ソニー・インタラクティブエンターテインメントジャパンアジア(SIEJA)、アニプレックス、カヤックの3社が共同で開発したPlayStation VR(PS VR)向けコンテンツ「傷物語VR」。同コンテンツの制作者へのインタビューを掲載する。
西尾維新氏による人気小説〈物語〉シリーズ「傷物語」の劇場版全3部作が完結、ならびにBlu-ray/DVDが発売されることを記念して制作された「傷物語VR」。PS VRでの新しい映像体験をつくる取り組みの第一歩として制作され、“VRプロジェクションマッピング”を標榜する本コンテンツにはどのようなチャレンジが盛り込まれているのか。ソニー・インタラクティブエンターテインメントジャパンアジア(SIEJA) 制作技術責任者 秋山賢成氏、カヤック クリエイティブ・ディレクター 天野清之氏に話を聞いた。
SIEJA 制作技術責任者 秋山賢成氏インタビュー
――まず今回の取り組みが実現した経緯をお聞かせください。
秋山氏:今では360度動画がVR映像の一般的な視聴体験になっていますが、専用のカメラを使って録画したり、スティッチング(複数の写真をつなぎ合わせて360度パノラマ画像を作成)したりとさまざまな工夫が必要で制作が大変だという側面があります。360度動画そのものは良い映像体験だとは思いますが、映像業界ではアニメや映画といった想いの詰まったコンテンツがたくさんありますので、それをどうにかPS VRで最高の体験として扱うことができないかと考えていました。
そこで360度動画ではなく、プロジェクションマッピングをVRの中で扱ってみたら面白いんじゃないかと思い、カヤックの天野さんに相談して一緒に開発を進めることになりました。
――今回、実際に「傷物語」を用いて制作を進めてみての感触はいかがでしたか?
秋山氏:制作したいと考えていたものが盛り込まれているのですが、想像していたものの何十倍、何百倍もすごく良いものができたなと思っています。そのシーンを思い返せるようにして没入させるという体験がすごいものだというのは、実際に作ってみてわかりました。
――今回の内容ですと、視聴体験から徐々に視聴者側へと拡張していく流れが印象的でしたが、そのあたりは「傷物語」というタイトルを意識したものになっているのでしょうか?
秋山氏:入れてほしい要素などの基本骨子については僕らが一緒にお話させていただいたのですが、「傷物語」としての演出は全て天野さんにお願いしていて、西尾維新先生にも見ていただいています。
――作品自体が静と動の振り幅がある内容だと思うのですが、その中でバトルシーンをピックアップされていることで分かりやすかったように思います。
秋山氏:この取り組み自体は1年半ぐらい前から進めているのですが、ご一緒している天野さんは、空間演出や映像表現の切り出し方がすごく上手な方なので、一緒に取り組めたら面白いことができるのではないかと思っていました。
「傷物語」を題材にすることが決まってから、「傷物語VR」ができるまでの期間はすごく短いです。VRプロジェクションマッピングとしてのシステムはずっと一緒に作っていたものをそのまま使い、そこに「傷物語」の映像を載せるかたちで制作したので、コンテンツとしては短い制作期間で安価に作られています。
――それは取り組んだ相性の良さもあったということでしょうか。
秋山氏:はい。ただ、実は「傷物語」に限らず、いろんな可能性もまだまだあると思っています。例えばミュージックビデオですと、光の演出をする時に物理的にライトをたくさん配置して切り替える必要があって大変じゃないですか。あれはすごく良い体験ではあるのですが、VRの中ではそういった機材をボタン一つで置けますし、現実ではできないようなライトの配置もできるので、新しいミュージックビデオも作れるのではないかと思っています。
――そうした今後の可能性にも期待したいです。
秋山氏:今回の体験会でユーザーのみなさんがどう感じていただけるか、そして体験を通じて「傷物語」がどう拡張されたのかというご意見をたくさんいただければ、新しいものが出てくるのではないかと思います。
カヤック クリエイティブ・ディレクター 天野清之氏インタビュー
――今回の制作を行うにあたっての経緯をお聞かせいただけますでしょうか。
天野氏:まずご縁があって、秋山さんとお話させていただく機会がありました。秋山さんとお話するうちに、PS VRを用いて新しい映像を制作したいとご提案をいただき、その後もどういったものを作っていくかという議論を重ねていきました。
僕自身が展示や映像を作っていて、かつプログラムもやっていることもあったので、普通のビジュアルゲームではない何かを作るということが、秋山さんとご一緒する上では面白いものが作れるのではないかと思い、映像視聴をVR空間で面白くできたらということで、企画を進めていきました。
――VRでの映像制作にあたって、普段取り組まれている制作との違いをどの点に感じましたか?
