東京ゲームショウ2015が開幕した9月17日に、ソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ プレジデント 吉田修平氏にPS4の現状やPS VRについてインタビューを行った。
――先日のプレスカンファレンスで多数の国内タイトルが発表されましたが、国内のPS4の勢いについて教えて下さい。
吉田氏:今年の春商戦、「ドラゴンクエストヒーローズ」「龍が如く0」「ゴッドイーター2 レイジバースト」「Bloodborne」など、日本のタイトルが一気にリリースされたことでベースの売上が一気に上がりました。その後も「ウィッチャー3」や「バットマン:アーカム・ナイト」など海外のクオリティの高いタイトルがリリースされていて、海外ゲームのファンが徐々に増えつつあると感じています。
そして、ここにきて「METAL GEAR SOLID V」がもの凄いクオリティで、私も過去最高のメタルギアだと思っています。非常に上向きです。盛田(SCEJA プレジデントの盛田厚氏)も言っていましたが、日本のユーザーが好きな日本のパブリッシャーのタイトルで、2016年に発売されるタイトルだけで何タイトルあるんだ、という状況の中で値下げする。ユーザーの皆さんが欲しいと思ったタイミングにあわせてハードの値下げや施策を打ち、そこでさらに一段上にあげようという狙いがあります。
――PS4の値下げについて、目標などは?
吉田氏:具体的な数字は出せませんが、PS3を所持しているコアユーザーさんだけではなく、昔PlayStationを遊んでいた人にも、技術的にも発想的にもすごい今のゲームの楽しさを継続的に訴えていくための第一弾です。値段を下げるのは、年末年始でタイトルが出てきた時に背中を押す意味があります。キャンペーンとしてはもう少し先まで考えていて、もう一度ゲームを遊ぶ楽しさや、PS VRを含めてPS4で楽しめるゲーム体験の楽しさを訴えていきたいです。
――日本のPS4の普及はこれからが本番ですね。
吉田氏:1年遅れになっていますが、去年のカンファレンスの時は、「ドラゴンクエストヒーローズ」などの発表があったものの、欧米のパブリッシャーはすでにPS4の世代に移ってきていました。タイトルによっては、前の世代を切り捨ててPC/PS4/Xbox Oneだけで出すといったかんじです。
それから1年経ち、欧米のパブリッシャーのようにPS4を中心に展開するタイトルが増えてきたと思います。今回数字でも出ていますが、「METAL GEAR SOLID V: The Phantom Pain」の売上がPS4版とPS3版でかなり違います。「龍が如く0」や「ドラゴンクエストヒーローズ」など今年の春の段階では同じくらいだったんです。明らかにPS4にシフトしてきており、ビジネス面においてもPS4に向けてやっていいんだなと日本のパブリッシャーさんが感じているのだと思います。
――発表されたタイトルで個人的に楽しみにしているものは?
吉田氏:自社のタイトルはすべて楽しみにしています。他社さんで言えば「仁王」がすごそうだなと感じました。最初は侍の部分だけだったので、鬼武者のようなゲームかなと思っていたら、いきなりガーンと和風の鬼のようなものが出てきて、シブサワさんが嬉しそうに「これ死にゲーなんですよ」と言ってたりね(笑)。私はソウルシリーズが大好きなので、これは楽しみだと思いました。
あとは、「ドラゴンクエストビルダーズ」ですね。あれは、幅広いユーザーさんにウケそうですね。日本ではPS Vitaが「Minecraft」のユーザーさんに普及してきているので、それに続いてPS VitaとPS4にユーザーを連れて来てくれるのではないかと思えるタイトルです。アトラスさんが発表した「十三機兵防衛圏」が凄く気になりますね。
――「Bloodborne The Old Hunters」も楽しみですね。
吉田氏:コンテンツの量がすごいですよ。分割して出すという話もあったのですが、1回にまとめた方が良い物ができると言われて、それでいくことにしました。エリアも多いですし、武器もとても増えていますよ。
――先日のカンファレンスでは「グラビティデイズ」へのフューチャーが印象的でしたが、今後は主力タイトルとして扱われるのでしょうか?
