日本マイクロソフトが発売したXbox One/PC向けゲームクリエーションソフト「Project Spark」。“自分だけのオリジナルゲームが誰でも簡単に作れる”というコンセプトがどのように発揮されているのかを知るため、ゲーム作りの心得を持たぬ筆者が実際にプレイしてみました。
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「Project Spark」は、“自分だけのオリジナルのゲームを作ってみたい”や、”こんなゲームがあったらいいのに”というゲーマーたちの思いを形にするため、Team Dakotaが開発したシミュレーション・クリエーションゲームだ。日本人ゲーマーなら、いの一番にエンターブレインの制作ソフト「ツクール」シリーズを想起させられることだろう。
本作には数多のゲーム作品を作り出すための便利ツールが搭載されており、それらを駆使して手軽に自由なゲームを創り上げることができる。また、クリエイター(ユーザー)たちが作ったゲームを実際に遊んだり、ゲームを遊んで稼いだクレジットを使い、ゲーム作りのための素材を集めたりと、制作を起点としたゲーム体験が楽しめる。
本作は、Xbox One/PC向けに無料ダウンロードクライアント版が配信されているため、誰でも無料でゲームを遊び・作ることができる(Xbox 360版の配信日は現在未定)。また、Xbox One向けには追加オブジェクト、追加機能、オフラインで遊べるキャンペーンモードなどを同梱したお得な「スターターパック」がパッケージ/ダウンロード版として発売中だ。
ゲーム概要を一通り説明したところで今回、「オリジナルゲームが作れるんだって」程度の情報だけを頼りに、操作方法もゲームの流れも何一つ把握していなかった筆者が、ゲームをクリエイトしていく方法をプレイ画面と一緒に紹介していく。スタートがラスボスとか、敵が全2体しかいないとか、ダンジョンに住民が溢れているとか、ツクール型のゲームとは制作性の違いで袂を分かった系男子である筆者が創造主となるまでの姿を、想像力豊かに見て頂けると幸いである。
開幕トップメニューで八方ふさがり
早速Xbox Oneでゲームを起動。「さあ、遊ぶがよい」と言わんばかりのトップメニューが出迎えてくれる。何をどうプレイするのか全然考えていなかったので、まずは手始めにスターターパックで遊べる「チャンピオン クエスト」を選択。
いかにゲームが作れるゲームであろうと、初っ端からゲームを自作するという心意気は、今まで味わったことがない料理を作ってみろと言われるに等しい所業である。漫画やアニメの主人公気質なクリエイティブ男子女子なら、ここで閃きの花を咲かせられるのだろうが、プロフィールに「クリエイティブ?一昨日食ったよ?」と書いておいた方が察してもらえるであろう筆者には、誰かの発想のお零れを与ることの方が賢明なのだ。ということで、まずはプロが作った作品とやらを体験することにした。
本キャンペーンはどうやらRPG要素を交えた3Dアクションゲームの模様。まずは画面上に映る4人の内からプレイアブルキャラクターを選択し、ストーリーに沿ったアクションバトルが楽しめる。出来の方はフルプライスタイトルとまでは言えないものの、ゲーム開始直後から、昨今のインディーズ界隈のハイクオリティタイトルに負けず劣らずな仕上がりを見せてくれる。操作も至ってシンプルで、コントローラーのボタンをフルに使うようなこともなく、複雑な要素もない。
キャラクターを直観的に動かせる簡単さと、味のあるアクション要素の骨格がしっかりとマッチしているため、これ単品で販売・配信されていても何ら違和感のない遊び心地だ。徐々に増えていくアクションスキルを駆使しながら、優しいタッチで描かれたマップオブジェクトたちに心躍らせ、物語を進めていく。
なお、本キャンペーン、ひいては本作によって生み出されたゲーム作品には、RPGなどで一般的な「メニュー画面」的なインターフェース機能(装備変更・道具整理など)が備わっていない。ゲームをプレイする上でのカスタマイズ要素に欠けているのでは? と感じてしまったが、なるほど、備わってないからこその魅力はあるものだ。
