ネクソンから配信中の3Dパズルアクション「アフター・ジ・エンド:忘れられた運命」とレトロ風2Dアクション「エビルファクトリー」。この両作のプロデューサーにインタビューする機会が得られたので、その内容をお届けする。
「アフター・ジ・エンド」:入れたかったギミックはすべて入れました
「アフター・ジ・エンド:忘れられた運命」は、とある星の古代遺跡を舞台にしたパズルアクションゲームだ。3Dで描かれた立体ステージの内部にはさまざまなギミックが仕掛けられており、プレイヤーはキャラクターやカメラを操作しながらこれらのギミックを解き明かしていくこととなる。“novel team”と名付けられた総勢6人の小規模チームで作り上げたという本作の魅力について、チームリーダーでプロデューサーのパク・ジェウン氏にお話をうかがった。
――まず、クリエイターとしてのキャリアをお聞かせ下さい。
パク氏:以前はプログラマーとしてモバイルゲームの開発に携わっていました。プロデューサーとしては「アフター・ジ・エンド」が初めての作品になります。
――本作は「3Dパズルアクション」と銘打たれていますが、そういったゲームを作ろうと思い立った経緯を聞かせてもらえますか?
パク氏:社内でふたつのタイトルを制作することが決定しまして、ひとつは2Dのアクションゲームで「エビルファクトリー」。もうひとつは3Dのパズルとジャンルだけは最初から決まっていたんです。私はパズルゲームを制作したことはなかったのですが、今回の仕事に関わることで初めての経験をすることができました。
――開発がスタートした時点でゲームの企画的なものはある程度固まっていたということでしょうか。
パク氏:いえ、そこまでではなかったです。「3Dパズルゲーム」というざっくりとしたコンセプトがあって、そこからディテールを組み上げていきました。
――ゲームの舞台は古代遺跡ということでよいのでしょうか?
パク氏:そうですね。地球とは別の星の古代の遺跡です。石器時代のように石を使っていますが機械仕掛けもあったりとか、地球とは違う歴史を持った世界という舞台設定になっています。
――なぜ、そのような世界を舞台にしようと思われたのでしょうか。何か参考にされたりインスピレーションを受けたりした作品はありましたか?
パク氏:特定のタイトルというものはなく、映画とかドラマとか短編の3Dアニメーションとか、そういったいろいろなものからインスピレーションを受けています。ただ、既存のゲームとはまったく違うことをやろうというのが最初にありました。それで、プロトタイプのゲームを作ったのですが、砂漠のステージがいい雰囲気だったのでそこから広げようということになって、現在のような砂漠の中の廃れた遺跡という設定になったんです。
――視点を動かしたりギミックを動かしたりしながら進んでいくわけですが、そういった仕掛けを考える上で気をつけたことを教えていただけますか?
パク氏:視点にはすごく気を配りました。キャラクターを中央にもってくるのか、ステージ全体を映すのか。もっとも見やすくなるように、かなり気をつけてチューニングしました。
――なるほど、カメラワークに特に気を使われたわけですね。
パク氏:そうですね。ギミック部分の制作では「制限を設けない」ということを念頭に置いていました。モノや仕掛けを動かすというだけではなく、ほかにもいろいろなものを入れようと。音ゲーのようなリズムパズルが登場するのもその一環です。それと、ストーリーをどう見せていくか。どこまでは隠して、どこまでを露わにするかという部分もかなり気を配りました。
――ということは、ストーリーに何か隠された謎があって、ゲームを進めていくことでそれが明らかになっていくわけですか?
