12月12日、デジタルハリウッド大学大学院駿河台キャンパスにて、メディアコンテンツ研究家の黒川文雄氏が主催するおなじみのトークイベント「黒川塾」の第22回が開催された。

今回のテーマは「ゲームサウンド&ミュージック」。ゲストは「アウトラン」をはじめとするセガの名作ゲームのサウンドを数多く手がけたHiro師匠こと川口博史氏、「伝説のオウガバトル」などのサウンドを手がけたことで知られる﨑元仁氏、メーカーの枠を越えてさまざまなゲームに楽曲を提供しているタイトーの土屋昇平氏。日本のゲームミュージックの歴史を紹介した「ディギン・イン・ザ・カーツ」にてホストを務めた、元ファミ通編集者のローリング内沢氏とHallyこと田中治久氏の5名で、各人がいろいろなエピソードを交えながらゲームミュージックについて熱く語った。

会場には貴重なゲームミュージックのポスターも展示されていた。

監督の熱意とこだわりが生んだ「ディギン・イン・ザ・カーツ」

まず、レッドブル・ミュージック・アカデミー公式サイトにて公開された映像ドキュメント「ディギン・イン・ザ・カーツ」についての紹介が行われた。本作は8ビットの時代から現在にいたるまでの、日本のゲームミュージックの歴史や魅力を紹介するシリーズもので、ニュージーランド出身のNick Dwyer(ニック・デュワイヤー)氏が監督を務めた。番組中で音楽解説などを行うホスト役として出演したローリング内沢氏とHally氏によると、タイトル名はゲームのカートリッジを意味する「カーツ」とDJの曲探しを意味するスラング「ディグ」を掛け合わせた言葉で、「ゲームを掘り探せ」という意図でネーミングされたという。

司会の黒川文雄氏 Hiro師匠こと川口博史氏

番組内ではさまざまな海外のアーティストたちが、日本のゲーム音楽にインスパイアされたと述べていたが、「海外には日本のようなゲーム音楽市場はなかった」とHally氏は言う。だが、ゲーム音楽の存在がネットを通じて海外でも知られるようになり、同時に子供時代にファミコンで遊んだ世代が大人の視点からゲーム音楽の魅力を語れるようになったことによって、海外でも注目されるようになったのだろうと語った。実際、海外では2000年代前半までゲーム音楽がCDのような形でパッケージ化されることはほとんどなかったようで、監督を務めたニック氏は「子どもの頃に聞いていたゲーム音楽を誰が作っているのか。なぜ、もっとフィーチャーしないのか」とずっと思っていて、それが本作を制作する動機になったと話していたそうだ。

ちなみに、川口氏と崎元氏も、この「ディギン・イン・ザ・カーツ」にゲストとして出演しているが、ある日突然、出演依頼のメールがきたとのことで、崎元氏は最初「ちょっと怪しい」と思ってしまったらしい。ほかの出演者たちも同じだったようで、「知らない外国人からメールがきた!」と、びっくりした人が多かったそうだ。ただ、ニック氏は非常に熱意あふれる人物で、川口氏いわく「知識もすごい」とのこと。内沢氏も「リサーチがすごくて、知識量がハンパなかったですね。僕みたいな者のことも事前に全部調べていましたから」と振り返った。

さらに、ニック氏は日本のゲームミュージックを折り紙や生花に例え、「少ない音しか使えない中で、あれだけの素敵な曲を作ったことが素晴らしい」と称賛していたという。もちろん、海外でも同じような条件でいろいろな音楽が作られていたが、ベース音の隙間にドラム音を入れたり分散和音を使いまくったりと、やたら音を詰め込むことが多かったらしい。その点、当時の日本のゲームコンポーザーは音のすき間の使い方を心得ていたとHally氏はコメント。崎元氏の持論も「音楽は音数が少ないほどエラい!」というもので、実際、すぎやまこういち氏が書いた「ドラゴンクエスト」の譜面は音数がすごく少なかったとのことだ。

川口、崎元、土屋氏のゲーム音楽作りのスタンス

川口氏と崎元氏はどちらも80年代からゲームコンポーザーとして活躍しているが、川口氏の音楽はすべて独学で、セガにはサウンド志望ではあったが、プログラマーとして入社したという。ただ、ずっとアマチュアでバンド活動をしており、当時のゲーム業界は楽器を弾ける人がまだ珍しかったことから、川口氏の登場に「ついに本物のミュージシャンが登場した」と、崎元氏などは感銘を覚えたそうだ。