各々のユーザーの力量の差はあれども、作る側もやる側も「俺のこだわり」が一番噴出しそうな項目というのは、メニューなどを含むデータベースになりがちなのだろう。なので、シンプルゆえに変な時間を取らず、物語から分断されることなくゲームを遊べるという、本作ならではの一貫したゲームデザインが光る点といえる。
ゲームデザインが分からぬ人は目の前の誰かを頼るべき
キャンペーンである種の指標が見えたため、続いて世界中のユーザーたちが作り上げたゲームをプレイできる「コミュニティ ゲーム」を見ることに。本作ではトップメニューで人気ゲームがピックアップされていたり、さまざまなワード・タグを通してゲームを検索することが可能だ。共有されているゲームは遊んだユーザー数・人気の指標などが表示されるので、「Project Spark」界の頂点を目指すという、長く険しいプレイスタイルも無きにしも非ず。
とりあえず、人気がありそうなゲームをプレイしてみる。物語導入が英語であったため、リアリーな気分で英文学スタイルの冒険を進めていく。すると早速敵を発見。先程の様にとりあえず殴りかかろうとすると、何故かアクションが出ない。と思いきや、いや違う、これはシンボルエンカウントか。ここで真っ当なRPG戦闘へと突入し、「3Dアクションゲームしか作れないんじゃないの脳」になっていた自身を引き戻すことに成功した。
このゲームでは装備アイテムが宝箱に入っており、獲得したらその場で衣装チェンジという仕掛けが採用されていた。新しい装備やキーアイテムを入手しながら、アクティブタイムバー形式の慣れ親しんだRPG感をバリバリ楽しむ。
このあと続けて数作品をプレイしてみたが、正直なところ、いずれもパッと見では何から何まで素人感が感じられない。というか、むしろどうやってこれほどの物を作り込んでるの? 寝てないの? などと聞きたくなる作品群であった。そんな敷居の高さに怯えつつも本題をこなさなくてはいけないので……手軽さに期待しながら、とりあえずゲームを作ってみましょ。
そして、ゲームクリエイターへの道を歩み出す
本作ではある程度までサンプルで整えられる「作成」、最初から全てを創造する「ゼロからスタート」、遊びながらゲームが作れるという「クロスロード」が搭載されている。一つ一つのオブジェクトの意味を吟味できるほどのクリエイター力がまだ溜まっていないので、ここはガイダンスにあわせて手軽に作成できそうなクロスロードを選択してみた。
クロスロードではまず、丘や山などの土地、森や砂漠などの環境、朝や夜などの空模様を順に選択。
続いてヒーローのクエストとして「冒険」を選び、主人公や建物をササッと選択してみることに。なんとまあ、わずか数十秒でゲームの土台が完成してしまった。
続いて自動配置されているキャラクターたちに話しかけると、クエストらしきものを提示してくれる。会話テキストはその場で直接編集できるほか、目的地、目的のアイテムとなるオブジェクトを選択すると、そこまでの道程も自動的に生成される。このように、ゲーム世界の全体像、物語の進行に必要なフレームをビックリするほど手軽に用意してくれるので、はじめのうちはデコレーション感覚で手を加えるくらいでも十分だ。
また、マップ上に配置されている青色のオブジェクトにアクセスすると、新たなイベントが自動的に生成される。ここで起きたのは、ファンタジー世界に突如飛来してくる宇宙戦艦のイベント。ごちゃ混ぜ感がスゴイが、色々とコツやネタを得るため、ちょこちょこ編集しながら進めてみるのも面白かった。
クロスロードである程度ノウハウを溜めたので、次は「作成」に挑戦。こちらでは土地や環境などを揃えた後、本格的な作成ツールでゲーム作りを進められる。ただし、ここからは操作難易度がグンと上昇するので注意。何ができるのかも、どうすればいいのかも、色々含めて難しいので、取り組む前にしっかりとチュートリアルで学んでおくことをオススメする。
なお、ここで再現できるゲームというのは「何々みたいなゲーム」や、RPG、STG、ACTといったゲームジャンルという括りだけではない。用意されたツールを上手く利用していけば、さまざまな事象が再現可能となるだろう。突き詰めればゲームツールというよりもサンドボックスツールと言った方が妥当かもしれない。
