5月6日に大田区民ホール・アプリコにて開催される「東京ゲームタクト2017」出演者へのインタビューを、計5回にわたって掲載する。第1弾は音楽監督・坂本英城氏、指揮者・後藤正樹氏。
2014年に作曲家の坂本英城(ノイジークローク)を音楽監督、指揮者の後藤正樹を総合ディレクターに迎えて開催された「沖縄ゲームタクト2014」。日本を代表する20名以上のゲーム音楽作曲家・アーティストが沖縄へと集まり、コンサートやライブ、講演会などが行なわれた。
その「ゲームタクト」が、今年はついに「東京ゲームタクト2017」として、2017年5月6日(土)大田区民ホール・アプリコにて開催される。この「東京ゲームタクト2017」に出演予定のアーティストらに、今回の「ゲームタクト」への意気込みなどを語ってもらった。第一弾は、音楽監督の坂本氏と指揮者の後藤氏のインタビューをお届けする。
坂本氏と後藤氏が考える「ゲームタクト」とは
――まずは「ゲームタクト」というコンサートについて、なぜこういったコンサートを開催されようと思ったのかをお願いいたします。
坂本氏:ゲームタクトのキャッチコピーが「みんな、ともだち」で、「みんなが主役の、まったく新しいゲームコンサート」というコンセプトがあります。
去年ゲーム音楽のコンサートは150回ほど行われたそうですが、ゲームタクトではそれらとは一線を画したものをやりたくて。ゲーム音楽を文化として後世に残すことが一番の大きなコンセプトです。
今のコンサートのやり方だとどうしても選曲が偏ってしまいます。人気があるゲームタイトルから選曲をしないとチケットが売れない状況を打開したい。音楽のないゲームはほとんどないですし、一本のゲームに収められている曲は何十曲とあるわけで、それだけたくさんのゲーム音楽が存在しているのに、ゲームが売れている、売れていないといった事情でせっかくの音楽があっさりと葬られているんです。
特にスマートフォンのゲーム音楽は、サービスが終わったらサントラでも出ていない限り聞く手段がなくなってしまっているんですよね。こういった音楽の浪費を何とかしたいと思い、最初のゲームタクトを2014年に企画しました。
他のイベントと一番違うのは、作り手が主体的に関わっている点です。作曲家が指揮をしたり、演奏をしたり、コーラスで歌ったり、半年間練習を重ねてきています。
例えば「この音はこれだけ伸ばします」とか、「どれだけの強さで音を出してください」といったことは作曲家の頭にしかないんですね。それを作曲家自身の言葉で直接演者に伝えて、それで出来上がったものが本物の音楽だと思うんです。
モーツァルトやバッハはもう亡くなっていて、彼らの思いを聞くことができないので、残された譜面をいろんな指揮者が解釈をして、恐らく作曲家はこういう意図で書いたんじゃないかと想像しながら演奏している。でもゲーム音楽は作曲家が生きています。その作曲家たちが、なぜ音楽が再出力されるところにまで責任を持たないのかと、僕は一人の作曲家として強く思っています。
――後藤さんはそういう思いを聞いた上で、指揮やディレクションをしているのでしょうか。
後藤氏:そうですね、僕は作曲家ではないので、演奏する場としてやっています。映画などの音楽とゲーム音楽はちょっと違っていて、ゲームは自分でプレイする分、自分の中に音楽が強く入り込んでくる感じがするんです。それをちゃんと演奏してお客さんに聞いてもらうメディアはないと思っています。
僕は教育系の会社の運営もしています。音楽教育という観点でもオーケストラは難しそうというイメージがあるんですが、オーケストラという媒体を使って音楽のすばらしさを伝えるときに、ゲーム音楽はすごく良いメディアであると感じています。