崎元氏はゲーム音楽を初めて手掛けたのは仲間とゲームを作った高校生のときで、「曲が書けそうなのが自分しかいなかった」のが理由だったと話す。ゲーム業界に入ったのもゲームが作りたかったからで、音楽の専門的な勉強をしたことはなかったそうだ。このようにクラシックの素養がまったくなかったという崎元氏だが、オーケストラ調のサウンドを使った「伝説のオウガバトル」が好評を得たのはご存じのとおり。ただ、崎元氏いわく「しょせんは付け焼き刃」で、5曲くらいは見よう見まねでもできるが、10曲以上となると難しいと語るなど専門的な勉強の必要性を強調していた。また、「伝説のオウガバトル」は当初ロックなサウンドを予定していたが、試しに「マリオ」の曲を入れてみたところ意外と合っていたので、変更になったという意外なエピソードも披露された。

崎元仁氏 土屋昇平氏

ここで、内沢氏から3氏にゲームの企画に合わせて曲を作るのか、自分がいいと思っている曲を出していくのかという質問が出された。川口氏はプレイヤーがどう感じるかというのを第一に考えるそうで、例えばシューティングなら激しい感じにして、飛行機ものなら空を飛んでいる感じを出すなど、プレイヤーの感情の動きを助長する、盛り上げるということを気にして作ると回答。崎元氏と土屋氏も同意で、土屋氏の場合はゲーム制作者側とコンセンサスを取ることも重視しているが、同時にゲームを自分のミュージックビデオにするくらいのエゴイストになろうとも心がけているとのこと。また、崎元氏は「野放しにしてくれるのがベストなんですけどね」と笑いつつ、オーダーの時点での自由度は意外と広く、「いろいろなアプローチができるし、オリジナリティーも十分出せます」と語っていた。

川口氏は作った音を実際にゲームにあててみることの重要性にも言及。音楽だけ聞かせると、たいてい「自分のイメージと違う」と言われるが、ゲームにあてた状態で聞かせ続ければ違和感がなくなっていくそうで、「アニメの声優さんと同じですよ。最初はマンガのイメージと違うとみんな言うけど、そのうち慣れてくるでしょ」と笑った。

ローリング内沢氏 Hally(田中治久)氏

ところで、ゲームミュージックのオーダーがどのようにされるかだが、崎元氏の場合はゲームディレクターから「オーケストラを書け!」と、いきなり言われたのだという。その後も、演歌などのさまざまなジャンルのオーダーがきたそうで、「そんなに広いジャンルの勉強をしている人は音楽の専門家にもほとんどいないでしょ」とグチっていた。もっとも、ゲーム音楽の発注のされかたというのは似たり寄ったりのようで、川口氏は「彼ら(ディレクターなど)はサウンドをやっている人は何でも作れると思っていますから」と苦笑いしながらコメント。土屋氏も「ゲームプロデューサーやディレクターは、作家がどんな音楽が得意か知らないと思います」と語っていた。

土屋氏によると最近は動画サイトのURLが送られてきて、「こんな感じの曲」とオーダーされることも多いという。特に、今のプロデューサーやディレクターは30代後半~40代の人が多く、その世代が親しんだゲーム音楽……具体的には90年代中盤や後半のスクウェアのものがよく挙げられるそうで、「それでゲームが面白くなるならいいんですけど、ただ自分が好きというだけならあまり意味がないですし、そもそもその曲を作った作家さん本人に頼んだほうがいいですよね」と苦言を呈していた。

もちろん、具体的なイメージがつかめるので、参考曲を出すこと自体は決して悪いことではないと土屋氏は語る。その上で「楽器の感じとか、メロディーとか、曲のテンションとか。どこを参考にしてほしいのか示してくれたらうれしいですね」と注文を出していた。

ちなみに、川口氏はセガの鈴木裕氏のもとで数々の名曲を生み出しているが、鈴木氏のオーダーはかなりアバウトで、「ハングオン」のときは「バンドっぽい曲で」、「スペースハリアー」では「映画のネバーエンディングストーリ―のイメージで」と言うだけで、細かいことはほとんど指示されなかったそうだ。

崎元仁氏 土屋昇平氏

ゲスト陣の音楽のルーツと80年代のゲーム音楽の歩み

各人の音楽のルーツやバックボーンも語られた。川口氏はフュージョンやラテンミュージックに傾倒していたほか、中学生の頃からさまざまな洋楽もテープに録音して集めていたとのことで、それらが根付いて今の自分があるのかなと述べた。また、ナムコの「NEWラリーX」のBGMもルーツのひとつで、これを聞いてゲーム音楽をやりたいと思ったそうだ。YMOがすごく好きだったという崎元氏は、ゲームミュージックにもかなり早い段階でハマっていて、ゲームセンターにウォークマンを持っていって直接録音するといったこともしていたらしい。その際、少しでも音を良くするため、弾を撃たずに「戦場の狼」をプレイしたりしたそうで、同世代のHally氏も「同じことをした」とうなずいていた。

