パシフィコ横浜にて2015年8月26日から3日間に渡って開催された「CEDEC 2015」。本稿では27日に行われた「ゲームクリエイターのための出版入門―編集者が提案する技術知見の発信とマネタイズ」の模様をレポートする。

このセッションはゲーム開発本の出版を手がけている出版社6社の編集者が、ゲーム開発本の出版状況や将来の展望などをテーマにディスカッションを行うというもの。パネラー陣は秀和システムの石原雅樹氏、ボーンデジタルの加藤諒氏、筑摩書房の小船井健一郎氏、技術評論社の馮富久氏、翔泳社の宮腰隆之氏、SBクリエイティブの品田洋介氏の6人で、同じくSBクリエイティブの三津田治夫氏が司会進行を務めた。

ゲーム開発本を出版すれば、どのくらい稼げるのか?

最初に、品田氏がゲーム開発本とはどのぐらい売れて、どの程度の収入になるのか、具体的な数字を交えながら紹介した。まず、プログラミングなどをテーマにしたゲーム開発関連本の価格帯や平均販売部数だが、定価は1500円~8000円で平均すると3000円くらい、初版部数の平均は3000部程度で5000部売れればよいほうだという。もちろん、もっと売れる場合もあるが、10000~15000部売れれば大ヒットとされる世界で、かなりニッチなジャンルと言えるだろう。

司会進行を務めたSBクリエイティブの SBクリエイティブの品田洋介氏
三津田治夫氏

では、著者の収入はどのくらいになるのか。著者への報酬は基本的に印税で支払われており、価格3,000円の本が初刷3,000部だった場合、著者印税率を平均的な8%とすると報酬は72万円。高額の専門的な書籍を部数や印税を絞って出版する場合の報酬は84万円くらいだという。もちろん、出版社によっては実売数をもとに計算したり、部数に関係なく買い取り(増刷がかかった場合、すべて出版社の収入となる)という形で支払ったりと、いろいろな形があるのだが、基本的にはこの72万~84万円というのが、ゲーム開発本を1冊出した場合の印税モデルケースとなっているそうだ。

もちろん、報酬はこれだけではなく、書籍の場合は「増刷(重版)で稼ぐ」というのが基本となっている。増刷とは初版の在庫がなくなって、さらに印刷をするということ。基本的にどの出版社でも、この増刷分が利益の源泉になっていて、増刷ができないと赤字になってしまうことが多いという。ゲーム関連本の場合、増刷数は1回に1,000~3,000部で、売行きにもよるが3~12月ごとに増刷をかけていくというのが一般的な形となっているそうだ。従って、価格3,000円の本を初版3,000部で4カ月ごとに1,000部ずつ増刷をかけたとすると、1年で約160万円の収入となる。ただし、これは理想的なケースで、このように順調に増刷がかかることはさほど多くないようで、印刷したものの半分廃棄となったり、増刷した直後から突然売れなくなったりすることも珍しくないそうだ。

具体的な事例もいくつも紹介された。CEDEC Awards 2009の著述賞を受賞した「ゲームプラグラマになる前に覚えておきたい技術」(平山尚著)は、編集を担当した石原氏によると4,500円と高額ながら累計30,000部を超えているそうで、書店での販売数がもっとも多く、メインの購買層は学生とのことだ。本作がこれほど売れた理由について、石原氏は「これはあくまで例外中の例外」と前置きしつつ、「著者である平山さんの“教えたい”という情熱ですね。この本は870ページくらいなんですが、3回ほど書き直されていて、完成まで1年くらいかかっています。それだけのパワーと労力をかけたこと大きかったと思います」と分析した。

もうひとつの事例は、CEDEC Awards 2010の著述賞受賞作である「Game Programming Gems」シリーズ(全8巻)。各巻10,000円超とかなり高額だが、本作の編集を担当した加藤氏によると、全巻合計で累計部数は15,000部と、かなり売れていうもようだ。ただ、その大部分は1巻の販売数で、最終の8巻は3ケタ中盤くらいだという。また、本作のような翻訳書の場合は当然のことだが、かなり翻訳料がかかる。特に、こうした専門書は専門家に翻訳を頼むのが難しく、悩みの種になっていたそうだ。