吉田氏:ジャパンスタジオは我々のスタジオの中でもユニークな存在で、日本のユーザーさんは日本のデベロッパーが作るゲームが好きだというなかなか変えられない事実があるんです。もちろん海外のゲームもクオリティが高いので増えていますが、日本のユーザーに向けてカルチャーの面でささるゲームを作れるのは日本のスタジオだろうと。ジャパンスタジオは、そういう独自のミッションを担っています。
日本のパブリッシャーとしては、海外の市場が大きいですし、相対的に小さい日本の市場で、日本向けのタイトルをPS4で作るというのがビジネスとして成り立つのか疑問になります。我々はプラットフォームホルダーなので、採算を度外視して作るということもできますが、それではクリエイターは元気も出ません。多くの人に遊んで欲しいですからね。
日本向けに作られたゲームが海外でもウケる現状があります。日本のクリエイターが海外向けとして作っているタイトルが海外でウケにくくて、日本のユーザーのことだけを考えて作られたゲームが支持されている。大きなヒットにはなりませんが、確実に日本のコンテンツを好むユーザーが増えています。今回も「ペルソナ5」の続報がなかったとか、「ダンガンロンパV3」が出たとか、海外のユーザーさんが言ってくれているんです。
PS4でゲームを作るにはお金がかかりますが、日本市場向けに作ることで日本市場だけでリクープしなくてもビジネスとして成り立つことが見えてきています。ジャパンスタジオの「みんなのGOLF」や「グラビティデイズ」などは日本・アジア市場を第一に考えてやっていくシリーズとして力を入れています。だからこそ「グラビティデイズ2」を海外でも出してほしいと、海外のユーザーさんが言ってくれています。まだ、海外向けの発表はしていませんからね。
――Project Morpheusの製品名がPlayStation VRに決定しましたが、商品化に向けた第一歩でしょうか?
吉田氏:MorpheusもOculusさんも注目されていまいますし、このまま進んでしまうとProject Morpheusの名前が浸透してしまうので、名前に関しては先に言ってしまおうと思いました。発売日や価格、タイトルラインナップはもう少し時間をかけないとわかりませんが、名前に関してはPlayStation VRに決定したので先に言うことにしました。
名前に関して言うと、MorpheusはVRなどを好む人にはよく分かる名前で、Morpheusの開発チームがつけた名前なんです。しかし、一般の方に向けて見せる時には、ちょっとわかりにくい名前で伝わりにくいんです。PlayStationはゲーム機やエンターテインメントだと浸透していますし、最近話題になっているVRがPlayStationにくるんだなということが名前だけ想像することができます。社内で候補が出た時に、すぐに決まりましたね。
――出展タイトルはゲームよりは技術デモ的なものが多いようですが、ローンチ時はさまざまなゲームがでますか?
吉田氏:でると思います。今は日本の大手さんが作っていますね。海外はインディーがあります。日本はやりたいんだけど会社がウンと言ってくれなかったのが、ここにきてちょっとやってみようかなと考えてくれているようです。それで反応を見て良ければ商品化を考えましょうと踏み出して頂いています。
E3や去年の東京ゲームショウでは、プレイヤーさんがプレイするコンテンツを選択することができませんでしたが、今回予約システムを工夫しました。「ダンガンロンパ」や「ファイナルファンタジーXIV」、「初音ミク」といった固定ファンの多いコンテンツをファンが遊ぶと全然違うんです。この前、「初音ミク」のイベントで展示した時も体験して「買います!」と言う人もいましたね。普段コンテンツに触れている人に体験してもらい、その体験を他の人に伝えて欲しいです。
――中国市場が開放されたことはPS VRにとっても大きなことではないでしょうか?