もちろん坂本さんがおっしゃったように、今生きている作曲家の中で演奏できるというのも、おもしろい企画だと思っています。指揮者からすると作曲家は神様なんですが、その神様に対して意見を言えるのはすごいことですね。昨日も神である谷岡(久美)さんに「ここにちょっとホルンを入れたほうがいいんじゃないでしょうか」と伝えましたが、そういったことがうれしいし、なかなかできないことですね。
坂本氏:今のゲーム音楽イベントには、クローズな部分があると思うんですよ。そのゲームを知らなければ聞きに行こうと思わないし、作曲家がいっぱいいると言われてもゲーム音楽に興味がない人はまず足を運ばない。ですので、もう一つの目的は、もっと一般的に開かれたものにするということです。
限られた人しか得られない情報源のところにアクセスして、そこでチケットを買うのではなく、子供からお年寄りまで聞いたことのある曲のコンサートがあるからと、ふらっと行ってみたらいつもプレイしているスマートフォンのゲームの曲が聴けたとか、作曲家がいて作曲のことを教えてもらえたとか。実はゲーム音楽や作曲家って身近なところにいて、皆さんと同じ目線でいろんな話ができるんだということを伝えていかないと、文化として残らないと思うんです。なので、今後もやろうと思っています。
後藤氏:ここに来るときっといろんな体験ができるという、ゲームを知らなくても来れる場にしたいですよね。
坂本氏:オリンピックの年を、ひとつの山として捉えています。世界中の目が日本に向いているタイミングで、日本の貴重なゲームという文化の音楽会、しかも作曲家がほとんど参加しているという、日本でしか絶対開催できないイベントの準備を、5年かけてやろうとしているというのに近いのかもしれません。
後藤氏:今回も、例えば一般的には植松(伸夫)さんだったら普通は「ファイナルファンタジー」だと思うんですが、あえて「アナタヲユルサナイ」というフォークソング的な曲が入っています。それは植松さんが、この曲が一番好きだとおっしゃっているからなんですが、そういう作曲家の方たちの本当に好きな曲を演奏するのがこの企画のおもしろいところですね。
坂本氏:そのためにはビジネスの仕方を変えなければならないんです。チケットを売るというやり方では限界があるし、それではチケットが売れません。来年以降のプランになりますが、安く売れる設定をして、たくさん人が集まってそこに協賛してくれる方を探すというビジネスモデルを作らないと、選曲にどうしても偏りが出てしまうんです。
とにかくすばらしいゲームの音楽が、皆さんの知らないところにたくさんあります。知らない曲を聴きにいくのも辛いことかもしれませんが、知っている曲につられてでもいいから来てもらう機会を作らないと、いつまでたっても同じプログラムのコンサートになってしまう。
それは作曲家からしてもすごく残念なことで、これだけたくさんいろんな曲を書いているのに、それがゲームの外に出ていかないのでは、誰も幸せにならないと思うんです。こういうところに果敢に切り込んでいこう、誰もやっていないことをやっていこう、という想いでやっています。うまくいったら世界中から注目される、大きなイベントにできるという自信があります。
――今回の選曲は、作曲家さんご自身がなさっているんですか?
坂本氏:いろんなケースがありますが、今回はそれが多かったと思います。これをやりたいという曲を出していただいたり、それではなくこちらをやってくださいと伝えたりして、整理していきました。作品も新旧織り交ぜて、「スペースハリアー」があったり「モンスターストライク」があったり、といったところにはすごく留意しました。
――オーケストラコンサートだけじゃなくトークショーがあったりするのも、ひとつの形の表れなのでしょうか?