秀和システムの石原雅樹氏 ボーンデジタルの加藤諒氏

ここで品田氏が「3部作計画」というものを紹介。品田氏は著者によく「5年で3冊書いておけば楽ができますよ」と提案しているそうで、そうすれば新刊と増刷を繰り返すことで、ある程度の収入が見込めるという。そのあとは3年ごとに改訂していくだけで、内容のクオリティが上がり、同時にシリーズとしてのグレードも上がっていくので、「うまくいけば10年くらい食べていけます」とのことだ。プログラマーは完全主義者が多く、完璧に仕上げないと本を出さないという人が多いそうだが、これらを踏まえて、品田氏は「ある程度の段階で一度出版して、フィードバックを得て内容を改訂していくという形もよいのでは」と述べた。

ちなみに最近の売れ筋だが、やはりゲームエンジンの「Unity」を扱ったものが人気で、確実に10,000部前後は売れるそうだ。ただ、すでにレッドオーシャン化していて、そろそろ切り口を変える必要もあるだろうと品田氏は現状を語った。ゲームデザインに関するものは数が少ないものの、宮腰氏によると最近はゲームプランニングの本などが注目されているという。最近話題の「Unreal Engine4」については、石原氏いわく「Unityほどではなく、これからというのが正直なところ」とのことだが、最近は変わってきているとも語っており、おすすめの題材と言えるかもしれない。

2009年に新設されたCEDEC Awards著述賞受賞作についても言及された。現在まで9組が受賞しているが、実は書店員などにはCEDECのことがあまり知られておらず、宣伝効果はさほど高くないそうだ。そのため、受賞作が必ずしも売れるわけではなく、赤字となっているタイトルもあると品田氏は語った。しかし、この賞を作ったことによって、「本を書きたい」という開発者がすごく増えたことも事実で、ゲーム開発者の情報発信・共有に与えた影響は非常に大きいという。また、著者が受賞を目標にするなどモチベーションの維持にも役立っているそうだ。

編集者たちが、これからのゲーム開発本に求めるものとは?

次のテーマは電子書籍なども含めたゲーム開発本の未来について。まず、個人や企業が「情報発信」するとで、どのようなメリットがあるかだが、技術評論社の電子出版事業全般の統括を行っている馮氏は、個人の場合は金銭のほか、自身のプレゼンスを上げることにつながるというメリットがあると説明。さらに、企業の場合は人材確保につながるという面もあるのではと推測した。もっとも副作用もあって、例えばネット上で「炎上」などが起きた場合、どのように鎮静化するかということも考えておく必要があると釘をさした。

「炎上のようなことが起きないようにコントロールすることも、これからの編集者には求められるのでは?」という三津田氏の問いに、馮氏は基本的には同意しつつ、現在では誰でも簡単に情報発信できることを踏まえ、「編集を通さずに自分ですべてやってみてもいいのでは」と提案。ただ、編集がいたほうがコンテンツとしての品質の担保やスケジュールの管理を任せられるといったメリットがあるとも述べた。

筑摩書房webちくまの編集長である小船井氏も担当している著者が、小説家、思想家、大学教授などで「わがままな方が多いので(笑)、締切りを守るためのゲートキーパーとなることも編集の役割かなと思っています」と馮氏に同意。ちなみに、大学教授のような人にとって、学術本を出すことは自身のバリューを上げることにつながるメリットもあり、「自身の成果を問う手段として心に留めておいてもらえれば」と三津田氏は語った。

技術評論社の馮富久氏 筑摩書房の小船井健一郎氏

翔泳社の宮腰氏はインディーのエンジニアなどを著者に起用しており、App Storeで面白いアプリを探して、自分から積極的にアプローチしているそうだ。もちろん、大手ゲーム会社の開発者に頼むことも多いが、宮腰氏自身はインディーに注目していて、世界に向けてゲームを開発しようという若い人たちに「アプリの評価を上げる手段として本を使ってもらうというのもありなんじゃないか」と呼びかけた。

翔泳社の宮腰隆之氏

「どうしたら著者になれるのか?」だが、「出版社のブランドというのはやっぱりあって、弊社であれば技術者に向けた何かを出したいというとき、最初の選択肢にしてもらいたいし、そのために作っている部分があります」という馮氏の言葉を受け、三津田氏も「商業出版のレールに乗ってくれるというのが、著者の定義のひとつではないか」と出版社を組むのが近道であると強調。また、馮氏は「紙の本を売るなら出版社を通して出すのが一番早い」と、メリットの部分も上げた。