パク氏:はい。ただ、直接表現するのはできるだけ控えていて、ほのめかすと言いましょうか……伏線のようなものを入れることで、ユーザーの皆さんがいろいろ推理できるようにしています。
――操作キャラクターである主人公の動きがユニークで面白いですが、あのようなキャラクターにした理由を教えていただけますか。
パク氏:キャラクターの設定はいろいろ試行錯誤しました。最初は原始部族のようなキャラクターを考えていたのですが、もっとシンプルながら特徴のあるキャラクターを作ろうということになりまして。口が見えないので、目だけで表情が分かるようにということを意識して設定しました。
――ヒラヒラとした腕の動きは特に面白いと感じました。
パク氏:実はああいった動きが一番効率的なんです。アクションの部分は特に重要視していて、キャラクターのモデルを制作したスタッフがすごく気をつけて作ってくれました。
――キャラクターの操作の部分で特に気をつけたことは何でしょう。
パク:キャラクターのスピードですね。最初は今の1.5倍くらいの速さだったのですが、そうすることによってストレスを感じるというか、意図しないところでステージから転落してまったり、自分がどこにいるのか分からなったりしたので今のスピードに抑えました。
――遅すぎるとそれはそれでストレスがたまるので、加減が難しかったと思います。
パク:そうですね。そこは特に気にした部分でしたし、個人的にはいい感じにチューニングできたと思っています。
――では、視点操作の部分ではどうでしょう。かなりストレスなく動かせると感心したのですが。
パク:カメラの角度という部分を特に気をつけていて、ステージごとに細かくチューニングしました。もうひとつ気を配ったのがカメラの動き方です。カメラの距離が最適になるよう、上から見る視点になったときはカメラが遠ざかってステージを俯瞰できるようにして、視点を下げるとキャラクターに集中するようにしました。楕円型にカメラが動くようなイメージですね。
――入れたかったけど入れられなかった仕掛けやギミックなどはありますか?
パク氏:いえ、入れたかったものは全部入れました。スマートフォンのカメラを手で隠すと画面が暗くなったりとか、本体を揺らすとゲーム内も揺れたりとか、物理的な環境の問題で入れられなかったアイディアはありますが、現在の環境でできるもので入れたかったものは全部入っています。
――本作が有料配信になった経緯を教えていただけますか?
パク氏:制作段階では有料か無料か特に決めてはいませんでしたが、最初は無料ゲームになるだろうと思って作っていました。でも、内部の会議などで「このゲームは有料にしてもいいのではないか」という話が出てきまして。もちろん、そこには私自身の意思もありましたが、最終的には皆で話し合って有料でいこうということになりました。
――有料のほうがいいと考えるにいたった決め手は何だったのでしょうか?
パク氏:やはりストーリーがあるということです。課金になる要素もほとんどないですからね。もちろん、残機やヒントなどを課金にするという方法もありましたが、「それはちょっと」と思いましたね。
――ちなみに、失敗したときやり直せる回数はどのようにして決められたのでしょうか。
パク氏:最初は10回くらいと考えていたのですが、内部テストを進める過程で「ちょっと少ない」という話になって20回にしました。また、残機が減ったとしてもミニゲームなどで復活できるので、そうした部分でプレイヤーに与えるストレスはほとんどないと思います。
――なるほど、分かりました。それでは恒例になりますが、最後にファンへのメッセージをお願いします。
パク:日本のユーザーさんからの反応も思った以上に良くて、ありがたいと思っています。このゲームは今日エンディングを見ないといけないというものではないので、ゆっくりと楽しんでいただきたいですね。
――ありがとうございました。
「エビルファクトリー」:レトロゲームのボス戦の面白さを伝えたい
敵の秘密基地に潜入し、巨大なボスモンスターたちと1対1で戦う2Dの縦スクロールアクションゲーム「エビルファクトリー」。2Dのドット絵のグラフィックやシューティングゲームの「弾幕」を思わせる敵の攻撃など、80年代レトロゲームを思わせる雰囲気やプレイ感覚が魅力だ。繰り返し敵に挑んで攻略法を見つけ出していくバトルもシンプルながら歯応えがあり、かつてのアーケードやファミコンゲームを彷彿とさせる。なぜこのような作品をモバイルで作ろうと思ったのか。プロデューサーのファン・ジェホ氏にお話を聞いた。
――本作「エビルファクトリー」がゲームクリエイターとしての最初の作品になるのでしょうか?