天野氏:VR映像ですと全天球で映像を貼って立体感を出すというのが主流ですが、僕自身に展示のディレクション・開発の経験がありますので、その感覚をVR空間でそのまま体験できないかというのを、映像視聴を作る上で最初に考えました。
例えば、僕がMADOGATARI展での制作に関わった際には、三面で映像をプロジェクションする時にそのまま本編を流すだけだと展示としては面白くないので、そこに何かエッセンスを加えて進めていきました。
今回もそうした感覚を持ちながら、展示の空気感や距離感、音の感じをVRでどのように体験できるかというのが最初のチャレンジでした。それを踏まえた上でVRでなければできない演出を作っていくような、2部構成のアプローチになっています。
――映像の前半ではまさに箱空間の中で見ているような感覚があったのですが、そのあたりも意識されているのでしょうか?
天野氏:後半の演出をいきなり最初に持ってきてしまうと、自分が何をやっているのかわからなくなってしまうので、まずは展示空間で出せる雰囲気作りを行って、現実的にできることからスタートしています。それを踏まえた上で、水たまりへのプロジェクションや、スモークプロジェクションなど、現実でいつもやってみたいと思っていた実現が難しい表現をVRならではの演出として入れていきました。
――私も切り替わった瞬間はビックリしました(笑)。その部分も含めてシーンの切り替わりと映像の切り替わりが連動しているように感じたのですが、それは「傷物語」という題材にも影響されているのでしょうか?
天野氏:もちろん「傷物語」が作ってきた文化や世界観がありますので、そこは落とさないように心がけていて、今回は7分の映像を単体で編集し、それを見るだけでも面白い映像になっています。その上で表現したい演出に関しては、映像の内容とマッチングさせないと、見せたいものとやりたいことが二軸で動いていくことになりますので、やりたい演出を表現するために、映像側をどう編集していくのかを逆算で考えた結果、今回は3人とのバトルシーンを1フェーズずつ入れていきました。
視聴する映像のコンテンツ自体もいろいろなやり方があると思っていて、例えば先ほど話したMADOGATARI展の三面プロジェクションマッピングの際には、「終物語」から「化物語」の戦場ヶ原ひたぎが落下してくるシーンに繋ぐために、いろいろなヒロインによるエモーショナルな言葉を体験できるものにしました。それをVRで表現する方法もあったと思うのですが、今回はテンポとやりたい演出を考える上ではバトルシーンが最適解だと思いました。
――実際にVRでのプロジェクションマッピングを制作してみて、さらにチャレンジしてみたいものはありますか?
天野氏:今回は球体マッピングではない、本質的な意味で没入感のあるものにチャレンジしたのですが、それによって見えてきたことは、仮想空間ならではの演出の仕方があるということです。そこを加速させて、より没入感のあるようなものに仕立てていくというのが、さらに取り組んでいきたいテーマです。
――VRは我々の常識にとらわれずにできるというのがひとつの大きな魅力ですよね。
天野氏:映画が生まれた時に視聴者がどのような感じで見ていけばいいのかを理解するのにイマジナリーラインというものが生まれたと思うのですが、VRに関してもこれからどういう演出・表現ができるかを作っていく段階だと思うので、既存の概念にとらわれない作り方をしていきたいと思います。
(C)西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト
※画面は開発中のものです。
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