吉田氏:中国のChinaJoyや台湾にいってデベロッパーさんと話していたら、すごくVRに興味があって、すでにOculus向けに作っているような人たちがいらっしゃるんです。PlayStationのゲームでアジア発はなかったのですが、ここにきて作れるようになってきています。
世界で普及台数の多いPS4でアジアのデベロッパーがタイトルをリリースするのはチャンスなんです。最初から多くのPS VRタイトルは出ないと思いますが、そんな中で、デベロッパーとしてあまり知られていない自分たちでもテーマをうまく選べば注目されます。
今回は出展していませんが、「ヘッドマスター」というサッカーのヘディングをするゲームがあります。ボールが飛んできたらヘディングをする、どこの国の誰でもわかるんです。あのようなテーマを選んで作れば、今からでもローンチに間に合います。そのうちアジア発のPS VRタイトルのデモが出てくると思います。
中国のデベロッパーさんはモバイルで儲けていてお金を持っているんです。30代の経営者が多く、子供の頃はPlayStationで遊んで育って、これまではPCとモバイルしか市場がなかったところ、これからはやっとPlayStationのゲームを作れますと言ってくれていますよ。
――中国のユーザーは日本のコンテンツが好きですよね。
吉田氏:ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンもアジアと合併しました。日本市場というよりは、日本とアジア市場と考えるようになっています。今年の「龍が如く0」を中国語にローカライズして発売したら売上がぐんと上ったんです。スクウェア・エニックスさんも「ファイナルファンタジー」をローカライズしていて、ローカライズすると売れるんだということがわかり、しかもPS4であれば無視できない数がアジアで売れるんです。
昨日もアジア向けのカンファレンスがありましたが、韓国語・中国語すべてに対応する日本のパブリッシャーのタイトルが多かったです。アジア市場は無視できないし、ユーザーの好みからいっても、日本と欧米のタイトル、どちらも売れるので非常に良い市場です。今はコピー品が無いですから、ソフトが売れる市場になっています。コピー品を買うことが良くないことであるという認識もできつつあります。
――PS VRに関して製品名以外にも、価格や発売日の発表があるかと期待していましたが。
吉田氏:発売日は2016年上半期で変わっていません。
――価格については本体よりは高くしたくないという話がありました。
吉田氏:アンディ社長(SCE 代表取締役社長 兼 グローバルCEOのアンドリュー・ハウス氏)が言われていたことがありましたね。私は言ってないですよ(笑)。
ハードの開発はほとんど終わっていて、システムソフトの開発をがんばっているところです。実は今回、スペックリストをアップデートしていて、90ヘルツを追加しています。デベロッパーから90ネイティブが欲しいと言われ、それに応えました。90ネイティブだと結構いいんです。セガさんの「初音ミク」がそうなのですが、90ネイティブで非常に綺麗な映像が出ています。まだ、お見せできていませんが、PS VRを繋いでPS4を立ち上げたら何が見えるかや、VR専用のコンテンツ以外に何に使えるのかを発売までにお見せできる機会を作りたいです。
――PS Nowの反響は?
吉田氏:社内でも盛り上がってますよ。1日後の段階では技術的な問題は何もないです。ベータの段階から、ユーザー体験としては評価を頂いていました。唯一心配だったのはWi-Fi環境です。日本ではPS Vitaユーザーさんが多いので、通信が途切れたという報告があり、古いホームルーターを新しい物に変えると改善するということがありました。各ユーザーによって環境が違うので不安だったのですが、ユーザーさんからの問い合わせもそれほど入っていません。いろんなタイトルをつまみ食いするように楽しんでいただいているようです。
もし、PS Vitaユーザーの方でパフォーマンスが出ていない方は、ルーターが古くないかを気にしてみてください。
PS VitaのユーザーさんにとってはPS3の150タイトルが遊べることになるのでインパクトは大きいですね。まだ、ベータいうことで続けますので、ユーザーの反応を見ながらサービスを良くしていきたいです。
――ありがとうございました。