ファン氏:はい、もともとはネクソンでパソコンゲームの海外バージョンの運営を担当していましたが、そのあとアプリの制作会社に移りました。Kポップのアプリなどを作ったのですが、日本で意外と人気が出て100万ダウンロードを記録したりしました。ただ、もともとゲームが好きで、モバイルゲームを作ってみたいと思うようになりまして、Neopleに入ったんです。
――先ほど「アフター・ジ・エンド」のパクさんから、社内で2Dアクションと3Dパズルをそれぞれ制作することが決まったというお話がありましたが(上述のパク氏のインタビューを参照)、その段階でゲームの内容はどの程度固まっていたのでしょうか。
ファン氏:いえ、ほとんど決まってはいなかったです。最初は怪獣を操作して都会を壊していくゲームだったんですよ。でも、怪獣が強すぎて、あまり面白くなかったんです。なので、逆に主人公を弱くしてみようと考えたんです。だから「エビルファクトリー」の主人公はHPがなくて1発で死んでしまうようになっています。
――真逆といいますか、初期の構想からかなり変わったんですね。
ファン氏:確かにゲームの中身は全然違いますけど、僕の中では主人公が怪獣をやっつける方になったというだけで、実はそんなに大きく変わったと思ってはいないんですよ。
――レトロゲームっぽくした理由を教えて下さい。もともとドット絵の2Dゲームがお好きだったのでしょうか?
ファン氏:レトロ風と評価してくださる声が多くて、それはそれでありがたいのですがレトロを目的にしていたわけではありません。僕はファミリーコンピューターの時代からずっとボス戦が一番面白いと思っていて、それをモバイゲームで作ってみたいという思いが最初にあったんです。それには、やっぱり2Dのドット絵が適しているんじゃないのかなと思って現在のような形にしたわけで、最初からレトロありきだったわけではないんです。
――ファミコンゲームを遊ばれていたんですか。ちなみに、どのようなタイトルがお好きだったのでしょうか?
ファン氏:僕が最初に遊んだゲームは「グラディウス」なんです。「ゼルダ」とか「メトロイド」なども好きで、そういったゲームの持つ緊張感を取り戻したいというのもありましたね。
今どきのゲームってガチャとか自動プレイが基本になっているじゃないですか。それはそれで面白いですしモバイルゲームに適したひとつの形だと思いますが、僕がファミコン時代にしたような体験をもっとみんなに伝えたくて、それも「エビルファクトリー」制作のきっかけになりました。
――指を画面から離すとスローモーションになる「バレットタイム」を導入した理由を聞かせてください。
ファン氏:モバイルをタテに持ってプレイしていると、指が上がっていって離したくなることがあるんですね。でも、手を離したときに弾幕がくると絶対に死んでしまいます。そこで、手を離したらスローになって弾幕のパターンを見られるようにしようと。これなら余裕が生まれてストレスを緩和できますからね。
――確かに、いざというとき手を離しても大丈夫というのは心理的に大きいですね。
ファン氏:バレットタイムはあまり使えないという声も一部にあるんですが、実際になくなるとすごくストレスがたまってしまうんですよ。特に後半はすごい弾幕を出してくる敵が登場しますから、そういったストレスを少し緩められたらというのもありました。
――システム面でそのほかにこだわった部分はありますか?
ファン氏:操作の部分はすごく気を配っていて、特にキャラクターの移動速度は100回以上チューニングしました。速すぎると緊張感が出ず、遅すぎるとストレスがたまるので最適なスピードを探すのに苦労しました。
あと、内部ではiPhoneでテストしていたんですが、Androidになるとデバイスのサイズや感度が違うので、パッドの位置や感度などをエディットできるようにしました。これで操作に関する不満をある程度減らすことができましたね。
――ストーリーに部分について聞かせて下さい。ナビゲート役のユイとの掛け合いがユルくてハードなSF設定との落差がすごいですが。
ファン氏:僕は「メタルギア」シリーズがすごく好きで、だからこのゲームも敵基地に潜入するというストーリーにしたんです。ユイとの掛け合いも同じで、「メタルギア」での無線のやり取りを意識したのですが、あまり重い雰囲気にしてしまったらゲームに入り込みにくくなるかなと思い、緊張感をゆるめるためにダジャレ風の会話にしました。ただ、ハングルではすごく面白かったんですけど、それがほかの言語で伝わるかという不安はありましたね。
――初期の開発段階から他国での展開を視野にセリフ回しを考えられたということですか?