ちなみに、ゲーム作成に使用する素材となるキャラクター、建築ブロック、アイテムなどは、ゲームをプレイ&シェアすることで貯められるゲーム内通貨「クリエーションクレジット」で購入していく。一つ一つのアイテムはそれほど高過ぎる金額ではないが、本作には膨大なパーツが収録されているため、用意されている環境を一新したい時などは、課金通貨でも購入できることを覚えておこう。
なお、アイテムは単品購入、ジオラマ的なセット購入に加え、実際のゲーム画面で扱うとどうなるのかのサンプルを見ることも可能だ。
ソーシャルな広がりでゲームはさらに豊かに
ゲームを遊び、ゲームを作り、ゲームを遊ぶ…このエンドレス。言葉で言えばこれだけに集約できる本作だが、昨今ではお決まりのソーシャル性が組み合わされていることで、各ユーザーの楽しみ方の幅は多彩に広がっていく。
本作では他のユーザーが作ったゲームをプレイしている最中、「俺の方がこのゲームをもっと面白くできるぞ!」という気持ちをすぐさま反映させられるよう、その場でプレイ中のゲーム内容に対しての編集を行うことができる(元の作品には影響なし)。編集にはそのゲームで使用されている素材を保有している必要があるものの、共有されているコンテンツに対して自由にアプローチできるというのは、それだけで創作意欲を刺激するものだろう。
また、マルチプレイ機能も備わっており、3Dアクションを皆で協力プレイしたり、シューティングゲームで競い合ったり、シミュレーションゲームで長考し合ったり、画面上で跳ねている野菜を皆で眺めているだけだったりと、さまざまなゲームを最大4人で楽しむことが可能だ。加えて、オンライン上でゲームを共同制作することもできるので、闇鍋クリエイトなサプライズ企画も光るかも?
誰かのゲームを元にして自分だけのアイデアを盛り込んだ渾身の一作! を誰かに元にされて全く別のゲームで提出されたり、遊び飽きたゲームのステージを適当にリミックスしてマルチプレイ用のコンテンツをサクッと創出したり、ユーザービリティを何も考えていないような壮絶難易度のゲームに協力して打ち勝ったりと、出会いはさまざま。もちろん、練り込んだ作品なのに人気が出なくて落ち込む日々も訪れるだろう。しかし、それはコンテンツを創出する人になってからの特権である。人生の糧にはオススメだ。
想像×自由×難易度=未知
このように、何一つ知らない筆者のような素人でも、夢のゲーム制作の一端を体験できるのが「Project Spark」である。本作の自由度というのはゲーム作品に対することも然ることながら、その使い方にある。知る人が見れば、これはミドルウェア(開発機器)と称することだろう。
「何々みたいなゲームを作る」というカジュアルな概念と、「物理現象を作成する」という複雑性を持ち合わせているため、入り口が広く、行き先が先細っている。一つ一つのツールの意味を考えたり、全く未知の動作を考え出したりと、本当にクリエイター気質な人であればゲームとしてではなく、ツールとして活用していけるはずだ。もちろん、発想の追求に比例して扱い方の難易度も青天井になること請け合いだが、本作はおそらく、それに応える強度を備えている。
最初の方で語ったメニュー画面であっても、キッチリと仕組みを整えられれば、何らかのオブジェクトにアクセスすることで、物理的にメニューが展開できるようになるはず。ジャンプの無いゲームとして設計し、ゲーム中にジャンプのアクションをすることで、アイテムが保存された箱置場の階層にいつでもアクセスするとかだ。実際可能なのかは判断すらつかないが、そういう概念やルールの外を自力で開拓してしまうユーザーというのが規格外を形にし、後の技術にしてしまうのだろう。
…奥深さについてはもはや憶測でしか語る術を持たないので、この辺にしておこう。つまるところ、手軽に遊ぶもよし、複雑にのめり込むもよし、何か意味の分からないものを創り上げてしまった自分の才能を過信するもよしの、何でもアリなのだ。プレイ専門だって、クリエイターに憧れている人だって構わない。ゲームクリエイターを夢見る人に年齢性差はないのだ。どこまで遊び切れたからスゴイのか、どこまで作り込めたらクリエイティブなのか、勝手な定規に悩む前にプレイしてみよう。そうしたら、何かの創作意欲に繋がるかもしれない。