小船井氏は「出版社はどこでも著者を欲しがっているので、面白ければ誰でもなれる」と考えていて、そうした人と一緒にテーマを掘り下げ、社会に訴えかけていければと希望を述べた。宮腰氏はワクワクするアプリを作ったり、ブログを書いたりしている人と組んでみたいそうで、「ほかの人とは違う視点を持っている方、ゲームの作り方をしている方、成果物に光るもののある方が目に留まりやすい」とのことだ。また、馮氏は「難しいですが、誰もやっていないものをテーマにできれば」と、オリジナリティの重要性も挙げていた。

ここで、三津田氏が電子メディアの可能性について希望的観測を述べたが、馮氏は「電子書籍はまだWebに近いもので、8000円という価格を付けたら売れないと思います」と値付けの部分で難点があると反論、分割して1冊あたりの単価を下げるなどの対応が必要と語った。さらに、ネットは情報の劣化が早いため、アップデートのタイミングの判断が紙の本以上にシビアになることも認識しておく必要あるという。

最後のテーマは「編集者の目に留まるには」というもの。宮腰氏は改めてオリジナリティの重要性を述べ、ある著者から聞いた「ひとつの大きな売り、柱を立てれば目に留まりやすいので、そこに到達するための方法を考えていくことで、ほかの人がマネをできない情報を出せるのではないか」という話を紹介した。もっとも目立つだけではダメで、馮氏はブログを毎日アップするなど、継続して何かをアウトプットし続けることが大事とコメント。さらに、「出版屋は年齢層が高いので、若い人たちの情報がまとまっているとなお良い」と語り、一例として人気の「マインクラフト」を挙げた。

小船井氏は「編集者は読者の代理人」なので、「読者に何を届けたいかという、ホスピタリティのある企画が目に留まりやすい」とコメント。さらに、著者は自分の書きたいものだけ書こうとしがちなので、「誰にどういう形で届けたいのかという部分でサポートするのが編集者の仕事」であると自戒を込めて語った。

最後に三津田氏は「やってみたい企画」を質問。宮腰氏は「デザイナーがプログラムを学ぶケースが増えてきているので、来年はデザイナー目線のものづくりやアプリづくりの解説書をやってみたい」と回答。馮氏は電子書籍のコンテンツを増やしていきたいと述べると同時に、「ゲームと連動した何かを電子書籍でやってみたいですね。昔のアドベンチャーゲームブックみたいなものを新しい形のエンタテインメントとして提供できるんじゃないかと考えています」と意欲を見せた。

小船井氏は「社会的にヘンなことをやっている人、面白いことをやっている若い人たちの本を出したい」そうで、「AIだったりVRだったり、ゲームの枠を超えていろいろなことをやっているなと思ったので、そういう新しいコンセプトを作れる人が面白いのでは」と期待を述べた。

来場者からの質疑応答では、「技術の話は大幅なバージョンアップやパラダイムの変化が起きるとすぐに陳腐化してしまうが、そうしたことにはどう対応しているか?」という興味深い質問が出された。石原氏は「改訂していくしかない」と答えると同時に、企画を立てるにあたって「陳腐化しない本質的な部分」を見つけ出していくことが重要と語った。

加藤氏は「基本的な操作はバージョンによって変わります」と本に注釈を入れて、あとは普遍的な内容にしておけば、3年くらいは改訂しなくても問題はないと回答。ただし、これは中・上級者向けの話で、操作方法を順番に紹介していくような初心者向けの本の場合は、毎年くらいのレベルで改訂していく必要があるとのことだ。

こうしたバージョン関係では苦労したことはないという品田氏だが、3年前にバンダイナムコの湊和久氏からUnreal Engineの企画が持ち込まれた際、売れないと判断して断わってしまったという話を披露。その後、ボーンデジタル社で出版された湊氏の本は、直後にUnreal Engine4が無料化されたためにバカ売れし、品田氏にとって痛恨の出来事となったという。このとき「開発者のほうが、先見性がある」と感じたそうで、逆にそのような先見性をどうやったら身につけられるのかと尋ねていた。

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