坂本氏:そうですね。ゲーム音楽のすばらしさを伝える方法はいくつもあって、オーケストラにこだわる必要はまったくないと思うんです。バンドでもいいし、ギター1本でもいい。さっきも言いましたように作曲家本人の口からその曲について聞けるチャンスがあるわけで、どういう思いで作ったのか聞けたり、作品のバックステージをセッションで聞けたりということもやっていきたいんです。
せっかく大田区で開催するので、大田区の子供たちも一緒に演奏してもらいたいというのもありますね。参加型で、どんどん間口を広げて形にしていきたいんです。
今のゲーム音楽のイベントはふらっと行ける雰囲気ではないですし、すごくコアな人が集まっています。それはそれでもちろん必要なイベントなのですが、ゲームタクトが目指すのはそこじゃない。老若男女問わずふらっと来て、ゲームに興味のある人が行きやすくて心地が良い、そんなイベントにしたいんです。
後藤氏:オーケストラの文化に曲が終わったら拍手するというのがあるんですが、それを知らないで来ると場違いみたいになってしまう。そういうのを気にせずできる演奏会を開きたいんです。例えばスマートフォンを持ち込みOKにして、お客さんも参加できるような企画がしたいと思っています。ニコニコ動画みたいに弾幕を打ったりしてもいいかもしれないですし。余計な固定概念を取り去って、新たなゲーム音楽の形を作りたいです。
別に「ブラボー!」とか言わなくてもいいし、拍手を待たなくていいし、違う表現でお客さんと作曲家がコミニケーションできる場を作りたいですね。
坂本氏:他のゲーム音楽イベントの企画もあるけれど、クラシックとは一線を引いたイベントにしたいですね。毎日遊んでいるゲームの音楽の演奏会に、かしこまったスーツで来て本当に楽しめるのかという。普段家でゲームをしている格好でいいんです。お父さんやお母さんや家族みんなで来てもいい。
後藤氏:指揮者をやっていると、お客さんに背を向けているじゃないですか。なのでお客さんがちゃんと楽しんでいるのか心配になることがあります。指揮者側からお客さんの状況が見えるような感じにするとおもしろいですよね。会場のテンションゲージみたいなのがあって、それが指揮者から見える場所にあるとか。
坂本氏:盛り上がりゲージみたいな。オーディエンスも何かしなきゃという感じになりますよね。会場を一つにする施策です。そういうものを意識してやっていきたいなと思っています。
――参加型コンサートという構想が見えてきました。ありがとうございました。
“指揮者”坂本英城氏のコメント
私が指揮をする曲は、大ホールの昼公演で「文豪とアルケミスト」の同名タイトル曲と、「予言者育成学園 Fortune Tellers Academy」の主題曲でサラ・オレインさんがヴォーカルを務める“Glory”。夜公演では、「討鬼伝2」のラスボス曲“トキワノオロチ -時輪大蛇 -”、そして「TIME TRAVELERS」より“The Final Time Traveler”です。
選曲の理由を決まった順番で説明すると、“The Final Time Traveler”は、すでに譜面が存在するし、サラ・オレインさんに出ていただく以上は絶対に歌っていただきたい。その流れでサラさんがいるなら、同じくヴォーカルを勤めてもらった“Glory”も歌ってほしくて、まず2曲を決めました。
そして“トキワノオロチ -時輪大蛇 -”は作曲の時点で東京ゲームタクトの開催が決まっており、「ゲームタクトで絶対に演奏したい!」という気持ちで本番当日のオーケストラ編成までイメージしながら書いた曲だったため、選曲しました。最後の「文豪とアルケミスト」は、ゲームタクトの準備期間中、ありがたいことにゲームと楽曲に対してご好評を多数お寄せいただいたので、急遽リストに加えました。
4曲それぞれが、テンポもテイストも異なる曲で、バランスのよい選曲ができたかなと思っています。それだけに指揮をするのがたいへんですけど、頑張って指揮をします(笑)。
“トキワノオロチ -時輪大蛇 -”と“文豪とアルケミスト”は、前回の沖縄ゲームタクトのときにお世話になった琉球フィルハーモニックオーケストラより、コンサートマスターの金城由希子さんが、当日ヴァイオリンソロとして加わってくださいます。そのため会場でのリハーサルで最終調整となる難しさはありますが、その分いい緊張感を持って挑めています。
楽曲の聴きどころとしては、“文豪とアルケミスト”は5月に発売となるサウンドトラックCDに収録されているオーケストラアレンジからの初演となります。ほかの3曲は、いずれもゲームに実装されているのとほぼ同じ編成での演奏となります。できるだけ原曲と同じ音を皆さんにお届けしたいと思っていますので、ぜひ会場に遊びに来てください。
前売りチケット購入は4月25日まで