土屋氏は中学時代にベースを始めたことをきっかけに、ジャコパストリアスなどのベースがかっこいい音楽を中心に探すようになったと振り返る。当時は洋楽を聞くのがかっこいいとされていた時代だったが、インスト音楽を聞く人が周囲にほとんどおらず、意地になってインストばかり聞いていたそうだ。内沢氏も洋楽派で「邦楽を聞くやつはダサいと思っていた」と恥ずかしそうにコメント。ゲームミュージックもゲームのBGMくらいにしか思っていなかったが、YMOの細野晴臣さんが手掛けたアルバム「ビデオ・ゲーム・ミュージック」に衝撃を受け、テクノやハウスミュージックが好きになっていったと語った。

Hally氏はゲーム音楽そのものがルーツで、やがて電子音楽に目覚めていったという。ただ、土屋氏が語っていたように、当時はインスト音楽があまり聞かれなくなっていた時代で、ゲーム音楽もリアルサウンド志向になっていったことから、一時はテクノやクラブミュージックに傾倒していたそうだ。だが、インターネットで海外にFM音源やPSGの時代の音楽を愛好している人たちがいることを知り、自分の好きなものを再認識したことから現在にいたっていると説明した。

スライドの画像はHally氏のツイッターでも参照できる。

また、1980年代の代表的なゲーム音楽をジャンル別に分類した自作の図を見ながら、Hally氏が黎明期のゲームミュージックの歴史を簡単に解説。83年くらいまではカバー曲が主流であったこと、ナムコが「NEWラリーX」や「マッピー」などで、いちはやくオリジナル曲を導入したこと。やがて「ゼビウス」のサウンドを手掛けた慶野由利子氏や「ドルアーガの塔」の小沢純子氏といった、音大卒のアカデミックなキャリアを持つ人たちがゲーム業界に入ってくるようになったこと。ファミコンの普及やFM音源の登場によりゲーム音楽の存在感がさらに増していったという。

さらに、「三國志」での管野よう子氏のようなのちにメジャーになる人物の登場や「ドラゴンクエスト」のすぎやまこういち氏に代表される一般に知られた作曲家の参入。ゲーム音楽のCDが増えはじめ、当時のゲーム雑誌「Beep」に付録としてゲーム音楽のカタログがつくなど、ゲーム音楽の市場が形成されていったことや80年代後半は作家の個性が出やすい時代になり、ハードの進化に合わせて日進月歩でゲーム音楽が変わっていったことなどが語られた。

来場者からの質疑応答では、「作った音楽がボツになったときどう思うのか」という質問が出された。川口氏は「とっておきます。別のゲームで使えるかもしれないですからね」と回答。崎元氏は「悔しくて悲しくて恨みに思って相手を殺したくなります(笑)。やっぱり自分を否定されたような気になりますからね。こればっかりは慣れないし、いつも1発でOKを出してもらいたいと思っています」と悲痛な心境を明かした。土屋氏も同様で、「自分でボツにするなら納得していますが、人からボツにされたら相手がセンスないなと思うようにしています。それくらい思っていないと本当につらいんですよ」と笑いながらこぼしていた。

最後にゲスト陣が来場者にメッセージ。Hally氏は「次の世代にボクらの体験をどうにか伝えたいと考えています。今日みたいな形で、また次の世代への発信をしていければ幸いです」とコメント。内沢氏は「ライター、編集者としてメディアを通じて、これからもゲーム音楽の良さを伝えていきたい」と意気込みを語った。

土屋氏は「これからのゲーム音楽は間違いなく作家性の勝負になると思います」と強調。川口氏も「みんなが同じ方向を向きがちなのはよろしくないので、自分のカラーを出していくことが重要」と持論を述べた。崎元氏は「自分にとって「ゼビウス」や「マッピー」のサウンドはそれまで聞いたことがない音で、今でもほかにはないものと思う」と語り、「こういう音を目指そうという人がいるというのは仲間を見つけたような感じがします」と照れ臭そうに語っていた。

デジタルハリウッド大学の杉山知之学長も挨拶 誕生日ということで黒川氏に花束が贈られた

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