppleやGoogleのシステムではないところで何かできるようになるのではと期待を述べた。

KLabの真田氏は「マーケット構造の変化もビジネス面での影響が大きかった」と回答。スマートフォンの登場にともなって、課金システムは一度登録すると毎月課金されるサブスクリプション型から、アプリ内で課金していくインアップパーチェス型へと変化していったが、このアプリ内課金にもっともフィットするのがゲームだったので、KLabはさらにビジネスをゲームにシフトしていったのだと述べた。

グローバル展開の際に直面する課題

ディー・エヌ・エー<br />代表取締役社長兼CEO 守安功氏
ディー・エヌ・エー
代表取締役社長兼CEO 守安功氏

一方で、真田氏は日本ではLTEが一般的になるなど通信環境が良すぎるため、日本の環境に合わせて作られたコンテンツをそのまま海外に持っていくと、使いにくかったり動かなかったりと、さまざまな問題が発生してしまうという問題を指摘。

これに対して、パズルゲーム「キャンディクラッシュ」を手がけたKingや戦略SLG「Clash of Clans」を作ったSupercellなどは、いずれも「電波が貧弱であること」を前提に開発を行っていて、それが世界標準であるという。つまり、日本の整備されたインフラ環境がガラパゴス化の一因になっているわけで、この問題に対応するためKLabではアプリのデバッグを海外で行うようにしているそうだ。

熊谷氏は人材の確保が海外展開の際の最大の課題とコメント。「イケている人材はイケている人材がいるところ、イケている商材のあるところに集まる」と持論を述べた上で、ナンバー1の誇りが持てる経営や商材にこだわることが、人材集めのポイントになると精神面の重要性を強調した。

人材の確保について、守安氏はディー・エヌ・エーが新卒採用を開始した当時、東大の研究室の学生を対象に会社説明会を行ったところ、3人しか来なかったというエピソードを披露。ただ、この10年の地道な施策が実を結びつつあるとのことで、会社の知名度が上がったこともあって、近年は人材を集めやすくなっているそうだ。

真田氏は育成を重視していて、海外で人材を集めるときには将来拠点を作りたい国の学生を新卒採用して、日本やサンフランシスコなどで教育し、拠点ができる頃にその国に帰すのだという。さらに、フィリピンでは数学と知能指数のテストを行い、点数が一定基準をクリアしていればプログラムの知識や経験の有無に関係なく採用して、エンジニアとして育てるというユニークな方式も採っているとのこと。なかなか人材を集められなかったための苦肉の策だったそうだが、「ものすごい優秀なエンジニアが育ちました」と、うれしそうに語った。

モバイルビジネスの今後の展望は?

KLab<br />代表取締役社長 真田哲弥氏
KLab
代表取締役社長 真田哲弥氏

このように意気軒昂な3氏だが、関口氏はフィンランドで開催されたスラッシュという起業家向けのイベントには6000人が参加し、GMICの北京での会合でも2万もの人が集まるなど、世界で同時多発的にベンチャーが盛り上がっているのに、日本は元気がないように見えると不安を述べた。

そんな関口氏の指摘に熊谷氏は「確かに、ライブドア事件以降は灯が消えたようになっていた時期もありましたが、今はまた元気になってきていると感じます」と反論。その証拠として、投資対象のバリエーションが広がっていることを挙げた。

その上で、熊谷氏は「ネットを24時間にたとえたら、まだ午前中かランチタイムくらい」とコメント。もっともおいしいディナーの時期はまだまだ先で、その頃には人間だけでなく動物やペットなどもネットにつながるようになっているのではと展望を語った。

守安氏は「スマートフォン関連ビジネスはまだ右肩上がりであることは間違いない」と現状を分析。ネットサービスを取り入れたタクシー配車サービスのUBERの事例や先日発表した自社の遺伝子事業への参入などを例に挙げ、今後はこれまでインターネットに関わりのなかった産業や領域にも広がり、大きな変化が起きるだろうと予測した。

「一生ゲーム会社だけをやり続けようと思ってはいない」という真田氏だが、「スマーフォンゲームはグローバルな視点で見るとこれからが収穫期である」と認識しているそうで、「そこでしっかり収益を上げることが重要」と考えているとのこと。また、ほかの産業とネットが結びついた場合、新たなマネタイズの仕組みを考えられるかがポイントになるとも語っていた。

日本経済新聞社<br />論説委員兼産業部編集委員 関口和一氏
日本経済新聞社
論説委員兼産業部編集委員 関口和一氏

海外の企業との資本提携や技術連携といったグローバルアライアンスについて、どう考えているかとの質問も出された。守安氏は自社のサービスのひとつである「Showroom」を例に挙げ、「これは中国でヒットしたサービスを持ってきたもので、中国に社員がいたからできたんです」とコメント。Webマンガサービスの「マンガボックス」も世界での展開を見据えているとのことで、その際にもいろいろな地域に拠点があることが利点になるだろうと見込みを述べた。

真田氏はソニーやホンダが世界に打ってでた時代と比較しつつ、App StoreやGoogle Playといった販売チャネルを利用した海外展開のしやすさを改めて強調。「ここで販売できない商材には手を出さず、アプリに資源を集中するのがもっとも投資効率が高い」と認識していることを明かした。ただ、中国はApp StoreやGoogle Playだけではダメとのことで、中国国内の販売ネットワークも利用しなければならないなど、独自性の強い市場であることをうかがわせていた。

グローバルアライアンスはまったく考えていないという熊谷氏だが、ミャンマーに行った際、「かつてのトヨタや松下といった企業が世界で尊敬されたように、我々もミャンマーで愛される企業にならなければならない」と幹部たちに話したというエピソードを披露。「世界になくてはらない企業になる」といった、高い意識や心意気が海外展開において重要になると語った。

最後に、関口氏はさまざまな取材経験をもとに「世界中のすべての企業に新しいチャンスがきている」とコメント。「世界中の企業が同じスタート地点に立っているので、新たな事業戦略を考え、おおいにチャレンジしてほしい」と来場者たちに呼びかけ、セッションを締めくくった。

※メーカー発表情報を基に掲載しています。掲載画像には、開発中のものが含まれている場合があります。

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