「東京ゲームタクト2017」のチケットの一般発売は、4月25日(火)18:00までとなっている(以降は当日券のみ)。興味のあるファンはチケットを急いで手に入れておこう。
チケット購入サイト(イープラス)
http://eplus.jp/sys/main.jsp?prm=U=14:P1=0402:P2=214607:P5=0001:P6=001
出演者プロフィール
坂本英城
作曲家・ノイジークローク代表取締役。4歳からクラシックピアノを学ぶ。早稲田大学を卒業後、2004年にノイジークロークを設立、作曲家兼代表取締役となる。
多彩な表現で魅力ある音楽を提供し、その担当作品数は200タイトルを超える。2011年5月には「無限回廊 光と影の箱」にて「世界で一番長いゲーム用書下ろし楽曲」(1曲で75分07秒)の作曲家としてギネス世界記録に認定。2012年12月には琉球フィルハーモニック チェンバーオーケストラ“イオ”ゲーム音楽ディレクターに就任し、2014年3月に「沖縄ゲームタクト2014」を開催。そのメーカーや制作会社の枠を越えた、ゲーム音楽そのものを文化として捉えた積極的な活動は高く評価され、同年9月にはCEDEC AWARDS 2014 サウンド部門最優秀賞を個人として受賞する快挙を果たした。
さらに同年中に「TIME TRAVELERS(タイムトラベラーズ)」の主題歌「The Final Time Traveler」が、フィギュアスケートゴールドメダリスト羽生結弦選手の2014-2015年季エキシビジョンプログラムに選曲され、大きな話題となる。
このほかにも、自社バンド「TEKARU」でのパフォーマンスや、ゲームコンポーザーによるトーク&ライブの配信など、話題作りやファンサービスを忘れない姿勢を貫いている。
代表作として「討鬼伝」シリーズ、「文豪とアルケミスト」「予言者育成学園 Fortune Tellers Academy」「タイムトラベラーズ」「モンスターストライク」(アニメ/3DS)「ぐるモン」「くまぱら」「大乱闘スマッシュブラザーズ for ニンテンドー Wii U/3DS」「無限回廊」シリーズ、「勇者のくせになまいきだ:3D」「100万トンのバラバラ」「龍が如く」シリーズ、「428~封鎖された渋谷で~」「ポケモン不思議のダンジョン時の探検隊・闇の探検隊・空の探検隊」などがある。
後藤正樹
指揮者、メディアアーティスト、IPA認定スーパークリエータ。東京大学大学院総合文化研究科、洗足学園大学指揮研究所を卒業。指揮を高階正光、秋山和慶、藤野栄介各氏に師事。
高校在学中より指揮の勉強をはじめ、2012年9月より、琉球フィルハーモニック チェンバーオーケストラ“イオ”副指揮者、2016年4月より同指揮者に就任。海外では、エルミタージュ美術館オーケストラ(ロシア/サンクトペテルブルク)を指揮。また、日本最大級のゲーム音楽フェスティバル「沖縄ゲームタクト」の指揮/総合ディレクターや、4年に1度のゲーム音楽フェス「4starオーケストラ」の指揮するなど、ゲーム音楽演奏にも力を入れている。これまでに、サラ・オレイン(Vo)、エミ・エヴァンス(Vo)、霜月はるか(Vo)、渡辺我山(尺八)など国内外を代表するアーティストと共演。
また、慶應義塾大学特別招聘教授 夏野剛氏のもと、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)にて未踏スーパークリエータに認定、総務省プロジェクトマネージャー、日本e-Learning大賞奨励賞、日本デジタル教科書学会の役員を務めるなど、IT・教育分野へ活動の幅を広げている。
近年は、デジタルアートとオーケストラとの融合をテーマにコードタクトを設立。新しい演奏会の形を模索している。現在、琉球フィルハーモニック チェンバーオーケストラ“イオ”指揮者、那覇ジュニアオーケストラ指揮者、アレグレット交響楽団常任指揮者。
公演概要
公演タイトル
東京ゲームタクト2017
開催日
2017年5月6日(土)
昼公演
開場:12時15分
開演:13時00分夜公演
開場:16時45分
開演:17時30分会場
大田区民ホール・アプリコ
チケット
プレミアムチケット(昼夜SSS席・アフターパーティー付き):30,000円
ゴールドチケット(昼夜SS席):17,000円
S席:6,500円
A席:5,500円※未就学児の入場はご遠慮願います。
※SSS席・SS席は、セット販売のみとなります。
※SSS席は、大ホール最前列3列保証・座席は昼・夜公演同じ座席になります。
※SS席は、大ホール中央席保証・座席は昼・夜公演同じ座席になります。
※プレミアムチケット・ゴールドチケットの内容に小ホールの公演は含まれません。公式サイト
http://gametakt.com/主催
ノイジークローク/公益財団法人大田区文化振興協会