ファン氏:はい。だから、韓国でしか伝わらないような冗談は入れないようにしました。僕は日本語が少しできますから、日本向けに関しては自分で見て確認するようにしていました。例えば日本語の場合、最初の翻訳ではユイがオバサンのような言葉使いをしていたんですよ(笑)。それで、もっと若い人が話しているように自分で直したんです。
――最初からいろいろな国でリリースするとなると、そういった部分での大変さがあるんですね。
ファン氏:9ヶ国にローカライズしましたからね。もちろん、ほかの言語もできる限りチェックしていますが、やはり十分に見ることができなかった部分はあります。ただ、レビューを見るとフランスやポルトガルなどでも意外とストーリーが面白いと言ってくれていて良かったです。
――いろいろな敵キャラクターと1対1で戦うことになりますが、敵の能力をカスタマイズする上で特に気をつけたことは何でしょう。
ファン氏:能力をどう差別化するかという部分ですね。昔のゲームもそうですが、今戦ったボスと次のボスの動きのパターンが同じだと、すぐに冷めちゃうじゃないですか。難易度も前のステージよりちょっと上げないとダメですが、どんどん上げていくと難しくなりすぎてストレスが溜まってしまいます。だから、ときどき難易度をゆるめているのですが、そのあたりの加減も苦労しました。いかにスキを作るかという部分も気を使いましたね。
いきなり何の予告もなく攻撃されると、プレイヤーのチャレンジしようという意欲を削いでしまいます。ですから、基本的に敵は何らかの動作をしてから攻撃をするようにして、すごい攻撃を繰り出したあとは疲れた感じにするなど、スキを作るように心がけています。そうすれば「ここは逃げる」「今、攻撃のチャンス」と思えますからね。
――スキの見せ方もいろいろなパターンを考えなければいけないわけですね。
ファン氏:そうしたパターンをプレイヤーに読んでほしいので、あえてランダム性は入れないようにしました。何回も死ぬうちに「ああ、こういうパターンなんだな」と分かるようにしたかったんです。読みにくいけど繰り返しプレイすれば、いつかはそうした攻撃パターンが読めるようにする。その部分のバランス調整もすごく大変でした。
――この先、DLCなどで新たな敵を登場させるということは考えられていますか?
ファン氏:エンディングが決まっているので、ストーリーに敵を追加するという形は今のところ考えていません。ただ、週末になるとスペシャルボスステージがオープンして、ストーリーには登場しない敵とのバトルを楽しめるようにしてあります。「アラド戦記」の敵ボスなども登場したんですよ。
――では、今後ネクソンのほかのゲームとのコラボもありうると。
ファン氏:はい。そういった他のゲームのキャラを爆弾で攻略するというのも面白いと思うので、ぜひ何かやりたいですね。
――日本でのこれまでの手応えはいかがですか?
ファン氏:日本のレトロアーケードゲームを意識したものなので、日本でもう少し人気になってほしいという部分は正直あります。ただ、ツイッターなどでの評判はすごく良くて、そこは素直にうれしかったですね。「日本の魂があるゲームを韓国で作るってすごいな」とか言ってもらえて感動しました。
――それはうれしかったでしょうね。では最後にファンへのメッセージをお願いします。
ファン氏:正直、今のトレンドとは反対を行っているゲームだと思います。先に進むにはスキルが必要とされる、いわゆる「死にゲー」ですから。ただ、それだけに達成感はどのゲームよりもすごいと思います。ぜひ、プレイしてそうした達成感を味わって下さい。
――ありがとうございました。